やはり俺たちの本気は間違っていない   作:健康啓涼

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【前書き】
この度は当作品をお読みいただきまして、ありがとうございます。

前回のあらすじですが、
・八幡さんが同好会に正式に入部しました。
・1年後のラブライブ優勝の目標に向けて、これから本格始動するようです。
・そんな矢先、八幡さんは生徒会のお仕事を頼まれました。

今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。



青春ブタ野郎はフォロワー数の夢を見る(2)

「……」

 

18:30を過ぎてもまだ明るい。日が延びたことを実感すると、季節が一歩前に進んだような錯覚を覚える。

 

……まあ、だからといって何か得するわけでもないが。ベンチにでも座ってぼんやりしたくなるが、生憎と最終下校時刻はとうに過ぎている。仕方なく自転車を引っ張り出し、そのまま校門を出た。

 

ペダルに足をかけ、ゆっくりと漕ぎ出す。鞄が揺れ、かごの中で何かがガタガタと音を立てる。聞き慣れた、何の感慨もないはずの音だが、やけに耳につく。夕陽のせいか、それとも疲労のせいか――初めて同好会を訪れた日のことを思い出していた。

 

 

あの時と同じ、どうしようもない疲労感。

 

 

あの時と同じ、変わり映えのしない帰り道。

 

 

違うのは――

ほんの少しだけ、余計なストレスが上乗せされていることだ。

 

……いや、少しどころじゃない気もするが。 なーんで入部初日からサービス残業せにゃならんのだ。 優木から渡された小説は一通り読み終えた。そこで終わりかと思えば「続きです」と追加分が出てくる。業務拡張のタイミングは18時25分。最終下校時刻5分前。ここから読めと?

 

いや普通帰らせるだろ。 ブラック企業でももう少し建前を取り繕うぞ。

 

そもそも、これ生徒会案件だよな?勢いで了承した俺も俺だが、部活と関係ないなら完全に業務外だろ。労基はどこだ。いや学校に労基はないけど。だからって好き勝手していい理由にはならないだろ。

 

そんな風に、行き場のない不満を何度も反芻しているうちに、気づけば家に着いている。時間というのは便利だ。無駄な思考も一緒に運んでくれる。ありがたくはないが。

 

「ただいま」

 

……おかしい。返事がない。疲れ切った今の俺には小町成分が必要なのに、その持ち主からの返答がない。

そうか。聞こえてないだけだ。そうに違いない。言われてみれば、優木も集中していたとき、俺の声が聞こえていなかったからな。まさか帰りが遅いくらいで妹に見限られる兄とか存在しない。そんな現実、俺は認めない。

 

リビングの扉を恐る恐る開けると、明かりはついているが人の気配はない。

 

「みゃ~」

 

足元に現れたのはカマクラだった。気だるそうな鳴き声。だがその実態は単なる飯の催促だ。こいつは一貫している分、まだ信用できる。

 

「……もうこんな時間かよ」

 

時計を見ると19時を回っていた。この時間なら小町は塾だろう。なるほど、妹不在イベントか。需要がない。 とりあえず着替えて、飯と風呂を済ませる。その後――仕事だ。

 

 

……まぁ。やるか。

 

***

 

「……はぁ」

 

机の上に紙束を放り投げ、椅子の背にもたれかかる。視線は天井へ。白は情報量が少ないから脳が休まる――そんな話をどこかで聞いた気がする。真偽は知らん。

 

渡された小説の追加分を半分ほど読みはしたが、ただただ長いだけで面白さがあまり感じられない。ジャンルで言えばバトルもの。だが、開幕バトルであるにも関わらず、臨場感も疾走感もない。原因は明白だ。ルビの多さ。過剰な技解説。 初見の技を読者に伝えたいんだろうな、とは思う。だが、それは「読ませる工夫」ではなく「説明しているだけ」だ。結果、テンポは死ぬ。

 

……いや、そもそも技多すぎだろ。奥義、奥義、また奥義。お前はアフロ頭の鼻毛真拳の使い手か何かか?

 

「……」

 

なのに。目の前のこの文章を、完全に笑い飛ばせない自分がいる。その理由は簡単だ。 同族嫌悪。

過去の俺が中二病だったからだ。自分の世界観に酔いしれ、他人に理解されないことに優越感を感じ、他人に伝わらない言葉そのものに魅了された時代が俺にもあった。今考えるだけで、普通に死にたくなるレベルの黒歴史だ。

鳩子さんにブチ切れされて当然なわけ。

 

気のせいか?あの声を聞くとどこか厭味ったらしくも、懐かしさを感じるのはなぜだろうか。もしや、前世で俺はっ―――。

 

……はぁ。やめよう。気を抜いたらすぐにこれだ。

 

そして開幕バトルの後の話が更に酷い。これが本当に壊滅的だ。

 

異世界転生、異世界転移、ラブコメ、コメディ、SF、俺TUEEE、お色気――

 

順序も脈絡もない。本来なら一本の軸に沿って展開すべきものが、作者の「やりたいこと」という名の具材として無秩序に放り込まれている。

全乗せ・闇鍋、なんて生易しいもんじゃない。物語の必然ではなく、作者の欲望が優先されている。転生キャラが出たと思ったら、良く分からんタイミングで脱ぎだす女性キャラ。どういう心理で行動にでたのかもわからないままシリアス展開。一体、何が書きたいのか全く分からん。

と全く形を成さない文章ではあるが、今のところ、決して悪い印象だけではない。「何がやりたいのかわからない」んじゃない。むしろ逆だ。やりたいことが多すぎて、全部を同時に叩きつけている。だから形になっていない。

だが、核になっている「やりたいシーン」だけは、やけにわかる。そこだけ妙に温度が高い。

 

……だから厄介なんだよな、こういうのは。

 

「はぁ……」

 

再び天井を見上げる。

 

――で。問題はもう一つある。

 

なんで優木は、これを俺に読ませた?単なる人手不足か。それとも、別の意図があるのか。考えてみるが、分からない。あいつの行動は、合理で説明できる時と、できない時の差が激しすぎる。まさに中川と優木の二面性が表れた結果か。

 

「……まぁいいか」

 

どうせ明日には分かるだろ。そういうことにして、俺は机の上の紙束から視線を外した。

 

***

 

小説と格闘して気が付けばもう次の日の夕方。

 

「はぁ……」

 

とある冴えないJKばりに「なんだかなぁ……」と言いたい気分だ。

 

このところまともに授業を受けた記憶がない。書類仕事に追われたころは授業中に内職し、それが終われば次の仕事が入り……。いつの間にか放課後となり、重い体を起こすと、2日目から惰性で同好会室へと足を運んでいた。

 

そんな詰んでいる状況に思わずため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるというが、ため息は自律神経を整えるもの。

……ということは今の俺はどうやら自律神経に乱れているらしい。

 

では、なぜ乱れているのか。

 

その原因は言うまでもない。渡された小説が原因だ。

コイツに俺の睡眠時間はかなり削られた。原稿用紙は一体何枚あるんだよ。と何度も突っ込むほど分厚い束と格闘した結果、読み終えたのは深夜2時。12時を簡単に超えていた。

 

こうなると「1日24時間は皆平等に与えられている」と言うが果たしてそうだろうかと考えたくなる。

 

時間は平等、だから結果の差は努力の差――言ってることは分かる。分かるが、それをそのまま受け入れるほど素直でもない。

そもそも、同じ24時間でも中身が同じとは限らない。寝なくても平気なやつもいれば、しっかり寝ないと死ぬやつもいる。俺は後者だ。しかもかなり弱い部類の。

つまり何が言いたいかというと、スタートラインの時点で既に差がある。 それを全部無視して「はい平等です」は、さすがに雑すぎるだろ。

 

……まあ。 だからといって俺の状況が改善されるわけでもないし、むしろ今こうなってる原因の大半が自分にあるあたり、余計に性質が悪い。 昨日、やめようと思えばやめられた。 やらなかったのは俺だ。

――なるほど、確かに平等かもしれないな。 こうして自分で首を絞める自由まで、ちゃんと平等に与えられているらしい。

 

……で。

 

その結果がこれだ。 授業は頭に入ってない。ノートもまともに取れてない。当然、復習する材料もない。

 

時間が足りないんじゃない。

 

時間を「使えない状態」を自分で作ってる。

 

……救いようがないな。 何が言いたいかだって?

 

そんなの決まっている。本当にテストがヤバイ。もうすぐ中間テストだというのに、まともに授業を聞いてない・勉強をしてない。学生の本分は勉強じゃなかったか? まぁいい。とりあえず、目の前のことを片付けますか……。

 

「比企谷くん。お疲れ様です」

「おう。お疲れさん」

 

いつものようにドアをノックしいつものように入室の了承を得てからに部屋へ入ると、既に優木モードの中川がいる。

そういえば、俺よりちょっと前に教室を出るのを見かけてはいるが、そんなに時間差はないはずだ。にも拘らず、すでに着替えを終えている。早着替え選手権があれば、おそらく日本代表クラスだな。知らんけど。

 

いつもの場所に鞄を置き、机の上に無駄に重い紙束を出す。指摘が必要なページに伏せんをはり、該当箇所にはペンで色分けし、必要な部分は赤いれを。準備は万端だ。

 

……ここまでやる必要があったかのかはそもそもの疑問だが。

 

「凄いですね! しっかり読み込んできたことが一目で分かります」

「……まぁ、頼まれたからな」

「流石です!」

 

優木さん。相変わらず目をキラキラさせてますねー。コイツの目からハイライトが消えることなんてあるのか?

と口にできないことを心の中に留めておく。

 

そう。俺は空気がきちんと読めるんだよ。それに、これって立派な優しさだからな。「はっきりしないとか、マジ陰キャ」とか言ったギャル山田よ。お前は俺の「許さないリスト」女性第一号だからな。

と、思い出したら気分が下がることをなぜか思い出しているうちに、優木も紙束を取り出ふと、いつもの席に座る。

 

「さて。比企谷くん。この小説ですが――」

 

ついに話の革心へ入ったときだった。

 

「たのもー!」

 

勢いよくドアが開く「ガラガラ」音の次に金属同士がぶつかったのか「カーン」とゴングのような甲高い音がする。

無駄に大きい声量と、思わず目が行ってしまう音に釣られてドアの方を振り返ると、5月だというのにロングコートを羽織り、その体格も相まってか見るからに「暑苦しさMAX」なやつが堂々とした佇まいで姿を見せる。

 

「ここに優木というものはおるか?」

「はいっ!私です。中川さんから事情は聞いてますよ!」

 

と元気いっぱいに手をピーンと挙げてアピールするアイドル・優木せつ菜。キミ。小学生ですか?と言いたくなくなる。

更に言えばだけどさ。前から言ってるよね?そのシャツはサイズあってないよ?恐らく同好会活動するようになってから、教科書よりも君のおへそを見た回数の方が多いかもしれない……。

 

……そのうち変な性癖に目覚めそうで怖いな。

 

「材木座君ですね。こんな素晴らしい小説を読ませてくれてありがとうございます!」

「ふょへ」

「素晴らしいバトルシーンでしたよ。それに、文字のインパクトが印象的でした。ルビもカッコよかったです!」

 

……その後も続く優木の「褒め言葉」のラッシュに固まったままの材木座。

 

無差別級エキシビジョンマッチ。ヘビー級・材木座VSミニマム級・優木の「どれだけ体重差あるんだよ」と突っ込みたくなる一戦は、試合開始と同時に優木のラッシュに材木座選手はあっけなくKO負け。

 

あのね。優木さん。試合終了してるから。もうやめてあげて。

 

材木座のヤツ。顔面蒼白してんじゃねーか。大体、最初の勢いはどこ行った。二言目は最早、言葉になってねーだろ?

 

……はぁ。しかたねーな。この試合はレフリーがいないじゃねーか。

 

「落ち着け。優木。材木座のヤツ、固まってるじゃねーか」

「あっ。ごめんなさい。つい……」

 

こういうところを見ると優木はホントに「オタク」だよな。好きなことになると早口でまくし立てるあたり。

俺が止めに入ったところで、優木は我に返ったようであまりの恥ずかしさから少し俯いて顔を赤くしていた。

……誰が追い打ちを掛けろと言ったよ。その仕草に材木座が痙攣し始めたぞ。まぁ、わからんでもない。これをアイドル力というのだろうな。

 

「とりあえず、優木も材木座も座れ。小説の話はそれからだ」

「うむ……」

「はいっ!」

 

優木は定位置に、材木座は角に座ることで三者が向かい合う格好となる。片や顔面蒼白、片や目を輝かせている。温度が酷い。サウナと冷蔵庫を同時に開けたみたいな光景だな。

 

「しかし、我が盟友がここにおるとはな。流石である」

「……アホか。誰が盟友だよ」

「なるほど。お二人は深い仲なのですね」

「ちげーよ。知るわけないだろ? こんなむさ苦しいやつ」

余計な話題で主旨からずれてしまった。本当に厄介なやつだ。

 

さて、一旦、頭の中を整理しよう。部員でもない材木座がここに来た理由はコイツが俺の睡眠時間を奪った悪の権化だ。それこそ、優木もコイツが作者だと言ってたしな。それは間違いない。

次に、ここへ何しに来たのかだ。まぁ、これも予想はつく。感想なり添削を第三者である生徒会に依頼したのだろう。実際に優木からは、その説明があった。 材木座はなぜ小説を書き、それを生徒会に依頼したのか? そして、先ほど優木が言いかけた「俺にこの小説を読ませた理由」とは――

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