6月に入り、夏の大会が近づくにつれて1軍は練習試合を重ねていた。
しかし、その水面下でも熾烈な争いが繰り広げていた。
『1軍メンバーの残り2枠』の争いに・・・・
「さこーい!!」
「いけいけ!!!!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
夏に近づいているせいか、暑さによる汗をアンダーシャツで拭いながら川上はキャッチャーからのサインを確認する。
今日はBグラウンドにて2軍の練習試合が行われていた。初夏の暑さにも負けないくらいの声があたりに響く。
123456789計
神川 0012 3
青道 2011 4
今回急務でもある投手陣の再建を図るため5月から1年生ながら、先発・リリーフと積極的に起用されてきた川上だが、ここまでの成績は防御率3点台と決していい成績ではない。
今現在も5回の表で1アウト、ランナー1・2塁とピンチを作ってしまっていた。だが、川上はこの状況を作った原因は分かっていた。
「(・・・バッターは左バッター。このバッターにはインコースに行けば大丈夫だ。)」
2年生の捕手は川上とサインを交換した後、インコースに構える。
「・・・・(コク。)」
捕手のサインに川上は頷き、セットポジションに入る。
(・・・当てないように・・・でも攻める気持ちは忘れないように・・・)
セットポジションで構える中、川上は『インコースに投げ切る』と『打者には当てたくない』という2つの正反対の思いが頭の中で渦巻いていた。
そんな思いが頭で渦巻く中、川上は体の真横からボールを投げる『サイドスロー』で投げた。
「・・・!!!(甘い!)」
「あっ・・・」
カキィイイイン!!
しかし、インコースへ行ったはずのボールは真ん中へ行ってしまった。
川上の失投を見逃さなかったバッターが打った打球はぐんぐんと伸びていき、スタンドへ入っていった・・・
「・・・・・・・」
試合も終わり、赤く染まった夕焼けが青白くなりつつある頃になっても川上は1人ベンチでうなだれていた。
(5回途中で6失点・・・・・・)
結局、あのホームランの後川上はノックアウトしてしまった。
続く投手が後続を断ち自慢の打線が火を噴いたおかげで11-7で辛くも勝利することが出来たが、『やはり2軍でも投手が課題だな・・・』というクールダウンしていた時に観戦していたOBが呟いていた言葉が突き刺さる。
『川上君・・・焦らなくてもいいわ。あなたにはまだ2年あるのだから・・・』
「・・・でも、結局あのホームランだって・・・」
試合後、高島に言われたことを思い出し川上は悔しさから右手を握りしめ、苦虫をかんだような表情になった。完全に落ち込んでしまっていた。
「・・・相当打ち込まれたみたいだなノリ。」
「・・・翔也。」
落ち込んでいた川上のもとに一人の少年がやってきた・・・武藤だった。
「見てたんだ・・・あの試合を。」
「ノリが登板していた回まではな。奇麗に打たれたな~」
「・・・・・・茶化さないでよ。バカにしに来たのでしょ?」
川上の気持ちを知らないのか快活に笑う武藤に川上はぶすくれながらそう言う。完全にへそを曲げてしまっていた。
「・・・そう上手くいく事なんて数える位だよ。また次があるさ。」
「っ・・・・!!翔也は1軍だからそう言えるんでしょ!!いい加減にしてよ!」
「・・・・」
武藤の発言に溜まっていたものが爆発してしまい川上は激怒してしまった。あたりに沈黙が続いた。
「・・・・・・・俺だって右投げに転向したころって今のノリみたいな感じだった。」
「・・・」
川上の癇癪を目の当たりにした武藤は一時の沈黙の後、語るように話し始めた。
「なにぶん左投げの時に出来ていた事が上手くいかないんだ。もう・・・あの頃には戻らないってのに。左の偶像をずっと追いかけていたんだ。」
「・・・・」
暗くなった空を見上げながら話し始めた武藤を川上は見つめる。
「左投げのようなノビやキレのあるストレートじゃないからコースに行っても痛打される。打たれるからどんなに工夫しても急造で仕上げたナマクラストレートだから簡単に内野の頭を超えていきやがる。挙句の果てに最後の全中予選でサヨナラホームランを打たれて負けちまったよ。みんなどう思っているのか分からねぇけど俺自身まだ2軍レベルだと思っているよ。正直青道に推薦をもらったっていうこと自体奇跡だよ。」
「翔也・・・」
暗い顔をしながら話す武藤の過去に川上は武藤の名を呼ぶことしかできなかった。
「でもなノリ。どうせ項垂れていても結果が悪かったとかこのままじゃ1軍に上がれないとか結果の面でしか悩んでねぇだろ。」
「・・・・」
武藤の発言に川上はぐぅの音も出ない。図星だった。
「ノリ。大事なのは結果じゃない。「自分の投球が貫けたか」だぞ!「自分の持ち味を出せた」や「今日は変化球の精度が悪かったなぁ。次は・・・」ってその試合での反省を次に生かすんだよ!そうすれば結果もついてくる!どうだったんだ今日は。自分の持ち味が出せたのか。」
「お、俺は・・・コースにボールがいかなかった・・・」
武藤の問いに涙脆い性格である川上は半泣きになりながらも今日の自分の反省を言った。
「・・・何でコースに行かなかったんだ?」
「当てないようにっていう思いが投げてて・・・でも絶対に投げ込みたいっていう気持ちもあって・・・うぅううう・・・」
「ノリ・・・」
あふれる感情が抑えきれず、とうとう泣き出してしまった川上に武藤は川上の隣のベンチに座った。
「確かに硬球が当たったら痛いじゃすまないわな。でもな・・・」
「え・・・え・・・?」
武藤がやさしく言うと川上は泣きはらした顔で武藤を見た。
「腕は振り切れば良い。普段からいい腕の振りをしているからさ。腕を振らないと力のある球は生まれない。」
「腕の振り・・・」
武藤が言った言葉を復唱するように川上は言った。
「・・・ちなみにこれね。中学時代に試したけど腕を振り切ればコースに行かなくても大概どん詰まりのフライにしかならなかったよ。」
「・・・はは。てことは武藤って昔ノーコンだったの?」
「そ~なのよ~正直「打たれなければそれでええやろ。俺は俺や」って言う感じで投げてたからさぁ。」
「ブフォ!?想像つかないからやめてくれ・・・」
「はっはっは!!!!!!」
あたりに武藤の笑い声が響いた。いつしか泣き顔だった川上も笑顔を取り戻し始めた。
「・・・・でもな。俺と違ってお前はコントロールが良い。低めのストレートなんて全部いいコースに決まるからな。」
「でも・・・」
「ダ~イジョウブだって!お前ならできる!」
軽いノリで武藤は川上の肩をたたいた。先ほどまではその行為やノリは嫌だったが、武藤にもあのような事情を抱えてもなお、川上の思いを吹き飛ばそうとしてくれる武藤に川上は今となっては感謝しきれない思いだった。
「・・・・うん!ありがとう翔也!」
川上は武藤に礼を言った。礼を言う川上の顔から涙はもう流れていなかった。
6月。青道高校室内練習場にて。
「これから1軍に上がる2名を発表する!」
夏に近づいている中、室内練習場にて部員全員が集められた。恒例の残り2枠のメンバーの発表であった。
「・・・・」
川上は武藤の隣では固唾をのみながら発表を待った。
あの試合の後は、自身の持ち味でもある低めに集めた投球を披露し安定した投球を披露することが出来た。それでも痛打されることもあったが、自分なりには纏めることが出来た。
「(・・・やれるだけのことは出来た!)」
川上は悲壮な表情はしていなかった。まだ1年生ということもあるが自分の力を出し切ったということもあった。そして、その発表を今か今かと待ちわびていた。
「追加メンバーは・・・・・・鈴宮雄二!坂井一郎!以下のものを1軍メンバーとする!」
「・・・・・・・」
メンバーの名前に川上の名は無かった。しかしそれでも川上の表情は変わることなくしっかりと前を向いていた。
「・・・・・・川上。」
「・・・大丈夫だよ翔也。」
武藤が心配そうに見るが川上は穏やかな表情で答える。
・・・・秋こそは、絶対に・・・!!!
その思いを胸に川上の夏は始まったばかりだ。
遅くなって申し訳ありませんでした。これからも更新はこのような感じになってしまいますが、頑張って完結までには持っていきます!