前回のあらすじですが、
・GWフェス本番に向けた詳細な説明会が行われる中、八幡さんは異常なまでの分量に頭を抱えてることになりました。
・説明会後にせつ菜さんと再合流した八幡さんは、なんと、せつ菜さんの連絡先をGETしました。
・週明けから本格的に書類仕事に入る八幡さん。菜々さんの生徒会での仕事量を気遣い、1人でやることを伝えると、そのことに心配した菜々さんが「何かあれば」とアドレスを渡しました。
今後も細々と執筆してまいりますので、引き続き、私の妄想ごとにお付き合いいただければ幸いです。
4月のフェスを明後日に控えた水曜日。
今日も今日とて、私・比企谷八幡は絶不調です。理由は簡単。提出する書類は来週月曜締め切り。残り5日――終わる気がしない。
つーか、何でこんなに短いんだよ。もっと早くもらって準備するんじゃないのか。
もっとも、愚痴ったところで締め切り時間は延びない。やらなければ、優木にも中川にも迷惑がかかる。下手すればフェスに出られない。謝罪のシュミレーションをするだけでも胃が痛む。
だから、考えるのをやめた。
今は手を動かすしかない。
数学の授業?そんなものは自由時間と変わらない。
机に向かって、書類の山から関連するものをまとめて片付けていく。今日中に戸塚さんに提出する分を仕上げ、優木と中川に確認してもらう。さらに学校への提出書類の下準備も進める。昨晩、徹夜でパソコンで調べた資料をプリントアウトしておいたおかげで、授業中も作業が進められる。
そもそも徹夜前提のスケジュールとか、いつの時代だよ。令和だぞ、コンプラうるさい時代だろ。過労死寸前だよ?
この追い込まれた状況によって、体内にある親から受け継いだDNAが反応し、あらゆる細胞を活性し始めると、スーパーサイヤ人でもなく、スーパーサイヤ人2でもなく、「スーパーシャチクジン2」と化していた。
「シャチク」という進化の系譜に未来があるのかは知らん。だが、仕事の山に追われ、睡眠を削り、コーヒーで胃を荒らす俺の姿は、少なくとも悟空よりは現実的だ。いや、現実がこんなに残酷であってたまるか。
なのに、手が止まらない。心臓もバクバクする。オラ、別の意味でワクワクすっぞ。マル。
こうして午前中から作業に没頭すること数時間が経過するのだが、ここで1つ大きな問題に直面する。
……腹減った。マジで腹減った。気が付いたら終わっていた昼休み。そして、もう間もなく終わる6限目。この後は待ってもいないのに訪れる放課後。
マジかー。あまりにも集中して昼飯を食べるのを忘れる始末。もしかして、この教室が「精神と時の部屋」だったのか?
しかしまぁ……。アレだ。「腹が減っては戦はできぬ」とは良く言ったものだ。
明らかに作業スピードも作業効率も午前中に比べて落ちている。
かつてここまで自分を追い込んだことがなく、それこそ受験勉強でもここまではやらなかったこともあって、今この現状はまさに「ことわざ通り」の経験で、妙に新鮮だった。
机の上に広がる重要な書類に対し、その上からお構いなしに身体を突っ伏す。どうせ10分後には授業が終わり、次なる作業場・同好会室へ移動する以上、優先すべきは「ミスを出さずに余計な仕事を増やさないこと」であり、少しでも休息をとって次に備える。これって一石二鳥じゃね?
……流石にこれは言いすぎだな。はぁ……。
少しばかり目を閉じると、他の感覚器官が研ぎ澄まされたか、妙に熱のこもった紙の温かさに心地よさを覚え、いつもは気にしたことないシャーペンの芯ってにおいに安らぎを覚える。
こうして残り時間は固有結界を発動して「精神と時の部屋」にて休息を。何やら、呼ぶ声がするが知らない。聞こえない。なぜなら外界と閉ざされた空間に俺はいるんだからな。
***
チャイムが鳴って、教室が動き出す。たった10分ではあったが、少し休んだだけでこれほど身体が楽になるとは。そりゃ全国のサラリーマンは僅かな電車移動でも睡眠をとるわけだ。
……待てよ?電車がなければ、ここまで社畜になることもないのではないか?もしや明治政府が掲げた「富国強兵」は労働力を上げることで、税収入をより得るための施策だったのか。
昔の人は約1世紀先を見据えていたとは流石だな。それが分かっていた人は喧嘩屋や流浪人という働かない身分にいたわけか。特に剣心さんってよく考えれば、働かずに薫殿という美人に養われていたわけだから、人生勝ち組だよなー。
……まぁ、命がけの戦いが複数回もあった点だけは頂けないけど。飛天御剣流の技名、なんだかんだかっこいいんだよなー。
結局、歴史的に「専業主夫こそ最高の職業」が俺の中で証明されたところで、ちょうど同好会室に到着すると、教室の電気は付いておらず鍵もかかっていることから、優木も中川も来ていないことは予想できる。
だが、念のために、ノックをして返事がないことを確認してからいつの間にか渡された鍵を使って教室を開けて中へと入る。
教室に入ると直ぐに準備を済ませては、鞄から取り出した昼食用のパンをかじりながらパソコンとにらめっこ。同好会宛の新着メールをチェックし、どうみても怪しいメールは削除して、必要なメールには目を通す。
相変わらず多くの服飾企業からの「衣装に関するセールスメール」が目に留まる。
ヒマしてるな……。と、アパレル関係に俺の心の中だけで喧嘩を売ったところで、こいつらを一旦、別フォルダに移動し、重要なメールを改めて読み返す。
提出書類のリマインドメールやら、次のフェスの変更点などの重要事項はプリントアウトし、ホワイトボードだけでなく自分の資料にも転記する。
リマインドメールには「GWフェス最終受付の確認」があり、その文面にはGWに準備が間に合わず辞退する学校が多いことへの注意喚起が記載されていた。
どこも準備が間に合ってないのか、最終締め切り間際に10校ほど辞退が出たそうで。
ウチはというと、本音を言えばキャパ的にかなりギリギリなので辞退したいところだが、俺がこの部に『仮入部』した際に平塚先生からはGWまでという約束もあり、そもそも、これ以外に俺は仕事してないことから、辞退するという選択肢が初めからないのが何ともな……。
こうも辞退が多いと、曲順やら出演数の変更も多い。新たに送られてきた「最終要項」ファイルを開いては中に目を通す。と、どうやらうちの出演順番に変更はないが、1つ前の出場者が変更になっている。そのため、待機場所が隣の部屋に移動と。まぁ、この辺りは許容の範囲内か。この前の説明会でも、戸塚さんが話していたしな。
その1つ前に出場するグループは、どうやら既に出場予定校の2グループ目がエントリーしたようで。はぁ。大所帯は直ぐに出場できるだけの人手があって、羨ましいぜ。
全てのメールに目を通し、返信が必要なものは優先作業順に別タブでメールを開き、先に文面を記入しておく。記入して文面を推敲して整えると、次は添付する提出書類制作に取り掛かる。
鞄から出した資料に準備しておいた下書きやメモなどを参考に手を動かすと、カタカタとキーボードを叩く音が教室中に響く。
時折、自分がメモした内容が理解できず、何を目的に書き残したのか思い出しながら、改めて考えなおす。
こうして作業に没頭していくと、頭の中が資料の事でいっぱいになり、その中にある情報は思考回路を通ることで、次々と必要事項の中へと埋まっていく。それはまるでパズルピースのようで、最初はその凹凸の形の違いで、なかなかハマらなかったものが、回路の回転数が上がるにつれて、スムーズにそして綺麗に1つずつハマっていく感覚がどこか心地よくて「仕事が楽しい」と思ってしまう程だった。
完成した書類を次々と提出先へのメールに添付しては、最終文面を校正して送信ボタンを押していく。気が付けば、残るタブ数も2つへと減ってゴールが見えてくる。
とはいえ、気が付けば2時間ぶっ通しで取り組んだためか、回復した体力も底をついたようで、今さっき送ったメールでは至る所で誤字脱字やおかしな文章が見られ、その修正に結構な時間を使った。
「ふーっ」
大きく息をはいては伸びをすると、少し凝った身体がほぐれて行くのが分かる。そのまま机の上に突っ伏しては目を閉じて、覚えたての「小休憩」を実践する。
すると、外で張り切って青春をする人間のどこか活気のある声が耳に届く。しかしまぁ、良く声が出ることで。そんなに声を出して何になるのだろうか。
まぁ、声を出すことに意味なんてない。だが、意味がないはずのものに、熱量を注げるやつらがいる。俺には到底できない芸当だ。
机に額を押し付けながら、先日見た優木せつ菜のリハーサルを思い出す。
あの眩しいライトの中で、彼女は全力で歌い、全力で踊っていた。ひとつひとつの動きに淀みはなく、いないはずの観客たちが見えるような錯覚を陥ると共に、観客たちの視線を浴びる彼女の姿。
ちょっとだけ。本当にちょっとだけ。見入ってしまった。
それを認めざるを得なかった。俺のような「斜に構えて見ているだけの観客」ですら、胸をざわつかせるほどの熱。あれは、たとえリハーサルでも、数万人の前に立つアーティストの姿と何ら変わらなかった。
「……アホらし」
無意識に口から漏れる。
必死に積み上げた努力を、わざわざ他人の前に晒すなんて、馬鹿以外の何者でもない。
失敗すれば、笑われる。
挫折すれば、居場所を失う。
それなのに、なぜ人は舞台に立とうとするんだろうか。
当然だが俺には分からない。
けど、分からないからこそ……ほんの少し、羨ましいとも思った。
そんなセンチメンタルな気配を、唐突に開いた扉の音が吹き飛ばす。
「やあ、比企谷」
身体を上げると、そこには見慣れた白衣姿の平塚先生が立っていた。先生の左手を顔の位置まで上げると、そこには2つのコーヒー缶が細い指の間に深く挟まっていることに気が付く。
「疲れただろう。差し入れだ」
目の前に差し出されたのは千葉県民なら1日1本は飲むだろうMAXコーヒー。礼を言いながら手を伸ばす。
「先生も好きなんですか? マッカン」
「いや。そうでもないが、甘いくらいでちょうどいいんだ。比企谷の言葉はいつも苦すぎるからな」
皮肉まじりの返答に、思わず言葉を失う。
先生は空いている椅子に腰かけると、プルタブを開ける。クイッと一息入れたところで、しばし机の上に散らばっている作業中の書類を眺めていた。
「しかしまぁ……良くやっているよ」
思わず耳を疑った。
褒められた? いや、平塚先生の言葉に「褒める」という概念はあったのか?
俺の知る限り、あの人は生徒に対して「叱咤」「皮肉」「警告」を主な三大スキルとしている。褒めるなんてレアドロップ、SSR級アイテムじゃないのか。
「まぁ……任された以上は。それに、俺がやらんと、優木と中川に迷惑が掛かりますから」
「確かにそうだな。ただ、送ってくれた書類の方、確認したときにそう思っただけだよ」
「……そうっすか」
別に奇をてらったことを書いた覚えはない。それこそ、当たり障りのない言葉を敷き詰めつつ、少しだけインパクトを与えるような言葉をちりばめただけのもの。言うならば国語の問題にある記述問題に答えたようなものだ。
たったそれだけ。ただそれだけなのだが、先生の表情を見ると「今は言わないでおこう」と何かもったいぶったことだけは分かる。
先生はそれだけ言うと、立ち上がって身なりを整える。
「さて、生徒会にも顔を出さないとな。次はあっちだ」
扉に向かう背中が、妙に軽やかに見えた。
残された俺は、缶を開けて口に流し込む。甘くて芳醇な琥珀色の液体が喉を通り抜けて行くと、少しだけ胸のざわめきを誤魔化してくれる。
さて。最後にもうひと仕事して帰りますか……。
******
時刻は9時を回ったところ。今日は予備校での授業もありましたので、帰宅が遅くなったこともあって、夕食もこの時間。受験生では良くある生活リズム。これをかれこれ中学生のことから続けて約5年ほど。
「ごちそうさまでした」
食卓に出された夕食を平らげ、手を合わせて挨拶をして椅子をひく。自分が使った食器を重ねて、流しへと運ぶ。
「お粗末さまでした。良いわよ。お母さんが洗っておくから。菜々も勉強の続きがあるんでしょ?」
「ありがとうございます。では、そうさせて頂きます」
「いいのよ。今の貴女には勉強が大事だもの」
そういうと、お母さんは嬉しそうに私に笑いかける。その言葉に甘えるように、私は食器を流しに下げると、手を洗ってから自分の部屋へと戻ります。
「……」
目に入るのはどこかつまらない自分の部屋。殺風景とは言いいませんが、物は多くありません。カーテンやベッドなどは温かみのある赤系統の中でもピンク色のものにして少しでも「女の子らしさ」を出してはいますが、これが私にできる精一杯の自己主張。
端から見たら、どこにでもある部屋と大差ない。
本当なら机に向かわなくてはいけないのに、おもむろにクローゼットを開ける。掛けられた洋服はお母さんが買ってくれたものばかりで、自分で買った私服は1着もない。
ゆっくりと手をのばしてクローゼットの壁とタンスの間にある僅かな隙間にしまった箱を取り出すと、おもむろに蓋をあける。そこには赤と黒を基調にした「私の大好きがこもったステージ衣装」がしまってある。
この衣装を着るのも、もうあと2回しかない。正確にはここにあるものと、イベント会社にある予備1着を1回ずつ着て、私の「大好き」なアイドルは終わりを迎えようとしている。
これ以上、1人で「スクールアイドル活動」をこなすには無理がある。生徒会での仕事は想像以上に多く、みんなで一生懸命取り組んでも、期日までに終わらせるにはどうしても放課後に多くの時間を割かなくてはいけない。次に残った時間は当然だが勉強に費やす必要がある。
そうなると、物理的に時間がない。
歌やダンスの練習、フェスに出場するための書類作成などの準備、アイドル活動に欠かせない広報活動。せっかく作った曲も音はイベント会社の人に依頼したもの。
当然、衣装や小道具などもそうです。曲も衣装も小道具も凄く満足していますが、この準備は相当に大変で、1つの曲を作るのに毎週末費やしても、時間が足りなくて、結局、細部の部分はお任せでした。
それよりもこれ以上は隠し通せない。
実際にアイドル活動を始めてから成績は落ちました。予備校に通って「先取り」をしていたから学校の成績はなんとか保つことができても、模試の成績はそうはいかなかった。
アイドル活動とその準備に時間を割けば、予備校の宿題や予習をやる時間が削られ、十分な勉強はできなかった。
今はまだ「生徒会が忙しいものね。落ち着いたら取り返すのよ」とお母さんが納得してくれているからバレてはいないが、このまま成績が戻らなければ、よりお母さんを心配させることになる。
箱の中の衣装を見下ろしていると、胸の奥がちくりと痛んだ。お母さんの期待を裏切るわけにはいかない。模範の娘であり続けなければならない。そう思えば思うほど、この衣装の存在が「いけないもの」に見えてくる。
だけど、心は逆らっていた。
ステージに立ち、声を張り上げ、誰かに「好き」を届けるたびに、胸の奥にあった閉じた扉が少しずつ開いていくような気がした。あの瞬間の輝きだけは、勉強でも生徒会でも決して得られない。
「……私の、本当」
呟いた声は小さく震えていた。お母さんの期待も、大切に思っている。優等生でいることに居場所を見出してきた自分を否定するつもりもない。でも、それだけじゃ駄目だと気づいてしまった。
衣装をそっと抱きしめる。布地の冷たさが、胸に刺さるように心地よかった。あと二回。それで終わると決めた。そう言い聞かせないと、前に進めない。
けれど、心のどこかで知っている。このまま終わらせてしまったら、私は一生、自分の「本当」から目を逸らし続けることになる。
「ふぅ……」
これ以上、後ろ向きな気持ちになることは良くないと、気持ちを持ち直すと衣装を元の場所へとしまい、机に向かう。
今、私がやらなくてはいけないのはGWより先に出されるだろう学校の宿題を終わらせ、予備校の授業内容を復習と予習しておくこと。時間的余裕を作ることで、明日以降、比企谷くんが終わっていない書類を手伝う事。
とてもじゃないですが、1人ではできる分量ではないことは私が良く知っています。
それを1人でやろうとする彼の気持ちは嬉しいのですが、やはり、人間には限界があります。ただ、2人ならば終わるでしょう。
シャーペンを手に取り、ノートを開いたその瞬間。
――ピロン♪
机の上に置いたスマホから、初期設定のままにしてある通知音が響いた。これは「中川菜々宛」に設定してある音。
間をおかずに、もう一つ。
――チャリリリン♪
先ほどとは違う、少し明るい着信音。こちらは「優木せつ菜宛」。
思わずペンを置き、スマホを手に取る。画面には二通のメールが並んでいた。どちらも同一のアドレスですが差出人は不明。私のアドレス帳に未登録の連絡先。
とはいえ、件名が「フェスの件について」と書かれている。そして、どちらのメールにもファイルが添付されているアイコン。
おもむろに最初に開いたのは「中川菜々宛」のメール。
「……っ」
本文はたった一文だけだった。けど、その文面があまりにも衝撃的で言葉が出なかった。まさか、本当に一人でここまで……?
《添削させる面倒を押し付けてすまん。あと、先生への提出を頼む》
そして文末には「比企谷八幡」の名前が記されている。
「そんな……」
送られてきたメールには提出用の膨大な書類が「すべて」添付されていた。内容確認用のファイルが、ずらりと並んでいる。
短い文章。でも、その中に気遣いがあった。私にただ丸投げするのではなく「頼む」と言ってくれている。
驚きのあまり震える指で次のメールを開く。「優木せつ菜宛」。こちらにも同じく書類が添付されている。
本文には、こう記されていた。
《書類作成が遅くなったので、フェスに集中しなきゃいけないタイミングで、内容確認を頼んですまん》
彼は「中川菜々と優木せつ菜と同一人物」であることを知らないためか、それぞれに違う言葉を選んでくれている。
どちらも気遣いにあふれていて、相手の立場を考えようとしてくれている。
胸の奥がじんわりと熱くなる。この膨大な作業は彼にとっては面倒でしかないはず。それでも――。
私は画面を握りしめたまま、小さく息を吐いた。
「……本当に凄い人ですね」
彼がどうして、ここまで無理をしてくれるのでしょうか。その理由は答えられるほどの付き合いはありませんが、「責任感の強い人」だということは今回の件で改めて知りました
自分に過失がないことでも、何かと理由をつけては自分に非があると謝罪してくれます。
謝罪だけではなく、彼の一生懸命さは頭が下がる思いです。最初に渡した書類はわずか1日で片付け、先日のブリーフィング内容は関係ある項目を抽出し、それらをまとめ直したTODOリストとフローチャートを作り、あろうことか「生徒会業務が忙しい」ことへ配慮してました。
『いや。良いって。俺1人の方が効率が良い。それに優木も立て続けにフェスがあるんだから、そっちに集中してもらえるんじゃね?』
彼が言った一言を思い出す。
あの時は「責任感」だけでここまでの作業を引き受けてくれた驚きと、心のどこかで期待してしまい、彼に負担を強いてしまったことに負い目に感じたことを覚えてる。
しかし、私の気持ちなんて「関係ない」とばかりに彼は、あの膨大な作業を一人でこなし「有言実行」という「行動の結果」で示してくれました。
どうやって、この感謝の気持ちを伝えればよいかと考える。今更、手伝いことは残っていない以上、私にできることは……。
視線がスマホの画面からクローゼットの方へと向く。
そうですか……。そうですよね。初めてフェスに集中できる環境。せめて最後のステージは私は彼の期待に応えなくてはいけませんね。
「見ていてくださいね。比企谷くん」
ピンチに表れたかつてのライバル。よくある「王道展開」になってきたじゃないですか。まさに彼は「ダークロウ」ですね。邪魔なものを「除外」してくれるんですから。
自然と口にした言葉は、彼への感謝の思いだった。