帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

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コネ入社に対する圧迫面接。貴族(をやるのも)こわい…


3.とある参事官の面接

 

 

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 急な中央からの要人(に見えた)(マクシミリアン・ヨーゼフ)の着任に(たか)った有象無象の対応に一息ついた(秒刻みのスケジュールが分刻みになった程度)頃合いを見計らうように、総督府の管轄星域を担当する(重複するとも言う)ヴィレンシュタイン方面軍司令部より高官が来訪した。

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 先方より訪問の打診が来ると、発信元を確認したステファンは、直ちに総督に掛け合い、最優先業務に据えて来訪者を待ち受けた。

 

「オスヴァルト・フォン・ミュンツァー中将。ヴィレンシュタイン方面軍にて参事官の席を預かっております。早々の面談をご用意いただき、感謝に堪えません」

 総督執務室の隣に用意された談話室。それぞれ個人ソファーに腰を据えるマクシミリアン・ヨーゼフとステファンに相対する長ソファーに一人の客人が座していた。

 中背中肉、軍人と聞いて一般に想像される、鍛えられた体を軍服に包んだ、壮年の風体の男性士官が総督に挨拶を送っていた。

「方面軍司令官アルベルト大将の挨拶状をこちらに。司令官は軍務の都合で任地を離れる事ができず、私が方面軍を代表して参りました。方面軍司令部一同、大公殿下の着任を心より歓迎いたします」

 さほども歓迎しているような表情も作らず、ミュンツァー中将はマクシミリアン・ヨーゼフに挨拶した。

 

「こちらこそ、司令部要員が挨拶に参られるとは思いもよらず。総督管轄地も貴下の管理域となります。安寧を齎すべく相務める所存ですが、共に陛下のご宸襟を安んじて参りましょう」

 

 若き大公の完璧な挨拶(秘書官謹製)にミュンツァーは特に感銘を受けた振りも見せず、本題を切り出した。

「大公殿下が任じられた総督職でございますが、殿下の管轄地に駐留する帝国軍も総督府への協力義務を負っております…」

 軍人が挨拶にかこつけて皇族総督とは言え、若造に釘を刺しにわざわざ片道一週間近くを掛けて来るとは。相当に悪評が出回っているな?マクシミリアン・ヨーゼフは内心で苦笑した。

 しかし、若造のそのような内心を容易に察したのか、野暮用を押し付けられ、遠路はるばる来た高級士官は視線の圧力を強める。

 

 どうやら、ミュンツァー中将閣下は(じつ)(こと)(ほか)、重んじておられるようだ。マクシミリアン・ヨーゼフは内心で来客者をうるさ型に勝手に分けた。

 

「総督たる大公殿下が弁えておらぬはずが無いとは存じております。ですが、これから話す事は機会あるごとに都度、交わされるほどに重要な事であります。それこそ…」

 意味ありげに総督の横に侍する侯爵を見遣り。

「ステファン上級大将閣下もまた、軍職に奉じられ、時々に交わされた話でございます」

 無言のまま頷くステファン。

「もし仮に」

 マクシミリアン・ヨーゼフの統治下に在って帝国軍の出動を要する事態になった場合。総督の責務において駐在する帝国軍への出動要請はマクシミリアン・ヨーゼフの権利であると同時に、総督に協力し、帝国の治安を護る義務が帝国軍にはある。

「ただし、それは職責に伴う法的権利であり、私する事は厳に戒められる、と宣されております」

 兵営での入隊宣誓式で。軍服を纏い、新しい階級章を与えられる都度、皇帝陛下に忠誠を誓う際にも宣言され、陛下もまた受託する、大事な軍の本義である、とミュンツァー中将は説いた。

 皇族が官界(軍属含む)に席を置く時、節目節目で説かれる話であった。

 執拗に説かれる切っ掛けが帝国軍に襲い掛かったのが、今より一世紀弱ほど過去。

 

 エーリッヒ二世の御代。

 アウグスト二世の暴虐を終わらせた皇帝である。

 流血帝(アウグスト二世)を排した事はエーリッヒ二世からすれば正当防衛とも言えるし、結果論としては帝国の寿命も伸ばせた。

 だが同時に、皇帝と帝国軍との間に沈黙の緊張を生じせしめた。

 エーリッヒ二世の登極は、要約すると、国家-銀河帝国-に仇為す皇帝が現れ、帝室・貴族、選ばれた優良者たちによる修正に失敗した時、軍の持つ暴力-剣-によって皇帝を()う事が許されるのか。もし認められるとするのであれば。

 軍の都合により、何時でも幾らでも皇帝を挿げ替える事ができる。そう皇帝が判断した時。それは帝国を構成する一柱-帝国軍-を自ら切り落とす行為、自殺行為そのものになる。

 国家に寄生しなければ生存できない暴力機関である軍は、一際、国政(政治)に敏感である。これは政治制度に係わらず、もう本能に近い。銀河帝国においては、皇帝(権力)という事になる。その皇帝との信頼関係を損なうような状況を放置する事は座視出来ないものであった。

 古の如く、軍人から皇帝を輩出する-軍人皇帝-政治も考えられないでもなかったが、もはや、それは軍ではない。そう帝国軍の主流は判断したし、現実に軍人が政治を行う事と統治する事は別物であり、もしそれが可能としたら、それは軍人ではなく政治家である。

 

 アウグスト二世の暴虐を生き延びた帝国軍首脳部とエーリッヒ二世に(くみ)した軍人貴族たちは、皇帝も交えた御前会議において、正当防衛-即位にまつわるドタバタ-により生じた緊張関係に対し、一定の妥協(解釈)を成立させた。

 

「銀河帝国軍の本義は、国体の護持と社稷の守護である」

 帝国軍は国家に奉仕する「国軍」であり、皇帝陛下の「私兵」にあらず。国家を”明瞭に”害する者には立ち上がるが、私事の為に指嗾されないし、介入しない、とした。

 止血帝(エーリッヒ二世)の壮挙に賛同し立ち上がった功臣・三提督の一人、ローエングラム『侯爵』コンラート・ハインツ元帥が言い伝えたという台詞が続く。

「帝室の存続は一家の大事であるが、必ずしも国家の大事にあらず。……帝国軍は皇帝より賜りし剣を持って帝室に向ける事も加担する事もしない」

 建前論として、である。帝室の存続=皇帝の継承であり、国体とは皇帝の存在そのものであるし、社稷の守護とは皇帝により統治される全人類(忠良なる臣民)が対象となるのだから。

 但し、究極の選択を迫られた時の帝国軍の中立を担保する言い訳としてその後、実に重宝される一事であり続けた。

 この合意により、皇帝は帝室内の争いに帝国軍を巻き込まない限り、帝国軍の忠誠を一定程度確保できると安堵したし、帝国軍も帝室の勢力争いに中立である限り、皇帝からの信頼感を一定程度確保する事が出来ると期待した。

 

 

「銀河帝国軍は国軍である。これに尽きます」

「帝室の長たる(今上帝)陛下も勿論その旨、宣しております。大公殿下」

 滔々と帝国の歴史を紐解いて説明したミュンツァー中将の話は堂に入っており、士官学校の教官か史学講師のような安定感や興味を引く話しぶりに、マクシミリアン・ヨーゼフも引き込まれていた。

 

「つまり?」

 

「銀河帝国を守護する盾であり、仇名す者を討つ剣であります。同時にそれ以外に使われる事は御上と言えど叶わないのであります」

 

「内実は?」

 意地悪な気分になった大公は後先考えずに爆弾を放り投げる。

 

「…」

 

「上級大将?」

 ミュンツァー中将はマクシミリアン・ヨーゼフの隣で眉を顰め、溜め息を吐くステファンを見つめる。

 厳めしい顔から放たれる視線の苛烈さは、籠の鳥だった青年皇族を震え上がらせるに足るものであった。

 

「教育は受けておられる。遠慮はいらぬ。事、この件に関しては、御上の御意思も受けておるし、帝国軍の意義を尊重するとの内意を承っている」

 小さく溜息を吐くと、ステファンは迂闊な甥をあっさり見捨て、ミュンツァーに突き出すことにした。

 

「は。では殿下…」

 途中から、悪ガキへの躾と思い直したのか、皇族への態度としては度し難いレベルに圧迫して来た剛直の中将が散々にマクシミリアン・ヨーゼフを絞ると、別れの挨拶も慌ただしく、退出していった。聞けば、総督府へ赴くついでとばかりに、総督府管轄域に存在する警備管区の巡察も命じられており、総督府との連携について現地部隊との協議を任されているという。挨拶の往来に一週間も掛けたのも、道中の警備管区に寄っていたから、らしい。帰りは帰りで異なる航路を使い、寄っていない警備管区に顔を出すとのこと。(総督への)挨拶がてら、往復一か月近い長旅となりそうである、と総督とその叔父に嫌味を残して去って行った。

 有り体にマクシミリアン・ヨーゼフの総督稼業の尻拭いの準備を押し付けられていた、という事である。

 

 退席していった参事官を見送った執務室で、ステファンは嘆息した。

「しかし…中将。方面軍司令部参事官が挨拶か」

 儀礼的に口を付けただけで中身が冷え切った、コーヒーカップを見つめながら、方面軍との付き合い方について思案するステファン。

 絞られたはずなのに、反省した風情も早々に脱ぎ捨てた大公が不思議な顔をする。

「ミュンツァー中将が何か?」

 

「あの御仁、方面軍司令部の四席です。我々を警戒しているし、釘を刺しに向かわせた(方面軍司令部の総意)、と見るべきでしょう」

 帝国軍の辺境方面軍司令部の上席は、司令官、副司令官、参謀長(もしくは相当官)と続き、参事官が四位として配属される。無任所の参事官は大体何でも屋扱いされる、とステファンは呟く。

 

「そうなんですか?言いたくはありませんが、私(皇族)が総督として来たので、相応の士官を送って来たものだと…」

 

「そうであるなら、こちらから挨拶に出向くべきでした。口を挟むつもりも世話になるつもりも無いから(司令部に)寄らなかった事を変に勘繰ったのかもしれません」

 とは言え、私の名義で挨拶は送ったのですが。そうステファンはぼやく。

「所詮、上位者(上級大将)とて皇族軍人。本職、それも地方周りの歴戦の士官からすればまともに見られないのも仕方ありませんな」

 

「そんなものですか?」

 

「職務経験ゼロの皇子総督に皇弟の上級大将。先方からすれば、自分の庭先に、管理外の軍用ゼッフル粒子(マクシミリアン・ヨーゼフ)制御の怪しい信管(ステファン)がセットで来たのです。不安が募るので様子見に来た、と言ったところでしょう」

 私は制御不能の爆薬扱い?首を傾げる甥御を脇見しながら、ステファンはため息混じりに説く。

 総督の管轄地と方面軍の管理域は重複している。総督の管轄地にも当然のように方面軍に所属する帝国軍は駐留している。

 今回定められた総督令により、駐留部隊への指揮権を総督は持たない。もし、帝国軍を必要とする場合、その旨を添えて、方面軍司令部へ出動の請求を行うのが限界である。

 但し、あくまでも法令であり、法の運用には常に例外を想定するものだ。方面軍から見れば、”我々”は特権階級の方々にありがちな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()である、と警戒するのも止む無し。

「もっとも、彼らも自分たちの任地の内側で指揮下の部隊に(総督が)嘴を突いてくるであろう事など織り込み済みなのです」

 甥には伝えないが、軍中央(首脳部)の忖度人事の可能性が高い。

 ミュンツァー中将。直近の役職は帝都防衛司令部参事官。現在の役職、ヴィレンシュタイン方面軍への転出はマクシミリアン・ヨーゼフの総督就任に前後している。マクシミリアン・ヨーゼフの辺境赴任に伴い、発生が予想される、様々な厄介ごとの始末係として派遣されたと見るべきであろう。

 ミュンツァー中将が選ばれたのは、有能さだけでは無いのであろう、とステファンは記された彼の経歴から想像している。地方と中央を行き来する後方勤務主体の軍官僚。中央での閲歴は法務関係が多いが、地方の経歴は脈絡がなさすぎる。どう見ても左遷人事(ほとぼり冷ましのようなものから、懲戒未満のものまで)である。それでも返り咲くのだから、相応の問題児と首脳部からは見られているようである。だからこそ、今回の貧乏くじ(皇族総督の尻拭い)を引かすのに適当というわけか。

「ですが、方面軍を任地外へ引き連れて行く事や、逆に中央軍が乗り込んでくる事態は許さない」

 譲れない一線をステファンは甥に伝える。

 

「…」

 

「上層部は『オーディンのお家事情』については十分以上に熟知しています。当事者となっている大貴族以上に。当然、関係者(マクシミリアン・ヨーゼフとステファン)が来る、ここの方面軍司令部の将官には中央から注意喚起がなされています。重々に」

 ミュンツァー中将を通じて、軍中央はご当地の部隊の引き締めや方面軍の総督府窓口の一元化も狙っているのかもしれない。

 

「叔父上?つまり帝国軍は帝室のお家争いには介入しないし、巻き込まれるのも良しとしないと?

 そう言っているのですか?」

 

「然り」

 

「わざわざ私にすら高官を派遣してまで念押しですか?」

 

 大人げない。そう疑わしい顔を作る大公にステファンは呆れた顔で応えた。

「そうです。殿下の御父上(フリードリヒ三世)という立派な実績がありますからな。彼らも必死なのです」

 

「…ぉぅ」

 

 

 

「ただいま。…て」

 家族を迎える挨拶。

 ジークリンデから聞いていた、庶民たちの当たり前のやり取り。皇族の端くれであるマクシミリアン・ヨーゼフにとってそれは、新鮮で想定外で、それでいて眩しい習俗に見えた。ジークリンデと結婚した時に彼女に強請って始めてもらったが、殊の外、マクシミリアン・ヨーゼフはこれを喜んだ。

 

「おかえりなさい。あなた」

 

「「おかえりなさいませ、殿下」」

 玄関ホールで妻を筆頭にすぐ脇を固めるのはオーディンから着いて来た妻の侍女たち。さらに後ろに並ぶ真新しいお仕着せに着せられた年若い男女の侍従侍女たち。

 

「こちらは?」

 

「うち(別邸:マクシミリアン・ヨーゼフ大公家)で雇うつもりの家人たち」

 

 内心で首を傾げるマクシミリアン・ヨーゼフ。妻が主導で”屋敷の掃除”をするとは聞いていたが、家人の募集を掛けるとは聞いていないはずだった。

「…何時の間に?」

 

 夫の疑問に半身を翻し、後ろに控える者達を見渡してから答える。

「うちに潜り込んで来たのから、使えそうで、裏切らないように躾ける事が出来たのを、ね」

 後、男性は叔父様(ステファン)に相談して、奥向き(家事)用に、総督府で不採用になったが、目がありそうな人間の紹介状を回して貰った、と彼女は告白した。

 

「えぇ…」

 という事は、彼ら彼女らは貴族子弟ってこと??

 ジークリンデによる上下関係の仕込みは完了ということ?

 ()()は妻に任せると決めた以上、全幅の信頼の証として黙って頷く事を自身に課すと決めていたマクシミリアン・ヨーゼフは追認するしかなかった。

 後から振り返れば、引っ越し先の先住者たる辺境貴族の子弟を雇うという事は、そのまま貴族家との伝手を作る事になったし、門閥形成のとっかかりにもなり得たので、妻の英断と褒めちぎるしかなかった。

 




貴族に労働者保護法は適用対象外(必要と自身で判断した分だけ働けば良い
多分同盟に比べてお偉いさんが早世しがちな要因。

ゴールデンバウム朝関係者の家系図について

  • 入り乱れた家系図は好物
  • ご先祖様自慢は一回で十分
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