やはり俺たちの本気は間違っていない   作:健康啓涼

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この度は当作品をお読みいただきまして、ありがとうございます。

前回のあらすじですが、
・八幡さんが材木座くんの小説を鋭利に切り捨てました。
・せつ菜さんが材木座くんが考えた「盛り上がるシーン」を実演しました。
・その様子をSNSに投稿しました。

今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。




青春ブタ野郎はフォロワー数の夢を見る(4)

「たでーま……」

 

家に着いた途端、緊張の糸が切れ、気がつかなかった疲労が体中を駆け巡る。なーんか、肩も鞄も何もかもが重い。

 

何よりもすげぇ眠い。それもこれも材木座のせいだな。アイツ許さん……。

 

はぁ……。満身創痍の中、残業はするもんじゃねーな。

 

「おかえり~。なーんか、疲れてるねー」

「……まあな。とりあえず、着替えてくる」

「うん。ご飯準備しておくねー」

 

……はぁ。階段を上がるのも苦痛だぜ。材木座。メサイヤ・フィストを喰らわしても気がおさまらん。俺の愛馬エックスに騎乗して「五色の燐光」を放つぞ?

 

……くだらない事に頭を使ったら、余計に疲れたわ。ここは小町のご飯で癒されよう。

 

着替えを済ませ、階段を降りてリビングへと戻ると、食卓には晩御飯が並んでいる。……あぁ。なんかいいな。精神的安らぎ。

 

手を合わせて「いただきます」と挨拶をしたところで、食事を始める。あぁ……。この味噌汁がうますぎる……。肩の荷が降りるわぁ。

 

「お兄ちゃん。今日も本当に美味しそうにご飯を食べるね」

「……まぁな。実際、ウマいからな」

 

実際のところ、料理の腕を上げたな~。みそ汁が染み渡るぅ~。

 

……俺、なんか急激に老けてないか?

 

「あ~。うめぇ……」

 

味噌汁で口を湿らせたところで、おかずを口に運び、お米をかきこむ。少しと、心の声が漏れてしまう。

 

「もうぅ~お兄ちゃんったら」

「……なんだよ?」

「何でもないよー」

 

小町が珍しく照れた表情でこちらをチラチラ見てくる。……なんか可愛いな。流石、マイリトルシスター。その顔であと3杯はご飯が行けるぜ。

 

勢いそのまま、食事をあっという間に平らげてしまった。お腹が空いていたこともあるけど、うまかったな~。

 

後片付けをしたあと、食後のお茶を飲み一息つく。頭を無にして、ぼーっとしているとポチポチと携帯をいじる小町ちゃん。可愛い妹を見ながら飲むお茶もまた格別だな。

 

「おっ! おおおぉぉおぉぉ!!」

「急にどうしたー」

 

急に騒ぐな。妹。

 

「お兄ちゃん! 凄いよっっ!」

「何があったんだよ……」

 

落ち着け。妹。

 

「せつ菜さんっ! 凄いよっ! ヤバイよっ!」

「優木は元々凄いだろうが……。で、何があったんだよ」

「ヤバイ!」

「だから、何が?」

「バズ! バズ!」

「ライトイヤー?」

「そう言うの良いから。これ。見て!」

 

あのね。小町ちゃん。「いいから」とかやめて?悲しくなっちゃうでしょ?悲しくなっちゃうじゃない。

 

それよりも会話をしろ。会話を。勢いだけだな……。

 

心に傷を負いながら、小町が見せる画面に視線を向ける。画面には、今日の活動で撮影した優木の動画が。

 

「……あぁ。なかなかの出来だろ? あいつもノリノリだったぞ」

「そうじゃないの! もうぅ!」

 

……違うのかよ?アイツの演技、褒めてやってくれよ。結構、良かったぞ?思わず、俺の中二心がくすぐられたぞ?

 

……でもまぁなんだろう。この不思議な気分だ。優木に説明されて、数時間前まで教室の中で完結していたものが、今は知らない誰かの画面に映っている。SNSというやつは本当に距離感が狂っている。

 

「お兄ちゃん。スマホ鳴ってない?」

「ん……あぁ。かもな」

 

目覚まし機能が付いたゲーム機でしかないんだが……。この時間にアラームが鳴るはずはない。となれば、業務連絡以外の何物でもないな。

 

ソファーに投げっぱなしのスマホを取り出すと、やはり「中川菜々」からの通知があった。この調子だと動画の件だろうが……。

 

「……はぁ」

 

メールを読むとやっぱりそうだった。中川からの連絡は「昼休みに相談したいことがあります。大変恐縮ではございますが、同好会室まで宜しくお願い致します」だとさ。

 

放課後でなく、昼休みでの呼び出し。その理由は考えるまでもない。面倒なことが起こった。じゃあ、どんな面倒ことが。……まぁ。SNSが原因だろう。

 

今日の今日で、なんでこうも起こるかね……。はぁ……。先が思いやられるな。

 

***

 

んー……ん~。廊下側後方の席だと、寝ててもばれないな。まぁ、元々この時間は数学だから俺には睡眠時間と同義なので問題なし。ちょうどもチャイムが鳴ったし。

 

っても、もうすぐテストなんだがな……。まぁ、どうにかなるだろ? いや。ならんよな~。

 

さて。現実逃避は終わりだ。と言っても、見たくない現実がそこにあるわけで。

 

……はぁ。昼休みは仕事時間が当たり前になってもうすぐ1か月。授業道具を片付けて、ビニール袋を鞄から取り出す動作が板についてきたな。

 

今日の昼ごはんは総菜パン2つとマッカン。ただ、焼きそばパン2つはどういうこと?小町ちゃん?

 

晩御飯の買い物ついでに頼んだから強く言えないとはいえ、妹のセンスに疑問を抱きながら、いつものように同好会室に向かうと、前方に中川の姿が。

 

メガネを外して三つ編みがほどけたら、優木せつ菜になるんだよな~。どう考えても創作の世界の出来事だよな。そうなると設定というか属性が重要だが、二面性?隠れスター?まぁ、確定しているのはロリきょ……げふんげふん。これ以上はいけないな。

 

「失礼するぞ」

 

改めて現実に意識を戻し、目の前のドアをノックする。そして、いつものように「どうぞ」の声が。ドアを開ければ、中川菜々が所定の位置に。流石に昼休みは変身する時間はないよな。

 

……改めて見ると「品行方正で絵に描いたような優等生」だよな。それがへそチラアイドルとは想像できねーな。

 

いかん。また夢の世界へ旅立ってしまった。

 

「はい。お待ちしておりました。お呼びたてしてしまい申し訳ございません」

「いや。気にするな。どうせSNS投稿の件だろ?」

「はい。察しが早くて助かります」

 

いや。全く察してないよ?SNSに投稿した結果、何が起こったの?

 

「実は昨日から、通知が鳴りやまず……。昼休みに電源を入れたところ、数字がカンストしてしまい」

「ほぉ……」

 

通知がなりやまずって言うけど、何の通知?数字がカンストって何の数字?ログボや経験値の取り忘れ?

 

まじで話についていけねぇ……

 

「はい。このような出来事は初めてなので、対応するにもどのような対応が最も良いのか考えても答えが出せず。それこそ、対応を間違えれば炎上しますので慎重に進めるべきですが、時間をかけすぎると『無視した』と思われてしまい、それもまた炎上する理由になります」

「……そうだな」

 

SNSとはいえネットの世界だから、炎上はするのは分かるが、別に煽るようなことをしなければいいじゃないのか?と簡略な答えを出すことはできる。

 

けど、それならば、中川ほどの人物なら既に対応しているはずだ。だが、その彼女が答えを出すことができていない現状を見るに、かなり深刻な問題なのだろう。

 

「なので、比企谷くんのご意見を聞いてから結論を出すべきだと思いまして」

「ふむ……。学校側に影響は出ているのか?」

「いえ。特段何も言われておりません。今のところは。という注釈は付くところではあります。とはいえ、もし何かあれば、スクールアイドル運営事務局が動いてくれますので」

「……あぁ。あの、ガイドラインなら書いてありそうだな……」

 

まさかと思うが、中川はあの分厚い本の内容を全て把握している……のか。妙にあり得そうな話だな。

 

 

さて。話を戻そう。

 

 

投稿したことで起こっている問題は内容が良く分からんが中川関連のみ。学校等には悪影響なし。ふむ……

 

「中川。質問ばかりですまないが、返答すれば問題は解決するのか?」

「正直なところ、わかりません。というのも私もSNSの運用は疎いので」

 

中川にアカウントを管理しているとはいえ、素人と言うわけだ。つまり、少なからず、こういったものには「ルール」が存在するのだろう。そして、そのルールに従おうとした結果、行き詰ったってところか……。

 

「じゃあ、現状で中川個人に起こっている問題点は何だ?」

 

……あのね。中川さん。困った表情で「アハハ」と笑うとか、嫌な予感しかいないよ?

 

「一言で言えば……全部です」

「全部?」

「はい」

 

衝撃的な言葉が中川の口から発せられる。全部?全部で何だよ。そもそも、どんな問題があるのか想像もできていないんだが?

 

中川は困った表情を変えず、スマホの画面をこちらへ向ける。画面には公式アカウントが表示されているが、正直、見せられたところでもよく分からない。ただ左のアイコンに「99+」という数字だけは見えた。これがカンストした数字の正体か……。

 

「ここまで反応してもらえるとは思ってはいませんでした……」

「ほほぉ……」

 

中川がスマホを操作すると、

 

『続きが見たいです!』

『ファンになりました! ライブ予定ありますか?』

『もっと投稿してください』

『次回はいつですか?』

 

……。なるほど。つまりコメントとかいうやつか。画面をスクロールすると、同じような文章が延々と続いている。これが99個以上。

 

「で、コメント全てに返信してるのか?」

「はい。その予定ですが、まだ全て返せていません。最初のいくつかは返信しましたが……」

「そりゃそうだろ」

 

中川は申し訳なさそうに視線を落とした。中川というか優木らしいと言えばそれまでだが……。

 

優木は対象全てに「全力」で応える人間だから、応援してくれる人間にも全力で応える。そもそも、元を辿れば、今回の動画だって材木座の小説に対して「全力」で応えた結果だ。

 

仮に1レスするのに1分かかるとすれば、今分かっている限りでも100分以上はかかる。これではリソース切れは明白だ。ましてや、SNSに慣れていない。

 

そりゃ「全部」だわ。

 

……だが、これは中川の問題ではない。明らかに俺の失態だ。今回の「SNSに動画を上げる」件は俺が提案して実行した結果だ。

 

材木座の投稿でもそうだったが、何かしらのリアクションが返ってくることは分かっていた。そのリアクションに対し、中川の性格を踏まえて考えていたなら全てに返答することぐらい予想もできたはずだ。

 

 

知らないとはいえ、余りにも不用意な行動だ。安易な気持ちで投稿するものじゃねーな。マジでネットって怖いな。

 

 

「それにDMも来ています」

「DM?」

「はい」

 

また新しい単語だ。本当にSNSってやつは横文字ばっかりだな。

 

「要するに個別メッセージです」

「なるほど」

「中には、取材やコラボ依頼のようなものもあります」

「……マジか」

 

思わず眉をひそめる。そこまで来るのか。昨日上げた動画だぞ?二十四時間も経ってないのにこれか……。

 

一旦、問題点を整理しなきゃ頭がパンクするぞ……。

 

広報活動方針の決定。動画の次回作に、取材依頼の内容を精査。どんな動画を上げたらいいのか。更新頻度も決めなきゃならん。

 

必要とあれば、平塚先生や戸塚さんに許可を貰う必要がありそうだ。となれば、書類作成にも時間を割く必要がある。

 

……が。何より重要なのは『中川の時間の確保』だ。中川1人では対応が追い付かない状況を改善する必要がある。

そもそも俺がこの同好会に入部したのは、普段からそれなりに忙しい中川のサポートをするためだ。にも拘らず、逆により忙しくしてどうするんだって話だ。

 

1日が72時間になっても足りないだろ?物理的に時間が足りなすぎる。

 

つーか……詰みじゃねーか?何か別の方法を考えるしかないか?

 

「……ん?」

 

んだよ。こんな忙しい時に。ブーブーと。うっせーな。いつもは滅多に鳴らないくせに。

 

「うげぇ……」

「なぜそのような表情を……」

 

中川さん。冷ややかな視線を向けないでもらえません?だってさー。コイツからの電話を出たら長くなるよ?

 

「その……出て頂いて構いませんよ?」

「……すまん」

 

画面ロックを解除し、通話ボタンをタップした瞬間――

 

『八幡! どこにおるのだ!!』

 

高低差ないのに耳がキーンとなったよ……。

 

「やかましいわ。切るぞ」

『待つのだ!!! どうか切らないでたもうぅ~』

「……何だよ。さっさと要件を言え。忙しいんだよ」

『相談があるのだ。昨日の動画のことで』

「……お前もかよ」

『放課後でよい! 時間を貰うぞ!』

「上からものを言うなよな」

『えぇい! SNSを見たぞ! 優木嬢の動画はかなりバズっていただろうが!その見返りを要求する』

 

……それを言われると弱いな。ちっ。メンドくせぇ……。

 

「分かった。とにかく今は時間がないから、放課後な。同好会室に来い」

『あい。わかった。流石、盟――』

「ふっー」

 

ん?何か言いかけたか?まあいいか。

 

通話終了の赤いボタンをタップすると、再び冷ややかな視線を向ける中川さん……

 

「会話途中ではありませんでしたか?」

「聞こえてたか?」

「はい。申し訳ないのですが、材木座くんの声が大きくて、全て聞こえてしまいました」

 

だろうな。俺も、スマホを耳から結構離してたしな。

 

「別に聞かれちゃまずい会話じゃないから、気にしなくていいんじゃね?」

「そうですか……。時に、応対が何やら投げやりではなかったでしょうか?」

「いいんだよ。メンドくせーし」

「……はっきり言われるのですね」

 

まぁ、相手は材木座だしな。これぐらいの遠い距離感で丁度いい。

 

「……私も放課後は来た方が良いのでしょうか」

「……いや。今日は生徒会に行く日だろ? 材木座の件はこっちで片付けておく。むしろ、すまない。何だか後回しになってしまって」

「いえ。こちらこそ、比企谷くんにご迷惑をおかけしてしまい……」

 

唐突に中川は席から立ち上がり、頭を下げた。

 

「……いや。むしろ、俺の責任だろ? むしろ迷惑をかけたのは俺だ」

「……え?」

 

中川は『訳が分からない』と言いたげな表情でこちらを向く。

 

「そもそも動画を上げることを提案したのは俺だからな。ここまでの大事になると予想できなかった俺の落ち度だろ。だから、俺が――」

「そんなことありません!」

 

「ガタッ」と椅子がホワイトボードとぶつかる音と、普段の中川からは想像できない声量に思わずたじろぐ。

 

「私も理解し、納得した上での行いです。比企谷くん一人の責任ではありません。むしろ、同好会の一員なのに、比企谷くんだけに押し付けるような真似はしません」

 

今、この瞬間だけは中川から「優木せつ菜」の影が見えた気がした。

 

感じた視線もまた言葉にすることはできなかった。言葉にできない理由は簡単だ。今まで向けられたものではなかった。

今までは向けられる視線と言えば「下に見る」ものや「距離を取りたい」など蔑むものではなく……。

 

 

「生徒会があるので、私が放課後の話し合いに参加できないのですから、迷惑をかけてしまいます。ですから『自分が悪いことをした』と思わないでください」

 

 

今の中川は入部を誘った時と同じでどこか大きな熱量を持った目をしていた。

 

 

「お……おぅ。悪かったな。確かに、俺みたいな素人が責任とれる範囲を超えているよな……」

「そうじゃありません。それならば、私も素人ですから、何も変わりません。約束したではありませんか」

「……あぁ。そうだったな」

 

そういえば、そうだったな。『これから考えていく』んだっけか。……はぁ。そうだったな。

 

「ええ。とりあえず、現状は共有できました。結論を出すにはまだ早いと思いますから、お互い持ち帰るということでよろしいでしょうか」

「……そうだな」

 

別に褒められたわけじゃない。感謝されたわけでもない。ましてや、認められたわけでもない。

 

ただ「一緒に考える」と言われただけだ。それだけのことなのに、妙に胸の奥が熱かった。

 

例えば、ゲームのラスボスに挑む時とか。音ゲーの終盤までノーミスで到達できたときとか。

 

今回感じたのは、その時とは全く比べ物にならないぐらい気持ちが昂っていた。

 

 

はぁ……。こうなったら、四の五の言わず、何とかするしかねーな。

 




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