帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

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解き放たれた彼女が本性()を(ちょっとだけ)剥きます(敵味方関係なく)


13.合同時々野合

 

 800隻程度の救援船団(過半以上が輸送船舶)に対し、5000隻の正規艦艇で構成される帝都防衛艦隊。

 兵数差から包囲しても良いのだが、動くに動けない。

 ただし、帝都防衛艦隊としては船団(とマクシミリアン・ヨーゼフ大公)を帝都に近づけさせなければ、それで任務達成できるので、膠着するならばそれはそれで良しとしていた。

 

「向うは交渉の余地が無いかな?」

 

「帝都防衛艦隊の指揮下に入るという要求に対する承諾以外の通信は受け付けない、の一点張りです」

 救援船団の頭目(マクシミリアン・ヨーゼフ)腹心扱い(されると迷惑であると憚らない)(オスヴァルト・フォン・ミュンツァー)の軍人は帝都防衛艦隊との対峙に手も足も出ない。

 とは言うものの、素人の欲目で、隙があるのではないか、という事で、ちょこまかと動かしては、帝星に近づけないか試してみるように船団を動かしていた。

 

「方面軍経由は?」

 

「(帝国軍上層部からは)これ以上の接近は勘弁して欲しいとだけ」

 当然、職業軍人で構成され整備も訓練も十分な帝都防衛艦隊の方が艦隊機動は救援船団の倍以上の早さを誇っており、容易に追従し、帝星への接近を防いでいた。

 

「…強引な前進は?」

 自分たちを容易にあしらう、帝都防衛艦隊に総督は強行策を口にする。

 

「お勧めしません。兵数差から撃沈するリスクを避ける選択肢(接舷・乗り込み制圧)を取られるだけかと」

 肩を竦め、諦めるようにミュンツァーはマクシミリアン・ヨーゼフに答えた。

 

「電子戦はいけるかな」

 

「内容や程度にもよりますが、一時間持てば良い方でしょうな。その程度の時間稼ぎでは、あの艦隊を出し抜く事はできません。

 そもそも、これだけ騒がしくしておいて、索敵妨害も何もあったものではありません」

 当事者間でも通信のやり取りをし、それを数倍する正規の通信を後方と行い、数十倍する接触を求める表立たないような通信が救援船団に向けて飛んでいる。それは帝都防衛艦隊も大して変わらない、そうミュンツァーは睨んでいた。

 一方的に悪い事態とも言い難かった。

 邦地に残ったステファンが、辺境の中立勢力を纏め上げ、賛同者達を組織し暫時、物資や人手を送り出しはじめていたからだ。

 隠すどころか、道中も大声を挙げて上京するマクシミリアン・ヨーゼフ大公御一行の船団は目立っており、少ないながらも賛同者(お調子者)が合流してきたので、時間経過とともに総督の勢力は質はともかく数はゆっくりとだが、増加傾向にあった。

「とにかく、帝都防衛艦隊(彼ら)が総督殿下を無視なさらない程度に動きましょう」

 

 

 進退窮まったのはインゴルシュタットも同様であった。撃滅(マクシミリアン・ヨーゼフを殺す)は最後の手段であり、何より、他勢力のこれ以上の帝都への参入を防止するのが至上と命じられている。

 深刻な問題として、執政府の機能不全に巻き込まれキフォイザー星域の恒星間航路管制が事実上の機能停止に追い込まれ、キフォイザー星域方面の航路に穴が開いている。総督救援団の情報が広まるにつれ、開いた穴から零れだす水のように中央星域への通信と宇宙船の流入が加速していた。

 超光速通信(FTL)を中心に総督の救援活動について箝口令を強いているが、人の口全てに封をする事はできない。人伝に、宇宙船を乗り継いで総督の噂は着実に、むしろ加速しつつ拡がっている。それに併せるように、ヴァルハラ星域へ侵入を試みる宇宙船の数は増加の一途を辿っており、インゴルシュタット率いる帝都防衛艦隊以外の予備兵力は、取り締まりに奔走している状況となっていた。

 

 そんな彼の足元を見るように先方(マクシミリアン・ヨーゼフ)から厭らしい「助言」が届く。

「このままでは、統制が効かず、三々五々帝都へと救援に向かわざるを得なくなる。まして、戦端が開かれてしまえば、参加者の意思次第(抗戦、報復、逃亡(海賊化)や救援継続)で動き出して収拾がつかなくなる可能性が大なり」

 終わりの見えない対陣というのは時に戦闘中より精神的な疲労を招く。そして、様々な勢力からのプレッシャーに掣肘されるインゴルシュタットは同時に足元(自らが指揮する艦隊)の統制にも悩まされている。帝都で争う勢力の意を汲む者達が紛れ込んでおり、勝手働きをしでかそうとする。部隊単位は流石に無いが、個艦単位、巡航艦や駆逐艦と言った中小艦レベルの指揮官では命令違反で現地解任・監禁する案件が複数発生している。

 予期せぬ一撃が致命的なイベントを招来しかねない状況に耐えきれないと、接舷乗り込み制圧を覚悟しつつあったインゴルシュタット提督に衝撃が襲い掛かる。見た目は雑多ながら、規模だけは立派な艦隊が狙いすましたようなタイミングと方向から挟撃するように帝都防衛艦隊の側背から現れたのである。

 

「未確認の船団が艦隊後方より接近してきます!」

 

「どういう事だ?外縁の帝国軍は機能していなかったのか?」

 インゴルシュタット提督の疑念は中らずと雖も遠からずであった。

 中央星域に展開している帝国軍は三々五々流れ込む救援希望者の監視・取り締まりに奔走しており、肝心の上層部が沈黙する事で普段より遥かに情報連結の精度も量も速度も低下していた事が大きな原因だった。

 ついでに言えば、対面する総督の救援船団から低雑な電子戦を仕掛けられたり、ちょこまかと移動するのに対応を強要させられて気が散っていった事も災いしていた。それ以前に手足を縛られて対峙せざるを得なかった帝都防衛艦隊こそが被害者と言うべきであった。突然現れたかに見えた一団は実は通報はされていたのだ。他の同様の通知に埋もれた事、少なくない数の遭遇した帝国軍部隊が保身感情を刺激されて、航路妨害すらせずに通報に留めていたことに、より多くの責任を求められるべきであった。

 各担当者達の消極的態度と保身主義により、帝都防衛艦隊の側背から現れた(ように見えた)艦隊がまんまと奇襲に成功したと評するよりも、帝国軍の失態の重なりが呼んだ結果と言うべきだった。

「司令官。数は5000隻を越えます」

 ヴァルハラ星域で一等真面目な軍人たち、帝都防衛艦隊の動揺を大きくする事態が襲い来る。

「司令官!先方から通信が。それがその、帝国軍の正規通信コードを用いています」

 

 もう、何となく分かってはいたが、事実を求めるインゴルシュタットは答えを待つ。

 

「マクシミリアン・ヨーゼフ殿下救援船団別動隊と名乗っております」

 

 無言で天を仰ぐインゴルシュタット。

 

「それと、後方の船団に所属?している帝国軍艦艇より、秘密通信が」

 

「どういうことだ?」

 

 それは、一隻だけではなかった。複数の艦艇から、複数のコードを用いて、帝都防衛艦隊に秘密裡に連絡を取ろうとする者、一方的に内容を送りつける者様々であった。

 結果を集約したインゴルシュタットを始めとした帝都防衛艦隊司令部の幕僚達は最初困惑し、情報を精査、再構築を進めるごとに絶叫する。

「呉越同舟どころではないではないか。こんな不発弾を纏め上げたような危険物をヴァルハラ星域に持ち込むな!」

 巻き込まれ、なし崩しに別動隊の護衛任務を請け負わされた帝国軍艦艇からは、船団内にヘルベルト派閥の諸侯が参加していることが伝えられた。

 参加したヘルベルト一派のある諸侯からは、船団にリヒャルト派閥の貴族船がいると通報があった。自領で物資と兵を纏め上げたが、帝都に向かう術の無かった連中が何食わぬ顔で参加しているという。

 絶句し立ち竦む帝都防衛艦隊の幕僚達に、指揮官の義務から真っ先に再起動を果したインゴルシュタットが問いかける。

「で、分派の指揮官はどういう方針で引っ張って来たんだ…」

 

「その…救援船団別動隊の司令部を名乗っておりますが、その…」

 

「はっきりしろ」

 

「インゴルシュタット提督宛てに直接送られるので、署名を確認して欲しいと」

 

 慌てて、報告書レベルの通信内容を検めるインゴルシュタット。署名者を見て嘆息する。

「パッセンハイム提督…なんで居るんだ。執政府の軍事顧問のはずだったが…」

 旧知の、執政府に派遣され現地軍の統括と調整を任務としているはずの帝国軍人が、呉越同舟の所帯に居る事にも驚いたが考え直す。彼ら帝国軍人が居るからこそ、無法者集団と化すことも遭難することも防いでいるのであろうと。

「…」

 報告書を読み進めるごとに、何度目かの絶句に及ぶインゴルシュタット提督。

 別動隊の首領である、マクシミリアン・ヨーゼフ大公妃(ジークリンデ)は確信犯的に連れ込み、巻き込んでいるらしい。

 航行中・帝星降下後、マクシミリアン・ヨーゼフ大公の指示に従う事。真の所属については白を切る限り、(敵対)派閥に属している事を理由に罰しない。(ギリギリまで日和見して良いと認めている)

 降下後、帝都の騒乱に加担しない限り、それ以前の罪は問わない。(物資の搬入とか証拠隠滅くらいなら大目に見る)

「なんという無茶苦茶」

 機先を制する限り、問題を問題としないと言うのか。

 インゴルシュタット提督はジークリンデの、マクシミリアン・ヨーゼフ一党の作戦に慄然とする。

 悪さをする暇を与えず、状況を決すれば良いというのか。

「そうなのだろうな…」

 一時的にでも帝都の騒乱を鎮めたという状況を現出させれば、後は現地に駐在する帝国軍を再起動させ、その後の任務を引き継がせれば彼らとしては勝利なのだろう。帝位争いならば、中途半端な結果となるが、騒乱を鎮め臣民の救助を進めるだけなら、これでいいのだろう。最悪、戦闘が再開されたとして新無憂宮内に抑え込み、皇太子(と皇太后)の安全が確保出来れば、許容被害と見做すという。(現地の帝国軍が機能再開すれば、可能であろう)

 潔いまでの割り切りである。正しく独裁官(ディクタートル)に求められる決断力と言えよう。

 そして、ここでの対陣も計算づくだったのだ、と臍を噛む。

 隠しもせず派手に通信が飛び交っていたのだ。遠くからでもこちらの状況は容易に把握できたはずだ。

 後は膨れ上がった別動隊が最高の方向から乗り込んでくるタイミングを計りつつ、マクシミリアン・ヨーゼフへの注意を維持させながら時間を調整するだけで良い。

 配下の別動隊の潜在的敵対者が秘密通信を飛ばしている事も半ば黙認していたのだろう(止める事も不可能)。こちらが秘密通信に掛かり切りになって注意が情報の精査に向いている間に距離を詰められていた。統制の取れた機動戦を行うには相当に厳しい距離である。

 

 同時にインゴルシュタットは決断を迫られている事を報告書と状況から読み取っていた。

 敵として船団を攻撃したとして、収拾がつかなくなる。ヴァルハラ星域の宙域が一時的に制御不能となる事態は致命的だ。今はまだ、中央の制御下にあると見做されているから、帝国全土も落ち着いて事態を注視しているが、一時的にでも中央との接続が切れるような事態が起きれば、帝国軍や中央政府の制御下から外れたと見る諸侯が出て来るやもしれぬ。それに、あの船団には三桁単位で諸侯かその有力縁者達が乗り込んでいる。貴族の比率もそれはそれは凄く高い事になっていよう。そんな船団を無差別に攻撃などすれば、被害者貴族名簿の中身によっては自分どころか、元帥の首を並べても足りるかどうか…攻撃するにしろ、しないにしろ、帝国の統一を揺るがす事態へと発展する危険が生まれる。

「まだだ。まだ負けたわけではない」

 引く事が出来れば。こちらは余裕があるのだ。帝都までの距離も兵力も時間すらも。ここで引く事も下がる事も頭を下げる事すら敗北を意味しない。…そもそも敗北とは何だろうか?

 インゴルシュタットの脳内には、一提督が決断するには重すぎるテーマが占めようとしていた。

 

 帝都防衛艦隊を挟撃する形で現れた援軍に救援船団本隊側が喝采していたか、と言うと、さにあらず。

 むしろ困惑の色合いが強かった。

 なんだあれは?数が想定より多すぎ、どうなってんだ…。いや、でも…あのお人居るし…まさかね…

 ざわめきと動揺が救援船団旗艦の司令部内を席捲する。

「聞きたくない。…聞きたくないけど、聞かざる訳にもいかない…」

 

「殿下以上に相応しい聞き手はおられないでしょうな」

 道中、大公殿下の軍事的な参謀役と副官役を急遽、仰せつかったミュンツァー中将は顔面の筋肉が痙攣するのを自覚した。

 

「殿下!別動隊より通信です!」

 

「(船団)司令官を通せ。総督殿下に指揮権は無いのだ」

 

「いえ、それが。…その、殿下を名指しでして。先方の部隊指揮官の副署付きなのですが…」

 

 困惑と恐怖で泣きそうな通信士官から宛書を受け取り一瞥したミュンツァーは無表情になり、総督に手渡す。

「殿下。殿下の運命が人の形を纏って来ましたぞ。御覚悟なされませ」

 

「…」

 黙り込んだ総督を見つめる司令部内の人間たち。

 もういいだろう。待っても話が進む訳でもなし。むしろ、待たせる事で(あちらの)御機嫌が悪化するのは確実である。どうせ、責められるのは最上位者(おっと)の仕事なのだ、さっさと済ませてしまいましょう。総督にそう言い放ち、本人に確認も求めず、通信を繋ぐよう指示を出すミュンツァー中将。

 

「あなた!わたしが呼んでいるんだから早く出て頂戴。戦は拙速が命なんでしょ!

 手伝いに来たわよ!間に合って良かったわ。仇討ち合戦じゃ間抜けに過ぎるわ」

 画面には、痙攣する顔面を必死に凍り付かせた本職の軍人達を背に控えさせ、見事な女提督ぶりを見せる大公妃殿下が大輪の華を咲かせていらした。

 

 

 

 

----§----

 

 

 

 

 マクシミリアン・ヨーゼフ大公(おっと)とバルトバッフェル侯爵ステファンの連帯保証を突き付けて、ヴィレンシュタイン方面軍から少数の快速艦艇部隊を護衛に借り受けたジークリンデは、ステファン経由でバルトバッフェル侯爵の寄り子の貴族たちに檄を飛ばして領邦軍を参集させながら、大公の後を追った。どうせ間に合わないのだからと、総督の航跡を追わず、わざと迂回するように移動させる。

 最初の大きな目標は執政府。

 事前通知の無い、不明船団、それも武装艦艇を含む集団がおおよその航路から推測するに執政府へと近づいてくる。

 主が頓死し、空中分解しつつある執政府では益々の混乱が沸き起こる。

 

 そこに彼女は、マクシミリアン・ヨーゼフの決起を宣言すると同時に、ヘルベルトの家族を保護している事を告げて揺さぶりを掛ける。

 ヘルベルトシンパの者達にとっては効果覿面であった。

 どうにか帝都に駆け付けたかったが、帝国軍の監視を逃れながら帝都まで向かう術の無かったヘルベルト派閥の貴族達は便乗しようとした。(マクシミリアン・ヨーゼフに)人質を取られたと見做した者も居たが、少数派故の交渉術と解釈した貴族たちが圧倒的だった。とにもかくにも、リヒャルト派閥に勝つまでの野合である。

 同時にリヒャルト一派も便乗した。なに、帝都に着くまでの間だ。嘘も方便、(リヒャルト大公からの)お叱りは援軍と勝利でお許し頂けるであろう。

 隣の潜在的敵対者を見ない振りをしながら白々しく、総督殿下の御心に心打たれたと称して、大公妃殿下の後を追う。

 そして、中央への伝手を作りたくて仕方ない辺境貴族達にとって、誰の旗であろうと帝都に立ち入られるのであれば構わない。現在の帝室の御家事情や中央貴族界の事情に疎い辺境の者達もまた、ジークリンデの下に群がる。

 混乱し、渋る執政府に対して、ジークリンデは囁いた。

 腹に一物と未練を抱え、統制に苦労する者たちを私に押し付けてしまえ、と。

 バルトバッフェル侯ステファンが代理人を勤める総督府からは、このまま、なし崩しに管轄域を混乱させれば帝都の騒乱がどのような形に終わるにしろ、後で中央から弾劾される。まして、混乱が叛乱にでも繋がれば、大事となって処罰の対象となってしまいかねない。様子見に徹するにしろ、支配地域の安定化こそが肝要である…と。

 付き添いで付いて来たヴィレンシュタイン方面軍からも非常に消極的ながら、執政府配下の帝国軍に同様の働きかけを行った。

 中央の支援が望めず、指示も来ない中で、孤立し忘れられつつあった彼ら執政府の官僚・軍人達は呼び掛ける、総督府とヴィレンシュタイン方面軍の誘いに乗っかる事にした。組織人としては、独りより二人、つるんで群れた方が安心感は遥かに高い。

 こうして、帝都に未練を抱える連中を放出・黙認する事にしたが、そんな執政府の保身と帝都に乗り出そうとする無法者?の集団(別動隊)の無謀(な航海)に見て見ぬふりもできず、ジークリンデの恫喝(もとめ)に泣きながら付き添ったパッセンハイム提督他少数の軍人達の必死の指揮の下、救援船団別動隊は中央に近づいていった。

「不敬と承知で告白するならば、地獄へ向けて進撃する魔女に率いられた悪夢の集団(高貴なる自殺志願者たち)

 後に報告書でこの時の航海に関してパッセンハイム提督が懲戒覚悟で記した一文である。叛乱未遂、不法船(宇宙海賊もしくは敵対勢力)の襲撃、遭難未遂。凡そ航海で考えうる、あらゆるインシデントが起きたと記される。準備もそこそこに、勢いで進み無計画に拡大していくのだ。それはそうもなろう。

 

「指揮官先頭なんでしょ。女の背中に隠れないと先にも進めない(者達ばかりな)のだから、私が立つしかないじゃない?」

 パッセンハイム提督他帝国軍人の常識(と貴族たちの常識)を一万光年の(はるか)彼方に蹴り上げて、大公妃は嬉々として陣頭に臨む。時に最初から付き添って来た地上軍と共に制圧しに敵船に乗り込んだり、軍艦に搭乗して疎らながらも砲撃飛び交う前線に立つものだから、付いて来た者達は目を回しながらも必死に立ち向かわざるを得ない。そんな彼女の姿に中てられ(脳を焼かれ)て、彼女に心酔する者どもが出て来る始末。丁度良いとばかりに軍人達に()()教育を命じ、軍の指揮も学べて実践も叶い、御満悦のジークリンデであった。

 道中、近傍の帝国軍や真っ当な貴族の領邦軍は正体確認のために近づき誰何する。普通は余計なトラブルを怖れるようなものだが、ジークリンデは尋常ではない。

「辺境総督マクシミリアン・ヨーゼフ大公が帝都の動乱から無辜の民を救い給うべく、単身京師に上られておられる。マクシミリアン・ヨーゼフ殿下は帝都で兵乱を起こしている者どもとは違うぞ。ただただ、巻き込まれ傷つき、斃れる臣民を憐れみ救い給うと、制止も振り切り向かわれた。

 そうだ。不用な戦に巻き込まれた者達を救うことだけを願っておいでだ。帝位を欠片も望んでなどおられない」

 貴婦人向けの女性用軍服を纏う美人(ジークリンデ)が蒼白ながら決意もあらたな表情で宣うのだ。(彼女の後ろで立たされた、顔面蒼白のパッセンハイム提督他帝国軍人達を見て帝国軍公(黙)認と勘違いを誘発させる)

 

「戦うためではありません。帝都の臣民を救うために物資と人手を集めながら向かっております。心ある軍人も、高貴なる義務を背負う方々も、救いに共に参りましょう。一人でも人手が必要です。ささやかな物資でも助かります。今帝国を案じる、正しき方々の想いを果せるのは、マクシミリアン・ヨーゼフ大公殿下だけです」(悲痛な表情のパッセンハイム提督がジークリンデに見えない所から首を振るが、お調子者は減るどころか増えていく)

 

「心ある者、静謐を願う者、安寧を欲する者、戦いではない何かを求める者は付いて参れ、勇士は大公殿下の御旗の下に帝星に参ろうぞ!」(悪夢のような船団管理に絶望の余り涙が止められないパッセンハイム提督他帝国軍人を見て、ジークリンデの決意に感涙したと勘違いして参加を希望する愚か者まで付いてきた)

 

 勿論、機会主義者やお調子者ばかりではない。むしろ真っ当な者達の方が多かった。だが、貴婦人かつ美人に誘われ煽られて、断るのも立ち去るのも面子に多大な傷が付く。まして、立ちふさがるのは、第三者から見ても大変体裁が悪い。何より、雪だるま式に膨れ上がり続ける(混沌とした)巨大な船団を前にして怖い。

 放置され立ち尽くすだけの辺境の者たちに中央に立ち入る理由を持ち込んで、巻き込む事を図ったジークリンデは近寄る者たちを巻き込んでいく。中には、航路封鎖で立ち往生していた輸送船舶すら便乗しようと群がるものだから、中央に近づくにつれ加速度的に巨大化していった。膨れ上がる救援船団は巻き込んだ帝国軍を護衛役に勝手に仕立て上げ、船団司令部に合流させる。通報を受けた各地の帝国軍司令部が連絡を取ると、これ幸いに総督殿下の建前(論理)を振りかざし、逆に支援を求める。(中には疫病神(ジークリンデ)と関わりを避けるべく、見ないふりをして通す帝国軍部隊も出始めた)

 次から次へと巻き込み合流させた軍人の中から、適当な人間、高位の者を見繕っては脅して司令部に連れ込めば、あれよあれよと規模と質だけは十分な船団司令部が出来上がる。

 見た目は雑多ながら、規模だけは立派な艦隊が狙いすましたようなタイミングと方向から-挟撃するように-インゴルシュタット艦隊の側背から現れた顛末である。

 

 

 インゴルシュタットとしては、数だけなら帝都防衛艦隊を越えた救援船団を内に迎え入れ監視してしまおうという考えに傾きつつあった。そうでも無ければ、統制から外れて三々五々動かれればもう収拾が付かなくなることは火を見るよりも明らかであった。今も、救援船団の後を追うように外縁部の帝国軍の監視網を抜けた宇宙船が集まってきており、この宙域で立ち止まるのも危険な状況になりつつある。

 決意を伝えるべく、再度の連絡を求めようとしたインゴルシュタットに大公夫妻の漫才の体を為した提案が届いた。

 

「あら、丁度手頃な方々が揃ったんだから、(帝都防衛艦隊に)面倒見てもらいましょうよ」

 

「それがいいか…」(モニター越しにインゴルシュタットを見ながら)

 

「勇士の皆様の必死の努力でここまで来ましたけど、本職の方々がいるなら、そちらにお任せした方が安心ね」

 

「それもそうだね。では言って来よう」(インゴルシュタット提督を見つめて)

 ちょっと足りない野菜を買い足しに、近所の八百屋に行って来る、というようなやり取りをした後。

 堂々と帝都防衛艦隊旗艦戦艦カッセルに乗り込んで来た大公に、迎え入れたインゴルシュタットは、苦渋を顔面で表現するとそうなる、という体であった。

「インゴルシュタット提督。聞いても構わないよ。直答を許す」

 さぁさぁ、聞きたい事があるんだろう。にこやかな薄っすらとした笑顔を浮かべてマクシミリアン・ヨーゼフはインゴルシュタットに促す。

 

「…恐れ多くもお尋ねいたします。新無憂宮は殿下の救援の対象でしょうか?」

 

「最優先ではない。必要が無ければ立ち入らないと約そう」

 

「必要とは?」

 

「…今の君には教えられない。君は同志ではないから。

 …ただ、そうだな。君ら宇宙軍が新無憂宮に踏み込む事はどのような状況になったとしても有り得ない。これが私が今出せる最大の妥協点だ」

 

「…」

 

「提督。私は臣民を救いたい。我々皇族の愚かな争いに巻き込まれて死ぬ者は誰も出て欲しくないし、一人でも減らしたい。

 君と私はこの想いにおいて、同意できるのではないか?」

 

 軍上層部の持つ最後の即応予備戦力が1万隻。ヴァルハラ星域の重要施設に分散配備されていて、纏まって指揮する事は難しい。現在は帝都に立ち入らんとする者たちを押し止めるのに躍起になっている有様であった。それらの施設や航路管理を放棄する前提で帝星に集中すれば、帝星の封鎖や防衛も可能かもしれない。それは、ヴァルハラ星域の航路管制を放棄する事に等しい。物資の搬入も止める事に繋がる。輸入超過の帝星でそれは自身の首を絞める事と同意だ。そこまでの決意(かくご)が出来る軍上層部なら、こんな保身に走って今も右往左往などしていない。

 何より、軍が手を付けられない、帝都を救う為の手筈を整え、ここまで来たマクシミリアン・ヨーゼフを拒否する事に、インゴルシュタットはもう嫌気が差して来たのだ。

 帝都を灰にするまで放置するのも。

 玉座争いの果てに帝国が分裂するのを傍観するのも。

 帝国を守るため、時に挺身するのも帝国軍人の勤めである。例えそれが不名誉な同僚からの断罪の銃弾によって果てるとしても。

 インゴルシュタット提督は軍中央でも期待と評価の高い指揮官である。決心すれば迷わず行動に移す事において、人語に落ちない。

 

「帝都の騒乱を鎮めて頂けるのであれば。殿下と救援船団の護送を承りたく存じます」

 苦渋に顔を歪めたまま、インゴルシュタット提督は最終回答を出した。

 その答えに対し面白そうな顔をする大公。

「ミュンツァー中将と同じことを言うね。やはり出来る軍人は似通る、という事かな」

 協力感謝する、帝星までの護衛を宜しく頼む。

 そう言って。さっさと艦橋を後にするマクシミリアン・ヨーゼフは、インゴルシュタット提督の顔をよく見る事はなかったが、ピシッと固まったインゴルシュタットと、ドン引きする幕僚たちが後に残された。

 




彼女(ジークリンデ)にとっては、大変楽しい練習航海だったようです(白目
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