前回のあらすじですが、せつ菜さんと一緒にフェスの下見に行くことになった八幡さん。
朝からハイテンションのせつ菜さんに面食らったわけです。
さて、今回は「あれ?」というシーンがありますが、その答えは次話以降で。
今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。
【修正】
'25 9/6 誤字脱字修正
人はどうして行列があると、そこに並んでしまうのだろうか。そこには様々な原理や心理がはたらく。例えば、多くの人間が並ぶということは、それだけ多くの人間が良いものと社会的証明になる。行列のできるラーメン屋はこれに当てはまる。他にも、数に限りがあるものは並んでも買いたいという希少性を演出し、心理的に購買欲を掻き立てられるもの。
とはいえ、これはどちらかというと自主的・主体的に行列に並ぶ理由なのだが、他にも理由がいくつかあり、例えば、新装開店するお店のシャッターが下がっている時、入口がどこか分からず、皆がどこに並んだら良いか分からないとき、最初の一人目が並び始めるとその後ろに並ぶのは「他人の行動を手掛かりに」した結果である。他にも大晦日に行われるイベントでは、参加者たちの意識が高いためにルールや秩序の受容し、待機列をなす。と様々な理由があるのだが、実はもう1つある。
「比企谷くんは幻影彼岸デッキ使いでしたか」
「まぁな。ランク3軸の方でデッキを組んでいたな」
「なるほど。墓地利用がキーとなるわけですね。そうなると、ダークロウとは相性は最悪ですね」
「ああ。アイツ、ヒーローのくせにやることが、えげつないんだよな……」
「あははっ。言われてみればそうですねー」
隣にいる優木はなにやら感慨深く頷くと共に「意外に心くすぐるワードが多いあたり、カードを人差し指と中指で挟んでプレイしていそうですね」などと妙な分析を始める。
……中二病じゃねーぞ?
確かに幻影騎士を使っていたキャラはアニメで妙に言葉数が少ないし、ピンチで颯爽と現れるし、エースドラゴンの技名は誰もが声にしたいし、所属と生い立ちもなんかいい感じだったな。
まぁ、何より『妹LOVE』で好感持てたなー。
いやー。分かるぞ。妹の為なら強大な敵だろうが立ち向かうのは当たり前だからな。あいつ、アニメでは絶対に出身地は千葉だろうな。だって、あのキャラがいたテーマパークは千葉で有名なテーマパークを模倣したものだろうな。同じ千葉県民(仮)として実に尊敬できる。
「ですが、ヒーローなのに『ダーク』というのは敵組織にいたライバルが仲間になる。そんなことを考えると胸アツ展開ですよねっ!」
「……まぁな。戦隊ものではある種の王道だな」
分かるぞー。その展開。そういえば、プリキュアシリーズで初めて敵キャラが仲間になったのって……。あれ?名前一緒じゃね?まさか、優木は俺にとっての敵キャラなのか?
確かに、俺の貴重な土曜日が……。いや、これは自業自得だからな。コイツのせいじゃねーわ。
とまぁ、関係ない優木にあらぬ罪を着せたら、逆に冤罪となって社会的に抹殺されるな。
そんなこんなと行列に並ぶこと数十分。コミュ力おばけの優木は並ぶや否や電話内での会話をまた持ち出した。テキトーな事を言ったこともあり、どうしたものかと考える中、流石にニチアサのプリティーなアニメ名を出すわけにはいかず、有名なカードゲームを題材としたアニメを挙げたわけだ。すると俺と優木は妙なところにまた接点があり、その話題で幾分か時間が過ぎたわけだ。
そして、この行為こそ、待ち時間そのものを「イベント化」する現象であり、行列に並ぶ目的にもあてはまるというのだ。といってもそういう人間も一定数はいると聞いていたが、そんなものリア充たちのウフフキャハハな人間たちによって作り出されたもので、自分には全く関係ないと思っていたが……。
……べ、べつに苦痛に感じなかったのは、ラーメンを食べるために行列はによく並ぶため、これぐらいの行列なんか大したことないんだから!だから勘違いしないでよねっ!
うーわ。なんか勘違い野郎のキモい台詞だ。俺は顔芸なんぞできねーからなっ。
しかしまぁ、これだけの時間を女子と2人きりで話すなんて、普通の男子高校生なら気持ちが浮ついてしまい、しまいには「あれ? コイツって俺のこと好きなんじゃね?」と勘違いするような場面だ。
しかし、生憎と俺はそんな轍は踏まない。
幾度となく失敗を繰り返しては黒歴史を作ってきた中学時代から学んだのだ。別に相手はこれっぽっちも思ってはいない。だからこそ、希望は「待たず」「作らず」「持ち込ませず」なのだ。これ、重要だからな。テストに出るぞ。
「あっ。ようやく見えてきましたね。入場ゲート」
「……おう」
普通に歩けば僅か数分の道のりなのだが、こうもダラダラと移動したら余計疲れるわけで……。そういえば、まだ何もしてないのよね?俺。
まだ見ぬ苦労に気持ちを下げていると「出演者」と「参加者」のサインが目に入る。どうやら、ここから先は別行動になるようで。
さて。覚えている限りの今日の工程を改めておさらいしておこう。確か、最初は今日の注意事項の確認と荷物搬入経路の確認。次に、当日の全体スケジュールの流れと注意事項。そんで最後に各自に割り当てられた仕事内容の確認……だったか?
あーあ……。コレのどこが下見だよ?
「さて。ここからは別行動ですね」
「おっ……おう」
優木の声で暗くて深い想像の世界から歪な社会という現実に戻されると、不思議そうな表情で俺を見てくる。
「はぁ……。まぁ、やるしかねーか」
思わずため息が漏れた。とはいえ、こういう作業はダラダラとやると失敗してやり直しとなる。今回は1人ではなく、周囲にも人がいる以上は失敗ばかりでは、周囲からの冷ややか視線が集まるのは必須だな。
「あはは。その通りですね。では、終わったころに集合場所でっ!」
「お……おぅ」
優木は俺なんかにお辞儀をして、走り出すと参加者入口のところで一度立ち止まり、大きく手を振る。どうやら俺に向けて手を振っているようだが……。
やめてっ!そんな目立つ行動はっ。
ホラ。周りの女子たちが変な目で俺を見てくるだろーが。穴が開いちゃうからね……。
***
放り込まれた広めの会議室。ホワイトボードやスクリーンにプロジェクターが設置され、普段はセミナーなどに使用するために作られた部屋。
先ほどの優木のトラップカード発動により、無駄に目立ってしまった俺はできるだけ隅の席で気配を消して座って、注意事項を聞いているわけだが……
「というわけですので、動線は必ず守ってください。ホント、危ないので。では、次ですが-」
前で説明をする人が次のスライドを表示すると、金髪の人も銀髪の人も赤髪の人もドリルヘアーもの人もどんだけ編んだの?という髪型の人も一斉に資料をめくるとすぐに視線をスクリーンに向けたのか一斉に後頭部が同じ動きをする。
……なにこの異様な光景。つーか、どれだけ真剣なんだよ。この人達は。
土曜日だというのに、まるで学校の授業中というような雰囲気の部屋からは一切の私語もなく、かれこれ1時間以上が経過しているわけで……。欠席者もちらほらいるようだが、その人たちは私立校ばかり。つまり土曜日も当たり前のように授業があるそうで、終わったらいらっしゃるとのことで。本当にご苦労な事ですなぁ。
とはいえ、資料を読み、説明を聞く限り、マジで覚えるべき注意点は多く、暗記が得意であってもそう簡単に覚えきることは難しい分量。
よく考えたら、同好会室に最初に行った日に中川から渡されていたわ。あの資料ってこれだったのかよ……。
中でも面倒なのは今さっき説明があった「動線問題」である。どうやら学校によって演出が異なるため、交換のために機材搬入が頻繁に行われ、そのたびに動線が変わるため、一見使えると思っても、奥へ進むと行き止まりになっていると。このとき来た道を引き返そうとしても、タイミングによっては通行止めになっていると……。何なの?このトラップダンジョンは。絶対にダンジョンマスターがいるよね。あれか?妹の病気のために兄が迷宮探索でもするのか?
とまぁ、そんなファンタジーなことが現実に起こる可能性を知ったところで、長かった集中講義が終り休憩に入ろうとした時だった。
「……ふぅ」
ホワイトボードの前で説明していたスタッフの女性がようやくマイクを置き、「それではここで、1時間休憩に入ります」と告げた瞬間、会場の空気がわずかに緩んだ。
まるで呪縛が解かれたように、資料を置いて立ち上がる人、ペットボトルを一気飲みする人、外へ出ようとする人たちがバラけていく。
しかし、私語はない。秩序だった沈黙のまま進行していたことが、むしろ逆にプレッシャーだった。
俺はというと、資料を机に投げ出したまま、背もたれに体重を預ける。ダンジョンのトラップでもここまで複雑にしねえよ……。進路がコロコロ変わる会場設営に、ステージ演出の入れ替え、各校ごとの音響照明指示。そもそも下見って言ってなかったか? これはもう軽いブリーフィングの域を超えてるだろ。
……で、これが朝イチから詰め込まれて、まだ午前中だってのか。
「比企谷八幡くん。で、よかったかな?」
突如、名前を呼ばれて顔を上げると、見覚えのない人物が俺を覗き込んでいた。
見た目から大学生くらいだろうか。中世的な顔立ちでラフな黒のパーカーに、紺色のジーンズでスタッフパスがぶら下がっている。軽くウェーブのかかった髪となんとなくゆるい雰囲気を出しているが、その立ち方には妙な落ち着きがあった。
「……そうですけど」
「やっぱり。平塚先生から聞いていた通りだね」
「……あの人、俺のこと何か言ってたんすか」
「あぁ……まぁ。ちょっと面白い生徒が来るって言われていたので、気になったので声かけてみました」
……面白い奴ってなんだよ。俺はモブの中でもモブになれる村人Aだぞ?
「失礼しました。私は戸塚と言いまして、総武高校の卒業生です。今は大学生活の傍らイベント会社でアルバイトを。今日はステージ全体の安全管理と進行補助を中心に任されています」
「……ご苦労さまです」
軽く会釈すると、戸塚という人物は俺の隣に自然に腰を下ろした。目の前で配られた資料を斜めに傾けつつ、ふと俺の方に目を向ける。
「たしか、『スクールアイドル同好会』の入部と聞いていますが、あっていますか?」
「まぁ……半強制的に入れられたんで。仮です、仮」
「ははは。つまり、何か事情があるのですね。ところで休憩中に申し訳ないのですが、時間もらえますか?」
「……はぁ」
唐突に言われて首をかしげると、戸塚さんは俺が机の上に広げた資料から『ステージ』を指でトントンと突いた。
あー。ここに行かないか?ってことね。声にして言わないのは、出演者側のリハーサル中だから、あくまで内緒ということを伝えたいのだろう。
さて、どうしたものか。急に卒業生が現れて、内緒でリハを見に行こうと言われたのだ。つまりこれはリハを見に行くのは何かの「ついで」なのだろう。
「どうでしょう?」
「……はい」
「それじゃあ移動しようか」
妙に人懐っこい笑顔でこちらを見てくる戸塚という人物。
八幡、知ってます!物凄く自然で純粋な笑顔は他人に恐怖しか与えないということを!
……初めから拒否権ねーじゃん。平塚先生の知り合いとなれば、尚更じゃん。
****
戸塚という先輩(?)の後ろをついて歩くこと数分。案内される道すがらは大勢のスタッフが大きな声を出しては確認を行いつつ作業を進めているようで、その迫力たるや否や。最初は喧嘩しているところを突っ切るのを見て二の足どころから三の足を踏むほど。けど、よくよく話している内容を聞いたら「青のケーブルはどこと繋がっている?」「3番です」と何も変哲もないことに気が付く。
……やっぱ場の雰囲気って重要だな。齢16にして新しい空気の読み方を覚えるとは……
そして今更ながら、圧力という力に屈したため、後先考えずについてきたが、果たして目の前の人はは本当に卒業生なのだろうか?そんな不安と共に通路をさらに奥へと進むと、暗幕の上に「スタッフ出入り口」というサインがあり、そこから外るとそこは観客席だったようで、今は何もなく、少し視線を左に向けるとステージがある。
……ここから見ると結構距離があるんだな。
「さて、もう少し見やすい位置に移動しようか」
そういうと、手招きをして俺を呼ぶ戸塚という人物はべつにとりつくろう
感じもなく、むしろ、自然体と言える。
ふっ。いちいち仕草が可愛いが、そんなもので俺はつれないからな。プロボッチを舐めるなよ。
彼女の案内に従って梯子を登り、1つ上の階へ上がるとそこからは観客スペースもステージも一望できる。なるほど。確かに下見をするなら、うってつけの場所だな。
「で、ここまで俺を連れて来たのはどんな目的があるんです?」
「そうだよ。GWのフェスで比企谷くんがやらなきゃいけない仕事を見せておこうと思ってね。」
「それで、わざわざここまで?」
「そうだね。ここからなら細かい事にも気づけるからね。あとは、事故が起こりそうなところは良く見ておくといいよ」
「はぁ……」
とりあえず、手すりに寄りかかると優木の出番までぼーっとステージや大型モニターを眺める。今ステージで動きを確認している人たちは、電車で騒いでた人達だなー。何を話していたかまでは覚えてないが。
それより。だ。俺は考えておかなくてはいけないことがある。
こういうイベントごとでは考えるまでもなく事故は御法度。事故の内容にもよるが保証問題、責任問題、信頼問題など多岐にわたる。それはイベント運営側だけではなく、「部活動」である以上は学校側にも話が及ぶ。
……つまり、俺が責任を負うってことじゃね?おかしいよね?俺、仮入部なんですけど。
「お。優木さんがきたね」
今日はリハーサルということで、巷では「ダサい」ことで有名な黄緑と緑の我が校のジャージ着用で現れた彼女なわけだが、モニター越しにみる彼女の表情は先ほどのどこか間の抜けたものとは違った。
その姿勢は驚くほどまっすぐで、無駄がない。立ち位置に着いた彼女――優木せつ菜は、軽く深呼吸をすると、スタッフの「5秒前」の声に合わせて小さく頷いた。
そして、イントロが流れると曲に合わせて優木は拳を高く突き上げる。
……おぉ。生で見たけど、すげぇなぁ。動画で見たときも感じたが、これは確かにやべぇ。そして、俺の感想が語彙力0なのもやべぇ……。
曲が始まった瞬間、彼女の動きは切り替わった。さっきまで静かに呼吸を整えていたはずの身体が、一拍目のリズムに合わせて滑らかに、しかし力強く跳ねるように動き始めると、広いステージを可能な限り広く使うために1か所にとどまらないようにするために歌いながら動き、曲がサビに入ると照明がパッと切り替わり、仮設のステージが一瞬、本番さながらの熱を帯びる。そして、あっという間にサビが終わると、リズムよく手を掲げながら再びステージを縦横無尽に動いては最後は音に合わせ勢いよく飛び跳ねると、着地を決めて曲の最初と同じように高く拳を突き上げる。
やはりリハだからなのか、音響や照明のタイミングは動画を見た時に比べて素人目に見てもずれているのだが、それに動じることなく、リハーサルなのに「抜き」をまったく感じさせない。かといって完璧な機械仕掛けのような動きではなく、観客がいないにもかかわらず、誰かに「届ける」意志を持って動いている。
「流石だねー。彼女は」
「そうなんです?」
「そうだよ? もしかして初めて?」
「まぁ……。生では初めてです」
隣でそう呟く戸塚さんの声で、我に返る。本来、俺は仕事を忘れて少しばかり優木のその動きに見惚れていたようだ。
つーか、何?そのきょとんとした表情は。「お姉さん驚いたー」的なのは。というか、発言内容もさ、聞き方間違えたらすっごく怪しいからね。ナニコレ?おねショタ?んなバカな。
「そっか。今のを見て、どう思いましたか?」
「はぁ……なんですかねー。動画で見た時は凝った演出が見られるという印象があったのですが……」
「あぁ。そうですね。まぁ、そこはリハですからね。他には?」
「そうっすね……。妙に青と緑の組み合わせと赤の光と紫が多かった印象があるんですが、その割に白と黄色の光もあった黄がします」
「へぇ~。よく見ているね」
なぜか笑顔の戸塚さんは、何やら「面白いものを見つけた」と言わんばかりの表情を見せる。
「……そういえば、衣装のカラー演出に合わせて右奥の照明、色温度が変わるんでしたっけ」
「良く覚えていましたね。あ、最終チェック終わったみたいですよ」
『優木せつ菜、以上になります。次の組、準備お願いします』
たまたま覚えていた舞台装置の話をすると、戸塚さんは舞台袖を指さすとその先には、捌けて行く優木せつ菜の姿があった。
「では、戻りましょうか。これからGWフェスの説明が入りますから」
……まだ仕事は続くのかよ。