この度は当作品をお読みいただきまして、ありがとうございます。
また、いつもと違い、1週間遅れの投稿で申し訳ございません。
前回のあらすじですが、
・八幡さんとせつ菜さんは4月のフェスを無事にやり遂げることも束の間、GWフェスに向けての最終準備に入りました。
・昼休みには菜々さんへ放課後はせつ菜さんへ引継ぎをしつつ、GWフェスの告知用動画の撮影を行うことに
・告知用動画の撮影を終えたあと、せつ菜さんの正体を知る平塚先生がアドバスを送ると、その心は大きく揺れてしまいました。
今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。
「しっかし、朝早いね~」
「まぁな……」
着替えを済ませた我が妹・小町はリビングの椅子に座ると、手を合わせて「いただきます」といつもの調子で挨拶すると、焼き立てパンにジャムを塗る。そして勢いよくかじる。するとどうだろうか。唇だけではなく、口周りにジャムが……。
あのね。もう少しお行儀よく食事できないかしら?
と妹の食事に関するマナーに不安を抱きつつ、ため息交じりに肩を落とすとカレンダーが目に入るのだが、今日だけでもう何回目か分からない。ただ、何度見ても日付の数字は赤く、今日は「5月4日」であり、世間ではみどりの日で昨日からGWは始まっている。
加えて、社会人は「ユウキュウ」なるURなアイテムを2つ使用し、錬金することで「10レンキュウ」という幻のアイテムが手に入るというのだ。
一方、真の社畜である我が両親は、祝日だろうがなんだろうが、関係ない。錬金ではなく連勤らしい。
……労働基準法って何だろう?働き方改革って「働く日数を増やして生産性を上げる」ための改革だった!?
そんな両親に心を痛めつつも、そんな両親の持つ俺も「上司の命令に従順」なわけで……。昨日は平塚先生に呼び出されては、フェスの事前準備を行い、今日はフェス当日となる。
親が社畜である比企谷家の家庭環境において、その子もまた、社畜であることは当たり前で、むしろ社畜になるための英才教育を施されていると言って過言ではないことが証明された今日この頃。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
……言ってて、虚しくなるわ
「お兄ちゃん……。なんか変わったねー」
「あぁ?」
「だってさー、最近、イキイキしてるじゃん?」
いつのまにか食事を終えていた小町は、使用した食器を流しに下げては直ぐに洗い始めると、鼻歌まじりでこちらに話しかける。脈絡もなく唐突に言われた一言ではあるが、言いたいことは何となくわかる。
小町の言う「変わる」とは「イキイキしている」という言葉から「成長している」という意味で良いだろう。では、何が成長しているかだが、それは間違いなくこき使われるモブ感やらザコ感といったところだろうか。
……最悪な情報をありがとう。マイシスター
「……眼科に行った方がいいと思うよ? 小町ちゃん」
「そうだよねー。お兄ちゃんが理解するには難しいよね~」
「はいはい」
最後に何が言いたいのか分からなかった妹の話を流しながら、必要な荷物を改めて確認しては鞄にしまうと、玄関で靴を履く。
「小町~。早くしないと置いていくぞ」
「あ~ちょっとまって~」
先に準備を済ませて家を出る準備をしたところで小町に声を掛ける。なんだかんだ出発時刻は迫っている。一方の小町は慌てているようで、バダバダという音がリビングから聞こえたと思ったら、次はパタパタと足音が聞こえると玄関に姿を見せるやないな屋、直ぐに靴を履く。
「んじゃ、行くか」
「ほ~い」
と言うわけで、どういう訳か小町と共に出かけることになりました。
***
「お兄ちゃん。今日は小町が乗ってるから気を付けて運転してよー」
「あー……分かってるよ」
2人分の体重が掛かり、いつも以上に重いペダルを必死に力を入れて漕ぐと、いつもの半分以下の速度で自転車が進んでいく。とはいえ、この自転車は購入してまだ1年とちょっとしか経過していない。
これには理由がある。高校1年の入学式の日。黒歴史しかない中学生活が終り、新しい生活にわくわくしてしまったあまり、1時間も早く家を出たのが運の尽きだった。
オンボロの自転車をノリノリのテンションで漕いだがために、既にガタがきていた自転車は前輪が大破した。
車輪の軸が折れ、本体と車輪を繋ぐナットが外れたらどうなるか?
答えは簡単だ。前輪はそのままコロコロと転がり、車体本体は前傾に倒れると、俺の身体は宙を舞ってそのまま頭から地面へDIVE!する。頭を強く打ち、背中を地面に打ち付けた俺はそのまま入院生活へ。
退院して学校へ復帰したのはGWが明けてからだが、その頃には既にクラス内はグループなどが形成されており、元々、コミュニケーション能力が皆無の俺は中学時代同様に「ボッチ道を究める者」として現在に至るわけだ。
調子に乗った俺にとって自業自得だ。だからこそ、身分不相応な期待を抱いてはいけない。そう心に誓った日でもある。
そこから約1年後。まさか、人と関りを持ち、部活動をするとは思ってもいなかった。
最寄り駅に着くと、所定の駐輪場に自転車を停め、駅の改札を通過してからホームへと向かい、電車が来るのを待つ。
「いや~、優木せつ菜さんに会えるの楽しみだなー」
「ほーん……」
隣にいる小町は待ち時間をスマホで時間を潰す。チラッと見えた画面には優木の姿がある。どうやらこの前上げたショート動画を見ているようだ。
ネットの事には疎い俺にはたかだか1分にも満たない動画に何の意味があるか理解できない。加えて、視聴者側の理解も難しい。このような動画を見たところで、感想は何も思い浮かばない。
とはいえ、少なくともこうして妹は実際に会場に足を運ぼうとしているのだから、効果はあるのかもしれない。と現代社会の在り方について少し考えていたところで電車がやってきた。祝日ともあって早い時間でも、人がごった返していた。前のフェスの時もそうだが、やたらJKが多いのだが、それに加えて、家族連れも多い。世のお父様は疲れているというのに、大変だ。そして、このご時世では世のお母様も疲れているだろうに。それでも外出するなんて、本当に元気が有り余っている……ように見えて、どこか目元からは疲労感が漂う。
……本当に大丈夫か?日本は。そして、エリートの皆様。本当にお疲れ様です
「お兄ちゃん……。それはないと思うよ?」
「……いきなりなんだよ」
俺の隣で吊革につかまっている小町が半目で鋭い視線を浴びせてくる。
小町は俺の表情から心情まで読み取ったのか「専業主夫とか目指すとかさぁ……」と俺にしか聞こえないほどの声量でため息交じりに言葉にした。
いいじゃない。専業主夫。何が悪いのさ?
妹からの要らぬ叱責に対して、心の中で不平不満を漏らす。
今どき、家計を支えるのに性別は関係ないだろ。そう思ったところで、言ったら言ったで面倒な論争になるのは分かりきっているので黙っておく。
「お兄ちゃんさ、視野だけは広いのに、なんでそうなるの?」
「は?」
「なんかさー、周りばっかり見てる気がするんだよ。ずっと」
唐突すぎる指摘に、思わず視線を外へ向けた。ざわつく車内、吊革にぶら下がる腕、子供の泣き声、ホームに滑り込む列車の騒音。全てが雑多に混ざり合い、頭の中のざわつきと同調していく。そして――人波の向こうに、見覚えのある後ろ姿があった。
前髪が邪魔にならないように結びにまとめて、春らしい淡色のパーカーを着た女子。背筋を伸ばし、スマホを静かに操作しているのは間違いなく優木なはずなのだが……。
やがて電車が停まり、甲高い電子音と共にドアが開く。律儀にも降りる人が全員降りたことを確認してから乗車する。
「うわぁ……優木せつ菜だぁー。生だよ。生。お兄ちゃん」
「生とかいうな」
興奮する妹は口が悪い。本当に将来が心配になる。だが、今は目の前にいる我が校のスクールアイドル様も心配だ。いつもの覇気というか、オーラが感じられない。こいつはステージでは物凄いオーラがあるが、普段から一定の物を持っている。それは部室で何度も見てきた。
とはいえ、今回は無理もないか……。彼女の話ではGWに行われる今日のライブが一応最後らしいので、少し神経質になっていてもしょうがない。それこそ、プレッシャーを感じる方が自然だ。
「おはようございます。比企谷くん。今日も宜しくお願いしますねっ」
優木は乗車すると、こちらに歩み寄るといつものように丁寧なお辞儀と共に挨拶をするのだが、流石はアイドル様だ。ぱっと見たところ、いつも通りに見て取れる。
ただ、声は明るいが語尾だけほんの少し力が抜ける。
「おう。こちらこそ、な。で、メールでも伝えたが……。妹の小町だ」
「初めましてっ! 比企谷小町です。どうぞ。小町とお呼びくださいっ」
「はいっ! 初めまして。小町さん。こちらこそ、今日はお忙しい中、足を運んでくださってありがとうございます」
「とんでもありません! この愚兄が、ご迷惑をおかけしておりますので、妹としては、お詫びも兼ねてご挨拶に参りました」
「迷惑なんてとんでもないっ。比企谷くんがいてくれて凄く助かっていますよ。責任もって書類仕事をこなしてくれて下さいましたし」
「ほほぉ……」
出会って5秒で仲良くなる2人の会話に入れない俺は、盛り上がる2人をただただ眺めていた。その後も2人は日常に関する雑談をする。といっても小町が一方的に話しかけ、優木はそれを楽しそうに頷きながら、なのにどこか不思議そうに。どうやら、我が妹の話す内容が分からないのかもしれない。が、それが良い意味でプレッシャーから解放されていればよいのだが。
「次は――」と車内アナウンスが流れては、俺らの目的の駅に到着するを告げた。
さて。仕事の始まりだ。
***
駅の改札を出たところで見えてくるのが今回のフェス会場。会場までの動線もしっかりとサインがあり、出演者用や会場のスタッフの控室も準備されている。前のフェスでは動線が複雑になっていたが、今回はそこまでではない。まぁ、面倒なのは変わりないが。
「んじゃー、俺はスタッフミーティングに行くから」
「おー。お兄ちゃんが仕事モード」
小町ちゃん?仕事前なのに、なんてことを言うのかな?これから仕事だって分かってたよ?けれどさー、自分で思うのと他人に言われるのじゃー、重みが違ってくるからね。
メンタルとモチベをごっそり持っていかれたわ……。
「そもそも仕事モードって何だよ? そんな分かりやすく見た目が変わるか?」
「えー。分かりやすいよ? なんか、死んだ魚の目に急に活力がみなぎるからさー」
えー……なにそれ? そもそも「死んだ魚の目」ってなんだよ?そこまでひどくないだろ?
あのー……優木さん。すごーく驚きながら苦笑いを浮かべるとか、本当に表情豊かですね。すごいな……。
まぁ、少し肩の力が抜けたような気がするし、必要な犠牲だったか?
「比企谷くん。大変だと思いますが、宜しくお願いしますね」
「……おう。じゃあ、行くわ」
そう言って左折し、スタッフ受付を済ませて、資料とネームストラップに腕章を手にして、会議室兼控室へ入るわけだが……入口付近から既に何やら良い香りが……。
一度足を止め、大きく息を吸う。これから目にすることを想像すると、躊躇する。なぜなら、この部屋は女性たちが詰める聖域にして楽園。思春期高校生には刺激が強すぎるっつーの。俺が理性の塊でよかったな。一歩間違えれば、危ないんじゃねーの?
近未来に起こる事象に対し、どのようにリスク回避をするか考察するため、部屋の前にたたずんでいると、聖域の住人から冷たい視線が……。
「比企谷くん。おはよう」
「おはようございます……あっ!」
小さく手を振って挨拶する戸塚さんは、直ぐに自分の胸からぶら下がっているネームストラップを手にして、俺に分かるように見せる。資料を挟んだバインダーを脇に抱えて現れる彼女は、今日もどこか「大人な余裕」が見てとれた。
そんな彼女が指摘したストラップだが、俺は貰ったままにしていた。確かに、これがなければ「不法侵入者」と間違われてしまい、視線が集まるのも不思議ではない。
「これから最終確認をするのだけど、終わった後に時間もらえるかい? 平塚先生もいらっしゃるから、少し話をしようと思ってね」
「はぁ……まぁ」
「ありがとう。じゃあ、そろそろ始まるし、中へ入ろうか」
……大人な女性。悪くねぇな……。
***
「説明は以上になります。本日は宜しくお願いしますね」
20分程度の最終確認ミーティングは、正直に言えば拍子抜けするほど淡々と終わった。進行、導線、タイムテーブル、緊急時の対応。どれも事前に渡されていた資料と大差なく、確認というより「読み合わせ」に近い。既に頭に入っている内容ばかりで、俺はメモを取る必要すらなかった。それは俺だけではないらしく、周囲もそうだった。前回同様、最後尾の席に座っていたこともあって、目に入る後頭部が対して動いていなかった。
……なんか、軍隊みたいに統率取れていませんかねぇ。
「比企谷、内容は大丈夫そうか」
椅子から立ち上がろうとしたところで、後ろから声がする。おーい。比企谷さん。呼ばれてますよー。
「おい。比企谷。聞こえておらんのかね?」
そう話しかけられながらポンと肩を叩かれる。声のする方へゆっくりと顔を上げると、やはりと言うべきか。わがスクールアイドル同好会の顧問である平塚先生の姿があった。
「いえ。聞こえていましたよ。ただ、反応が遅れただけで……」
「そうか。なら良いが。で、大丈夫か?」
省略する語句が多すぎませんか?なにが良いんでしょうかね。何が大丈夫なんでしょうかね……。国語の問題なら難解すぎるでしょ?
「まぁ……。事前に頭に入れてきた内容と一緒なので」
国語の読解問題ならば「そう話しかける先生は、不安そうな表情で俺の顔をまじまじと見る」とかありそうだな。などと考えながら、先生の視線を追うと机の上にあった書類に向けられたことに気が付く。
「これが答えだろう」と結論付けて、求められる内容を伝えると、平塚先生は腕を組み大きく2回ほど頷くと「そうかそうか」と答える。どうやら正解だったらしい。
「比企谷くん。お疲れさま。平塚先生もご足労頂き、ありがとうございます」
「なに。一応は顧問だからな。顔を出しておかないとまずいだろうし」
「先生。生徒会も兼任ですよね? 良く時間、取れましたね」
「まぁな。こう見えて『若手』だから色々と頼まれるし、多少の無理は効くものだ」
「そうですね。相変わらずお若いですよね」
平塚先生はどこか嬉しそうに、そして、照れながら戸塚さんの肩をバンバンと叩くと、戸塚さんはなぜか嬉しそうに笑っている。こうしたやり取りを見て、この2人が本当に「知り合い」だと改めて認識する。戸塚さんは先生との接し方--というか、褒め方や世渡り方という方が正しいか――をよく理解している。本当に知り合いなのか。と思っていたが、その疑いは晴れた。まさに「百聞は一見に如かず」と言ったところか。
「まぁ、今日のライブだがな――」
と、急に平塚先生が真剣な表情になって切り出す。
「優木がひと区切りをつけるそうだ。今日がラストになる」
先生はどこかあっけらかんと事実を述べる。俺の仮入部がGWまでのもこれが理由だ。まぁ。優木が最後とした理由は聞かされていないが……。
「やっぱり……そうなんですね」
戸塚さんが、どこか納得したように息を吐いた。それは「仕方ない」と諦めた表情をしていた。
「前から思ってたんです。優木さん、全部一人で背負いすぎだなって」
「そうだな。1人で全てやり切ろうとは到底、無茶な作業量だからな」
「仰る通りです。他校では広報担当、衣装やメイクを見る人、作詞や作曲、曲の編成、振り付け……それぞれ役割分担していますからね」
……やはりか。たった2、3週間ではあったが手伝ってみて感じたが、到底一人でこなせる量ではない。実際、2人でやっても、こなしきれていない。それこそ、SNSの更新も昨日の1回切りだ。曲も使いまわし。他にも色々とやることはある。
「正直、あの量を一人でやるのは、かなり大変だと思います。……本気でやるなら、なおさら」
その言葉を受けて、平塚先生が静かに頷いた。
「その通りだ。元々、一人でこなせる仕事量じゃない。だがな、優木は――いや、優木『だから』か……」
一泊置いてから、先生は続ける。
「熱量が高すぎる。本気になりすぎるんだ。どれも妥協しない。中途半端を許さない。その姿勢自体は立派だが……周りが、ついて来れなくなった。結果として、部員は減った。悪意があったわけじゃない。ただ、熱量と本気の差が、どうしようもなく開いてしまっただけだ」
先生の話を聞いて合点がいった。だから「同好会」なのか。
中川も言っていたが「スクールアイドル」はお手軽に「アイドル」になるのが魅力的な部活だ。体よく「アイドル」という肩書を得られるなら、ライトな層も入部することがあってもおかしくない。
となれば、優木は「ボッチ」なアイドルになったのは、他人との摩擦。よく「皆で仲良く」とか「皆で協力して」とか「皆で相談して」とか言うが、俺は嫌いな言葉だ。仲良くやって、協力してやって果たしてうまくいくのか?
大人ならうまく行くだろう。
なぜなら、仕事だから。仕事をしなければ当然、評価が下がり、対価が払われない。最悪、解雇処分になる。そうなれば収入がなくなり、生活ができない。
ただ、学生のやることだ。別に対価が払われるわけではない。だから、皆のうち誰かがやってくれる。と、仕事を押し付けてはラクできる人間が出てくる。まさに人という字そのものだ。仕事をする人間に寄りかかっている。小学校の班行動で「重いものを持ちたくない」だの「そんな危ないことしなくないだの」とカースト上位がワガママを言って、下位層に仕事を押し付けてくるのが良い例だ。
つーか、そもそも皆って誰だ?ずっと一人でやってきたから、知らないんだよな……。
一人でやろうとすることが、そんなに悪いのか。全力でやることが、間違いなのか。
……ふざけるな。
最初から一人でやると決めていたなら。誰にも期待せず、誰にも頼らず、その代わり結果も全部引き受ける覚悟があるなら。それは、逃げでも独善でもない。少なくとも、俺にはそう思える。
とはいえ、スクールアイドル活動はひとりではできない。理屈としては、理解できる。だが――だからといって、だ。
「まぁ……そうっすね」
口から出たのは、曖昧な相槌だった。内側で渦巻く感情とは裏腹に、表情には出さない。
そのときだった。
戸塚さんのスマホが震え、控えめな着信音が鳴った。
「あ、ごめんなさい……はい」
短いやり取りの後、戸塚は困ったように眉を下げると、平塚先生の方を向くと首を横にふる。
「ダメだったか……。比企谷」
「はい。なんでしょうか」
嫌な予感しかしない。
「ごめんね。比企谷くん。実は会場スタッフの方が一人、体調を崩してしまって……欠員が出て、急遽代理を探していたのですが……」
「まぁ、見つからなかったと言うわけだ」
「……」
予感的中。はぁ……。
「ごめんね。比企谷くん。今朝、平塚先生にも伝手がないかと相談したんだ」
「あぁ。私の方でも幾人か当たってみたが、流石に当日となるとな……」
「このために、残らされたわけですね」
2公演連続2回目のトラブル。どうせならTOLOVEるの方が良かった……かな?
「急で申し訳ないんですが……お手伝い、お願いできますか? バイト代はきちんと支払います」
「悪いな。比企谷。頼めるか? 一応、許可書も持ってきた」
実に準備がよいことで……。
戸塚さんから渡される「関係者用パス」を首からかけると共に新たに渡された「仕様書」を手にとっては、椅子へと座り『スペシャル』なミーティングが始まるのだった。