帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず   作:narrowalley

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第5話

 

「日常とは、平穏である事と同義ではない。戦争も飽きるほど続けば、退屈な日常と成り果てるのだ」

疎開作戦中の現状を、疎開作戦参謀長が評して

 

 

 この箴言には続きがあり、「人間の慣れとは恐ろしいものだが、同時にふてぶてしくもある。そうでもなければ、長征1万光年などという狂気の旅を半世紀も続ける事など出来はしなかっただろう」と〆ているあたり、発言者の性格について、幾ばくかの不安と苦情を申し立てたくなる者が絶えなかったのも理解できないでもなかった、かもしれない。

 

 そのような狂騒の一日、現地視察のため、疎開対象となる星系に向かった疎開作戦司令部の一団は、現地星系政府の強い求めに応じて、地上に降下し、行政府庁舎に赴いた。出迎えなど期待していなかった軍人達一行も、宇宙港に到着後、差し回しの車両でもって隔離・連行されるように星系政府首相官邸に連れていかれれば、嫌でも緊張が高まるというものであった。

 もっとも、一行の最上位者たる、疎開作戦司令官は動じる所を見せずに悠然としていたと、同盟軍史や、同行した副官の手記にも残されている。司令部同僚諸氏からは、恋愛対象-適齢の女性-以外には興味も配慮も示さないだけだろう、と憎まれ口を叩かれていたが。

 マスコミ撮影もなく、関係者しかいない会議室に連行され、主催者たる星系政府首相の挨拶も握手もなく、開口するや、疎開に関するクレームの集中砲火に包まれる軍人一行。

 「政府の命令」、「議会の決定」という定型文句を並べる大男。横に立つ副官に至っては、回を重ねるごとに上官である大男の台詞がどんどんいい加減になっていくことに、胃痛を覚えるほどであった。

 

 血圧が上がりまくった星系政府のお歴々を置いてけぼりにするように、一方的に話を切り上げ、庁舎を出ていった軍人一行は、自分たちで手配した地上車に乗り込んだ。

 

「(この星系の)行政と議会は怪しい限りだな。まぁ想定していなかったわけでもない。星間巡視隊の司令部に廻せ。庁舎を接収する」

 

 ぎょっと、行き先を告げた司令官たる大男を副官は見る。

 

「なんだ、連合軍最高司令官としての職権の範囲内だろうが?巡視隊庁舎の空部屋に現地司令部を設立するぞ。最悪は野外指揮所の設営も考えているが、とりあえずは行ってから考える」

 

 敵対と警戒の中間くらいの対応(それでも、星系政府首相官邸よりはマシな)を受けた一行は、星間巡視隊司令部庁舎内に現地司令部を立ち上げる為の空部屋を確保すると、活動を開始した。

 

 

「司令官はどうした?」

 副官に、別の場所の視察から戻ってきた若い指揮官が問いかける。

 

「指揮下に入る現地部隊、巡視隊の現状を視察すると言って出て行かれました。ええ、と…90分ほど前ですね。まだ戻ってきてないようですが…」

 

 指揮官は舌打ち一つ打つと、床を蹴りつけた。

「副官だろう?上官の悪癖を知りませんでしたとは言わせんぞ?現地調達(現地の恋人作り)に走ってるに決まってるだろうが!すぐに探して来い!

 だいたい、まだ司令部設営すら完了してないのに司令官が行方不明で、どうやって作戦を遂行するんだ!」

 

 司令官たる大男と同年代の、若い指揮官は湧き上がる怒りを堪えきれず、壁を蹴りつける。慌てて飛び出す副官を睨みつけながら送り出した指揮官の不安は的中した。

 翌朝、帰営した司令官と前後して、巡視隊の監察官と長官が連れ立って苦情を申し立てに臨時司令部に乗り込んできたのである。

 

 現地市民との交流を通した、世情調査である。

 悪びれもせず、そう回答した司令官に、当の星系政府からの超光速通信(FTL)で報告(クレーム)を受け、議長の代わりに対応を一任された国防委員長は始末書を書かせたのだが、最初の内容の段階で官能小説か品の無いゴシップ記事かと、呆れた。最終的に、記録として残しておきたくない(思い出したくもない)という意向により、内々に短い訓戒を与え(委員長自身としては面と向かって厳しい態度ではあったが)、済ませたという。

 

 

 

 一日、国防委員会の一室にて。

「私も周囲の無能どものせいで仕事に追われており、会う事も難しい日々が続きそうだ。無理して予定を合わせる必要もない。休みが分かっていたら事前に連絡するので、君も自分の生活を崩さず過ごすように」

 国防委員会の小会議室の端に並べられた待機席に座り、自分の番を待つ間に、ノッポの特命国防委員会次官(兼務疎開作戦参謀長)は自身の携帯端末からビデオレターを起動して短すぎる信書を作成していた。送信が完了したことを確認した所で、静まり返っていることに違和感を感じ、視線を会議室に戻すと、何かを(こら)えるような表情をした会議の参加者達が自分を見つめていた。

 不可思議な表情で頬を引き()らせる、司会役の国防委員が口を開く。

「仕事を作らせて申し訳ないねぇ……しかし、この場でプライベートをやる必要はあったのかね?」

 

「仕事が終わっても次から次へと仕事が生まれるものだから、プライベートの時間も取れない挙句がこのざまなのです。自覚があるなら、せめて給料分は働かれたらいかがですか」

 

「…」

 どうやら、彼の言う、「周囲の無能ども」には吾々も含まれているようだな、とノッポの放言に会議の参加者達は唖然とした。

 

「市民の税金のいくらかを給与として貰っているのでしょう?寄生虫呼ばわりは事実として(こら)えるしかありませんが、害虫呼ばわりは心外であると発奮されてはいかがか?」

 

「暴言ではないか!」

「それが軍人、それも次官を務めるような高級将校が政治家に向かって言う言葉なのか!」

 

 一部の参加者達がノッポの"ぼやき"に反発し、大声を上げる中、ノッポは平然とした顔で司会役の国防委員を見詰め、会議の再開を促す。

「さて、空気も改まったので仕事といきましょう」

 

凍り付いたの間違いじゃないのか…というかこれで仕事(かいぎ)を進めるのか……?

 

「前線では、避難してくる市民達が大挙して宇宙を渡ってくるのです。彼らに”偉大な祖先達の難業”(ロンゲスト・マーチ)が如く、何年も宇宙船で生活させるお積りですか?訓練された軍人ですら一年の長きに渡る宇宙船での任務は絶対に避けるべきものです」

 

 舞台で視線を集める役者のごとく、ノッポは観客たる会議の参加者たちをゆっくりと見まわした。

「ここにいる方々は皆立場は違えど、それを避けるべく、集まり協議して、最適解を求め、即座に動く為に居ると解しております」

 

「…その通りだ。言われるまでもない」

「勿論だ」

 

 室内の沸騰しかけた熱量が冷める方向に向かうのを見やりながら、ノッポは用意したレジュメに目を落とす仕草で視線を一旦切る。

「結構です。給料泥棒と呼ばれる事に私の労働者としてのささやかな良心は耐えられませんので、さっさと進めましょう。避難スケジュールは待ってくれませんから…」

 レジュメから視線を上げ、自分を睨みつける者たちに、表情を変えずにノッポは更なる爆弾を放ってみせた。

「ですが、長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)の真似事を政治の無為無策により強いられたとあっては、給料泥棒程度では済まされませんな。殺人者と(そし)られ、石もて追われるのも止む無しでしょう。

 あらかじめ言っておきますが、もし(つぶて)を投げつけられる事態に陥っても、無能(あなた方)を守る事は同盟軍の任務には含まれておりません。避難の窮乏(きゅうぼう)(あえ)ぐ市民を救うのが最優先でありますから」

 

「「「…」」」

 

 僅かな沈黙の後、噴火した火山のごとき怒号が会議室を席捲した。

 怒号に包まれ会議の体を為せなず、場を抑える事が叶わないと悟った司会役の国防委員の悲鳴のような連絡を受けて、別室で打合せをしていた国防委員長がわざわざ中座して駆けつけ、場を取り持つ事でどうにか再開にこぎつけた。ジャーナリストや傍聴人を招いた公開会議であったため、荒れた手前と不良軍人の暴論(ノッポのぼやき)に過ぎる未来予測に危機感を大きく(あお)られたのか、議論自体は荒れ模様でありつつも白熱し、普段と比して、極めて迅速に取り纏められ実行に移されたという。

 会議後、国防委員長と統合作戦本部長より訓戒を頂戴したが、ノッポに反省の色など何処にも見えなかったと伝わる。

 

「戦時昇進と役職手当の追加で給与は上がったので、昇給分は減給されても我慢できます。むしろ、公の場で事実を述べる事が罪となるのであれば、これは帝国との接触以上に重大な民主主義の危機と言えるのではありませんか?」

 

 ノッポの反省無き不平に、何度目かの-数えるのも億劫になる-激怒した国防委員長の説教(口頭のみ)で済まされたのは、(へそ)を曲げられて辞表を出されても、代わりに座る者も、代わりたいと手を挙げる者もいないからである。

 

 

「わざとかね?」

 

「点取り屋の政治家たちが態々公開会議にしたのです。

 参加した物好き-傍聴人-達も話題ができて満足。避難民は一日でも早く難行から開放され、(政治家)連中も仕事をしているとアピール出来て一安心。ついでに私に廻される余計な仕事は減り、誰もが少しでも不幸を遠ざけられた。幸せな結末だったと判断しておりますが?」

 

「…次からは、その結末に私と委員長閣下も含めた対応を取るように」

 

「それは難しい指示ですな。(尻拭いするのも)給与に伴う責務のうちでしょう」

 

「……」

 ノッポの数少ない上官*1となっていた統合作戦本部長は、無言で溜息を吐き、白紙の始末書を部下であるノッポに突き付けた。

 

 

 

 

 非戦・避難の正式な発表から両院合同議会での議長特別演説により開始した疎開作戦は、今も混乱はあるものの、概ね遅滞なく進んでいると思われていた。同盟市民の感情は避難民たちへの同情が大きく、同盟軍の徴兵状況は、当初、国防委員会が心配していた以上に志願者が集まり、嬉しい悲鳴といった状態であった。

 勿論、帝国軍との殺し合いよりも、苦境に陥った同胞を救うためなら、という気分も多分にあると思われるが、それはそれで、古き良き時代の隣人愛と利他感情の発露と言えるかもしれない。

 

 軍事部門において素人の自覚を多分に持っていた国防委員長であったが、事態は新参者が遠慮している状況をとうに超越していた。

 最高評議会()軍人達()の狂騒を近くで見たことで開き直ったのか、若輩であるという事は若いという事であり、(比較的)若さくらいしか武器が無いのなら、蟷螂の斧だろうと無手よりはマシだと、避難対象星域や、それらと首都星の間を繋ぐハブ星域まで飛んで行き、直に対応するという荒業に出た。

 現地の市民からは好意的に、現政権の方針に批判的な者たちから揶揄(からかい)のニュアンスを込めて、宇宙(そら)飛ぶ委員長-Flying CC-などと呼ばれていた。

 

 有難くもあるが、迷惑でもある、国防委員長のこの所業に、政府から泣きつかれた同盟軍は、通信設備が比較的充実している艦艇の中から一隻を委員長専用船としてチャーターし、委員長の所在と連絡手段を確保する事にした。

 

 覚悟はしていたが、目の前に積みあがる軍へのクレーム、特に疎開作戦の総司令官とそれには劣るが、参謀長に対する苦情の多さに目が眩む。

 チャーターされた専用船の客室を第二の執務室とし、持ち込まれた仕事をこなし続ける国防委員長は、新たに届いた、赫々(かくかく)たる武勲(クレームレポート)の内容を一瞥して、すぐに目を背ける。精査すると素面でいられる自信がなかったからだ。

 とは言え、確認しないままでは、処分も下せない。(恐ろしい事に疎開作戦司令部の”あの二人”への苦情は、彼らが何処かへ行く度、何かを行う度に結構な頻度で発生するものだから、片付け続けなければ終わらないのだ!)

 また、現場を飛び回るのが知られるにつれ、国防委員長と面会するための出汁にするために、素行不良の疎開作戦司令官を風紀紊乱(ふうきびんらん)の現行犯で拘禁した挙句に、身元引受人として近くを移動中の委員長を指名する、などという椿事(ちんじ)が発生したりもした。

 望んで”あの二人”の上司になったわけではない(予見出来ていたら国防委員長を断っていたかもしれない)が、作戦達成のために庇うのも国防委員長の仕事とあっては、逃げる訳にもいかない。

渋々とレポートを確認していく。

 疎開作戦司令部からの報告書と突き合わせると、隠蔽や捏造の類は確認できない。詳細にはきちんと、面会の事実、内容も記載されており、クレーム元との意識の違いはあれど、事実に大きな齟齬(そご)は認められない。だが、当人たちの総括が「異常なし」、「問題なし」の一言で済ませるのはどうなのか。

 

 暫くレポートを処理し続けていた国防委員長は、ある事に気づき、首を傾げる。

 今見ている、要望だったり連絡(国防委員長に届いたクレームも)は、中身を確認した官僚たちが仕分けして配信してくれたものだ。

 つまり、中身を確認して、宛先によらず、組織内の「相応しい人」に仕分けして届けている。

 中身と宛先が一致している場合、高確率で、同業者たる政治関係(おやくしょ)か、相応の官僚的組織と化している、大企業からのものばかりだった。

 送信者の多くは主たる宛先に国防委員長を入れていない。カーボンコピーに国防委員会を含めても、だ。

 委員長は届いたクレームファイルを主たる宛先別にソートし、傾向を確認する。

「…」

 

 軍人へのクレームなのだから、軍宛、政治部門たる国防委員会宛は当然であろう。しかし、次いで個人宛でもっとも多いのが最高評議会議長宛だった。

「……」

 

 委員長は直近一週間の疎開作戦に関するニュースから「議長」というワードを軸に幾つかの条件を設定して、フィルタリングしたものをグラフ化してみた。

 顎に手を当てる。

 いくつか組み合わせを試した中に、特徴あるグラフが出てきた。

 「議長」-「軍」-「疎開作戦」という軸線からは高確率で疎開作戦人事に(まつ)わるニュースが含まれていた。

 

 同盟市民をはじめ両院議会はおろか、最高評議会の評議員達すら、今回の疎開作戦司令部人事(元迎撃作戦司令部人事)は「最高評議会議長が統合作戦本部長の"推薦"した将官を"任命"した」と認識している。任命責任者は分かりやすいほどに明確であり、この話に他の名前は出て来ない。国防委員長たる自分の名前すら。

 つまり、何か起きても引責ターゲットは推薦した本部長と任命した議長と受け取られる。

「………」

 

 疎開の発表とともに、現政権は賛否両論に揉まれていたが、時間を経過するたび、疎開作戦の進捗が進むごとに支持が低下傾向にある。特に議会においては顕著である。経済界の熱烈な支持と、多数派である中枢星域の市民の一定数の賛意(消極的賛成も含めた)でどうにか安定を図っている状況である。

 確実に言える事は、議長の政治生命は当初予測通り、削られており、再選は現作戦が最高評議会議長の任期を跨ぐでもしない限り望みようがないということだろう。

 政権内で造反の動きが目立たないのは、議長の調停と国務委員長の折衝が功を奏しているのもあるだろうが、内情を知り過ぎたがゆえに、仮に造反して政権奪取が成ったとしても、次の政権が貧乏くじに見えて仕方ないからであろう。周囲を見渡しながらの様子見か。

 

 議長としては、火中の栗を拾うにあたり、評議会の同僚諸氏に(きず)が付かないための配慮なのだろう。

 同時に、後戻り出来ない所まで進めてしまえば、後の政権が逆回転を図っても不可能であることも見越しての遠謀でもあるのだろう。そうとなれば、むしろ、現政権の政策で(きず)がついて同僚諸氏が落選でもした方が怖い。その隙間を埋めるが如く、未知の反動政治家が現れて政界を引っ掻き回されるより、既知の勝手知ったる者たちに、引き続き政界で活躍してもらった方が安心できるというものか。

 

 自身の政治生命で(あがな)えるなら安い買い物、と議長は評したが。

 

「随分、お高く売りつけてるじゃないですか、議長…」

 

 だがすぐに、国防委員長は不機嫌になった。

 何故なら、自分も後を継ぐ者の最右翼として議長に期待されている一人である事を思い出したからだ。

 

 

 

----§----

 

 

 

 現地視察から首都星に戻った疎開作戦司令部のメンバーをノッポは統合作戦本部に呼びつけた。

「多忙極まる、本件担当次官殿の御用命とあらば」

 ノッポの要求に大男の司令官は冗談混じりに答えた。

 疎開作戦司令部のために宛がわれた会議室に、久方ぶりに主だった司令部要員が揃った中で、ノッポは疎開作戦参謀長として任務を提示した。

 

「シギント?」

 

「議長よりのオーダーだ。帝国の情報収集の一環だな。当座、サジタリウス腕へ侵入…定期哨戒してくるだろう帝国軍に対するものに絞って、で良い」

 

「情報収集をどうするか、ねぇ…」

 ノッポのオーダーに対し、大男は顎に手を当てて、わざとらしく首を捻る。

 

「艦隊司令部では長距離航行可能な高速艦艇によるオリオン腕への強行偵察案も出ている。が…」

 同席する同僚指揮官-賛成者の一人-を眺める大男。

 挙げられた意見をノッポは無遠慮に切り捨てた。

「接触を控えようとしているのに、偵察行動、まして帝国軍の反応も計測するのを含む強行偵察などは、本末転倒だろう」

 

「戦時なのでしょう?

 こちらの存在を隠しながら探るというのは、戦争中の軍の情報収集ではないのでは?」

 若い指揮官の一人が納得しがたいと、こじ付けに近い反論を呈する。

 

「最優先はこちらの存在の秘匿だ。

 今回は接続宙域を含む複数星域が対象となる。偵察回数の増加は情報精度の確保から必須ではあるが、(帝国に)露見するリスクも上昇してしまう。また範囲が広すぎるため、秘密活動を旨とする、特殊作戦としてはリソースが用意できない。これを解決する案が必要だ」

 

「博打はこの際避けたがいいな」

「今回は、艦同士が撃ち合う可能性がありうるものは無しだ」

 大男の司令官は手のひらを振りながら、艦艇を使用した偵察案をあっさりと捨ててみせた。

 

 会議室内に残念と不満の空気が流れるが、気付かないのか興味がないのか、司令官と参謀長は代替案について議論を進めていく。

 

 「駆逐艦ヤノーシュの成功例に(なら)うべきだな」

 

 軍(表側)としての情報収集案として纏め上げたのは、大規模な観測網の構築による受信専用(傍受)案であった。

 

 無人の偵察ポッドを脱出回廊(イゼルローン回廊)を構成する星域を中心に接続宙域にまで広くばら撒く。

 安全航路帯と目される宙域からやや外れた場所に、無人の偵察ポッドを投入し、想定される、定期哨戒している帝国軍の情報を得るのだ。

 

 とにもかくにも、数が必要であることから、偵察ポッドは大量生産に向き、小型かつ機能はシンプルであることが望ましい。理想は駆逐艦に複数搭載し、容易に回収できる程度のサイズ・形状とする。

 見つからない事を第一にするのであり、アクティブレーダー等の発信を要する索敵機能は搭載せず、パッシブのみとする。

 また、間違って帝国に回収された場合に同盟の場所を露呈させないためにも、長距離通信機能は省く。

 相対位置の保持機能もこの際、削除する。位置を維持するための噴射機能(ノズル)と燃料を無視できるからだ。偵察ポッド自身の姿勢制御のみを可能とする程度のノズルと燃料に限定する。

 

 回収効率を上げる為、軍民共用で使用している、母艦と小型作業艇を連携する感応システムを流用・搭載する。

 投入時の空間座標点と周囲の宇宙空間の情報を規定値以上、観測しておくことで、予測漂流座標はある程度絞り込めるので、回収のため付近まで航行してきた艦艇が、特殊なWakeUp信号を発信することで、偵察ポッドに搭載した感応システムをセーフモード起動させ、特殊なトラップ信号(超短距離信号)を返させて、ポッド自身の位置を知らせると同時に艦艇とのコネクションを確立した上で、偵察ポッド側でも姿勢制御を行わせ、回収作業の安全向上と作業時間の短縮を図る。

 

 投入後一定期間が経過し、燃料切れ等により発動機が停止した場合(セキュリティ機能による停止も含む)には、それまで収集した情報も揮発させる。5年から8年の偵察期間を想定し、最大で10年程度機能する程度のスペックを持たせる。

 

 普段は休眠し、予め設定した条件(人工物と思しきオブジェクトの接近)を満たした場合、ポッドは起動し、受信機能をフルに使用して情報を収集する。

 後は漂流している偵察ポッドを有人艦艇が定期的に回収して回り、ポッドが収集した情報を取り出し、精査することで情報を集める。

 

 回収時点で最大10年前の情報になるが、現状、大きな変化のない前提(こちらから変化を強要もしない)の帝国辺境星域の帝国軍の情報であり、即時性は求められず、致命的な問題にならないと判断された。

「これで、当座の、サジタリウス腕における情報収集は十分だろう」

 

「時間はこちらの味方のはず、だ。これで、国境警備の帝国軍の情報解像度は高められる。結果として帝国軍の戦力予想の確度も高められる」

 

「偵察ポッドの配布と回収任務も、(疎開による)従来の有人哨戒範囲が狭まり、哨戒頻度も下げた分で生じた余剰艦艇と人員に、拡大される分(予定されている軍拡)も見込めば、十分回せるだろう。

 後は将来のことを考えると隠密性と航続距離を高めた艦艇の整備が求められるかもしれんが、それは今後の課題としておこう。どうせ建造する余裕も時間も今はないしな」

 

「賛成」

 不満ながらという体を隠しもせず、ノッポも同意する。

 

「オシント(公開情報の収集)も実施したいが、(オリオン腕の)電波がこっちに来るにはまだ数千年はかかる。それこそオリオン腕への逆長征が必要になるしなぁ」

 余りに気の長い大男の考えに、会議室内の一同は唖然とした。言った当人は欠伸を一つすると、唖然とした司令部メンバーを置いて、会議室を出て行くのであった。

 

 

*1
この時、戦時昇進により中将位にあったノッポは役職だけでも、疎開作戦参謀長(最大規模の実戦部隊最上級スタッフ)、国防委員会次官(疎開作戦担当:軍政部門”最上級に近い”制服組)と兼務による積み上げであったが、当時の自由惑星同盟軍序列でもかなり上位になっていた。(結果的に)

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