帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

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(はし)


17.ワルキューレの騎行①

 それを最初に見たのは摂政が執務をするにあたり定めた宮殿前で、入館手続きをしていた秘書官だった。

 平時に比べて新無憂宮全体に近衛全軍が集中配備されているとは言え、全てを護れるほどに新無憂宮は狭いものではない。皇太子宮殿周辺と皇帝の住処たる中央の宮殿を重点的に警護している状況で、摂政が執務の為に詰める宮殿においては、バルトバッフェル領邦軍の生え抜きと、ヴィレンシュタイン方面軍からの付き合いもあり、個人単位で意思確認済みの地上軍擲弾兵1個中隊が警護するだけであった。武装勢力と区画警備隊を追い出す以上、自分たちだけが大軍を持ち込むのは如何にも体裁が悪い。何より、停戦を果し、終戦処理へと移行しようとする摂政の周囲に警備を多く侍らせるのは、(わら)われる。そう言い、近衛に警備を委託する、という体で自身の警備を抑制することを呑んだのは摂政マクシミリアン・ヨーゼフ大公自身だった。

 ライフルや擲弾筒を担いだ、服装も装備もバラバラな者たちが走り寄ってくる。宮殿入口の正門前で警備していた兵士が誰何の声を上げると同時に武器を構え引き金を引いたのだ。

 正門警備の兵士が崩れ倒れた瞬間に、宮殿入口前の受付で立哨していた兵士が警笛を吹きながら銃を構えた。撃たれた兵士が崩れ落ちるのを目の当たりにして硬直していた秘書官を持ち物検査していた兵士が腕を掴み引き寄せ、建物の陰に引き倒す。引き倒された秘書官が顔を上げると、切迫した表情の兵士が額がこすれる程に顔を近づける。

「殿下にお伝えせよ!…俺が行け、と言ったら走れ!」

 充血した目で秘書官に叫んだ兵士がライフル銃のセーフティを確認し、外を見遣る。

「行け!」

 終わったはずの何かがまた始まったのだ。秘書官はただ、言われるがままに宮殿内に飛び込み、主に注進するべく走り続けた。

 

 秘書官が摂政執務室に飛び込んだ時点で、マクシミリアン・ヨーゼフは複数の経路から自分が実力行使の対象となっている事を知り得ていた。

 

「殿下を避難参らせよ!」

「既に正門前は封鎖されたと!」

 最後に入口前受付からあった連絡では、もう暫く抵抗した後に宮殿入口を放棄し館内で遅滞戦闘に入る、とのことであった。

「他は…」

 摂政執務室に駆け込んで来た当直士官が青褪めた表情のまま防衛体制について指示を出し続けているのを見ながら腹心たちは動揺しつつ発端を探る。

「どこから湧いてきた…」

 摂政の直属警備の数は抑制したが、新無憂宮全体の安全確保の為、帝都周辺に分散配置していた近衛軍はほぼ集結させていた。新無憂宮全体を警備しており、外部からこれほどの数の敵兵がいきなり執務宮殿まで押し掛ける事は不可能なはずであった。

 

新無憂宮(ここ)には、歴代の皇帝の命で作られた、秘密通路や脱出手段が無数に張り巡らされている。そういう与太話や伝説があるんだ」

 

 よりにもよってそんな与太話を口走ったのが、摂政自身(皇族)だったので、周囲の者達は黙って発言者を見つめる。

 同時に彼らは犯人が誰かも想像が付いた。誰が手引きし、誰が実行したのか。主従は異なれど、それぞれの持つ知識なり実力を組み合わせない限り、こんな事は実行できないので。

 

「…」

 マクシミリアン・ヨーゼフは思った以上に自身が落ち着いて居る事に驚いていた。残念だな、という諦観を含む感情が多分に含まれていた。はて、誰に対して心残りがあるのだろうか。

 傍から見れば、主君が超然としているように見えた彼らは動揺を抑え込み、自分たちに今求められている事を考え口に出す。

「とにかく!立て籠る準備を!」

 

「た、確かに。装備を探して参ります。あと人手も!」

 それはいつも、総督殿下と一緒に行う仕事であった。

 無い無い尽くしの辺境である。使えるなら、貴族だろうが平民だろうが使い倒すのが流儀である。

 

「家具や机を正扉の前に立てかけましょう!」

 警備主任の指示や助言の下、文官であるマクシミリアン・ヨーゼフの秘書官たちも立て籠もる準備に駆けだす。

「人が通れる分だけ開けられるように。他の連絡扉は塞ぎます」

 だからこそ、彼らは少しだけ落ち着きを取り戻す。そうこれは、いつものこと。

 出来ることを精一杯。足りないのはいつも通り、手元不如意なら外から持って来るだけ。必ず外部は気づいて助けに駆け付けるはずなのだ。

 

「外への連絡隊を募る!宮殿の土地勘が少しでもある者を一人は混ぜよう」

 

「皆…」

 マクシミリアン・ヨーゼフはここに来て、空中分解も覚悟した。だが。

 彼らはマクシミリアン・ヨーゼフに賭けた者たちであり、今まさに文字通りの一蓮托生と化したのだ。

 

「不敬の極みですが、これで殿下への仕官を要求できます。総督府出仕だと、殿下が離任されたら終わりですし、いつ願い出るか悩んでいたのですが」

「ま、私に何かありましたら、恩典は妻子に下賜頂ければ十分でございますので」

 

「お前達…」

 

「何より」

「殿下を生きて妃殿下にお返しせねば、絶対殺されます」

 ジークリンデを知る者たちは遠い目をしながら薄ら笑いを浮かべる。

 

「まこと。何があろうとも、(殿下を)お護りせよ。さもなくば死して後、ヴァルハラに拐されて殺される事になりかねん」

 

「死後も殺されるくらいなら皇帝陛下であっても立ちはだかざるはなし、でございますな…」

 まこと不敬の極みながら、先帝陛下は既にヴァルハラの住人であらせられる。はは、確かにそうでございました。であれば、玉体と対面する時はあの世というわけで。拝謁しないように抵抗いたしましょうぞ。

 不敬罪で死を賜う以前に理不尽な死が迫っている中で冗談を言い合う同志たちを腹心格の一人が叱咤激励する。

「よし、口と同じくらい手も動かせ!」

 

「諾!」

 

 まだ彼らは足掻く事にした。諦める訳にはいかなかった。

 負けが決まったわけではない。何より死が決まったわけではない。

 

 

 

 

----§----

 

 

 

 

 騒動は天空の更に先、宇宙からも観測された。

「新無憂宮で爆発光に火災煙だと。もう鎮火したはずでは」

 俄かに戦闘再開の狼煙と思しき光景が、よりにもよって新無憂宮で観測された事で忙しないながらも、どこか緊迫感を喪っていた帝都防衛艦隊司令部(救援船団統合司令部兼務)に戦場の空気を再び沸き立たせた。

「摂政殿下が御座す建屋周辺です…」

 

 観測班からの続報に、インゴルシュタット提督は即座に指示を出す。

「…偵察巡航艦を新無憂宮上空に移せ。精密偵察を実施する」

 

「提督。新無憂宮上空は高衛星軌道まで侵入不可宙域です」

 新無憂宮の直上は航空規制はおろか、衛星の運行軌道も禁止される徹底ぶりである。皇帝陛下の頭上を飛ぶのも見下ろすのも不敬である、という理由で。

 

「それは平時の規制であろう…今は有事だ。構わない。情報が必要だ。地上部隊との連携も必要だ。移動させろ」

 

「宇宙艦隊司令部から直通電!待機命令来ました!」

 今さら。インゴルシュタットに伝える通信士官は不満の表情を隠せなかった。摂政殿下と合同して以降、帝都防衛艦隊に対し具体的な指示も出さず(不満や文句は流れて来たが)に沈黙を守り状況を見守るだけだった宇宙艦隊司令部が足を引っ張ろうとする時だけは機敏に、最低のタイミングで命令してきた!

 インゴルシュタットは地上を睨みつける。その先に宇宙艦隊司令部があり、長官が足を引っ張ろうとしていたからだ。しかし、ここで止まるような軍人ではなかったからこそ、今この場に指揮官として立っているのだ。宇宙艦隊司令部を無視し、艦長に命令を下す。

「…艦長。司令官権限で旗艦を移動させろ」

 

「……わかりました…」

 

 ここで、別の士官がインゴルシュタットの抵抗を打ち砕く報告を告げる。

「…ダメです。統帥本部から凍結命令が出されました。現宙域での完全待機です」

 ざわつく艦橋。戦艦カッセルのシステム長が自身の卓を叩きつけて罵声を上げる。

 それは、帝星近傍でのみ使用可能とされ、一部の帝国軍装備に仕込まれているとまことしやかに噂されていた、叛乱防止(セーフティー)機能であった。

 

「上陸司令部のミュンツァー中将に通知と問い合わせだ!必ず伝えろ!」

 

 打開の為の思い付きを叫ぶインゴルシュタットにシステム長は充血した目を向けて無念そのものとばかりに否定した。

「提督。不可能です。凍結中です。指揮コード及び通信システムが統帥本部からロックされています」

 

 思わず、床を蹴りつけるインゴルシュタット提督。床の遥か下、地上の統帥本部を足蹴にするつもりで踏みしめ叫んだ。

「ばかな!今さら!日和見を決め込んでどうするのだ!?これでマクシミリアン・ヨーゼフ大公が死ねば帝国が割れかねんのだぞ!」

 

 

 

 

「どうなっている!?」

 新無憂宮の警備に就いていた近衛軍士官は再びの銃撃と爆発に混乱し周囲を見渡す。

 

「賊です!」

 

「近衛以外は排除したはずでは?」

 では、不発弾の爆発か。連続して、複数の方向から?ありえない。戦闘が再開したのだ、と近衛軍の士官は悟った。

 

「主に摂政宮殿から聞こえているようです」

 士官と下士官が見遣った。摂政のおわす執務宮殿の方向で閃光が瞬いた。

 だが、数は少ないながらもあちこちで発砲音が聞こえたり、煙が上がる事から、陽動を兼ねて複数目的を対象としているのかもしれない。そう考えると、皇太子とて対象となっているやもしれぬ。士官は動揺する。

「リヒャルト派か!しかし、一体どこから…」

 

「皇族専用通路(秘密通路の遠回しな表現)からではありませんか」

 

 諦めきれない、中央貴族や皇族たちの悪足掻き。

 それにしてもタイミングと言い、目標の集中と言い、連携を疑わざるを得ない。

「…」

 士官は自分の中隊を動かそうとした。

「中隊を前進させる」

 

「師団長の命令は現地確保と皇太子宮殿が最優先では?」

 

「その皇太子殿下の最大の守護者で在らせられる摂政殿下が窮地にあるのだぞ!摂政が亡くなられたら、どう転ぶかも分からんのだ…」

 

 部下が必死に上官を止めにかかる。

「我々だけでは、摂政殿下をお救いする事は…」

 

 撃ち負けるとしても、立ち尽くすだけなど許せるはずもない。何より、惨めだった近衛兵を篤く信頼して華まで持たせてくれた(近衛軍のみの警備を許可し、自身直属の警護兵を抑制までしてくれた)摂政殿下の危地を傍観するなど、もはや近衛たる資格すらあるまい。

「…よし、()()()()殿()()()()()()()()()べく、()()()殿()()()()()移動しつつ反撃する」

 無理やりな理由付けをしてでも士官は決心を変えなかった。

「とにかく、敵を少しでもこちらに引き付ける事で摂政殿下への圧力を減じるのだ」

 中隊長は必死に祈った。せめて我々の足掻きが、摂政殿下の命を繋ぐ一助となるように。

 

 

 

 

「連絡が途絶しました…」

 

「衛星軌道上の船団統合司令部も。呼び出し通信の自動応答から凍結命令が出たと判断します」

 唐突に摂政宮殿より襲撃さるの一報から時を空けず一部の戦地専用通信網を除き、切断され、さきほどまでの喧騒が嘘のように鎮まり返った上陸司令部内でミュンツァー中将は唖然とし、幕僚達はミュンツァーに途惑いの視線を向ける。

 

「…最後の最後でも日和(ひよ)るか」

 ミュンツァーは歯を食いしばる。

「麾下の地上軍は」

 

「統帥本部と軍務省の厳命が別ルートから下ったようで動きが鈍くなってます」

 数少ない、生きている現場間の即席通信を拾い上げ、集約していた情報士官が推測を述べる。

 マクシミリアン・ヨーゼフとの連絡が途絶した、斬首状態で硬直した所に正規の上位命令が割り込みを掛けて来た。

 最悪のタイミングで。ミュンツァーの冷徹な軍人としての部分がこれをしでかした者を評価していた。組織人である軍人だからこそ、このタイミングの割り込み(正規の)命令を無視する事は難しい。自分ですら躊躇するのだから。だが動かねば、本当に終わってしまうかもしれない。

 ここまで来て。

 歯が砕ける程に食いしばりながら、必死に打開策を巡らす。

 治外法権にある、領邦軍であれば動かせるかもしれない。問題は装備と練度と統率が全く当てにならないことだ。酷く分の悪い、博打を打つレベルだ。だが、今から要請して間に合うか。場所は新無憂宮。武器を持って乗り込むことに尻込みしかねず、正規の手順で通ろうとしたら、時間がいくらあっても足りない。

 硬直しかけた帝国軍が条件反射的に無意識レベルで従うほどの、マクシミリアン・ヨーゼフと同等以上の権威を持つ者。もしくはそんな権威を蹴手繰り、有無を言わさず引き込み従わせるだけのカリスマを持つ者。それは権威とは正反対の位置に立つ、まつろわぬ者。誇りや信念やら矜持だのに命を賭けられる(くたばれカイザーくらいは宣える)無法者(アウトロー)と呼ばれる、奔放不羈な人間。今、ミュンツァーたちが必要とする者とはそういう人間だ。

 手前勝手極まる。思わず天を仰ぐ。

 無法者(帝都を焼いた連中)は自分たちが抑え込んだ。()()()()()()()()()()がこの帝都に残っているだろうか。摂政殿下(マクシミリアン・ヨーゼフ)を無条件で救ってくれる、無頼漢(ヒーロー)が。

 

 

 

 

「………居たな?」

 

 

 

 

 ミュンツァーは賭ける事にした。()(ひと)でダメなら、大神(オーディン)でも救う事は叶うまい。

「伝令隊を組織せよ!通信システムが使えずとも、人力であれば、システムロックも関係ない。宛先は方面軍隷下の地上軍部隊、及び妃殿下の伝手を持つ部隊だ。

 内容は『今より、あのお方(ジークリンデ)の後を追え。指示は現地で適当な御仁(どうせジークリンデに追いつく人はいない)から受けよ。』だ」

 

「…何処へ向かわせれば?」

 

「あのお方が向かう所は一つだ」

 ミュンツァー中将が一つ所を見つめる、視線の先は。

 摂政殿下(おっと)の御座す所。新無憂宮へ。

 

 

 

 

----§----

 

 

 

 

 当事者以上に苛烈で迅速だったのは笑いのネタにされたり、一方的に期待を背負わされた妻の方だった。

 帝都での配食・給水所や、設営された野外医療拠点の視察・慰問の為にジークリンデは帝都中を飛び回っており、新無憂宮に夫と一緒では無かった。未だ煙燻る新無憂宮を見せるのを夫が嫌がったのもあったし(彼女との新婚生活を過ごした邸宅が焼け落ちているのを見せたくなかった)、内も外も仕事は山ほどあったので別行動をとっていた。マクシミリアン・ヨーゼフは宮殿を仕事場と割り切り、帝都の緑地帯に設営された前線司令部の一画に建てられた仮設休憩所を仮の住処とし、妻と帰る事を好んでいた。

 

 夫との連絡が途絶し、摂政が居るはずの宮殿近傍で戦闘が再発したとの通報を聞いた瞬間。ジークリンデは近くの指揮所に駆け込み、預けていたPDWを担ぎ、弾帯ストラップを付ける。

 

「お待ちを!」

 最寄りの擲弾兵を指揮していた前線指揮所から事態を把握した地上軍士官が駆け付ける。

 地図や必要となりそうな小物をポケットに突っ込みながらジークリンデは素っ気なく応える。

「止めないでほしい。夫を救いに向かう妻を止める以上の正義などないわよ」

 

「護衛を」

 

「準備出来次第、後を追うように伝えて」

 

 そこそこの付き合いがあり、彼女(の行状)をある程度知っているが上にその士官は無駄を排し、簡潔に問う。

「(新無憂宮)正門前でよろしいでしょうか」

 

 頷くと、ジークリンデは走り始める。

 

「急げ!装備確認!妃殿下に続け!徒歩で構わん!分隊長は分隊通信装備を忘れるな!

 小隊指揮車は民間用無線装備も持って行け。最悪軍用無線が止められたら、民間用で代用する」

 伝令兵を集めると、付近の部隊に状況を伝え、合流先を指示し走らせる。

 ジークリンデの遠ざかる背を見ながら、大声で周囲の兵士に聞こえるように指示を出す。煽るように。

「ありったけの軍用以外の通信機器を指揮通信車に積んだら移動開始だ!紳士が妃殿下(レディ)を待たせるなよ!」

 

 ジークリンデの薫陶篤い馬鹿者達が想定以上に多かったのか。ミュンツァーの指示が相乗効果を齎したのか、駆け上がるジークリンデは彼女に追いついた指揮車に同乗した。指揮車の周辺を固める装輪戦車、後方から交通規制を無視する速度で追いかけて来る装甲擲弾兵を積んだ輸送車、後続する歩兵らが正門に着いた時には百人を越える規模となっていた。

 指揮車のドアを蹴破る勢いで開いて踊り出すと、ジークリンデはずんずんと正門に進む。

 新無憂宮の正門を占拠・防衛する武装勢力が彼女を止めるべく声を上げようとするが、ジークリンデは機先を制する。

「ここに及んでなお兵火を挙げんとする者に正義など無い。聞くに及ばず」

 

「…」

 急いで駆け付けたのであろう、髪を纏め直す事もせず解いて背中に流したままである。熱風に煽られ泳ぐ後ろ髪が彼女の烈火の如き内心を顕すようにも思え、敵味方を問わず、衆目を集める。

 バリケードに籠る私兵たちを前にしてジークリンデは宣言する。

「諸卿らは何をしにここに来た?帝都の平穏を護る為であろう。如何なる理由があろうとも、今取り戻さんとする安寧を兵火によって遠ざけようとする者に加担することがその目的に添う事は断じて無い」

 続けて彼女は背について来た兵士たちに言い放つ。

「卿らは帝国の敵を討つのに躊躇するのか?帝国軍の軍規には帝国(マクシミリアン・ヨーゼフ)に叛旗を翻した貴族・皇族であっても銃を向けてはならぬと書いてあるのか?」

 

 彼女の啖呵に黙りこくる、正門を封鎖する武装勢力。彼女の剣幕だけでなく、今も陸続と集まってくる完全武装で殺意全開の兵士たちと戦闘車両に押し込まれ呑み込まれようとしていた。

 

「我に続け」

 

「「ヤー(はい)!」」

 

「ちょ、まてまて!」

 

「妃殿下に続け!」

 即座に突撃装甲擲弾兵がジークリンデの前に肉壁を作る。ガン、とかズガガ、とかいう重く物騒な音を立てて耐光学兵器・耐実弾用の鏡面仕上げの超高硬度炭素防盾を体正面に立て掛け、空いた腕に装備した軽機銃や近接格闘武器を突き出す。

 訓練された彼らは銃口を向けられても、命令が下りるまで撃つ事をしない。

 

「!」

 その威圧感と緊張に負けた誰かが引き金を引いた。

 破局はそこから始まった。

 

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