帝国遭遇狂騒曲 異説・ダゴン星域会戦成らず 作:narrowalley
既視感をノッポを感じていた。
国防委員会事務局の一室でノッポの特命(疎開作戦担当)国防次官が、国防委員である政治家の相談を受けていた時である。
「ヒューミントですか」
帝国領、詰まる所、オリオン腕への潜入工作-情報収集活動-である。
「必要である事は理解できますが」
すぐにどうこうできるものでもあるまい。今すぐに人を(オリオン腕に)送った所で、野垂れ死にが
そんな事もわからないのか、と眉をしかめそうになるのを我慢して、表情を変えずに応対する。
「国防委員会を通じて、政府の情報コミュニティで取り上げる議題かと。軍だけでは、無理でしょうな」
「とにかく、実体としての帝国を知らなければ、市民の不安を無駄に煽る事にもなりかねないのだ」
あんたら政治家が一番怖がっているだけじゃないのか?
仕事を依頼するなら、もっと勉強してから来い。文句を喉元で必死に止めて飲み込んだ。
これでも、同盟にあって、今や軍の数少ない
「やるにしても、これは軍本来の任務から大きく逸脱する話です。情報の専門家を交えて検討させる所から始めるべきです」
「そうか。とにかく軍としてやれることはやっている、というアピールが欲しい。少しでも市民の不安を払拭するためにも、だ」
これはいかん。釘を刺さないと、生還の目途も立たない潜入作戦に貴重極まりない軍情報部の人員を投げ込みかねない。
国防委員の無定見ぶりに
「軍以外の視点が必要です。
この際、史学や語学系の専門家にも参加してもらった方がよいかもしれません。一朝一夕ではなく、5年なり10年なり掛けて準備するくらいの方が良いでしょう」
「そうかぁ…では、調整をお願いするよ」
そして、自分が掘った墓穴に足を取られた。
急速に興味を失う国防委員-10年後に国防委員どころか、政治家を続けていられるかも分からないので-は話はこれまで、と切り上げて(丸投げして)席を立った。
置き去りにされたノッポは唖然とし、ついで怒り、最後に爆発させた。
「どいつもこいつも人を便利屋扱いしやがって、自分でやろうという気概はないのか!」
ノッポの不満は部屋に残された当人以外に聞こえる事がなかったのは、誰にとって幸運なことかは、様々な異論があるところであった。
その大学教授も、自分の前に
特徴と言えるとしたら、不機嫌そうな印象ばかりが記憶に残る、ノッポであったと。
「銀河帝国社会の推測ですか」
教授は面談の要望を受けた際の署名と、先ほど渡された名刺を見直しながら、ノッポ-自由惑星同盟軍中将・疎開作戦参謀長・疎開作戦担当国防委員会次官と記されていた-の軍人の言葉を繰り返した。
自分のような、世俗からやや遠い所に居る自覚のある象牙の塔の住人でも、ニュースで見た事を憶えているくらいの有名人が眼前に居る事に、不思議な気分に捕らわれた。
「はい。軍においても、帝国の情報は何でも欲している状況ですので」
「吾々はずっと欲していましたがね」
苦笑いを返したが、ノッポの表情を変えるには至らなかった。
「同盟社会の持つ限りの最新の-銀河連邦末期-オリオン腕の情報からシミュレートを試みる形になるでしょう」
ノッポの持ちかけた内容に、失望の溜息を内心で吐きだすと、お断りの前振りを、教授は口にした。
「…ふむ。…いわゆる軍の机上演習を想像されておられるようでしたら…」
「あぁ、そのような狭いレベルの話ではありません。文字通り社会全般です」
「はぁ…」
「現実との
「ははぁ」
また、随分大風呂敷を広げてきたな。
教授は未知の生物を見るかのように、正面に座るノッポを観察する。
結果のみをインスタントに求めがちな、ステレオタイプの軍人からは随分、遠い立ち位置にいるような御仁である、かもしれない。
「人文系総動員でかかった方が良いでしょうな。政府機関、共和国準備銀行(中央銀行)などの経済関係の専門家も交えてみても面白いかもしれません」
利益は共有する事で共犯に巻き込める。後で恨まれるより先に声を掛けておこう。元々、予算獲得に苦労している学科の多い人文系にとって新たな金蔓(出資者)の話は、独り占めしても旨味は最初だけだし、と脳内で算盤を弾いた教授は逆提案をしてみる。軍が乗らなくても誘いを掛けた上で断られたという言い訳は手に入るし。
「…連中もですか」
不機嫌のオーラが濃くなる軍人に気付かないフリをして、話を続ける教授。
「共同研究として(予算も)頂けると幸いですが」
「勿論です。ただし、その場合は機密扱いになる可能性が高いので学会での発表は諦めてもらいますが」
「えぇぇ…」
情けない表情をする教授に、幾ばくかの留飲を下げたノッポは研究室を辞する。
「どうにも話が大きくなり過ぎる。とは言え、やり過ぎというものでもあるまい。人の生き死にが関わる話になるだろうし。後は議長の裁断だな」
精々、時間と人と金を掛けて
ノッポも参画した、この銀河帝国情報収集計画は議長府傘下に成立した情報コミュニティ最初の大事業と関係者から評されている。詳細は今も未公開であるが、銀河帝国への同盟初の大規模情報収集作戦を企画・実行したという。なお、四半世紀以上、結果を出せず、参画した初期メンバーもほぼ現役を退いた頃にようやく結実するのだが、それはまた別の物語である。
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「戻れないよ。少なくとも百年はね」
法秩序委員長は開き直った詐欺師のように宣言する。
「テラフォーミングとは魔法じゃないのだ。無制限に予算とリソースを突っ込んだとて、数年で緑
とりあえず、自前の肺で(人間が)住める程度の天然の地球型惑星を、同盟のインフラ構築能力を注ぎ込んで最低限の生活ができる程度に整備するのが疎開作戦中までだ。まともな都市生活を送ろうとするなら、どれだけ(予算的な)優遇しようが、そこから四半世紀や半世紀は見て貰わないと」
もっとも、そこまで面倒を看たとして、半世紀経っても、自立できれば上々で、経済圏が立ち上がる所までいって、ようやく投資を回収できるレベルさ。
法秩序委員長の言ぐさは、棘と表現するには悪意が隠れていないように、国防委員長には感じられた。
一日、多忙の折を縫うように国防委員長は法秩序委員長との席で、疎開作戦の今後、避難住民の今後について相談という名の、現政権以後の法秩序委員長の思惑について、感触を探ってみた際の話題であった。
強引なテラフォーミングを実施した惑星とは、とかく不安定なのだ、と法秩序委員長は力説する。
大量に資材を投入すれば、した分だけ生活環境が向上するような単純なものではないらしい。
簡易なエコシステム(惑星循環系)は手っ取り早いが上に脆弱であり、平衡機能が貧弱で、僅かな環境バランスの変化が、ジャイロ効果を失って、転げ落ちる
人間という、生きるだけで環境を改変してしまう生物を多量に住まわせるという行為は、累卵の上で生きる事と同意である。
「本来は、複雑なエコシステムを構築しながら、少しずつ入植させるのがセオリーなのだ。それを今回は文字通り力業でやるんだ。国債を引き受けさせてまで、な」
「惑星債です」
「同じことだ。政権の同輩だろう。畏まるのは無しにしよう。時間の無駄だ」
人を共犯者のように見ないで欲しい。
国防委員長は、嫌らしい笑みを浮かべる法秩序委員長に対して切実に思った。
「開発は100年単位になる。(避難した)住民が十分な生活の質を保った上で活動できるように、空疎なエコシステムの複雑化を長い時間を掛けて進めていく必要がある。ま、それ自体(エコシステム複雑化のための事業)も需要になるので、悪い事ではないのだが。
そもそも惑星債の償還問題も発生するのだから、最低でも100年は引っ張らないと話にならん」
つまり、疎開先の生活が落ち着いて、さて故郷に帰ろうと、考える余裕が出来るのに一世紀はかかると、法秩序委員長は仰っている。
「100年後にいざ戻ろうと掛け声を掛けたとして、戻ろうとする者がどれだけいることか」
100年後には、避難星域に住まう彼らのほとんどは、避難星域こそが故郷なのだ。
「大体、帰還事業に同盟政府が金を出す必要がないよ。やりたければ手弁当でやるのが筋じゃあないか」
充実したインフラを持つ星系を出て、生活環境を一から自分たちが構築する必要があるのだ。しかも帝国という外敵のリスクを常に感じながら、だ。
「強制避難、国策で故郷を捨てさせるのだぞ」
法秩序委員長の突き放したような意見に、流石に眉を
「そこだよ。避難と帰還は事業(予算)を分けるように強く求めている」
永続的に国庫支出によって面倒を見る事は出来ない、と。法秩序委員長は建前をアピールした。
国家予算の少なくない割合を常に占めるような政策は、後世の市民に対して無責任であろう。
「いずれ、私の望み通りになるさ」
国防委員長の反論に対し、法秩序委員長は木で鼻をくくってみせた。
「ちなみに(避難民が)入植する避難星域に、今回の政策により用意する動産・不動産は同盟政府の政府資産であり、帰還事業に費やされる資産ではない」
「勿論、避難星域で生活する分には同盟政府はおろか当の星系政府も文句は言わない。言えるわけがない」
法秩序委員長は手を広げながら自論を展開する。
「避難した亡命星系政府が避難星域の星系政府であろうがなかろうが、そこは問題ではない。問題が起きるとすれば、亡命政権が帰還しようとした時だろう」
つまり、避難先の星域の星系政府資産は「その星系で生きる市民のために」用意されたものであり、星系政府が亡命政権であろうが、星系で生活するために使用する分には、法的にも問題はない。星系住民の多数支持を得た、亡命政権にして星系政府が法に従い運用する限りにおいては。
亡命政権が帰還事業のために処分しようとした場合に、問題が発生するのだ。
実際には、避難民が持ち込んだ私有財産に、亡命政権が持ち込んだ、所有権を保持する公共財もあるが、百年後まで、管理・把握できるのか?順当に人口増加した元避難民たちの子孫全員を帰還させるだけのリソースをどう決めて集めるのか、課題は山積している。
自由惑星同盟では公的機関による入植・開拓については、議会の許可(法令)を必要としており、政府資産の目的外使用については、議会の審査を必要とする。そして、予算審議においては下院が優先権を持っており、亡命星系政府の有力勢力が存在する上院には予算編成権はないのである。
今の同盟下院は単純人口で選挙区が割り当てられる小選挙区制であり、議員の出身だけ見れば、中枢星域や後方星域を含めた選挙区の下院議員が過半数以上を占めていた。
「法的には再入植となるわけだが、国策でない以上、有志の入植に国費は投じないのは当然のことだよ。
どうしても国費で帰還事業がしたいのであれば下院で通す必要がある。少数勢力である彼らが帰還事業を通すのであれば、”相当の大義名分”-中枢星域の有権者を納得させる-が必要になろう。
いずれにしても、その時には吾々は誰一人、この席に座ってないよ。墓の下さ」
自分の据わる椅子を叩き、議員バッジを撫でて見せながら、実に人の悪い笑顔を浮かべてみせる。
そもそも、戦闘に巻き込まれる恐れがあるとして避難させるのであるから、戦争が終わる、せめて、戦場になりうる可能性が極めて低くなる、との判断を下すだけの材料を揃えない限り、再入植など認める訳にはいかないのだ。
「まぁ仮にだ。戦場が遠ざかり、避難星域の全住民が帰還したとしても、抜け殻となった避難星域の星系インフラは丸々残るわけで。格安で新規移住者を募るだけだ。新規開拓よりは遥かに安く付くというわけだ。
同盟政府としても曰くつきの店子が出て行って、綺麗な身の上の中枢星域住民が新たに誕生するわけで、めでたしめでたしだ」
「悪辣な」
思わず口をついて悪態が漏れてしまった。
国防委員長の悪態を、ふふん、と鼻で
「未だ見えぬ想像上の帝国軍より、顔のある、注文の多い同輩の方が憎いなんて、社会じゃありふれたものじゃないかな?
喧嘩の絶えない「隣人」だろうと、我慢してでも団結して当たらざろう得ない『帝国』とはまこと便利なものだな?国防委員長」
悪魔のような笑いだと国防委員長は思った。
「戦死者について?君が私に聞くのかね?」
人的資源委員長は嫌そうに国防委員長を見やる。
最高評議会の決定について疑義は提示する事は諦めたが、言い様のない不安を捨てるまでには、無責任ではなかった国防委員長は、後日、その答えの一端を握っている可能性のある同僚を尋ねた。
「今回の疎開作戦では大体3年で1万人程度の戦病死を見込んでいます」
「…」
表情を
「国防委員会という大任を預かってはいますが、こと国防に関して勉強不足である事は自覚しております。その上で、国防以外の見地から、戦死者、いえ、社会における大量死の影響について知見を得たいと考え、尋ねています」
「あぁ、君は中央政界に打って出て日が浅い上に初入閣だったね。ふむ」
人的資源委員長の雰囲気が若干緩む。
手元の情報端末を操作し、国防委員長の簡単な経歴を表示させて一瞥する。
「全くの畑違いというわけでも無いが本格的な軍の戦略となると勉強中でもおかしくないか…」
「私は労働問題をライフワークとして、中央と地方を走り回っていた上でこの地位に、専門家として座っているのはご存じだろうか?」
国防委員長が頷く。
「あくまで、労働者側に寄る、人的資源委員長としての意見を述べるよ」
情報端末をさらに操作して、ソリビジョンを表示する。
最高評議会で国防委員会が提出した、疎開作戦におけるメモランダムを国防委員長にも見えるように映す。
「今回軍が提出してきた疎開作戦。3年間の作戦期間中の戦病死者数予測が1万2千人。
いいかね?
こいつを”一つの業界”で三年で一万人の死者、年平均三千人超の労務災害による死者と見立てたとしよう。
…平時なら、うち(人的資源委員会)と法秩序委員会と経済開発委員会がそれこそ「連合軍」を結成して業界団体・労使関係者を巻き込んで、物理的に吊し上げる事態だよ」
ありえん。どんな違法労働だ。奴隷労働ですらありえん、と自分の例えで憤る人的資源委員長。
「死んだ人間は働けんのだよ。行政側の視点だけでも、その人が働き、得る収入、そして収めてくれる税金、これらが永遠に喪失する。さらに軍が死なせるだろう兵士の多くは、出産可能世代が多くを占める。つまり、彼らが産むはずだった子供たち、未来にこの社会を支えてくれる、同盟市民すらも失う事になるのだ。
年寄りならいいだろう、という話でも無いがね……君はバンプールが地盤だったね。なら分かるだろう?中枢星域だの後方星域だのと言ったとて、田舎呼ばわりされるような星系や地域では、生涯現役などと
「人的資源委員会としては、期間限定であるから許容した。言い方は悪いが、死者の数字が一時的なものならば、大規模災害による罹災者と見做せる。それなら過去の実績を
「戦争が長期化、いえ恒常化した場合、どうなりますか?同盟社会の労働環境の視点から、で」
「どれくらいの数字を想定している?」
「迎撃作戦時の数字ですが、平均で宇宙艦隊で一割、今回の規模で言うなら24万人です」
「……」
人的資源委員長は腕を組む。
「年間20万超の戦死者が四半世紀、いえ半世紀」
「同盟が崩壊する。詳細を計算はできないが、直感的に無理だと思う」
人的資源委員長は即答した。
「そのペースで消耗するとして、10年で240万人が死ぬ。四半世紀続けば600万人?同盟の全人口が2億を越える時期が分かってきたかどうかで全人口の3%。それも働き盛りで出産可能世代を中心に。悪夢だよ」
ソファに預けた体を前のめりにする人的資源委員長。
「同時に今のペースの総動員が恒久的に続くと考えると、同盟の労働供給力が破綻する。その上で徴兵者から毎年十万単位の戦死者だと?国防委員会の防衛戦略はどうなってるんだ」
「人的資源委員会では認識がないのですか?」
「
うち(人的資源委員会)も想定はしていたが、あくまで基礎的な研究に留まっている。他にやるべき事、急がないといけない事が山積しておるからな。
しかし、この数字は出せるわけがないな。平時に、この数字を出したら(議会を)通るわけがない。もっとも…」
「「来寇した帝国軍に白旗を上げる事もありえない」」
「…」
主義主張が異なれど。同盟市民としての無自覚の共通認識であろう。
無言で溜息を吐くと、人的資源委員長は嘆息してみせた。
「吾らが議長が、狂った一惑星主義者(愛郷主義者)を(議長大権で)ぶん殴ってでも引かせたわけだ」
ここで国防委員長は、疎開作戦司令官を務める以前に大男が述べた話を出した。
「例えばですが、毎年10万単位の戦死者が出るが、人口が100億に増加した同盟社会なら耐えられるでしょうか?」
「…」
目を丸くしながら国防委員長を人的資源委員長は見つめる。
「なるほど。分母を膨らませたら、全体からしたらダメージは小さくなるな……しかし、君、その考え方は十分に軍人的だと思うぞ」
とても嫌そうな顔をしながら、国防委員長の考えを首肯してみせる。
「即死はせんだろうが、死に至る病ではあると思う。
死は個人の出来事だが、社会においては、死者の周囲にも影響を及ぼす。さきほども言ったが、遺族-残される、配偶者をはじめ、親、遺児-を支える必要がでてくる。国も支えるが、そも支えるべき人間が次から次へと戦争にとられ、死者として帰ってくるとすると、同盟の人的資源の余裕が奪われる事になる。そしてそれは」
同盟の大前提である人口拡大に急ブレーキを掛ける事になる。出産者が減り、遺族を支え、死者の穴を埋める。人口拡大のためのリソースがそちらに移る事で同盟の基本戦略が変質せざろう得なくなるだろう。
「幸いにもこの疎開作戦が成功すれば、吾々はまた暫くの時間を得られる。その間に、この問題を真剣に検討するべきだ。
という事で国防委員会は共同研究に協力してくれるね?」
隙あらば主導権を掴みに来る老先輩の強かさに苦笑しようとして失敗し、苦虫をかみ潰したような顔をしてしまう。
「どの委員会が、という話で済みませんよ。むしろ、政権の主要課題と言うべきでしょう…」
「将来の重要な課題というわけだ。しっかり答えを探してくれたまえ、未来の吾らが議長殿」
国防委員長就任の経緯と、議会での評判を知る人的資源委員長は、後輩の野心を見抜いて破顔一笑し、持ち上げてみせた。
「ははっ、私は一専門家として吾が共和国の労働環境の向上さえ叶うなら、政治家だって辞めてもいいんだ。君とは違うよ」
「未来の吾らが議長殿に
君が軍を基盤の一つとする…まぁ、『吾らが議長』を目指すならコントロールせねばならないだろうから、無視もできんだろうがね」
笑いを収め、ソファに座り直すと、国防委員長をじっくりと見つめる。
「伺います」
国防委員長も姿勢を正す。
「遺族さ」
「…」
「私も労働災害で彼らを支援したり、経営側で矢面に立たされたからね…」
「本格的な交戦が始まれば、議長の言や君ら軍の予想通りなら、増える事はあっても減る事はないのだろう?彼らの存在を常に意識しながら動く必要があろうて」
「…」
戦死者遺族。今は存在しないが、いつかの自由惑星同盟において、当たり前のように、どこにでも存在するようになるかもしれない、と人的資源委員長は言う。そのような自由惑星同盟を想像することすら困難を覚えるが、国防委員長は内心で背筋に氷柱を付きたてられたように震えた。
「ふん。国防委員長と話していたら、疎開についての不愉快な出来事を思い出してしまったわ」
「まったく、詳細は聞きたくもないが、彼ら(避難対象星系の一惑星主義者たち)の首を縦に振らせる(避難させる)のに一体いくら(予算を)掴ませたのか」
一連のやり取りを思い出したのか、急激に不機嫌になる人的資源委員長。
「大体だ、対等の同盟者であったのは建国から50年くらいまでの話だ。いつまでも先住者気取りの少数勢力に
あぁ、この御仁の一惑星主義者への独演会が始まるのか…
意識が急速に現実に戻った国防委員長に人的資源委員長の怒りの余波が、お小言ととしてぶつけられる。
「ある程度の危機感を持たせる意味でも帝国の存在は有意だよ。あぁ、あくまでも団結としての仮想敵としてだよ?先ほどの話の通り、実際に戦闘にでもなられたら元も子もない」
「適当な軍事力の整備は、兵役者への教育や兵役経験過程による自由惑星同盟市民の育成・増加にも資すると判断してるから、うち(人的資源委員会)は支持しているのだ。そこはきっちりやってもらいたい」
人的資源委員長はもはや、自身が信奉する未来しか見ていないようだ。
最後に今後の協力も確認し、国防委員長は這う這うの体で談話室を辞した。
連休中に終わるはずが…
後1話なので、急いで投下です。