帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

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(kuraisu様式)ジークリンデに衝撃を受けたのがきっかけです。
色々あって、書きたいと思い立ったので。あと本編や他の外伝とは毛色が異なります。


外伝 ある大公の…
1.とある陛下の陰鬱な謁見


0.とある兄弟の団欒

 

 

「そうか。ついにここを出るのか」

 

「今すぐという話ではありません。ただ、今のうちに出来る事はしておこうかと、今さらながら思った次第です」

 

「…私はお前を兄弟と思っているよ。…だから、血を分けた兄弟と離れるのは寂しいよ」

 

「兄上…私も兄上をお慕いしております」

 

「済まないな。私がこんな()()でなければ、お前の肩身の狭さも少しは…」

 

「兄上がそのような想いを背負う事はありません。私の横着が招いたこと。それに」

 やや照れたように眉に指を添える。

「妻との生活に、落ち着いた所を探すくらいの甲斐性を見せないと、折角(私如きと)添い遂げる事に頷いてくれた彼女に愛想を尽かされかねませんから」

 

「ふふ…不精と心配していたお前が初めて激した想い人か。初恋が実るのは小説の中だけの話と思っていたが」

 眩しそうに見つめつつも、自分の事のように嬉しそうに何度も小さく頷く。

 

「かの女性に出逢えた事が最大の幸運、最も勇気を振るったのが告白、かの人が受け入れてくれた事が人生最高の果報でしょう。

 私の人生で三つもの重大事に係わった彼女に報いるために頑張ろうと、そういう事です」

 

「そうか」

 晴れやかな表情で笑い声を上げる。

 

「それならば、仕方ないな。最愛の伴侶の為に旅立つ弟を引き留めるのは兄の行いではないな。笑って送り出すべきだ」

 

「ええ。是非そうしてくだされ」

 

「叶うならば、出立の挨拶の時には同伴してくれ。私も逢ってみたい」

 

「ええ、必ず…」

 

 

 

 

----§----

 

 

 

 

1.とある陛下の陰鬱な謁見

 

 

【挿絵表示】

 

 銀河帝国の今上帝フリードリヒ三世は皇族にあるまじき陽気さが隠し切れずに退出する、息子の背中を見ながらため息をついた。

 どこか間抜けさが滲むが故に愛嬌とも取れる、マクシミリアン・ヨーゼフ大公の後ろ姿に苛立ちにも近い想いが湧くが、すぐに彼の母親の顔と出自が思い出され、後ろめたさに塗りつぶされた。

 思えば、悪い事をしたかもしれぬ。

 当人にとっては自身の預かり知らぬ所(生まれ)で、人生が定まり、自身の才覚と意思に因らず飼い殺しが決まっていた。無謀にもその道(飼い殺し)から外れようとすれば、人生という道程からも突き落とされかねないのだ。皇族には皇族の、苦労がある。

 しかし、帝位を望まぬからと言って、安穏としていれば余生を全う出来るほどに銀河帝国の皇族は(やさ)しくはない。

 それを強く知るが故に、どこか迂闊さが隠し切れない息子に父親の情愛を皇帝なりの形で与えようと考えたのも無理からぬことではあった。

 

「ステファンを呼べ」

 

 皇帝とは人類社会において比類なき存在であり、その願いを無下にする事は命に係わる行為となり得る場合があった。特にここ半世紀の銀河帝国の上流階級-帝位にまつわる不審死が多すぎる-においては。

 であるからして、召し出されたバルトバッフェル侯ステファンにおいても、異母兄(フリードリヒ三世)の「お願い」だの「相談」という類は厄事以外の何ものでもなかった。

 

「マクシミリアン・ヨーゼフ大公殿下の後見でございますか?」

 

「うむ。元々、彼奴は地方への臣籍降下を強く望んでいてな」

 

「甥御どのらしいですな…」

 ステファンの脳裏に甥の出自と人品の評判が思い出される。

 

「余の(死)後で良いとは言い聞かせてきたのではあるが、な…」

 

「…」

 

 皇帝の異母弟であり、有力な皇族ではあるが、皇帝との微妙な距離感があるステファンとしては黙らざるを得ない。フリードリヒ三世の後継問題は文字通りの「問題だらけ」である事は帝国の貴顕達にとっては自明の理であり、未来における確定された厄介事でもあった。

 長男グスタフの虚弱さは日常生活を送る事にすら介護を要するレベルであり、どれほどお飾りに徹しようとも至尊の冠はただでさえ少ない寿命を奪う事になりかねなかった。

 話題に上っている、次男マクシミリアン・ヨーゼフは下級貴族の母を持ち、今に至るも有力貴族による後ろ盾も自派閥も作らなかった事から、帝位争いからは自動的に外れていると見做されていた。

 最大の厄事が三男と四男であった。

 三男ヘルベルト。四男リヒャルト。両者ともに、健康と野心においては不足は無いように、父親からも叔父(ステファン)からも見られていた。知性においては、空気を読む程度、場を弁える程度があれば、どうにか勤まると諦めていたのでそこは目を瞑るしかなかった。それぞれの母親は門閥の出で十分な後ろ盾もあったし、当人たちも野心成就のための賛同者作りに余念も無かった事から充分な貴族を中心とした派閥も形成していた。父帝を慨嘆させたのは、余念なく勤めたにもかかわらず、どちらの派閥も大勢を決するほどの差が無かった事にあるだろう。

 時勢的にも()()()()()()()()()()()()、流血帝の如き、巨大な内部不安の要素も見当たらない。まずは「安定した治世」と言えた。要はあの程度の後継者でも帝国を壊す状況にはならぬと目されていた。

 どちらでも代り映えしない、という状況で、どちらかを選ぶというのは実は結構な決断力を要するものである。

 そして、代り映えもしないが故に選ばれなかった側の反応が読み切れないのが問題であった。

 

「流石に、今の時点で臣籍降下を認めるのは露骨に過ぎるし、いらぬ刺激を与えかねん」

 父親として息子の配慮と望みが憎らしい。

 だが同時に、詰めが甘すぎる。フリードリヒ三世とステファン侯爵の二人はマクシミリアン・ヨーゼフをそう断じていた。

 

「だが、時間のあるうちに”学ばせる”と考えるのであれば、悪い事ではないと思ったのだ」

 

「甥御どのに何をお求めでしょうか?」

 

「皇族としての振る舞いよ。それも臣籍降下し、帝室の藩屏の第一人者として(貴族でありながら皇族とも見られる孤独で危険な立ち位置)の、だ」

 

 フリードリヒ三世の粘着質の視線を豪胆にも真正面から受け止めるステファン。

 バルトバッフェル侯ステファンは文字通り、人生を皇帝の弟、皇族として生きて来た。生まれによる格差はあれど、異母兄と帝位を争いかねない立場から、暗君の気質を持つ兄帝の猜疑を躱し続けてきたのだ。

 その経験を自分の息子(つまりステファンから見て甥)に教えよと言う。

 自身を疑って来た兄皇帝が自分の息子に、今も疑いを捨てきれない弟が培ってきた処世術を教え伝えよと!

 

「卿には上級大将に到るまでの軍属としての経験もある」

 

「あくまで、皇族としての、です。生粋の武門貴族たちからすれば、某も”着飾った弾除け”でしかありませぬ」

 

「…その剛毅さゆえに、よ」

 

「…は…」

 

 それは決定事項であった。

 宇宙の統治者に形だけでも頼まれた以上、否やはない。

 それに、この決定はステファンにとっても帝室にとっても帝国にとっても悪い事ではないようにも思えた。

 自身の息子を異母弟に預けるという事は、これまでの微妙な距離感のあった兄弟仲の改善(悪く言えば人質を預けた)とも見える。今後襲い来る、帝位継承の悶着(悶着で済めば良いとは両者-皇帝も皇弟-も心から願っている)から血を分けた子(マクシミリアン・ヨーゼフ)を遠ざける効果も期待できよう。親としてのささやかな願いであるし、高貴なる血の分散という点においても今のまま放置を続けるよりはマシと言えた。

 

「彼奴を地方総督として、辺境に出す。神輿としても現地軍の指揮権を持つ(総督であれば”使う側(辺境貴族)”も)方が手頃であろう。後見として卿が付いて行けば、帝国軍の不安も晴れよう」

 

 軍服に着いた階級章も読めないだろう皇族のボンボンが、親や小うるさい親族たちの目が行き届かない、田舎の地で、総督でございと気儘に振舞うとは、あの甥に関してはありえないとステファンは思うが、他者、取り分け職業軍人たちにとっては不安の種である事は間違いない。

 

「地方では”(帝都から近すぎて)怖い”とほざくのであれば。辺境で生きる術を知らねばなるまいて。郷に入りては郷に従え。まこと金言よな…」

 貴種と言えど、自由に振舞えぬ事を知るにも良い機会よ。皇帝はそう吐き捨てた。

 可哀想に。

 余り知らぬ甥御を想い、バルトバッフェル侯にして帝国軍上級大将ステファンは内心で嘆息する。

 帝都より物理的に逃げても粛清の不安からは逃れられぬ。辺境は辺境で過酷である。皇族ゆえに幾らかはマシであろうが。足元だけ見ていては背中を刺される。常に帝都からの視線を忘れずに辺境の地方領主として終わる。若いながらに相応に頭は回るのであろう。甥御にとってはささやかな野心。それがどれほど過酷な事か。同類相哀れむ。そういう心境であった。

 

 

 

 

----§----

 

 

 

 

 マクシミリアン・ヨーゼフ・フォン・ゴールデンバウムの辺境総督任命式は皇帝が直々に立ち会うものとしては近年珍しいほどにこじんまりとしていた。総督の職責に関連する尚書数名と付き添いの皇族たちに侍従たちと10名を越える程度であった。

 青磁の間(一番狭い、皇帝の私室扱いされる客間)で短く、ささやかに挙行された任命式が終わり、皇帝が退出するのに続き、文官、侍従が辞する。

 総督となった若き皇族に親しく肩を寄せ何事か話しかけている老年の男性をジッとステファンは見つめた。本来はミルクティー色だった頭髪は白色に支配されかけており、それが男を益々老けて見せた。しかし、甥に向けて浮かべる表情と雰囲気から好々爺に見えなくもなかった。

 グルーベンハーゲン侯マクシミリアン・ヨーゼフ。フリードリヒ三世の異母兄-母方が愛妾、それも下級貴族出-で同名の甥、マクシミリアン・ヨーゼフ大公とはその出自、立ち位置も似通ってるせいか、皇族同士の仲としては良好な方に分類された。

 だが、政治家としては、ステファンはこの祖父と孫ほどの年の差がある異母兄を古狸(とんだ食わせ者)と見ていた。

 異母弟(フリードリヒ三世)の即位後、玉突きで弟の爵位(グルーベンハーゲン侯)を相続し、その後はステファンと同じく、フリードリヒ三世との微妙な距離感を縮める事も叶わず逼塞していたはずが、後継問題がフリードリヒ三世の悩みの多くを占め始めた頃から、重用され始め、気が付いたら、皇帝の腹心のような立ち位置を占めていたのには、皇族連中や廷臣たちも唖然としたものだった。

 若き総督を待っている、ステファンの視線を感じ取ったのか、甥との会話を切り上げると退出しようとする。

「わしらの可愛い甥っ子の独り立ちだ。慣れぬ辺境暮らし故、体を壊すやもしれぬ。ステファンも良く看てやってくれ…」

 すれ違いざま、気の良い親戚の伯父さんのような言葉をステファンに掛けると返答も待たずに退出していく。

 

 総督となった、若い甥の後見となる、若過ぎる叔父と二人きりになった所で、式の間、一言も発しなかったステファンは、緊張した風を装っていた甥に語り掛けた。

「大公殿下。此度の大任において、後見役を賜りましたバルトバッフェル侯ステファンです」

 

 堅苦しい挨拶を始める叔父を相好を崩しながら遮る、マクシミリアン・ヨーゼフ。

「この度は。私の我儘に皇族の長老たる叔父上を付き合わせることになり汗顔の至りです。ですが」

 

 叔父と甥と言うよりは年の離れた兄と弟というのが近い間柄であった。

「叔父上を保護者にあてがってくれたのは勿怪の幸い。陛下に感謝しなければいけません。あ、勿論父上(皇帝)にプライベートでも感謝申し上げてますから!」

 

 宮廷でこれが出来るのであれば、大した野心家だ。

 ステファンは人の好過ぎる甥を黙って見つめる。

 皇帝御自ら、次男であるマクシミリアン・ヨーゼフ大公に対し、辺境の地方総督の任を与えた。総督の監理官として、皇帝の異母弟であり、現職の帝国軍上級大将でもあるバルトバッフェル侯ステファンを指名する人事は、帝室の事情を一定以上知る者たちからは注目された。

 次男坊の臣籍降下の事前準備と降嫁先の選定か、と。

 猜疑心が強いと見做されている皇帝らしく、微に入り細を穿つ、用心が込められた人事であった。

 軍からも諫言があったのだろう。総督叙任に際しても大公に軍籍を与えず、「軍事指揮権」ではなく文官総督に認められた「軍事請求権」のみとしたこと。実際の軍事的指示は同行するバルトバッフェル侯ステファンが執る事を要求している。

 それでいて、肝心のステファンには総督府監理官という、総督の職務全般の管理・監督を可能としながらも具体的な職権は何一つ明言しなかった。異母弟と息子への警戒と期待が入り混じった、死後を自覚した、猜疑心に炙られる皇帝の苦心が滲むような人事と、ステファンは内心で嘆息した。

 先ほど退出した異母兄(グルーベンハーゲン侯)が皇帝の猜疑心の炎を(おこ)し、このようなやりづらい人事を提案したのではないか。ステファンはそう邪推した。

 

 皇帝の私室でいつまでも、立ち話も慎みに欠けるとして、大公は叔父を新無憂宮にあてがわれた自分の邸宅に誘った。

 馬車か宮殿専用御料車の送迎を断り、散策も兼ねて、新無憂宮の園庭を抜けながら若過ぎる叔父にマクシミリアン・ヨーゼフは自身の細やかな野望を滔々と語ってみせた。

 曰く。

 憧れの辺境領主のスローライフ。

 恋に落ち愛を実らせた妻との静かな隠棲生活。

 

 ステファンはむっつりとした表情の裡に溜息を繰り返し吐く。

 皇帝にならんと野心を露わにし、帝室の静謐を乱しても成り上がった異母兄(フリードリヒ三世)。親に倣ってか、社稷を顧みず玉座を兄弟同士で争う気を隠さない甥達(ヘルベルトとリヒャルト)より性質が悪い。剛直なステファンはそう断じざるを得ない。またそれを受け入れた兄帝に対しても。

 この甥は、(はな)から帝位を厄介物と見ており、帝国を半ば諦めている。

 誰かがどうにかするだろう。

 いや、どうにもならないんじゃないか?だとしても、破滅に巻き込まれるにはまだ時間があるはずだ。時間がある前提で、予想される爆心地(帝位争い)からなるべく遠ざかって、自立できるだけの準備をしようと言うのだ。

 なるほど、庶民はそれでもいいだろう。政治的権利の無い彼らが、自助を美徳とする帝国で生きる上で自力救済は当然であるし、最低限認められた権利であろう。だが、貴族、まして皇族には帝国、ひいては人類社会の維持・増進を計る義務があるはずだ。尊き任務に臨む有能者である者が何という退廃。

 

 神経質なまでに手入れされた美しい園庭。初夏の青天は暑さを感じる程だが、吹き流れる夏風と庭園の緑が快適さをもたらしてくれる。適当な四阿(あずまや)にでも座り、ひと時を過ごすのも大変な贅沢であろう。もっとも、今のここには、似つかわしくないとも似つかわしいとも取れる古風な、それでいて華美な仕立ての軍服を着て佇立する警備兵が視界に入り、ステファンの気持ちを益々沈ませる。

 フリードリヒ三世の尋常ならざる猜疑心が貴顕たちに認知されたきっかけが自身を護るはずの近衛兵を信用出来ずに、相対するような武装組織を乱立させた事にある。新無憂宮専門の警備隊、それも区画単位で独立した組織を事あるごとに設立した。

 似たような目的の組織や職掌範囲が重複する組織というのは対立しがちであり、物理的距離も近しい組織同士となれば、自然発火の如き対立を起こすのも頷ける。まして、不信による相互監視が目的とあれば、もはや憎悪を伴う深刻な対立を起こしている。

 今や、新無憂宮の空気は主の心の裡を表すものとステファンには思えてならなかった。

 

 甥の後ろ向きに全力疾走するような態度に一言なかるべからずと、説教を垂れようとするステファンは何時の間にか目的地に着いていた事をその声で知らされた。

 

「あなた…」

 掛けられた美しい声音(こわね)にステファンが意識と視線を向けると、そこには、玄関扉が開かれ、エントランスまで出てきた佳人が、大公に近寄られ、抱擁を受け入れようとしていた。

 

「あぁ、ジークリンデ。こちら、叔父上でもあり、帝室の長老でも在らせられるバルトバッフェル侯ステファン上級大将閣下だ」

 

「閣下が…此度は夫の監督役の儀、感謝に堪えません。夫…大公殿下からも事あるごとに喜びと感謝を聞かされております」

 

 大公邸でステファンは甥の嫁御料(大公妃ジークリンデ)と初めて出会った。後世、それが記録される出来事となった。

 大公妃との出会いについて、ステファンは何も記録を残してはいない。

 

 




王朝物は一族がやたら出て来るし、叔父甥とかの傍系親族が複雑で分かりにくいだろうと思い(書いてても混乱しがち)家系図をこさえてみました。毎回挟んだ方がいいかな?

ゴールデンバウム朝関係者の家系図について

  • 入り乱れた家系図は好物
  • ご先祖様自慢は一回で十分
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