帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

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第4話

 

 

 

Omnes auxilium ad vincere

 

「戦場の外で勝敗を決する、ありとあらゆるものを支援するために」

後方勤務本部創設時のモットー

 

 

 最高評議会議長および国防委員長から疎開作戦を軍主体とする決定を受け取った統合作戦本部長は、ただちに、後方勤務本部を設置して自身が本部長を務めると宣言し、軍が全面的に協力しているとアピールした。これは内外、特に疎開作戦司令部の若い指揮官や幕僚たちに好評であった。

 疎開作戦司令部から現場業務以外の後方支援、政府機関との協同作業などを切り離すべく、国防委員会も巻き込んで整備を開始した。

 

「現場の人間は現場(の仕事)に集中できるように」という至極もっともではあるが、有事(平時でも?)においては困難な作業を、組織を立ち上げながら行うという曲芸紛いの取組みを文字通り、軍政・軍令一体となって実行していった。

 

 

「…で、なんで私は()()にまで席が用意されるので?」

 国防委員会庁舎の一室に呼びつけられた、疎開作戦参謀長は、自身が望んでもない、新たな役職について上司に不平をぶつけていた。

 新たな役職は特命(疎開作戦担当)国防委員会次官である。

 

「後方勤務本部の設置に伴い、現場との意思疎通を円滑に進めるために、どうしても優秀な現場の人間で仲介役が必要になったのだ」

 器を用意はしたが、何がどれだけ必要となるかを把握する以前に、どのような仕事が発生するかも分からないため、後方勤務本部長を兼務する統合作戦本部長は逆転の発想を求めた。(トラブルが)起きてから仕事の形に整理して、必要なリソース(人材含む)を割り当てる(徴用してくる)。

 トラブルを仕事の形に纏める作業者として、呼吸する戦術コンピューターと一部で評されるほどの緻密な理論家である、疎開作戦の参謀長を指名したのである。

 自身はケツ持ち(責任者)と渉外交渉(謝罪行脚)に集中し、他の幕僚達に仕事を振り、それを最後に総括する形で、後々の後方勤務本部の仕事を定めていく、というプランにしたのである。

 

 迎撃作戦の参謀長候補だった、ノッポの軍人は往生際悪く、駄々をこねるように上司に不満をぶつける。

 

「私一人に押し付けるのは不公平じゃないですか」

 

「君だけではないさ。現に(疎開作戦)司令官たる彼は、連合軍最高司令官を兼務するのは知っているだろう?」

 

「あいつが不公平と考えてるとは思えませんな。仮に思っていてもその分、嫌がらせをして回るので釣り合いが取れるというものです」

 

 

「散々甘やかしてきた、お仲間(ごくつぶし)を使えばよろしい。今まで()んできた給料分、働かせて返させればよろしいではないですか」

 

「勿論、同僚諸氏も君が纏めた仕事をさせる。必要な人間はもってくるから、君はとにかく問題を明確にし目標を作ってくれればよい」

 

 

「無能な働き者でも数を揃えれば使い物になるかもしれません。ただし、それらを私に管理させないで欲しい」

 

「そこまで(部下への指示とか管理)はさせんよ。とにかく君は君にしかできない任務(仕事の形にする)を果たして欲しい」

 

 統合作戦本部長は淡々とノッポの不平(というには毒々しい)に応えてやる。使えるものは何(問題児)でも使う、という議長の(たくま)しい精神性に(なら)わなければ、この時の自由惑星同盟軍のトップなど勤まらない、そういう心境であった。

 この人事は、疎開作戦の司令官と参謀長を一時的にでも引き離すという副次的産物も(もたら)し、兼務による仕事量の増加に対する不満を漏らす当人達以外には好評であった。

 

 この当時の後方勤務本部が主に相手する、軍外部の人間(文官含む)と折衝するのに、軍のトップ(統合作戦本部長)を頭に据える(兼務)行為は結果として、組織の機動力・即応性を大幅に向上することに貢献*1した。軍の任務遂行能力を大きく向上させ、また、後方支援業務の重要性を軍本体も含めて関係者達に認識させることに成功したとして、以後、後方勤務本部の拡充と地位向上に多大な貢献をしたのである。

 

 

 

 疎開作戦司令部は新たな肩書をその看板に書き加えた。

 

 連合軍最高司令部。

 

 疎開対象となった星系政府の警察力(武力)を統括・制御する(星系政府から切り離す)必要を感じた同盟政府は、国務委員長以下国務委員会が主体となり、各星系政府との折衝を議長大権をちらつかせてでもまとめ上げ、その指揮権を作戦中に限り、疎開作戦司令部に移譲させた。

 星系政府の警察力との連合体、連合軍を結成したのである。連合軍最高司令官は疎開作戦司令官が兼務する事になった。

 と同時に、星系政府関係者-星系政府トップ-との接触も増えることが予想され、軍としても威儀が低く見られることによる諸問題の発生を恐れた。厄介ごとを押し付けられ、それでなくとも戦意維持に苦心する司令部要員のやる気を高めるために、戦時昇進という形ではあるが、彼らに昇進をばら撒いた。

「退職金の前渡しかな?」

 執務机に置かれた新たな名札と階級章、ぴかぴかの自由惑星同盟軍中将のそれを(もてあそ)びながら大男はぼやく。

 

 最高評議会での決断の内容が漏れ伝わるに連れ、疎開対象とされる星系政府でもとびきりの一惑星主義者*2達が不穏な動きを始めている。

 急激に体調を悪化させている国務委員長から、報告を受けた議長は眉を(ひそ)めた。

 辺境出身であり一惑星主義者でありながら、中央政府の関与も求める穏健中道派の国務委員長には似合わない、過激で不穏な内容であったからだ。

 最悪で自由惑星同盟からの離脱-彼らからすれば独立-を画策する可能性もありえる。報告書には警告としてアンダーライン入りで強調されていた。

 (しゅん)動者達のリストを見ながら、議長は溜息を吐く。

 硬軟用意を怠りなく。自身の政治信条と自由惑星同盟の最高権力者としての責務から、彼らの意思を無視する事はあり得ない。議長は書記局に連絡し、至急面談の調整を指示する。

 一方で、法秩序委員長、地域開発委員長、国防委員長宛てに以下の問い合わせについて、至急意見を求めることも忘れなかった。

「星系政府の武力および警察力の同盟政府への指揮権移譲について、戦時法制も含めた法的正当性を確認せよ。また実効性ある移譲方法についても意見を求める」

 

 …星系政府および、上下両院を巻き込んでの短くも深刻な折衝の果てに、一部軍人事の承認や軍の活動への監査という形で上院の関与を法的に認め、整備するという妥協と、公にはしたくない、「予算配慮」により認めさせた。

 公式には自由惑星同盟軍への文民統制の強化という麗句に飾られたこの政策は、軍の政治的配慮という枷を更に加えると共に、自由惑星同盟軍の組織風土への一定の変化を与えたと後世評価されている。

 

 

 

 

 

----§----

 

 

 

 

「…確かに私たちは銀河帝国の軍旗を付けた軍艦を目の当たりにした訳でもなければ、砲火に晒されたわけでもありません。

 ですが、結果として故郷を離れ、疎開地に身を寄せざろうえない同胞達が生まれてしまいました。この決断は、苦渋以外のなにものでもありませんが、同時に現在の自由惑星同盟の限界でもありました。

 自由惑星同盟市民の皆さん、敵は未だ見えませんが、建国者の預言通り、戦争は始まったのです。戦死者は出ずとも、これは戦争なのです。

 自由惑星同盟市民の皆さん、どうか故郷を離れた同胞達を暖かく迎えてください。彼らは間違いなく帝国の被害者なのだから。

 自由惑星同盟市民の皆さん、隣人に寄り添ってください……」

 

 議長も人が悪い。

 壇上の隣から演説している議長の背中を眺めながら、国防委員長は口内でそっと呟いた。

 

 戦争状態であると認識させる事で、自身の政策-決断-を上手く押し込んでいる。勿論、同業者-政治家-や責任ある地位にある者たちには、錯誤である事など分かっていよう。だが同盟市民の大多数が、『そう』考えるならば、市民の支持に拠って立つ者たちは声高に否定もできない。

 議長はこれを奇貨として、自由惑星同盟に在る困難な問題の幾つかを、戦時の空気(市民の危機意識)議長大権(権力)予算()で作り上げた、トライアングルを上手に奏でる事で、修正する方向に持って行こうとしている。それに気づいている者たちの口は益々、重くなる。否、待っているのだろう。政権内の何人かの評議員のように。何せ、待っていられるのならば、成果という果実だけを得る事が出来るかもしれないのだから。

 議長自身はそもそも、成果の独り占めを図っていない。むしろ自身の政治生命が尽きる事を明け透けにする事で、欲得に絡め捕られて、足が重くなるのならそれも良し。火中と(おのの)いて、邪魔しに近づかれなければ儲けもの、とすら考えているようだ。

 疎開させられる者達の反発は深刻であるが、『状況』を作り上げ、持ち前の調停で各個撃破して、避難対象の星系同士で団結させない。国務委員長との連携もあるが、同郷の者たちですら、立場の違いを突いて、分断させる手腕には恐怖すら感じる。

 特に大きいのは、中枢星域の住人(マジョリティ)の共感が得られない事であろう。

 戦時という非常事態にあって、避難させる側-中枢星域-の”必要悪”(避難させる事)と、避難させられる側の”必要悪”(戦う事)が決定的にかみ合わないように仕向けている。質が悪いのは、中枢星域の市民は心からの善意と同情を持っている事だろう。お互いに共通するのは帝国への恐怖と反発くらいだろうか。

 

 だが。

 

 既に反発と危機感のさざ波は静かに広がっている。地位や立場を越えて同盟社会全体へと。

 有事であっても、否、有事であればこそ、このような独裁への道を(ひら)くような手法は許されざるもの、とする危機感だ。

 議長が独白したように、制度の不備を突くような手法や、理念に反するような運用は、今この瞬間しか出来ないだろう。今後は法的にも制度的にも許さない形になるだろう。自由惑星同盟市民の、独裁者を二度と出すまいとする決意は建国から百年を(けみ)しても()せていないのだから。

 

「スタンドバイミー(寄り添って)か…」

 最高評議会議長の特別演説の一節を口ずさむ国防委員長。

 避難させた者たちにとっては寄り添う言葉でも。

 疎開させられる、彼らにとってこのフレーズは、おそらく、別の意味を持つだろう。

 帰らざる故郷を思う詩として。

 

 

 

「オラクル(預言)ねぇ…」

 最高評議会議長の特別演説の一節を反芻する大男。

「戦うと決まったわけでもないんだがなぁ。戦争による死と破壊は(いと)うが、結束のための(幻想)は欲しい、か」

 下院議事堂の演壇に近い傍聴席で、やる気のない表情を隠すこともなく聞いていた、軍の礼服を着た大男はぼやく。

 大男は、退屈な演説の暇つぶしにと、同盟軍で企画・立案されていた防衛戦略が(もたら)す将来について脳裏でシミュレーションを行っていた。ある程度の地位に登り、同盟軍の防衛戦略の詳細を知るにつけ、繰り返された-ブラッシュアップ-作業であり、もはや慣れたものですらあった。

 (イゼルローン回廊を含む)接続宙域から始まり、ハイネセンを含む中枢星域までの広大な宇宙空間を意図的に開発放置(無人)領域とし、疑似的な焦土とする。

 当初、策定された「距離の防壁」とは、そういうものだった。

 元より帝国との人口比において、文字通り、桁違いの格差を持つ自由惑星同盟は、そのハンデを帝国との距離に代える事で緩和しようとした。だからこそ、偉大な建国の父の一人は、隠棲後にも関わらず、敢えて記録に残る形で「距離の防壁」を強調したのだろう。

 だが、現実はどうか?野放図とは言わないまでも、『同盟』に随時参加する先住民惑星(ロストプラネット)に、開拓者(パイオニア)気取りの無節操な入植者たちによって、防壁の厚みはどんどん削られていった。

 同盟の国是である、民主主義的寛容さ-自由、自主、自律、自尊(妥協と漸進主義)-や、同盟加入による人口増加の利点(植民星を結ぶ交易利権の確保)。ロストプラネットが保有する、喪失した知識や技術、資源へのアクセスと言った、時代時代に必要だった取引の対価として、切り売りした結果が今の国土-恒星間国家としては、呆れるほどの人口過疎-の広大さであろう。銀河連邦の精神的後継国家などと(うそぶ)く者もいるが、それこそ議長と国防委員長に向かって放言したように、100億の人口を抱えてからでも遅くはないだろうに。

 最新の同盟軍宇宙艦隊の防衛戦略を、建国の父母たちが知ったら、頭を抱えるだろうか。それとも赤面するほど怒り狂うか。

 

 接続宙域(イゼルローン回廊)でのゲリラ戦に敵側に消耗を強要する後退戦、局所的優勢を確保できた場合においてのみ、艦隊決戦である。

 

「後輩たちの健忘ぶりに恥じ入って、棺桶の蓋を内側から強く閉じるかも、な」

 

 接続宙域のすぐ後方に過疎ながら、有人星系があるのだ。まばらであるが故にいっそ、質が悪い。

 全同盟市民の安全を保障しようとするのであれば、そこまで進出しなければいけないのだ。

 もはや、戦略的機動性を論じるほどの空間的自由度-戦域-など机上にしかない。

 

 ある意味で、議長の決断-疎開-は正統的な「距離の防壁」への回帰であると言えなくもなかった。

 『本来』に立ち戻るのだから、『保守』であると言ってほしい。議長なら、そう笑うかもしれない。

 

戦争(帝国)を政治に利用する政治家。…お近づきになりたいものでは、ないなぁ」

 帝国との戦争はとりあえずは、遠ざかり。代わりに廻ってきたのは、避難民のお世話である。勿論、避難民に含む所はない。同情もするし、軍としての責務を果たす事において、全く否やはない。むしろ、その過程で「お相手をしなければならない、避難星域の各種お偉方(利権代表者)とのやり取り」がやる気を殺いでいるのだ。

 まったく気が進まない仕事である。だが思い返せば、気が進む仕事など一度もなかったな、と自答した。

 少なくとも、人間-見たこともない帝国軍人-を殺す任務でない事を喜ぶべきなのかもしれない。

 いやいや、いつでも楽しみを見つけ、実践する事こそ、より良い仕事をこなすための最良の託宣(オラクル)であろう。

 大男は新たな任務により、向かう新たな星々での、新たな女性たちに期待を向けるのであった。

 

 

 

「…では、いつまでも帝国の影に怯えながら、日陰に(こも)り続けなければならないのだろうか?否である。今は足りなくとも、いつか銀河帝国に蹂躙(じゅうりん)されぬだけの力を付けるのである。

 自由惑星同盟の旗を。五稜星を、オリオン腕の銀河帝国に向けて不倒不屈の自由の旗を掲げて見せようではないか。

 どんなに長くかかろうとも、吾等の力で必ずや勝利をつかみ取ることであろう。新たな隣人と共に、彼らの故郷を取り戻す、その日まで」

 

「戦うために産めよ育てよとは、ね。宇宙暦も600年は過ぎたはずなのに、政治家というやつは古代地球の都市国家とメンタリティが変わらんのか」

 

 国防委員会に用意された執務室からモニター越しに国防委員長の演説に突っ込むノッポ。

 今ある選択肢(リソース)から、選べるものを選ぶ決断をしたことに、不満を述べても仕方がない。決断する事も政治家の仕事であろう。

 だが、将来の可能性を狭める権利は今の政治家にも、それらを選出した市民にもあるまい。もしあるとしても、

 「一方的に不利益を押し付けて我慢を強いるのは不公平ではないか」

 「まったく、なんでこんなに働かねばならないのだ。上層部(おえらがた)は押し付けるのが仕事だとでも思っているのかね?いい気なものだ」

 多忙を理由に議会への不参加は許されたが、国防委員会の庁舎で今も生まれ続ける仕事に従事せざろうえなかったノッポは、未来の同盟市民へ課せられるだろう不公平を代弁するという体で、不平をモニターに映る上司にぶつけていた。

 

 宇宙暦640年4月。

 

 両院合同議会での演説後、疎開作戦は正式に発動された。

 後世イゼルローン回廊と呼称されるオリオン腕とサジタリウス腕を繋ぐ接続宙域を含む、パランティア、エル・ファシル、といったイゼルローン回廊に接続する周辺星域内の有人星系をも放棄し、エルゴン星域=ランテマリオ星域のラインまで後退する、避難対象星系の住民二千万人以上を後方星域へ強制避難させる計画であった。

 未だ若き国家たる自由惑星同盟を現すような、俊秀の若き指揮官達により構成される疎開作戦司令部に本作戦-同盟の未来-は託されたのである。

 この台詞を聞くたびに疎開作戦司令部の高級幕僚達-総司令官と参謀長を除く-は顔を引き()らせていたが...

 

 

*1
外部協業者(民間人)にとって軍の外部窓口トップが軍人トップである事は、先方とのやり取りで融通が利く(可能性がある)。取り分け、上意下達の組織である軍のレスポンスは格段に変わってくる。あとついでに面子も大いに満たされる。軍内から見ると、最終責任者が軍トップであるなら、卑小な組織防衛に走る必要もなく(ケツ持ちが明快)、逆に軍トップに見られている事を意味するので、成果を上げれば評価される可能性(新組織での出世)があるので、普段地味な部署ほど、いつも以上に頑張る

*2
一惑星主義(プラネタリズム:Planetarism):地域主義とか愛郷主義。人を指すと、Planetarian(プラネタリアン)。連邦党(中央集権指向)の対義語と解される。同盟における最古の党派でもある。銀河連邦末期のサジタリウス腕に入植したロストプラネットの住人を起源とし、自由惑星同盟建国初期の文字通りの「同盟者」達がここに含まれる。多くが、同盟辺境星域出身者となる。現在の同盟人口比からすると少数者に転落したが、その経緯から政治的には有力な存在である。特に上院においては隠然たる影響力を保持している。

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