帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず 作:narrowalley
「本当に撃つんですか?通信コードは(同盟規則と)異なりますが、歴とした(人類共通の古典的)降伏信号ですが…」
「
「…私は、殺す…撃つにしても軍人として、です。…これじゃマフィアと変わらんじゃないか…」
「だから、任務と言っただろう。祖国が命じたし、祖国の命運をこんなところで危機に晒す事はできん。
君の論理を適用するなら、必要があり、誰かがやる。それが私であり、君であった、という事だ。君も志願して(ここに)いるはずだが?
任務以外の何ものでもない。そこに何かしらの個人の意思が混じれば、吾々は"ルドルフの薄汚い後継者"になるのだからな」
彼-ルドルフなりの信念もあったのだろうが-が出世の
それは唐突に始まった。
無人地帯であり、たまに訪れる商船を狙う海賊と言うには格の低い、せいぜいがチンピラ風情の地場の無法者の縄張りに常識外れの侵略者が乗り込んできたのだ。
通信妨害・逆探知を主とする電子戦まで用意する、武装商船などという可愛げの欠片もない重武装-軍艦に近しい-の船舶群が異様なまでの手際の良さで、瞬く間に、航路帯ばかりでなく、およそ人間が潜むと考えうる場所を虱潰しにしていった。いっそ病的なほどに徹底していた。
抵抗する者や逃亡の意思を見せる者たちを容赦なく撃ち落とす様は、その手の暴力に習熟した者を伺わせた。それを見て、他者に伝えられた者も皆無であったが。
掃除の終わった宙域を恐る恐ると言った風情でゆっくりと進む商船団が居た。向かう先はフェザーン星系。
最初は現地民との物々交換から始まった。
食料品に衣料品、建材に簡単な機械や部材も取り扱い、多種かつ豊富な医薬品まで取り扱うとあっては、田舎ではたちどころに人気がでるのも当然であった。
不思議な事に販売に対しては現金を望み、購入に対しては希望する物品との交換を持ちかけた。多少の面倒臭さと不審さはあったが、モノは悪くない所か、辺境の辺境という場所を考えれば良品であり、価格も良心的を通り越してお買い得ですらあった。堅気の空気が薄い、いわゆる「その筋」の匂いが隠し切れないが、気前も良く、情報に対しても支払いをケチらないとあれば、辺境の人間にとって良き取引相手であり、詮索しないのがマナー-相手の機嫌を損ねる馬鹿はいない-というものであった。
取り分け、機械などの製品は普段見る物とはどことなく違和感を感じるが、新古品というそれらは普段手に入るものより遥かに高性能で使いやすいのだから、多少の違和感など問題にならなかった。むしろ見た事もない良品ゆえに、普段のポンコツ-「彼ら」の製品から比べたら-に慣れ親しんだ身が違和感として勘違いしたのだろうと勝手に解釈した。
重宝される万屋と言った感じで周囲に馴染んだ頃、彼らは話を持ち掛けた。
「私達はもっと大きな商いがしたい。この辺りは誰かの領地ではないのか?」
「可住惑星が無いわけではないが、こんな辺境も辺境に領地なんて貰って喜ぶ変人など早々居ないよ」
「それじゃ、無主の土地なのか?」
「周辺も似たり寄ったりで、まともな海賊すら近づかないのが幸いなくらいさ」
「なるほど。所でこの辺りで暫く商いをしたいとも考えているんだが、挨拶しておくべき顔役はどちらになるかね?」
「おぉう。あんたみたいな気前の良い商売人が長居してくれるなら、うちとしては大歓迎だよ。紹介しよう」
「はは、そいつは助かる」
住民に紹介された商人を胡散臭さそうに見つめる顔役は、表情通り迷惑気に応対する。
「あんたが最近羽振りのいい商家かい。珍しいを通り越して怪しさ満点だね」
「商機を掴むなら人に先んじてなんぼでしょう。特に吾々のような独立商人なんて存在は」
「ふん、先んじるにしたって、こんな所を選ぶような奴の目利きに信用が置けるかね」
「…辺境こそ時代の先端でしょうよ。さて、私どもの噂はある程度はご存じのようだ。ならば単刀直入に商談といこう。私どもはビジネスパートナーを欲しています。何より伝手が欲しい」
「高く買ってくれるもんだ。だがうちを選ぶには、ちいと、
「ほう。そうですかね。商うにも運ぶにも
「物騒過ぎる、と言っただろう」
けんもほろろと言うべき顔役の対応に、商人は雰囲気を変えずに攻め口を変えた。
「…では、ご期待通りの商品を売りつけるとしようか」
「…」
「うちとしては、
分かるかね?それなりに纏まった人間と機材を用意しないと探すにも掘り返すにも時間が掛かるんだ」
商人は手を組み顎を乗せ、じっとりと顔役を見つめる。
「当然、お宝てのは、自分だけが知ってるなんて思っちゃいけない。自分が知ってるものは誰かも知っている、もしくは
「…」
ここで、今気づいたとばかりに商人はわざとらしく驚いてみせた。
「…あぁ、こいつはいかん。うっかり喋ってしまったじゃないか。あんたに知られてしまった。
こいつはいかんなぁ。他の誰かにも知られてしまうかもしれんなぁ」
「……」
「さて、こっちとしては、お宝の事を、知られない為にこの辺りを”焼き払う”にしろ、”刈り取る”にしろ構わないと思ってるよ。何しろここは顔役たるあんたが太鼓判を押してくれるほどのド辺境だからね。それほどの手間でもないんだろう?」
「………」
「パートナーとなるなら、仕事仲間だ。面倒だろうと信頼には代えられん。取引をするのに一番大事なものである事くらい、私でも、いや私どもだからこそよく知っているよ。
…握手で始められるならそれに越した事は無い、と思える程度には経済性を大事にしているんだ。そこは信じて欲しいんだがね?」
「……住人に手を出すな。商談の仲介はしてやるが、禁制品は駄目だ。ここに流すのも御免被る」
「…了解した。惑星上では取り扱わないし、あんたの紹介先にも迷惑を掛けんよ。迷惑料代わりに、この星での商いでは
「ふざけるな。永く居座るとか、とんだ大迷惑だ。掘り当てたらさっさと帰りやがれ疫病神め…」
「そう言いなさんな。この星の重力圏内ではお行儀良くさせるし、これからは仕事仲間になるんだ。末長い付き合いとなる事を祈って握手しようじゃないか。良い取引を」
商人の差し出した手を睨みつけながら、顔役は恨み節をこぼす。
「ふざけるな…一体どこの商人だ、この悪魔め」
「ははっ話が出来て取引できるなら、悪魔だろうが
顔役が呪った取引相手であったが、律儀である事は間違いなかった。
約定通り、惑星上においては、誠実な商売人であり続けたし、禁制品を取り扱う事は終ぞしなかったのだから。
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ある日を境に、辺境も辺境と言われた荒野の惑星であったフェザーンに驚くほどの人間と機材、それらを運び込む商船団が押し掛けてきた。
瞬く間に彼らは街を-惑星フェザーンで最大規模の-作り上げてみせた。
気前の良い万屋の商人の知り合いと言うその商会の関係者は、顔役と同席した場で、招いたフェザーンの住民達に街の目的を伝えた。それはテラフォーミングの試験と掘削の為の受け入れ施設であり、同時に労働者の教育施設も兼ねており、そこそこの数の人間が住む事になるが、先住民たちには迷惑を掛けない事を誓ってみせた。
先住民の人口に迫る勢いで大量の労働者候補-どう見ても流民か棄民-が街に入ってくるのだ。元より官憲なんて生まれてこの方、辞書でしか見た事が無い先住民たちにとって浮浪者擬きが大量に来る事に警戒する。
商会はその点、顔役や先住民へ十分過ぎる配慮をしていた。
自らが送り込んだ労働者たちを許可なく街から出す事はしなかったし、先住民とのトラブルが起きる度に地元の自警団との協議を行い、彼らの意向を出来る限り尊重してくれたからだ。何となれば、先住民の救急医療を支援するくらいには配慮していた。
すぐに街は規模を拡大し、人造湖を湛える規模となり、大小さまざまな工場を持つ、小さな都市と言えるようになった。
間を開けず、近隣の先住民が都市で提供されるサービスを求めるようになった。都市の支配者である商会も先住民との関係を重視しており、取引が成り立つ限りは多少の持ち出しがあろうとも、目を瞑って提供した。
様々な付き合いが始まり、お互いの需要を知ると、商会の関係者が顔役と同席した上で先住民達との取引を始めるのもこれまた、商人ならば当然であった。
「農地の開墾から作物の栽培に、食品加工まで含めた商売の実地教育がしたいのだが、適当な土地を売っては貰えないだろうか。土地の売却に不安があるようであれば、賃貸でも構わない。
何なら、農家を紹介してくれてもいい。合弁企業を立ち上げて、一緒に商いをしないか?吾々としても貴重な経験になるから」
先住民たちも、すわ乗っ取りかとも警戒したが、契約に詳しい者に契約内容を確認して貰ったり、商会に質問を投げたが-丁寧かつ分かりやすい回答が返ってきたし、急かされる事もなかった-どうにも本気かつ、真っ当な商いをしたいという事が分かれば、後は勢いづいて、様々な事業や取引が規模はささやかでも、辺境としては驚くほどの勢いで交わされていく。
顔役は渋い顔をしていたが、住民達の求めるものと売りたい商人の商談、もしくは事業を立ち上げたい商人と参画し利益を得たい住民達の取引、それも真っ当な商売を邪魔する事はいかに顔役としても困難であった。
惑星フェザーンの地上に点在していた先住民の村に寄生するように商人たちの「街」が生まれ、地上の街を結ぶように道路が拓かれた。先住民の村を飲み込むように、街が都市に育つのにそれほどの時間は必要ではなかった。
続いて、主要都市を結ぶために小さいながらも空港が出来て空路が設定された。それもまた需要を喚起し、先住民たちもその利潤に与った。
先住民達が望むものがあれば、商会は何処からか取り寄せて商ったし、自分たちが取り扱わないものであれば、商人や企業を紹介したし、顔役に紹介を求めもした。
(フェザーンの先住民たちにとっては)まったく地上においては良き商人であった。
気が付けば、辺境も辺境ではあり得ない規模の、宇宙船の離発着も可能な港湾施設を備えた、巨大な人造湖を構えるほどにまで成っていた。
宇宙においては、別の顔を覗かせていたが、惑星フェザーンの重力圏内においては、”極めてお行儀よく”振舞っていたので、目を瞑る事で今の関係が続くのであれば喜んで従う者ばかりであった。近所に海賊航路などという不名誉かつ物騒な人工の危険宙域が何時の頃からか生まれ、その商会が手配したという”警備会社の護衛船”が商会の商船と船団を組む場合に限ってはついでに護衛してくれるとあって、無料の護衛も期待できるのであれば、感謝の言葉は出ても文句など出るはずもなかった。
ただ、何故か、その商会は海賊航路と言われる危険宙域に含まれる、オールトの雲にある外縁天体の一つ、岩石型天体に開拓拠点を設立して、研究開発を行っているという。
不定期に船を派遣し、数回に一度は襲撃され、”警備会社の護衛船”ごと商船が強奪に遭うという被害を出し続けてでも諦めない、その行いは不審を買うには十分であったが、辺境でもあるし、その程度では傾かないと豪語して、実際に自分たち(との取引)に迷惑が掛からないのであれば、不要な詮索はしないのが
大体、一部塗装を塗り替えただけの、海賊航路で発見・通報された海賊船に大変よく似た”警備会社の護衛船”が船団を護衛するくらいなのであるから、送り狼になる事さえ無いのであれば、都合よく近視になったり耳が遠くなるのが辺境の流儀であろう、と大多数の人間は自分を納得させて利益に与った。辺境も辺境のような僻地において善良である、ということはそれだけで豊かな証拠であり、我々(フェザーンに住まう者たち)はまだ善良さを発揮するほどに豊かにはなっていないのだから。
その貨客船も、久し振りの海賊航路突入船団と言われる危険宙域を目指す船であった。護衛船を含めており、辺境の旅の過酷さを表していたかもしれない。
乗客も普段の惑星フェザーンを目標とする労働者とは毛色が変わっていた。
「本当にこの先で学べるのか?」
「ここまで来ておいて今更疑問に思うのか?逆らったとて、宇宙に放り出すだけだぞ」
「…」
「…成績が良ければ更なる知識も授けるし、間違いなく故郷に返してやる。それだけじゃない。当座必要なものの用立ても考える。後はお前の為す結果次第だ」
「……」
若く、口数も少なく、指揮者の指示に黙って従う一団がいた。
年齢はバラバラだが、身なりは悪くなく、会話からも学を修めた者の気配がする者たちがいた。
「本当にこの先にあるというのかね?」
「もしなかったらどうするんです?泣き喚いて罵声を上げて疲れて飽きたら戻るのですか?貴方を排しようとした銀河帝国に」
「…」
「そんな覚悟では危ういと言わざるを得ませんな。無ければ作り上げるくらいの気概を持ちなさい。帝国の力の届かない辺境の先で自身のみが主たる王国を打ち立てるのだと」
「……」
無事に目的地の岩石型天体に着くと、貨客船から降ろされた客人たちは天体に設けられた拠点内のそれぞれの区画に分かれ、教育であったり、訓練であったりを行う。
数か月の訓練の後、身なりの良かった者たちの一部は拠点から船を乗り継いで、更に海賊航路の先、オリオン腕の深淵へ向かう。
若く口を緘する一団の多くは、更なる教育と訓練を受け、これはと見込まれた者たちは更に別の教育を施されたり、より高度な技術の習得を行った。
用が済んだと判断されると、拠点に停泊していた数隻の貨客船に分乗し、ある者はフェザーンで降り、新興著しい都市で働き口を求めた。ある者は受けた教育を広める事を期待されて、元来た道を戻っていく。またある者は途中で宇宙海賊の襲撃を受け、海賊船に乗り換えてその身を隠した。
辺境も辺境のはずのフェザーン星系は、今では交易船が絶える日など新年祭か皇帝の代替わりの時くらいとなっていた。海賊航路と恐れられる宙域の奥地でさえ、今日も今日とて仕事のために宇宙を渡る者たちが絶えた日はなかった。
「この船は何なんです?相変わらず指示された所に向かえば目当ての貨物船が居て、規定の通信を入れると、操船者は乗り換えて、規定の場所まで運ぶ。意味が分かりませんよ」
「聞くな。答えが返って来るとでも思ってるのか?
契約通り仕事をこなし、約束通りの金が振り込まれる。何が不満だ。それよりも作業が遅れ気味だ。口より手を動かせ」
「…」
「受取と操船システムの初期化及び、再起動を確認。今回のクルーズ(航海)用設定及び情報のマウント開始。
この間にお前は船体の内外部チェックを始めろ」
「…アイサー」
「………船倉の貨物室ドアの施錠システムがバグってる。先の第三貨物室の状態に異常が発生している可能性は?」
「少し待て。…船のシステム設定が全部終わってない。プロセスチェックを再度走らせる。お前は船内スーツと与圧ヘルメットを着用してドア前で待機しろ。お前のいる連絡通路は用心のため閉鎖して換気も隔離しておく」
「…アイ」
「…ん?再起動のプロセスリブートで貨物室のロックが外れたか?中が…」
「なんだこりゃ。タンクベッド?にしちゃ筐体が大きいし、梱包も無しでラックに設置…全部起動してる?独立電源?
…人が入ってる。隣も。隣もその隣も…この船倉に設置したラック全部にこれが…全部に人間が入っているのか……」
「おい!お前何処にいる!?」
「これはなんだ!」
「馬鹿野郎!早くそこから出ろ!いいから早くしろ!システムが完全起動したらもうログに手が出せなくなるんだ!急げ馬鹿!」
「くそ!」
「…この馬鹿!後数分でも遅かったら、お前は重大な規定違反のログが残って処分されてたかもしれないんだぞ!」
「馬鹿野郎は俺だけじゃないだろう!なんだ、あの貨物は?人身売買にまで手を染めてるにしたって、あんなモノのようにして運ぶなんて真っ当じゃないだろう…」
「…俺は『貨物』の正体は知らん。聞かなかった事にする」
「真っ当に働いて得る小銭で満足できないから、お前はここに来たんだろう?随分と、お前の「良心」はお高いようだな。契約時にその高潔な良心が居眠りしてくれるよう金額交渉しておけ。契約後に違えるのは重いペナルティが下るんだ。
憶えておけ。この業界でまだ暫く食っていきたいなら、いや、まだ暫く生きていたいのなら、な」
「…」
「作業タスクに戻れ。既に20分以上遅れている。お前の作業のせいで遅れたら、お前を宇宙に放り出してでも出航するからな」
「…アイ」
辺境の中の辺境と言われたフェザーン星域の今である。
次話は短いので明日投稿予定です。