やはり俺たちの本気は間違っていない   作:健康啓涼

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この度は当作品をお読みいただきまして、ありがとうございます。

前回のあらすじですが、
・材木座さんが仲間に入りました。
・中川さんが比企谷くんの内面をより理解することができました。

今回から新章のスタートです。

今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。


クラスで二番目に怖い女子と部活動することになった
クラスで二番目に怖い女子と部活動することになった(1)


「よぉ。比企谷。来たか」

「お待ちしておりました。比企谷くん」

 

昼休み、購買のパンを片手に同好会室の扉を開けると、そこは地獄の入り口だった。

 

……俺の第六感が告げる。これより先は地獄。決して進んではいけない、と。

 

「……なんで先生がいるんですかね?」

「ここにいても不思議ではないだろ。顧問だからな。それに君へ渡す書類もあってな」

 

これ見よがしに茶封筒をアピールされてもなー……

 

「……あぁ」

「戸塚から送られてきたぞ。記入例も中にはいっているそうだ」

 

そういえば、頼んでたわ。SNSアカウントの公式認定、だったな。材木座が分析するのに必須ということで、申請してたんだっけか。……すっかり忘れてたわ。

 

「他にもいくつかあるから、しっかり確認してくれたまえ」

 

「パシン」と音と共に複数の封筒を渡されると、1つだけクリアファイルに入ったプリント群。

 

クリアファイルが目に入った瞬間、チャームポイントのアホ毛がピンと伸びると共におい。ハチマン。このプリントから邪気を感じるぞ!とエア父さんの声と共にヒッキーセンサーが危険を知らせる。

 

「それと、期末の赤点回避は期待しているぞ」

「げぇっ」

 

この人、何を暴露してくれてんだよ。個人情報とか知らないんですか?

 

 

「安心しろ。まだ中川には点数までは伝えていない。教科名だけだ」

「充分バラしてるじゃないですか……」

「一応、部員の成績を把握するのも部長の仕事の範疇だな。それとも生徒会の仕事の範疇かな」

「どっちもちげぇ……」

 

先生は満足げに頷くと「提出忘れるなよ」と一言残して去っていく。台風みたいな人だ。嵐だけ残していくところとか、特に。

 

つーか、どうしてくれるん?この空気。残された同好会室には、俺と中川、それから重苦しい沈黙だけが残されました。

 

……先生。あんたが元凶だからな。この空気にした戦犯。

 

 

「比企谷くん……」

 

 

切れ味も鋭すぎないか?重い空気を切り裂いたのに、また空気が重いし……

 

俺の顔を見るなり、中川は眼鏡の縁を少しだけ持ちあげる。一瞬、レンズが「キラン」と光ったぞ?絶対にキリっとした視線がこちらに向けられているんだろうな。

 

……とりあえず、座るか。

 

「さて。次の収録日と内容を確認するか」

「何事もなかったかのように進めないでください!」

 

身を乗り出すほどのことか?

 

「いや。何事も起きてないだろ?」

「起きていますよね? しかも、かなりの大事になりますよ!?」

 

大事にしたのは君と先生なんだよなー。

 

「……はぁ。いいか。優木」

「は……はい」

 

……はぁ。言って伝わるなんて欺瞞だ。自己満足でしかない。とは思う。

 

「大事なことだから、良く覚えておいてくれ」

 

だが、言う事によって「リマインド」として残ることもある。だから、これが「伝達事項」の「手段」として言葉するだけ。

 

「……はい」

 

……柄じゃないのは分かってるが。

 

「人間、諦めが肝心だ」

 

 

はぁ……。言い切った。こんなもの、到底伝わるものじゃない。

 

 

「この状況で言える言葉とは到底思えませんよ!?」

「ちっ。伝わらなかったか……」

 

ほら。やっぱり……。

 

「当たり前ですよ。そもそも、ここまで溜めて、真剣に言う事ではないですよね?」

 

失敬な。至極まっとうな人生訓のつもりなんだが。

 

「学生の本分は学業ですからね。数学に物理、化学と理系3科目が全て赤点……」

「はっ。前にも言っただろ? 理系科目は俺の中では存在しないんだよ」

 

俺は異世界転生も転移もする予定もないからな。

 

「ちゃんと存在させてください。第一、数学ができないと大学入ってから困りますよ? 経済学も社会学も数学を用いますから」

「詳しいのな」

「ええ。自分の将来につながることですので、ちゃんと調べてから、何ができるか確認して。後悔はしたくないので」

 

そりゃ立派なことで……。将来のことをそこまで見据えて動けるのは、素直に見習うべきなんだろうな。

 

 

「それに、数学なんてゲームですからね。面白いじゃないですか。比企谷くんは好きそうですけど」

「……どこがゲームなんだよ」

「新しい公式や、基礎となる解法を呪文やスキルだと思ってください。それらを使って、どう目の前の敵を倒すか。その作戦を組み立てていくのが数学だと捉えたら、楽しいと思いませんか?」

 

……なるほどな。こういう、例え話一つでこっちの興味を引き出そうとしてくるところ。菜々のこういう発想力というか、伝え方の引き出しの多さには、正直感心する。ステージの上で歌って踊ってる時とはまた違う、こういう地味な場面での表現力も、コイツの武器の一つなんだろうな。

 

「……ほーん」

 

まぁ、それはそれとして。

 

「悪いが、俺は『ラスボスを倒す』より『そもそもゲームを起動しない』を選ぶタイプなんだよ」

「食わず嫌い……ということですね。気持ちはわかりますが」

 

言い合っていると、予鈴が鳴り響く。

 

「……肝心な打ち合わせができませんでしたね。すいません」

「いや……別にいいが」

 

自分のせいって自覚はあるのね。こういうところ、律儀だよね。

 

 

「テストの話は、また後で詳しく聞かせてもらいますからね」

「いや。その前に、決めなきゃいけないことがあるんだが……」

 

これ以上、話をぶり返しても仕方ない。次の授業もあるし、この状況で遅刻は印象を無駄に下げることになる。とりあえず、大人しくしておいた方がいい。

 

いや。その前にやることあったわ。俺、昼飯食べてねぇ……。

 

***

 

腹が減っては戦はできぬ、とはよく言ったものだ。空腹では思考力も行動力も著しく落ちる。前にフェスのときに経験済みだ。あの時は辛かったわ……

 

5時間目の直前、購買のパンを胃に無理やり押し込んだわけだが、消化するにはあまりにも時間が足りなかったらしい。おかげで5時間目の数学は、担当教師が何語を喋っているのか、途中から本気で分からなくなった。……いや、いつものことか。

 

そして今は6時間目、体育。

 

体育教師の雑な指示に、クラス中がガヤガヤと動き出す。

 

 

いつもの「近くの奴とペアを組め」が発令されたわけだ。

 

 

ああいう「適当」を教育現場で使っていいのか、常々疑問なんだが。まぁ、俺には関係ない話だ。俺はいつも通り、余り物同士でくっつく側の人間だからな。

 

「よお、八幡よ」

「……よぉ」

 

案の定、今日も組む相手は材木座だ。もはや様式美の域に達しているレベルで、毎回このパターンである。

 

雑に柔軟をこなしたところで、各ペアでコートに入ってそれぞれ練習に入る。俺らハミダシモノは、当然のように、コート端でひっそりと周りの邪魔にならないようにラリーを開始する。

 

山なりのボールがこちらのコートに入ると『ぽこーん』と音をたてて材木座のコートへと戻っていく。こうしていれば、下手に評価を下げることがないからな……。

 

「っべぇ~。じゃあ、俺らもやるべ~」

「じゃあ、負けた方がアイスを奢りなぁ~」

「……」

 

何でお辞儀してんの?すれ違いざまに。本能的にこの陽キャたちを上と判断したらしい……。我ながら卑屈だ。

 

適当に10分程度ラリーを行ったところで、次の組へコートを明け渡して、ベンチで休憩と言う名のサボリだ。

 

「さて。八幡よ。先日の投稿についてだが……」

「おう。もう分析が終わったのか?」

「うむ。我も予想しなかった結果がでたぞ」

「ほほぉ……」

 

興味深い話ではあるんだが……。材木座よ。なぜ、偉そうなんだよ。腕を組みやがって。

 

「優木嬢。意外に同性からの人気があるようじゃな」

「確かにな……」

 

優木のキャラクターを考えれば、確かに同性人気があっても不思議ではないしな。小町もファンだと公言してるわけだし。

とはいえ、この前の投稿はバトルものの男性向けだった。

 

「こうなると、次の撮影準備が難しくなってきたのう……」

「……どういうことだ?」

「なぁに。簡単なことだ。女性も意識するとなれば、女性が自然と目が行く部分に注意を払うことになる」

「あぁ……」

 

なるほどな。言われて納得する。恐らく材木座が準備していたものは「男性受け」の台本かなにかだから見直しが必要なんだろうな。

 

ただ、女性が注目するところってどこだ?全く見当がつかない。

 

「そういうことだ。八幡。撮影予定を組み直す必要もあろう」

「……は?」

 

こいつは戦時中のエースパイロットなのか?そのテンションの乱高下は一体何なん?

 

急に眼鏡を光らせ、少し俯いて顎に手を当てて何かを必死に考える。あれほど「次の撮影」に拘っていたのに……。

 

「もちろん、更新は行うぞ。一過性で終わらせると、ネット民は大移動をしてしまう。せっかくの流れだからな」

「よく分からねーな。一体、何を始めるつもりだよ」

「ふむ。詳しくは放課後に優木嬢がいるときに説明する。そろそろ授業も終わりじゃろうて」

「……ったく」

 

言われて時計を見れば、もう間もなく退屈な授業が終わる。先ほどまでコートを使っていた連中は球拾いを始めていた。

 

こちらも授業用のラケットを所定の場所まで戻し、そこらへんに散らかっているボールを拾い集めていると妙な気配を感じる。

 

……誰だ?

 

ぼっちを極めし者は当然ながら常に周囲の視線を感じながら行動する必要がある。故に視線にはひと際敏感になる。

 

この感覚。前にもあったな。

 

俺のようなプロボッチならば、危機回避能力が高いため、一度浴びた視線は身体が覚えている。

 

あれは確かフェスの書類を授業中に内職していたとき。確か1人は中川だったが、もう1人いたが……。どうやら、同じ視線だな。

 

視線を感じた方――コートの端、少し離れた場所に目をやる。

 

……いや。誰もこっち見てねぇじゃねぇか。気のせいか?いや。そんなはずは……。

 

「八幡よ? どうかしたか」

「……いや、何でもない」

 

止めていた手を再び動かし、片付けを再開する。

 

……なんかまた嫌な予感がする。

 

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