不屈のエース~甦るレジェンド~   作:フリュード

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間が空きましたが、どうぞ!


第9話 非情の宣告

5月も終わり、これから梅雨の季節へと移り変わっていくこの時期で、選手たちは雨にも負けず、夏の大会に向けて日々練習を怠ることをしなかった。

 

しかし、朝の青道高校の食堂に集まっていた選手たち・首脳陣はまるで梅雨の季節のように重苦しく、周囲は声一つしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・クリスの怪我の状態がわかったからだ。

 

「な、夏どころか来年の夏も間に合わないって・・・・」

 

誰かがそう言っていた。その顔は絵の具で塗ったように青ざめていた。

 

クリスは診断の結果、肩の筋の一部が断裂しているらしく夏どころか来年も大丈夫なのか分からなくなった。

 

「・・・そうだ。クリスのケガは思ったよりも悪くて、もう少し遅かったら選手生命も危ぶまれるような位重いそうだ。これからクリスはリハビリのため暫く・・・」

 

片岡はそう話しているが、話している片岡の顔は何故気付かなかったのか・・・自分に腹を立っている顔であった。

 

「・・・・・・」

 

その後も片岡の話は続いている間、武藤は最初から最後までしっかりと聞いていた。

 

ケガで離脱した人の気持ちと言うのは武藤も痛いほど分かる。それも武藤自身で経験しているから尚更だ。ケガで離脱したクリスの気持ちを引き継ぐように話を聞いていた。

 

「・・・という事でクリスが抜けてしまった以上、誰かが正捕手を勤めないといけないのだが・・・」

 

片岡はそう言った後、一軍で正捕手候補である宮内と御幸を見た。宮内はしっかりと片岡を見ていたが、御幸は下を向いていた。

 

「・・・・・今の内では誰が正捕手というのを決めないことにする。夏前の試合などで、最終的に決めることにする。分かったな。」

 

「はい!『・・・はい。』」

 

 

宮内は元気に返事をした。御幸は徐々に顔を上げる。その顔は自信に満ち溢れた表情だった。

 

(ふん。どいつもやってやろうという顔だな。これならすぐに決まるかな・・・)

 

2人の顔を見た片岡はそう思い、心の中でほくそ笑む。

 

「それではこれで解散とする!」

 

「はい!」

 

片岡がそう言い、朝の集会は解散となった。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・御幸。」

 

解散した後、武藤は御幸の所に行った。武藤の方から見ても御幸は相当落ち込んでいると思ったからだ。

 

しかし武藤がそう思っているのと御幸の気持ちはまったく反対だった。

 

「・・・こればっかりは仕方が無いさ。けど・・・まだ1年ある。」

 

「まだ1年?」

 

御幸は何か決意したような顔をしてそう言ったので武藤は不思議な気持ちで聞いてみた。

 

「・・・オレはずっとクリスさんを超えたいと思っていた。けどこんなカタチでたとえ2番を貰っても何も嬉しくない。クリスさんが戻ってくるまでにオレはクリスさんを超えるように一生懸命練習をして1年後全力のクリスさんと正捕手争いをしたい。」

 

御幸の決意とも取れる言葉に武藤は黙って聞いていた。

 

(・・・こりゃ、いらん心配だったな。)

 

御幸はもう前に進んでいるのが見て取れる。御幸の自信に満ち溢れた表情をみて武藤はほっと一安心した。

 

「・・・それに翔也には感謝している。お前がいなかったら今頃クリスさんは・・・」

 

「やめてくれよ・・・オレは当然のことをしただけであって・・・」

 

御幸がそう言ってきたので武藤は恥ずかしそうにそう言った。

 

「そうだな・・・お前も引きずるなよ。」

 

「・・・あぁ。」

 

御幸が俺に対して真剣な表情で言った。主語が無い発言だが、武藤は何を言いたいのかすぐに分かった。

 

「・・・大丈夫、じゃ無いけどここでうようよしていてもクリスさんに申し訳が無い。それにオレもケガでチームに凄く迷惑を掛けた。だから今度はオレがクリスさんを助ける番。夏勝ち上がって最高の夏をクリスさんに届けようぜ!」

 

「・・・そうだな!」

 

武藤と御幸はそう言い、笑顔でがっちりと握手をした。

 

2人とも最高の夏にしようという思いは同じ。それに向けて2人は走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、2人はそうでも他の先輩たちはそうではなかった。

 

カキィ!

 

学校が終わった後の練習でノックをしていた。

 

『セカン!行ったぞ!』

 

ノッカーがそう言うと、控えではあるがセカンドの名手である小湊が打ったボールを捕球しようとした。

 

ビチィ!

 

「っ!!!!」

 

しかし小湊は集中が切れていたのか、イージーなゴロをエラーしてしまった。

 

このような場面は他の先輩でも見られていた。3年にとっても2年にとってもクリスという大事な戦力を失ってしまったのはそれほど痛かったのだ。その所為か全体的に声が出ていない。

 

(こんなに静かな練習は始めてだ・・・)

 

武藤は練習をしながら辺りの雰囲気を見てそう思った。

 

「・・・やっぱりクリスさんの所為か、声が出ていないよね。」

 

練習の手伝いをしていた川上もそう思ったらしく、小声で武藤に言ってきた。その表情は少し心配そうだった。

 

「・・・・・そうだな。けど、このままではいけないからな。どうしたら良いんだ・・・」

 

武藤は川上にそう言ったが、武藤もこの事態にどうすればいいのか分からないのが現状だった。

 

 

 

「おい。ノッカー変われ。」

 

すると、先ほどから無言で練習を見ていた監督が直々にノッカーを買って出た。

 

「投手も内野か外野に散ってくれ。」

 

監督に言われたので武藤達投手陣は内野・外野に散った。武藤は外野でセンターに入った。

 

「よろしくお願いします。純さん、中村さん。」

 

「ああ、よろしく・・・」

 

「・・・・・」

 

武藤はセンターのレギュラーである3年の中村(なかむら) (すぐる)さんと控えである伊佐敷に挨拶をしたが、クリスさんの事があった所為か返ってくる言葉は少なかった。伊佐敷にいたっては無言だった。

 

「それなら行くぞ!ファースト!」

 

監督はそう言うとファーストのレギュラーである結城に向けて、鋭い打球を取れるかどうか絶妙なところに打った。

 

ビシィ!!

 

「くっ・・・」

 

結城はその打球を捕球することが出来ずにエラーしてしまった。

 

「どうした哲!お前なら今の取れたはずだぞ!!!!」

 

監督から怒号が飛び交った。こんなに怒鳴る監督を初めてではないが、こんなに鬼気迫るのは滅多になかった。

 

「・・・すみません。」

 

結城は監督に謝ったが、その声は蚊が泣くような声だった。

 

「もういい!次!」

 

監督は結城の状態を見て早々に見切りを付け、次の選手に対しても鋭い打球を打ったがエラーをしてしまう。今の選手にとって監督の打球は取れるものではなかった。

 

その後も監督の鬼ノックが続き、暫くした頃には皆膝を地に付かせ、疲れた表情をしていた。

 

スタミナに自信のある武藤でさえもこの鬼ノックに同じように膝を地に付かせ疲れ果てていた。監督もオールバックヘアーが乱れて、肩で息をしていた。

 

「やべえよ・・・監督の鬼ノックやばすぎるだろ。」

 

「ただでさえクリスさんがいなくなってしまった時期なのに・・・」

 

グラウンドの有様に周りからヒソヒソと声が聞こえてくる。

 

 

(・・・こうなっていては駄目だと皆は思っているんだろうけど・・・そう簡単に切り替えられるものではないよなぁ。)

 

片岡の隣で見ていた御幸はグラウンドの状態を見て冷静にそう思っていた。けどいつまでもこんな状態では夏が凄く心配だった。

 

「おいどうした。・・・まだ倒れてはいけないだろ。クリスがいないときにお前らがそんなんでどうする!」

 

「・・・・・・」

 

監督の喝にも皆無言でその場から動かなかった。

 

「(・・・俺は最高の夏にするって決めたんだ。こんなところで立ち止まっていたらクリスさんに申し訳が立たなくなる!!!!)おおおおお!!!もう一丁!!」

 

「!!!!!」

 

武藤が大声を上げノックを要求したら、皆が驚いて武藤の方を見る。

 

「(・・・ふん。よりによってお前か。面白い。)行くぞ武藤!!!」

 

片岡はほくそ笑むと武藤に対し叫びボールを打った。

 

キィン!!!

 

武藤が守っていたところにライナー性の打球が飛んできた。

 

「おおおおおお!!!!!!」

 

バシィィ!!!!

 

取れるかどうかの微妙な打球を武藤はダイビングキャッチして取ることが出来た。本職じゃない選手がするもんじゃないプレーだが武藤はそんな事もお構いなしにやってのけた。

 

『おい!取ったぞアイツ!』

 

『アイツケガは大丈夫なのか!!』

 

武藤のスーパープレーを見て、皆口々にそんなことを言い始める。

 

「おい!大丈夫か!!」

 

伊佐敷が武藤のところに駆け寄ってきたが武藤は伊佐敷が来る前に立ち上がった。

 

「・・・・いつまでもうじうじしていても何も前に進めないっすよ純さん、中村さん・・・誰が引っ張っていかないと行かないんですか。」

 

「武藤・・・・」

 

伊佐敷は武藤の言葉に図星だったのか何も言えなくなってしまった。

 

「ありがとうございます。けど俺もう一回やりたいので・・・・へい!もう一丁!」

 

そう言い武藤はセンターの定位置に戻り、ノックを要求した。

 

「(くっ・・・クリスの事でいっぱいになって練習に身が・・・何でもかんでも1年の武藤に負担を掛けさせたくねぇ!!!!!)オラアアア!!!!邪魔だ武藤!俺にやらせろ!」

 

「うおっ!?」

 

すると伊佐敷が大声を出しながら武藤をはねのけてノックに参加した。

 

(ふふっ。ようやく戻ったね純さん。)

 

武藤は跳ね除けられたときの痛みを差し置いて、伊佐敷が戻った事の方が嬉しかった。

 

「くっ!俺だって!」

 

伊佐敷達下級生の姿に中村もそれに釣られて参加し始める。

 

「オラアアア!!!外野ばっかりすんなや!!わしにもこいやああ!!!」

 

東の叫びを皮切りに内野陣も声を出し始め、最終的に皆声を出し始めた。

 

(ふん・・・1年に奮起されて声を出し始めるとはまだまだだが・・・チームに元気が戻ってきたからよしとしようか。)

 

片岡は鼻でフンと笑いながらそう思いノックを再開した。

 

 

 

(けどその元気、合宿を終えた後でもあるかな?)

 

片岡はもうひとつ、そんな事を思っていた。

 

そう。夏前に必ずやる合宿が近づいている事を武藤たち1年はまだ知らなかった・・・

 

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