やはり俺たちの本気は間違っていない   作:健康啓涼

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この度は当作品をお読みいただきまして、ありがとうございます。

前回のあらすじですが、
・ついに中川菜々さんが八幡さんに「自分が優木せつ菜」であることを明かしました。


今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。


青春ブタ野郎はフォロワー数の夢を見る。
青春ブタ野郎はフォロワー数の夢を見る(1)


「うむ。不備はないな。この前の書類といい、相変わらず、仕事が早く正確だな」

「……ありがとうございます」

 

先生に手渡した書類の背面を朧気に見ると、本当に良かったのかと改めて思い返す。

 

「では、本日より同好会への入部を許可する。頑張りたまえ」

「……うっす」

 

書類が受理された瞬間、俺の入部が正式に決まると昨日起こった「仲間入りイベント」を思い出す。

 

優木……いや、中川と呼ぶべきか。彼女からの言葉と突き出された拳。

 

『始まったら貫くのみです』

『……そうだな』

 

なーにが、「そうだな」だよ。バッカじゃねぇの?

 

……なんかすげぇ恥ずかしいわ。今更ながらあのときのテンションになった自分を殴りたい。一時の感情なんかで流されるような人間だと自分自身は思っていたが、簡単に流されてしまったな。あれがスキル「カリスマ」か?

 

とはいえ、一度、口にしたことだ。やるしかないわけだが……。

 

……覚悟、か。

先生のあの問いには、きっとそこを測っていたのだろう。

だが、生憎と俺はそんな立派なものをまだ持ち合わせていない。ただ、流されただけの男だ。

それでも--流された先で、踏ん張るくらいはできるだろう。

 

「さて、行くとしようか」

「はぁ……」

「なんだね。その気の抜けた返事は」

 

いや、だって。なんで一緒に行くの?そもそもなんで先生も来るんだよ……

つーか、痛いから。バシバシ叩かないで。

 

 

こうして、先生と共に同好会室に来たわけだが、初めて連れてこられたとき以来だな。とはいえ、あの時と状況は違うようで同じ。

 

……入部したんだからな。

 

先生はあの日と同じようにノックをし、反応があったところで戸を開け、中へと入る。そして、先生の後に続いて部屋に入る。

 

「比企谷くん。お疲れ様ですっ!」

「……おぅ」

 

のっけからハイテンションですね……思わず後ずさりしてしまった。

 

優木は席から立ち上がり、挨拶をしたところで先生用の椅子を準備する。その姿はなぜか嬉しそうで。

 

「優木。改めての紹介だが、比企谷だ。今日よりスクールアイドル同好会に入部した新人だ。仲良くやってくれ」

「はいっ!」

 

ビシッっと手を挙げんでよろしい。しかも、耳横に腕をつけるとか、どんだけ真面目なの?

 

……それよりも、相変わらずへそチラするそのシャツの長さはどうにかなりませんかね?

 

「比企谷くん。改めてよろしくお願いします」

「おぅ。こちらこそ」

 

優木が綺麗なお辞儀をするため、俺も慌ててお辞儀をするのだが……。これでいいのか?

 

「さて。比企谷が加入したことで、今まで手が回らなかったことも今後は対応していくこともできる」

「はい。その通りです」

「そこで、優木。この同好会の目標はどこにある?」

「それはもちろん『ラブライブ優勝』です」

「そうか。それは結構。では、さしあたっての課題も分かっているな」

「もちろんです」

 

先生は腕を組みながら、いつの間にやら真剣な目をする。この質問に対する答えはさほど重要ではない。なぜなら、この質問の本質は「覚悟」にある。

それをあっさりと答える優木もすげぇな。

 

……そこまで腹くくれてないよ?俺

 

「だそうだ。比企谷。君も同じ目標で良いか?」

「えぇ。まぁ、優木がそう言うなら、それでいいんじゃないですか?」

「そうか。実に比企谷らしいな。それもまた結構」

 

先生は真剣な視線を俺にも向けると、大きく1回頷くと「頑張りたまえ」と一言残して同好会室を出て行く。

 

急に緊迫した空気とか……。なんかすげぇ疲れた……

 

とりあえず、いつもの席に鞄を置いて席に座ると、改めて同好会室の中を見る。この部屋はいつ見ても賑やかだが、どういう訳かグレードアップしている。

タペストリーにポスター、棚にはアクスタもあればフィギュアもある。それに、SNS用の撮影スペースもある。って、いつの間にかラノベの新刊が増えてやがる。……優木が買ったのか。相変わらず手が早いことで。

 

それにしても、優木の趣味が全開だ。仕事に没頭していた時は気にもならなかったが、一度気にしてしまうと、急に意識してしまう。それに他人の好きに無頓着で生きてきた俺には、少しばかり居心地が悪いというか……

 

「ところで比企谷くん」

 

優木も席に座るとすぐに俺に声を掛けてくると姿勢を正す。畏まった様子からしていきなり相談事だろうか。

 

……まぁ、予想はつく。ラブライブ優勝を掲げる以上、その相談だろう。予選は7月中旬から始まり、本戦は8月上旬。GWも終わった今、残り2か月と非常にタイトなスケジュールだ。マジで色々と話を詰めて行かないと、間に合わない。

 

「良かったら、この小説読んでもらえませんか?」

「……はぁ?」

 

そう言うとクリップで留められていた、かなり分厚い紙の束を俺に渡してくる。

 

「……なにこれ?」

「これはですね。生徒会の方に届けられたもので」

「え? どういうこと?」

 

相談事がまったく予想していない明後日の方向過ぎませんか?

 

あー……。あれか?どこぞのアニメに習って優勝するまでの工程を小説にしたのか?で、オチはペラ2枚で済むとかそういうのだろ。

 

……アニメの1期はそこまで進んでないよね?確か、演劇部を助けたところで終わってなかったか?

 

「実は、生徒会の投書箱に相談があったのです。それで、私が担当することになりまして」

「……生徒会の方かよ。って、投書箱って何だよ?」

「あれ? ご存じありませんか? 投書箱」

 

……優木さん。その「知らないんですか!?」みたいな驚いた表情は何でしょうか?知るわけないでしょ。この俺が。

 

まさかと思うけど、俺だけ?

 

言われてみれば、「新生活に慣れよう週間」とか訳わからないことをやるのがこの学校の生徒会だったわ。

 

「……生憎と、俺はそういった学校の仕組みを全く知らないし、そもそも知る必要もない」

 

……ふっ。決まったな。これで、この話は終わりだな。

 

「比企谷くんは本当に面白いですね。自信満々で、そのようなことを仰るなんて」

 

……優木さん。何でしょうか。口に手を当てて上品に笑いながら「孤高な俺には魂の拠り所は必要ないってことですかね」と決め台詞的なものを口にするとは。

 

ですが--と、彼女は続ける。

 

「この方、とても真剣に書かれているんです。自分の物語を、誰かに読んで欲しいと」

 

その声色だけが、ほんの少しだけ、さっきまでと違った。

 

冗談ではなく、茶化しでもなく。

 

守ろうとする人間の声だった。

 

……はぁ。

 

どうやら、俺の正式加入後、最初の仕事は――アイドル活動ではなく、小説添削らしい。

 

***

 

部室の窓から差し込む西日の色が、ゆっくりと変わっていく。最初は白かった光が、少しずつ橙色を帯びて、紙の端を染める。

 

 

 

インクの匂いと、紙の擦れる音。

 

 

 

やけに現実感のある時間だ。隣では優木が、時折ペンを走らせながら頁をめくっている。笑っているわけでも、眉を顰めているわけでもない。

 

ただ、真剣だ。

 

……こうやって、誰かの書いたものを真正面から読むなんて、いつ以来だろうな。中学の頃は、他人の文章なんて「採点対象」か「比較材料」でしかなかった。感想なんて持つ前に、粗探しをしていた気がする。今も、きっと同じだ。頁をめくりながら、どこか冷めた目で構造を探している自分がいる。面白いかどうかよりも、破綻していないか。伝わるかどうかよりも、無駄はないか。

 

……本当に、それでいいのかは分からないが。

 

 

部室内には時計の針が進む音と紙をめくる音だけがすること数十分。渡された小説を2人で読み込み、どうにかプロローグ部分だけは読み終えることができたわけだが……

 

何だこの文章は……すげぇ読んでて疲れるわ……。なんだかルビは多いわ。説明は多いわで。

 

頼まれていたことが終わったところで、身体を伸ばすと、思いのほか抵抗感を感じる。なんだかんだで集中して読んでいたのか、身体が凝り固まった証拠なのだろう。

 

にしても頭を使ったなー……。こりゃ、気分転換が必要だな。

 

視線を優木に向ける。机を挟んで反対側にいる彼女は未だに真剣な顔つきで1枚ずつ丁寧にめくって読みふける。

 

本当に真面目なやつだよな……。

 

「すまん。読み終えたので、ちょっと飲み物を買ってくる。優木は何かいるか?」

「……」

 

この反応に「どうやら屍のようだ……」とはならないが、かなり没頭しているようで、返答がない。

 

仕方ない。優木にはお茶でも買っておくか。

 

***

 

自販機のボタンを押すと「ガチャコン」と音がし、取り出し口から千葉名産のコーヒーとテキトーに選んだお茶を取り出す。聞くところによると、千葉にキャンパスを構える学校の自販機には「MAXコーヒー」が販売していることが多い。もし、構内にない場合は最寄り駅の自販機を見てくれ。だいたい入っていることが多い。コレ。豆知識な。

 

日本のコーヒー文化の発展に大きく寄与した鈴木さんに感謝と尊敬の念を持ちながら、2人分の飲み物と共に同好会に戻ると、なぜかペンを走らせる優木の姿が。

 

「比企谷くん。お帰りなさい。もしかして、教室を出る際に、声を掛けて下さいましたか?」

「あぁ……。まぁ、対したことじゃねーから、気にしなくていいぞ。それと、コレ。テキトーに買ったものだから、いらなきゃ捨ててくれ」

「重ね重ねすいません。では、遠慮なく頂きますね」

 

そういって机の上に買ってきたお茶を置くと、優木はお礼を言いながらゆっくりと手にとり、口に含むと「ふぅー」と息を吐いて、肩の力を抜いた。どうやら落ち着いたらしい。

 

……さて。このタイミングなら本題を切り出せるな。

 

「なぁ……優木。色々と聞きたいのだが」

「はい。なんでしょうか」

 

……相変わらず、凄いな。首を軽く傾けて、キョトンとした表情をこちらに向ける。この仕草にあざとさがない……。これがアイドル力というものだろうか。思春期男子なら一撃で落ちるな。

 

保ってくれ。俺の理性……

 

「まずはラブライブの件だが、開催まであと2か月程度だ。そこまでのスケジュールはどうするんだ?」

「そうでしたね。その件、まだちゃんとお伝えしていませんでしたね」

 

そう言うと優木は立ち上がると、座席をホワイトボード側の方へ移動する。そして、ホワイトボードをひっくり返してカレンダー側を準備すると、マーカーを取り出してキャップを外す。俺は「どうぞかけてください」と言われたので、言われるがまま、席に座る。

 

「比企谷くん。ここへ初めて来た際に説明した内容を、覚えていらっしゃいますか」

「……あぁ。確か千葉は南北に分かれているって話だよな」

 

そういえば、ここに初めて来た時は中川が丁寧に説明してくれたんだよな~。って、目の前にいる人物も中川なんだよなぁ。ホントに同一人物なのか?

 

「ええ。ですので、ラブライブに出場する場合は、持ち歌が2曲はないといけません」

「……3曲じゃないのか? 予選の2曲と本戦で1曲」

「本戦については、予選で使用した曲を使うことも可能なのです。良くあるケースとしては、予選で使用した曲をアレンジするといったところでしょうか」

「アレンジね……」

 

言うのは簡単だが、結構難しいのだろうな。なにせ、完成させた曲を更にレベルを上げなくてはいけないのだから。かと言って、初めから未完成な曲を準備するのも違うのだろう。となると、3曲準備するのが無難なのだろうか。

 

「はい。いずれにせよ、今の私には『オリジナルの楽曲』が必要となります。これを残り2か月で準備するのは現実的ではありません。ですので、目指すのは『来年の夏』になります。そのために、1年かけてしっかり準備していきます」

 

優木は説明を行いながら、出場予定のフェスなどのイベントが行われる日を赤丸と共にイベント名と会場を記載しながら、青ペンで「作詞」や「衣装の作成」「フォロワー〇人」などと個人的な目標を記入する。

 

……しっかりとしたスケジュールを考えてたわけね。伊達や酔狂で「優勝」を狙うって言ってたわけじゃなく、きっちりと「今の自分の立ち位置」を踏まえて、きちんと計画は立てたのね。

 

とはいえど……

 

「大枠は分かった。が、これを2人でこなしていくわけだが、そもそも曲ってそんな簡単にできるものなのか?」

 

作詞も作曲したことない俺からしてみればそもそも「曲作り」のイメージがない。プロなら年間に何本も作れるとは思うが、素人が2曲も作ることが、それが果たして可能なのだろうか。思いつく程度でも優木の音階も考慮しなくてはいけないだろうし、あとはテンポとかもあるだろうな。

 

「そうですね……作詞については、私も経験があるので何とか。比企谷くんもできると思いますよ?」

「簡単に言うなよ……」

「いえ。実績というわけではありませんが、平塚先生からのお墨付きは頂いてますよ?」

 

……あの作文のことを言っているのだろうか。確かに1割ぐらいは褒められたかもしれないが。

 

「……気が向いたらな」

「ええ。それでよいと思います。曲作りは『熱意』が必要ですから。ですから比企谷くんが『本気』になった時にお願いします」

 

眩しいほど微笑ましい表情を浮かべる優木を直視できず、飲み物を飲むふりをして視線を外す。ホントにコイツは裏がない言葉でずかずかとゼロ距離で話を進めてくる。

 

 

俺が『本気』になる時なんてあるんだろうか……。

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