やはり俺たちの本気は間違っていない   作:健康啓涼

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この度は当作品をお読みいただきまして、ありがとうございます。

前回、ようやく優木せつ菜さんが登場しました。
今回もせつ菜さん回になりますが、スタートは彼女の中の人繋がりネタであり、
作者の自己満足になります。

今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。


メガネを外したらアイドルだった件(2)

はてさて、同好会室に到着し、書類を渡した俺は直ぐに帰ることはできなかった。では、その後どうなったかというと……

 

「まぁ。確かに、あの戦闘シーンは凄くアツい展開だったな。それに、あの台詞がいい」

「わかりますっ! 『行かせてもらう。君を守るために』『行かせはせぬ。お前を守るために』って2人の掛け合いが最高ですっ。勇者と魔王。相容れない2人だからこそ、育まれた友情……。そして、そこからのバトルシーンがっ」

「そうだな。特に敵同士だった2人が手を組んで戦う展開は王道だからこその良さがあったな」

「ですです! すっごく良かったですよねっ!」

 

人とほとんど会話をしない俺が、どういう訳か会話をしている。それも、ここまで盛り上がる展開になった。

 

では、なぜそうなったのか?

 

結論は優木がオタクだったからだ。もう一度言おう。優木せつ菜はオタクだったのだ。

 

ドアを開けてから彼女が怒涛の如く話しかけてくる中で、俺が手にした書類に気が付いたのはいいが、どうやら俺が同好会活動のためにこの教室にきたと勘違いしたのだ。この時点で俺の残業は更に延長することが確定したことになる。ことごとく今日は運がいない……。そういえば、朝ごはんを食べるときに付いていたテレビの星占いでは「しし座は最下位。今日は予期せぬことが起こってばかり」と笑顔で女性アナウンサーが……。珍しく当たるじゃねーか。当たるんだったらラッキーアイテムは何なのか確認しておくんだった……。

 

と後悔をしているところへ、優木がお礼と共にお茶を出すということで、仕方なく諦めた俺は着席したわけだが、この前までなかったミニアクスタが机の上に飾られていた。そのアクスタが、俺が丁度読んでいるラノベのものだったので、ついつい見ていると「このラノベ、良いですよねー!」と話しかけられたのがきっかけで、そこから再び彼女のスイッチが入ったわけだが……。オタクというものは、一度入ると終わるまで終わらない。止まらないし止められない。

しかし、俺は別にそれを悪いとは思っていない。むしろ、お仲間として嬉しく思っているくらいだ。

だって、そうだろう? ラノベが好きな人に悪い人なんていない。そう、断言してもいい。

 

「しかし、良かったです! こうやって比企谷くんとお話ができてっ!」

「そうだな。俺も面倒だとか億劫だとかそういうのは感じなかったから、悪くはなかったな」

「ふふふ。比企谷くんって面白いですね。ここにきて、流行のラノベの主人公ムーブですか?」

「いや。そんなんじゃねーよ」

 

何やら楽しそうな表情を浮かべた優木は「ツンデレ系もいいですが、捻デレ系もありですねー。対人関係では鈍感な主人公はバトルものでは定番ですし……」などと物騒な事を呟きながら、そっと立ち上がると書類棚からクリアファイルを取り出すと、ホワイトボードを裏返すと再び座る。

 

むしろ、彼らが俺を真似しているまであるな。つーか、俺みたいなヤツがラノベの主人公とか需要あんのか?知らんけど……。もしそうなら、モデル料とかもらえないのん?

 

などと不労収入に思いをはせている間に、優木はスラスラとホワイトボードに新しいスケジュールが記載されているのだが、前回来た時に比べて明らかに内容が増えている。何なら色分けまでされて、内容がびっちりだ。

 

……なんでこうも仕事というのは増えるばかりなんだよ。

 

「比企谷くん。こちらを見てくださいっ! もうすぐスクールフェスですっ!」

 

気分が落ちてばかりの俺とは対照的に相変わらず喧し……元気な優木は身を乗り出してクリアファイルを渡してくるのだが、その迫力たるや。

 

つーか、本当にその高いテンションは何なの?どこから湧いてくるわけ? あとね、近いよ。近い。パーソナルスペースってご存知?それに、自分が部活動とはいえアイドルって自覚あります?いや、アイドルだからこうやって距離を詰めて、ファンを増やすものなのか?

それに、練習着とだからか身体のラインがめっちゃ……。動画では分からなかったけど、コイツ身長低いのに、妙に出てるんだよ。何がとは言わないが。更に、なんならさっきからチラチラと腹部も出てるんだよ……。

 

刺激強すぎるからね?思春期男子を確実に〇ろしに来てるよね?理性の塊の俺じゃなきゃ、泡拭いて倒れてるからね?

 

「おう……」

 

恐る恐る渡されたクリアファイルから資料を取り出して中身を確認すると、どうやら今週末に海浜幕張公園で行われるスクールアイドルのフェスのチラシやら出場概要などが入っていた。パラパラと内容を見ると「関係者集合時間」やら「当日の役割分担」などが記載されている。

 

……なるほど。資料を見る限り、出演者とは別に幾人かは会場のスタッフに駆り出されるわけか。ふむ。運営会社だけでは手が足りないから、バイトを雇うにも経費が掛かる。そこで、コストカットのために、ボランティアとして出場校から人を募るのか……。

 

……つまりただ働きをしろというのだな。全く。これだから社会というのは歪でおかしい。高校生であっても働く以上はそれに見合う対価があって当然である。それをあろうことか「社会貢献する良い機会」やら「普段は見られない運営側の仕事を体験・経験できる機会」などとまるで「働くのが美徳」「無形資産が対価」と言わんばかりの言葉を並べているが、俺はこんなものに騙されない。

そもそも俺は将来「専業主夫」を目指すのだ。つまり、こういった労働はいくら対価が恵まれていようが頼まれたって働くわけない。ましてや今回はボランティアなのだ。尚の事、働くわけない。だが、残念なことに強制的に働かされるんだよな……。

 

「中川さんから聞きました。仮入部という形ではありますが、同好会に入ってくれてありがとうございます」

「……お、おう」

「あの……もしよかったら、見に行きませんか? 今週末」

「……は?」

 

優木は困った表情を浮かべながら、何か申し訳なさそうにお願いしをしてくる。さっきは急接近したと思ったら今度は急に離れるとか。……これを計算された行動なら、あざといな。

と、自然と彼女の表情に目が行ってしまったが、ここにきて新しい疑問が。

 

……見に行くって何を?週末誘われた?

 

「……予定を入れちゃいましたか?」

 

ぽかんとしている俺に考える暇を与えないように、優木は質問攻めをしてくる。それも上目遣いで。

 

イヤダ。何この子。恐ろしい子っ!?

 

「いや、そうじゃねーんだけど」

「……やっぱり、私と一緒に行くのは恥ずかしいですか?」

「いや。待て待て。そうじゃなくてな……」

 

まぁ、恥ずかしいのは恥ずかしいんだけど……。

 

ぐいぐい来る目の前にいるアイドルにキョどる自分自身に対し「そりゃ、男ならだれでもそうなるだろ」と自己弁護をしてから、ふと奥にあるホワイトボードが目に入ると、そこには「会場下見」の4文字が。

 

あぁ……そういうことね。ようやく理解した。つーか、気が付かないってどんだけなの?俺……

 

***

 

「ふぁぁ~」

 

俺の目覚まし兼電話機能を持つ電子端末が6時を告げると、重い体を起こし、眠い目をこすっては恋しい布団から抜け出す。

そんなこんなであっという間に週末となる。平日5日間の疲れがそう簡単に抜けるわけがないのだが、どうして休みは2日しかないのだろうか。1日働いたら1日休むのはいけないのだろうか。そもそも週休2日制度は何か科学的根拠に基づいているのだろうか? 7日と奇数なので半分と言わないが、ニュージーランドは週休3日制度を導入して生産性があがり、幸福度も上がったというじゃないか。

 

 

つまり、これらの意見をまとめるとマジで働きたくねぇ……。

 

 

とはいえ、人間というものは強いものには従わざるを得ない。何を言いたいかというと、上司の命令は絶対であり、学生の場合は先生の言う事は絶対なのだ。昨日の下校時にも平塚先生からは「明日の下見、頑張れよ」と声を掛けられたのだが、それはつまり「土曜日も出勤するよな?」という意味である。

 

これってパワハラだろ……。じゃあ、なんでこんな状況になった原因を考えると、結局は俺が5日間連続で遅刻したことが理由である。となると、この場合は振替勤務に当たるのか?確かにあの良く分からん期間に遅刻した場合、相応の対応が発生すると記載があったな。

あの注意書きは就業規則で予め「振替勤務」が定められていることになるのか。

 

……合法となる条件をちゃんと満たした制度とかどんだけしっかりしてるん?ウチの生徒会……。

 

 

諦めがついたところで、着替えを持って1階へと降りてはシャワーを浴びて素早く着替えをする。冷蔵庫から取り出したマッカンと準備しておいたコンビニの総菜パンを取り出して、ダイニングテーブルに座ってはテレビをつけてボーっと眺めながら袋を破って取り出したパンをむしゃむしゃと食べながら、マッカンで流し込む。

 

いつも見る番組と違うことに気が付くと、改めて今日が「土曜日」だということを認識させられる。せめてもの救いなのが、ニチアサを邪魔されなかったことぐらいか。

 

朝食を簡単に済ませ、部屋に戻っては仕事道具を手にする。

 

「行ってきます」

 

誰に言うわけでもなく、挨拶をして家を出る。そして、いつものように鍵を外し、自転車の籠に荷物を入れてはスタンドを上げる。

駐車場兼駐輪場から自転車を出したところで、椅子にまたがってはペダルに足をかけては、ゆっくりと漕ぎ出す。

 

こうして俺の貴重な休日は労働日へと変わるのだった。

 

***

 

土曜日の朝ともあって電車は空いていると思ったのだが、生憎と朝から喧しい中高生でごった返す。部活動の試合なのか、今日の予定などを大きな声で話すのだが、おそろいのジャージに学校名の入ったエナメルバック。

どこの学校かはバレてるんだよ。文句の1つや2つ言ってやろうか。

 

そう思うのだが、彼ら彼女らは邪魔にならない位置に集まり、荷物をまとめるあたりは礼儀がなってんだよなー。本当にヨクワカラン……。

 

目的の駅に近付くと、車内にいる人は増えて行くのだが、どういう訳か団体の女子率が増えて行く。女子たちは何やらワイワイキャッキャッウフフと盛り上がる。互いに自分のスマホを見せ合いながら。

 

どうでもいいけど、君たちのその行為は情報漏洩だよね?「今日はフォーメーションをー」とか「タメを多目でー」とかさ。俺が関係者なら、問答無用でメタ張るよ?大丈夫?

 

車内が喧しく、本を読もうにも気が散ってしまうため仕方なくぼーっと窓の外を眺めていると次の駅のホームで見慣れた人物が乗車のために列に並んでいる姿が目に入る。服装は動きやすそうなパーカーなのだが、これはボーイッシュな服装というかギリギリなところで、下手すれば俺のクローゼットにも入っていそうな……。うん。これ以上は止そう。俺も良く分からんし。

 

くび元から帯びるフードのヒモを軽く揺らし、運動部が使っていそうなエナメルバックを肩から掛けた彼女は乗車すると周囲を確認する。すると、どうやら向こうも気が付いたらしく、表情が明るくなる。

 

「比企谷くんっ! おはようございますっ!!」

「おはよーさん」

 

発見するなり、こちらに歩み寄るとわざわざ一礼してまで挨拶をする優木に対し、最低限の挨拶を返す。ボッチたるもの挨拶は重要であり生きるための必須スキルなのだ。なにせ、挨拶とはコミュニケーションを果たす重要な役目になる。

 

「何かありましたか? 全身から疲労感を感じますよ? 特に目からは昨日の疲れが」

「いや。別に何も……」

 

別に嘘ではない。俺には特に何かあるというわけではない。ただ朝から疲労感がただようのは仕方がない。それも週末なのだから……。

 

しかし、いつの間にか隣の席に座っている優木は心配そうに見つめてくる。相変わらず顔が近いな。あと、その揺れる胸も近いです。これはあれだ。俺が不快だからとかじゃない。周りの目線が痛いんだよ。これ、勘違いされちゃうよ……。この子の見た目なら有り得るし。やべぇ……。変な誤解されたら困る。

 

とりあえず、どうにかこの状況を打開せねば。

 

「まあ、あれだ。寝不足だ。夜遅くまでアニメ見てたんで」

 

実のところ、昨日はこれと言って視聴しているアニメはなければ、見返すアニメもない。それにここ2週間で買った新刊もなければ、ゲームもないのでさっさと寝たわけだ。

 

じゃあ、何で疲れた目をしているかだって?

 

そんなものは決まっている。俺の目は「死んだ魚のようだ」と良く言われきた。それこそ、小中はそれで人から嫌われたり、不審者扱いを受けたりと、散々な目に遭ってきた。目だけにってか。

 

……ハハハ。つまんねー。

 

だからだろうか。何もしてないのに面倒ごとに巻き込まれないように、人とは一定の距離を取ってきた。だからこういう時、何を言ったらいいか分からないが何かを言おうと口を開くのだが、何も出てこない。こういう時にコミュ症は辛い。それも、こんな女子の心配そうな視線に楽しそうな視線を真正面から受けるなんて体験したことがないのだ。だって俺の人生でこんなことあり得ないからね。

 

「なるほどー。流石は比企谷君ですね。リアタイ派でしたか。あっ。ネタバレはダメですよ! 私は録画しているので!」

「お……おぅ」

「ところで、比企谷君はこのクールは何作品追っているんですか」

 

そういうと、優木は嬉しそうな表情を浮かべて先ほど以上に声量を上げて話しかけてくる。つーか、喧しいわ。ホント。

 

明らかに距離も音量も話の内容もおかしい優木に、この車内に元々いた女子軍団からの視線が集まると、そのついでなのか俺にも視線が集まる。

 

……完全にやらかしたな。モウツカレタ。オウチカエリタイ……。

 

****

 

「うー……んっ。到着しましたねー」

「そうね。まさか、あの車両にいた人ほとんどが下りるとは思わなかったわ……」

「アハハ。そうでしたか」

 

乗車してから数分後には目的の駅に到着し、そこで下車をすると優木は身体を伸ばす。すると少しだけ上着の裾の方から肌色が見える。

 

この子、どうでもいいけどガード緩くない?この前もそうだけど、どうして『へそチラ』が多発するわけ?敢えて小さいサイズを着ているわけ?その割には腕の方はぴったり……

 

いかんいかん。これ以上は明らかにアウトだ。いくら思春期男子だからといっても許されない。つーか、ニュートンさん。貴方の見つけた法則は保健体育に乗せるべきだったのでは?どうして物理の教科書に載せるかな……。

 

危うく道を踏み外して、線路に落ちては「マグロ」になる一歩手前で踏みとどまったところで、ホームを見渡すと、そこには女性ばかりが集まっていた。どうやら車内にいた女性軍団は優木と同じ「スクールアイドル」の方々だったようで、皆が今日の会場下見に訪れる予定だそうだ。

 

「……前に進めねぇ」

「そうですねー。かなり渋滞しているようですね」

「そんなに人が多いものなの? 下見だから1組2、3人ぐらいじゃねーの?」

「いえ。リハもありますよ?」

「……あぁ。忘れてた」

 

そういえば、この前貰った進行台本にそのようなことが書いてあったな。俺には関係ない部分は読み飛ばしていたわ……。つーか、車内で行われていた会話ってリハの話し合いだったのね。今更ながら分かったわ。

 

それはいいんだけど、人多すぎね?

 

 

マジで勘弁してほしい……

 

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