帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

12 / 40
楽しんで書いちゃったので、頑張って読んでください!(白目


4.香辛料①

「本当にこの数字が事実、いや…より精度ある、というのか…」

 

「従来想定していた1千億という仮定の数字より、は」

 

「しかし…500億だと。一体全体…帝国は、いやオリオン腕の政治家や官僚は何をしてるんだ…」

 

 ぐびり。

 誰かの喉が鳴った。

 最高評議会の場にて最速値として発表された数字。

 オリオン腕における人口の概算である。

 

 工作員が持ち帰ったオリオン腕の各種情報を、議長府直轄の銀河帝国情報収集計画プロジェクトチーム-”情報機関調整会議”(コミュニティ)傘下の研究チーム-が精査・研究した結果を発表する場として最高評議会が選ばれた。

 内々に伝えられていた工作員の帰還とその結果について、評議員達は恐ろしさと期待の混じりあった、混沌とした気分で臨んだのであるが、冒頭から仰け反る数字を見せつけられた。

 自由惑星同盟において、少しでも責任ある立場にある人間ならば欲して止まない情報である事を弁えたはずの評議員達は一様に黙り込んでしまう。

 自分たちの仮定した、子供の時から聞いていた数字-1000億人-を大きく割り込んでいたからだ。仮想敵が想定より弱体化していたのだ、喜ぶなり安堵するなりしても良いのだが、政治家としては呆れや恐怖が先にきてしまう。

 食い扶持に職業政治家を選んだ者として、忸怩たるものもある。

 自分を選んだ市民たちの生活を守り、向上させる。社会、国家を盛り立てる。その結果の一つの形が、増加する人口である、という常識が蔓延(はびこ)る自由惑星同盟において、人口減少が止まらないオリオン腕という存在に理解が追い付かない。無理解からくる恐怖すら感じていた。

「予め研究していたシナリオを流用する形で推測したデータとなりますが…」

 列席者の手元にある端末に情報を表示させる。

「大帝のドグマ、弱者救済は社会の弱体化を招くとし、自助を至上とする公助の否定が大きいと考えられます」

 劣悪遺伝子排除法が殊更に有名であるが、コミュニティの研究結果からの意見は一般のイメージとは異なっていた。

「むしろ、弱者救済の社会政策のほぼ全廃こそが人口減少を加速させていると考えています」

 銀河連邦末期の財政破綻を始めとする国家の機能不全による、弱者救済を含む多くの社会政策の有名無実化を、政策そのものを真っ向から否定する事で、帝国建国初期の国家財政の弾力性を回復した大帝は、軍事力強化と、警察力の立て直しに注力し、治安回復から手を付けたと考えられる。大帝自身の信念もあるが、典型的な夜警国家(小さな政府)を訴求する以外に、当時の()()()()()()()()()()()方法が無かったと言えた。

 銀河連邦市民にとっての誤算は、人類社会の一応の安定、国家財政の再建、国家組織の改善の目途が付いた時点で強権的政治や小さな政府指向を改めると、勝手に信じていた事にあったのだろう。その身勝手な期待の果てが今に至るのである。

「幼児期の死亡率が二桁を越えるのです。辺境の苦しい地域では20歳までの死亡率が3割以上なんてざらのようだったようです。自然と一般市民は多産になります。吾々とは違いますよ?「多産多死社会」における多産です。

 重ねて言います…公的医療保険制度が無いのです。若年層の死亡率だけが突出して酷いわけではありません。()()()()()()()()()()()()酷いのです。当然平均寿命もサジタリウス腕に比して悲惨というべき予測値が出ています」

 万年人手不足の同盟社会において、人口拡大政策は不磨の大典(憲法のようなもの)であり、出産は諸手を挙げて歓迎するべきものであった。社会政策だけでなく、企業組織や地域共同体も出産を歓迎し、それぞれの立場から支援する事が当たり前であったので、妊娠以降出産育児に至る公的扶助(共助含める)の無い世界などは想像する事すら難しいというのが市民の大多数の認識であろう。建国から今に至る迄、自由惑星同盟とは多産少死社会、長寿健康社会(生涯現役を求められる)を目標に、取り分け乳幼児から青少年期の死亡率を下げる事に腐心してきたとも言える。割合単位で死ぬとか何の冗談だと、地域開発委員長がぶつぶつと物騒な単語を吐き散らかし、人的資源委員長は目を剥いて固まっている。

「皆保険制度としての(公的)医療保険の撤廃など、何度情報を見直したことか。情報を集約した上で計算した推定値ですが、オリオン腕における女性の死亡原因の上位5位以内に産褥死が入ってきます。サジタリウス腕とは比較にならない妊娠出産リスクの環境下で多産が望まれるのです。怒りすら覚えましたよ」

 

「…」

 議長ですら、どう表情を取り繕って良いのか判断に困っている。

 

「全くの皮肉ですが、一部の貴族領でこそ、形を変えた制限付き皆保険制度が残されており-出産補助、乳幼児向け医療補助が精一杯のようですが-そのような「名君」の領地では覿面(てきめん)に死亡率が異なるようですね。サジタリウス腕では出来ない実地試験の結果というべきでしょう。これは貴重ですよ」

 

 何を言っているんだ、お前は。

 興奮気味に報告するコミュニティのメンバーの発言内容に恐れを抱く評議員たち。

 

「帝国から高度な自治権を付与されている貴族領にこそ、近代国家の残滓が残っている事に驚きです。中央政府こそ大帝のドグマを面と向かって否定するような政策はとりづらい、という意識があるのかもしれません。

 とは言え、(弱者救済の社会政策に)需要が無いわけでありません。軍隊や官僚と言った公務員向けのサービスは別としても、貴人や富裕層の喜捨とかパトロナイズの励行(福祉基金の設立や慈善事業への参画)という形でか細いながら命脈を繋ぎ、制度や技術の喪失を防いでいるようです。それくらいの現実感覚は残っているようで安心しますね」

 自分たちにとっての常識が通じない、という事を改めて突き付けられる評議員たち。

 シミュレーションとしてなら、そうだろうな、という結果であっても、現実に実行するなんて。非常時の一時的な事なら理解も納得もできるが、300年以上も続けるとこうなるのか。

 常識と言うものがあやふやなものであり、相対的でしかない事を突きつけられて動揺しない人間は少ないだろう。

 

 

 持ち帰られた情報の精査を進めていたコミュニティのメンバーから、オリオン腕における人口減少について、更なる要素として、評議員たちは銀河帝国の現状の一端を朗報という形で示唆された。

「棄民?

 それは帝国の国是に反しないのか?その…皇帝は万民に君臨するのであろう?奴隷階級なりで管理しているのではないのか?」

 大体、棄民とは何なのだ。政府閣僚たる評議員としては理解の埒外にあった。行き過ぎたリバタリアンだったり、懐古主義の趣味人が望んで、文字通りの自然環境で人力の生活を愉しむ行為はさておき(それらは個人の主義主張だったり趣味なので)、社会的弱者を救うどころか社会の外に追いやるというのか。異常だ。主義(とその政策)の結果として社会的に弱い立場に追いやるのですらなく、社会から排除する。しかも、それ自体が目的というのか。

 

「そういう解釈もできますが、人口把握というのは、かなりの労力を払うのです。

 そもそも管理が困難であるから、連中は貴族制度を導入し、高度な自治を認める事で貴族を封建し、直接支配の領域を減らす、つまり統治コストを減らしてきたようです」

 

「…」

 

「同盟においてすら、人口把握などは地方自治体ありきです。勿論、同盟の福祉や教育などの社会サービス全般を全市民に提供する為にも、地方政府がしっかり機能してもらい現地住民との密接な繋がりを構築して貰わなければ実現できません」

 

「何故(帝国は)しない?」

 

「中央集権だからでしょう」

 当たり前でしょう?という顔で言い切るコミュニティのメンバーに、評議員たちは戸惑う。彼らのイメージする中央集権とかけ離れているからだ。

 

「いや、しかし…分権であろうと、集権であろうと。市民のニーズに合わせて制度を改良するのではなく、制度内で制御できるだけの人民まで減らす、というのか。そいつはその…」

 言い淀む、法秩序委員長。

 

「分かります。私は学者ですが、政治家たる、しかも民主主義の政治家である貴方からすると、『控えめに言っても頭がおかしい』とお思いでしょう。ですが、そう考えるならこの人口概算値も納得できるのです」

 コミュニティのメンバーが語る、帝国的合理性の発露に息を呑む列席者たち。

 

「手っ取り早い、『不要人口の削減』-間引き-をするのであれば、棄民が一番簡単なのです。

 むしろ、帝国初期の大反乱に対する大虐殺や農奴階級への降格などは、例外と言えるかもしれません。彼らの国是からすると真面目にやっているとも言えますが。

 時代が下ると棄民がほとんどを占めているようですね。多分、(処刑よりかは)人道的とかそういう要素より、簡単さが採用の大きなポイントになったのではないでしょうか」

 (棄民という)自助の強制、”欠格者への処分”という大帝以来の方針にも反しない、帝国政府の人間が考え出した抜け道(アイデア)としては秀逸だと、コミュニティのメンバーは評した。

 コミュニティのメンバーの発言内容に我慢ならんと評議員の一人が噛みついた。

「…真面目と言いましたか?どう解釈したら奴隷へ追いやる行為や虐殺が真っ当な政策になるのですか……」

 

「ちゃんと”処理”してるじゃないですか。連中の法に従って」

 吾々と同じ、法治主義ですよ。と続けたコミュニティのメンバーの台詞にとても嫌そうな顔をする評議員。

 

「むしろ大帝が死んだ直後でもあり、遺訓が有効に機能しているが故にやらざるを得なかったのかもしれませんね」

 工作員が持ち帰った、大叛乱に対する帝国の鎮定記念碑(モニュメント)の写真と資料の一部をソリビジョンに表示してみせる。

「5億人の反逆者を処刑する手間を考えてください。即決裁判だとして纏めて処分するにしても、数万回なり数十万回行うのですよ?あぁ、死体処理も大変ですね。公衆衛生からして捨て置くなど、とてもとても。

 100億人の市民を農奴に落す手続きを想像してください。数百万単位の事務処理が各処で発生し、流刑地なりに追放する手間に、受け入れる手間が発生するのです」

 民主主義を優位と見做す同盟の政治家には、そのモニュメントは先達であり勇気ある民主主義者たちの万骨を刈って打ち立てた、帝国の罪状を自ら記し誇る悪意の碑であった。

「…」

 大虐殺だの棄民などという、非人道の極みと手間を払ってでも体裁を取り繕うより、大帝の遺訓の空文化でもした方がよっぽど楽だろうに。評議員たちは政治家としての発想から思うのであるがコミュニティのメンバーは異なる意見であった。

「ですが棄民ならどうでしょうか?適当な無人惑星に放り出して、「誰某、その果てる所を知らず」と住民台帳に書いて終わりです」

 簡単でしょう?

 コミュニティのメンバーである学者の説明を理解したくないと首を振る評議員も居るが、当の学者は、初心(うぶ)だなぁ、くらいにしか思っていないようだ。

「結果として、彼ら枠外の民、棄民が億単位で存在する、と見積もられています」

 

「まつろわぬ民というのは帝国からすれば反逆者予備軍ではないのか?そのような雑な対応で良しとするのか、理解しがたいのだが…」

 

「問題ないでしょう。これについては連中は十分な実績がありますし」

 学者は気分転換とばかりにクイズを列席者に出した。

「吾らが建国の父母達は極寒のアルタイル第七惑星から社会秩序維持局の眼を逃れて、どうやって長征一万光年に旅立ったのですか?」

 

「そりゃ、イオン・ファゼカス号で、…あ」

 

「そういう事です。宇宙船の材料を監視・制御しておけば逆らったとて、地上止まり。宇宙を越えて連携されねば、個別に踏み潰すのみなので、大した問題にならないのでしょう。何せ、この方法が百年以上有効だったのは、アーレ・ハイネセンの成功例から見ても十分な証明となるでしょう」

 コミュニティのメンバーは戯れに、想定される長征一万光年の旅路をソリビジョンに表示させている、オリオン腕の星域図に描いてみせる。

「私は専門ではないので、コミュニティ内の専門家に確認したのですが、宇宙船単体で超光速航行を実施しようとすると、酷く手間がかかるようですね。普段の快適な航海は、航路管制の支援や、整備された星域図に蓄積された航路情報など外部のサポートがあって、初めて実現するのだとか。もしこれらの外部サポート無しで、自身で航路を調べ、星域図を整備し、計算しながら、超光速航行をしようとすると相当に苦労するそうです。

 歴史家の意見ですが、長征一万光年が時間当たりの航行距離が吾らからすると酷く効率が悪く感じられるのは、先ほど述べた、超光速航行に必要な作業をすべて自分たちで、劣悪な自作の装備でこなす必要があったからと考えているそうです。勿論、帝国の追跡から逃れながら、という要素も無視はできませんが」

「つまり、帝国としては、宇宙船の材料を監視でき、恒星間航行に必要な航路情報を含めた、インフラを独占出来る限りにおいて、どれだけ棄民達が存在しようと脅威とはなり得ない、と判断しているのだと思われます」

 工作員が撮影したとされる、棄民の地(惑星)がソリビジョンに映される。宇宙に逃れる術を奪われたが故に、「星」でありながら「地」と呼ばれる、過酷な世界と其処に住まう人々の姿は解像度も荒い、素人の撮った映像であるが故に見る者からリアリティーを奪っていた。

「そして、工作員はこれらの棄民の地(penal colony)も利用して旅を続けていたようでして、中々に有用な情報を持ち帰ってきております」

 

「億単位で帝国の叛逆者予備軍、つまり吾々の友人や戦友となりうる者たちがいるという事か」

 

 評議員の希望をあっさりと打ち消してみせる。

「それは少し、独り善がりが過ぎるかと。先方は先方の都合と生き残るのに必死で、主義で選り好みすると思うのは夢見がちでしょう」

 処分場以上の価値が無く、文字通り、社会インフラの存在しない惑星に棄てられるのだ。ギリギリ人間が生存できる程度の、可住惑星と言うにもおこがましい環境下に置かれた人間の可処分リソースの全てを生存の為に突っ込んでなお、運に左右される。そのような過酷な環境で主義主張などシンプル(サバイバル)になる、とコミュニティのメンバーは言う。

「…」

 

「そんなに恨みがましい顔しないでくださいよ。私がそう仕向けたわけじゃありません。裏を返せば、利益を齎すならば、聞く耳も持つし、手を握る事も十分に可能となるでしょう」

 

 評議員の一人が憮然としながら露悪的な意見を口にしてまとめてみせた。

「つまり、ビジネス・パートナーか信の置けない同盟者くらいに思えばよいのだろう。むしろ、最後まで面倒を見る必要が無い分気楽じゃないか。いずれにしろ、何ができるかは情報を精査して現実に接触出来てからであろう。敵しかいない、という状況ではないだけ十分に朗報だ」

 

 

 腕を組み、眉をしかめた評議員の一人が報告に対してぼやく。

「封建社会というのがいまいち理解が及ばないが…とにかく、それが進行しつつあり、実質的な連邦国家へと変貌しつつある、と?」

 

「はい。文字通り、帝室の藩屏として、帝国主都星(オーディン)の周辺に配置されるように、新興貴族への封建や勲功の褒賞として、鎮圧、征服した外縁地に封じるという形でオリオン腕の支配領域を広げていったようですね」

 ヴァルハラ星域-帝国首都星-をキャベツの芯と見なし、芯を包む葉の役目を貴族の領地が果たしている、と述べた。

「極端な中央集権と大帝のドグマに縛られておりまして、合理的な社会政策が取れないが故に統治コストの高い地域においては、貴族たちを封建-アウトソース-する事で建前-宇宙を統治する唯一の存在-との整合性を取る事にしたのでしょう。貴族の忠誠が帝国へ向いている限りは、貴族の封土もまた皇帝の支配が及ぶ地である、というロジックです。

 先ほども言いましたが、恒星間国家として、恒星間航行のインフラを独占できるのであれば、(領地持ちの貴族が)将来の反乱勢力となろうとも、極めて優位に立てる、という事でもあるのでしょう」

 ソリビジョンの星域図を拡大し、判明しているオリオン腕の星図をクローズアップしてみせる。さらにそこに貴族領や直轄領の情報を追加していく。

「ただ、まぁ。とにかく貴族領と棄民の地が多いですねぇ。覇権を保持する為に交通上の要衝を抑え、制宙権を抑えるために宇宙艦隊を整備し、軍隊を含めた国家運営に必要なリソースを確保するのに十分な量だけ残してダイエットしたのかな。オリオン腕全域に渡ってこの傾向があるのであれば、典型的な海上帝国でしょうね。もし統制を失えば領邦国家へ後退するかも…」

 コミュニティのメンバーはここで勉強とばかりに、立派な肩書を持つはずの評議員達を、教養科目を受講する新入生に対するかのごとく説明する。

「封建制というか、現代風に言えば、独立採算制の一面を持つので、基本的に彼ら貴族は領地運営に必要な全てを自身の領地内で賄おうとします」

 

「それが何か?」

 

「あー…吾々が想像する地産地消とは次元が違うのです。文字通り全てです。生きるのに必要な食料から住居、エネルギー。それらを生み出す農地や発電所。栽培・収穫するための農機具に建設するための機材や、建築資材。それらを用意するための工場から原材料から工業資材まで、およそ考えうるすべてです」

 

「…」

 

「吾々でしたら、どうですか?

 新たな植民星を拓いたとします。幸運にも農業に適した肥沃な土地に漁業もすぐできそうなくらい豊かな海があります。農機具から自作しますか?港湾施設を整備するための建機や船を造るための工場から自作しようとしますか?

 違うでしょう。他の星域からレンタルするなり、購入するなりして持ち込むでしょう?

 つまり輸出入前提なのです。吾々は自由貿易とか国際分業ありきなのです。それで問題ないからです。一から用意するより、遥かに早く、安価に、良い機材なりサービスを購入できるからです。また、その分、早期に農産物や海産物を市場に送り出し、初期投資分の借り入れ金を早く返す事もできますし儲けも確保できるのです。また投資家や貸し主も、より早く、大量に産物を入手できるのだから、事業計画がよほどに酷く無ければ望んで投資するのです」

 同盟における植民(星)とは、建国初期においては、有志による民間入植もそこそこあったが、同盟の拡大と国力の充実が進むと、星系政府が主導する入植事業が主流となり、疎開作戦発起以降は、官民挙げた国家事業とされていた。つまり、事業規模が巨大化していったのだ。止まらぬ(止める積もりもない)人口爆発による、供給能力の逼迫は、植民星開拓の効率化を絶対視していた。効率化の追求とは必然、定型化と規格化を推し進める。結果として、植民惑星固有の環境はあるものの、似たような街並み、どこでも見る商品、どこか既視感のある企業や仕事という、()()()()()風景が後発の植民惑星ほど、現出することになる。

 皮肉にも、これは同盟市民社会の一定程度の一様性や共通性-国民意識-を補強する事に貢献したが、同時に民主主義に必要な多様性を喪失する事にも繋がっていた。

「恒星間国家としての体制護持の為に意図的に分業化し、星系同士が持ちつ持たれつの関係を強化する事で、一体性を保持するなどの政治的都合もあるにはあるのですが、何より重要なのは、吾々、自由惑星同盟とは常に人手不足(供給は常に逼迫している)なのです。国際分業という経済的合理性でもって回し続けなければとても市民の需要を満たす事ができないのです。

 吾々は市民の需要を満たすために廻し続ける必要があるからこそ、拡大し高度化しているとも言えます」

 

「…」

 

「ですが、帝国は違うのです。臣民を我慢させる事が可能なのですから。勿論限度はありますが」

 羨ましい限りです。被支配者(国民)に我慢を強いる正当性があるなんて、政治家としては一度は夢見ませんか?コミュニティのメンバーの揶揄に、評議員たちは咳き込んだり眉を顰めて応えた。

「話が脱線気味ですので戻しますが、吾々は同盟全体を見て、単一の市場-参加しやすいように整備し誘導もしていますが-と言う形で参加したりしますが、封建制はそうは行きません。

 何せ、封建された領地においては領主たる貴族の差配次第です。帝国政府が一々、(貴族の領地の)市場開放や整備について指導なんてしません。出来ない、と言うべきか。一貴族領の領民が帝国市場にアクセスするのは同盟よりは手間でしょう。また、他の領地の市場にアクセスするのも大変なはずです。元々輸入を前提としない市場に参入するというだけでも障壁とも言うべきハードルの高さになるはずです。

 貴族領は基本的に地産地消、自家消費が前提です。領域内での完結を望みます。そりゃそうでしょう。封土の安寧こそが皇帝の望みであり、貴族自身の任務です。外部に頼り過ぎる事はそれだけ安定性に欠けるのですから」

 

「つまり、同盟に比べると非常に非効率な経済になっていると?」

 

 頷きつつも、コミュニティのメンバーは異なる視点を呈する。

「逆に言いますと、非常にタフでもあります」

 

「?」

 

「領域内で完結できるのであれば、恒星間航行能力を失ったとしても、長期に渡り生存できるのです」

 

「あー…なるほどな。国際分業前提の吾々が恒星間航行能力を喪失する事は貿易体制の崩壊を意味し、生存に必要な必需品へのアクセスが不可能になるという事か」

 評議員たちが到った答えに満足するようにコミュニティのメンバーは頷く。

「交易に頼らないのであれば、それだけ生存能力においては申し分ないわけです。勿論長期に渡る鎖国は、停滞や文明の後退すら有り得ますが、人間が生存するだけならば、相当に長期に渡り自活できるはずです」

 

「これは仮に自由惑星同盟がオリオン腕に侵攻した際に重い枷になるかもしれません」

「中央から半独立した在地勢力が無数に存在し、一々制圧しなければ、勝手働きしたり、抵抗したりと、降伏させるまでが恐ろしく手を焼かす事になるかと思いますよ」

 

「世紀単位の未来の話だ。その時になってから、未来の市民達に悩んで貰おう。今は無用の話だよ」

 

 工作員が収集した情報の中から、一際古風な風景を写す数葉の写真をソリビジョンに表示させる。

「皇帝より与えられた領地により領地内で養える人口上限が確定し、領地内の人口(領民)で維持できる規模の産業を含む社会を整備するのです。領地で養える人口上限が先にあり、これに領地の特性による地形的な制限がかかるのです。

 例えば、1000人を養う程度の食料生産しか望めない領地に封建されたとします。一般的な貴族は1000人で維持できる程度の街を造る事を考え実行します。

 1000人の街で完結する社会とはどうでしょうか?恒星間航行能力の維持なんてできません。必要も無いですしね。

 勿論、惑星視点としては、エコシステムが許容できる範囲(=破滅的な環境破壊ではない)に人口が収まるので、種の存続としては最適かもしれません。

 ここで、恒星間航行能力を獲得し維持するのに必要な人口規模-10万人と仮定しましょう-まで拡大する事を、領主たる貴族は望むでしょうか?領地を破壊するリスクを負ってまで開発する事はしません。失敗し、環境破壊の果てに領地を荒廃させ、皇帝の不興を買い、家を傾けるリスクを背負い込んでまでチャレンジする動機になりません」

 人口拡大を何より優先する自由惑星同盟などは、政策上の禁忌(疎開元への不法再入植など)に触れない限りは、頼まなくても外野から支援を買って押し掛ける(口も出すが金も出すし時には人も出す)勢力がいるくらいである。

「そして、外部からの移民や物資の調達は優先度が高く成り得ません。持ち込むだけの余力(資金)も無いでしょうし、支援を受けるという事は支援元に依存する事になるので、一から育てる事を優先しがちです。そして領地の無茶な開発に対し、支援するような外部勢力も無いでしょう。

 ですから、場合によっては恒星間国家どころか星系内国家としての能力すら維持出来ない領邦が出てもおかしくありません。まぁ領民を食わせるだけなら、宇宙暦以前の、地球一つが人類圏だった頃の技術レベルまで後退しても問題は少ないでしょうからね」

 古典ドラマの風景のような写真-古代地球の内燃機関すら無い、田舎の農村のような光景-に、これが現実なのか、と疑わしい視線を向ける評議員達。

「ですから、輸出前提の産業を考えない、もしくは低優先度になりがちです。比較的余裕のある領邦であれば、余ったモノやサービスを輸出しているかもしれません。もっとも、輸出しようにも周りが自活に汲々として、余裕もない領邦ばかりでは、取引が成立したとしても、取引量も額もたかが知れているでしょう。

 そんな事やっていれば、人口一人当たりの収入やら可所得分の増大なんて望みようがありません。これが恐らくオリオン腕の停滞や衰退の要因の一つと考えています」

 

「…」

 オリオン腕に拡がった人類がそれぞれの星系、惑星で孤立し静かに縮小退行していく-星の灯り(人々の営み)がゆっくりと消えていく-光景が列席者たちの脳裏に強烈なイメージとして映される。

 

「一つの封土は一つの完結した「世界」と言えるかもしれません。帝国は貴族たちの「小世界」に望んで踏み込む事もしないでしょう。

 制度上、領主たちの権利を尊重しますし、封土を栄えさせるなら(よみ)し、維持に汲々とするならそれも良し。荒廃させるようなら将来の反乱の余地を無くしたので、損切りしたと言えなくもありません。荒廃させた罪を鳴らし(領地を)召し上げて、新たな貴族を封じるのも悪い選択肢ではありません。

 そして領主たる貴族も領地に掻かずり続ける(汲々としている)間は、外部に野心-帝室に挑戦する-を持つ事も妨げるので、帝国としても安定を優先するのであれば、悪い状況ではないでしょう。定期的に帝都に呼び付けて社交し、権威を再確認させれば貴族たちの統制も比較的安上がりというものです」

 優雅で豪勢な貴族たちの社交にも意味がある。コミュニティのメンバーは強調する。権威の力ばかりでは、行き詰まる様々な問題を、社交という対話と調整の場によって、柔軟に解決し社会の安定を図っている。統治のための必要経費のようなものなのだ。吾々にとっての選挙費用や議会運営コストのようなものである、と。

「一部の支配層を除き没交渉なオリオン腕において、人民は帝国の臣民から諸侯-領主-の領民と分化していきます。直臣(臣民)から陪臣(領民)と階層化されます。領民にとって、世界は封土で完結し、帝国の臣民という考えが薄くなっていきます。同時に帝国も貴族領の領民は臣民とは言い難くなるでしょう。ちょっと意味合いは異なりますが、士卒(領民)は将(領主)の将(皇帝)を知らず、というような感じです。

 これは近代以降の国民国家の前提、”国民”という考えに逆行していると言えます。

 これが封建制を乱暴に約した話となります。

 それぞれの封土で完結し、人や物の往来が減少すればどうなるか?

 歴史を顧みるならば、時の流れに抗し得ず、土着化が進み、中央の支配から外れる流れが進むでしょう。意識的か無意識かはわかりませんが」

 同盟政府や中央議会の一部に根強くある、同盟市民意識(国民意識)の涵養を求める者たちと、星系政府を中心とした愛郷精神を至上とする者たちの争いは建国当時から続く運動であった。両者は並存しうるという意見もあり、どちらかの一方的な勝利は無いと考えられていた。恒星間という光年単位で隔てられる、”距離の暴虐”に抗い、人々の連帯感を保持する事の困難さとは、(恒星間国家である)同盟の政治家となる者が一度は痛感する問題であった。

「銀河連邦成立前夜の銀河の争乱時代再びか」

 評議員たちの抱える問題意識(同盟への忠誠心とか国民意識)を飛び越えるような帝国の現状に嘆息する。

「どうでしょう?文明をどこまで維持出来るかも怪しいと思います。かつての銀河連邦の領域に最盛期の六分の一の人口ですから、危機的な過疎状況と言えるでしょう。それも縮小再生産のスパイラルが常態化した辺境域など、恒星間文明の維持すらままならず、逆行する場所も出て来るかも知れません」

 

「もはや、SF小説の話だな…」

 

 それほど隔絶したものでもありませんよ。コミュニティのメンバーが励ますように言葉を繋げる。

「このような停滞と衰退の暗黒時代が300年以上続き、とりわけ、政治的価値観は吾々サジタリウス腕とは断絶しているのは想像に難くはありません。

 ですが、だからと言って、彼らが会話も成り立たない、エイリアンであるとか、そういう話でもありません。彼らも吾らと同じ地球起源種の人類ですからね」

「経済的感覚は多少のずれというか幾分古臭いですが、基本は変わりません。吾々が彼らと取引できる余地がある、という事でもあります」

 

「何が言いたいのかね」

 

 工作員が持ち帰ってきた、オリオン腕で取引してきた物品の映像を見つめながらコミュニティのメンバーは言う。

「合意が叶えば、相互に利益を確保できるのであれば、吾々とも取引できるのです。これはとても重要です。利益という共通点があるのですから」

 

「主義主張が違えど、取引はできる。これは大きな一歩だ。そう言いたいのだね」

 評議員達は得心した。取引とは交渉であり、何より対話であり、交流だからだ。

 共和制の核心とも言える考え方が出てきたことで、散々な話を聞かされ続けて来た彼らも少し気分が晴れたようだった。

 

「……まぁ。

 そういう捉え方もできますね。そんな理想主義的な取引も宜しいのですが、私どもとしては、より実利的な取引について着目しています」

 

「…」

 

「うーん、これは言っていいのか流石に躊躇するのですが、一つの可能性の話となります。

 同盟の宿痾(しゅくあ)の一つの緩和と帝国の弱体を一度に達成できるし、生物的多様性も回復するという素敵な機会でもあるのです」

 

 とても嫌な予感がする。

 列席者たちは、このコミュニティのメンバーと紹介された学者の、続く台詞を聞いたことを後悔した。

 

「連中においては、笑うしかありませんが、人も商品の対象のようです。

 他者の人生を当人の意思に拠らず切り売りできるのです。勿論条件によっては無期限-一生なり子々孫々まで-も行けるようです。吾々が考える、人権前提の、現代的な雇用契約ではありませんよ?条件次第では文字通りの奴隷のような契約すら結べるそうです。

 まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()-使い潰したら元も子もない-程度の経済性を持つ購入者がほとんどだそうですが。

 何が言いたいか御分かりになりましたか?吾々が買う事が出来るなら、なるほど、すぐは無理でも10年後なり次世代なりの人手不足の緩和が期待できるでしょう。ついでに、帝国は貴重な労働人口を失うのです。

 なんて、顔で見るんですか。

 人身売買がショッキングだと言うのであれば、移民か奴隷解放とお考え下さい。オリオン腕からサジタリウス腕への一方通行で二度と戻れないし、連絡もできないだけですよ」

 

 吐き気を催す邪悪-極まった経済的合理性-な話に、人の欲望を思い知るはずの政治家達は普段遭遇しない、人間の悪意(合理性)を突き付けられて絶句する。

 

「実はこれは同盟の存在が知られると、効果的だとの予測もあるのです。勝手に亡命なり移民なりで来てくれる可能性があるからです。無料で来るなら手間いらずですが、それはそれで帝国と対峙する事とイコールなので悩ましいところです。

 でも先ほど述べた話も利点がありまして。こちらで移民者を選別できるのです。下種な言い方をすると、同盟にとってより有為な人材を選ぶ機会があり、受け入れる人間の数を調整できるという事でもあるのです」

 流石に自由惑星同盟が帝国からの政治信条や思想的自由に身体的自由、生命の危機を理由にした亡命希望者を拒否するのは無理筋なので、と学者は言い切る。

 

 




(自分が)盛り上がりってしまい長くなり過ぎたので分割しました。次のお話は今回の続きとなります。(分割したし、もう少しいけるやろ…で(文字数が)また増えてる…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。