嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第11話 スターステージ

 時間は流れ、JIF当日。

 

 真刃から見ている限りでは、ぴえヨンと話したことで、有馬はセンターを張ることそのものに抵抗はないようだ。

 

 いや、そもそも有馬は意識が『プロ』なので、既に決めたことに対して『嫌』とは言わない。

 

 後は、ネガティブになるかならないか。

 

 有馬かなはアイドルであり、誰かに夢を見させる立場だ。

 役者とは違う。フィクションで構築され、役を演じることで世界を見せるのとは違う、『夢』を見せるもの。

 

 現実と嘘の狭間のような、一番、人間が『酔える』部分。

 

「ねえアクア君」

「ん?」

 

 スターステージ。

 

 今回、『B小町』が使うステージであり、地下アイドルも多い場所だ。

 

 要するにメインではないが、客はそこそこ多い。

 

 MEMがインフルエンサーなので、その時点で集客は見込める。

 

 ユーチューブでB小町のチャンネルもあり、ルックスに関しては三人ともセンターレベルだ。

 そんな三人が集まって、かつて一世を風靡したグループの復活を掲げるのだから、そこに刺さる『層』がいるのは、わかっていた。

 

 お客の数は問題ない。

 

「……黄色ばかりだね。ちょっとだけ赤だ」

「ああ」

 

 客席の中でも目立たない部分。

 アクアと真刃は、客席をチラチラ見つつ、三人を見ている。

 

 サイリウムの色は、今のB小町なら三色。

 

 ルビーは赤。

 MEMは黄色。

 有馬は白。

 

 インフルエンサーであるMEMが目的の人が多いためか、サイリウムはほとんど黄色だ。

 チラホラ、赤色が混ざり始めている。

 

 ……十数年前。アイがセンターだったとき、客席のサイリウムは彼女の色である赤一色だったのか。それを真刃は確かめようとは思わないし、言うほど興味もない。

 

「有馬先輩の顔。勢いがなくなってる」

「プロ意識が強いからな。ステージに上がれば、冷静になる部分もあるんだろう」

 

 なお、話している二人だが、実は誰の『邪魔』にもなっていない。

 

 そもそも、アクアも真刃も、目を見張るほどの容姿の持ち主であり、いくらステージで三人が歌って踊っているといえど、近くがざわつくことは起こりえる。

 

 だが、うまーく気配を消しているのか。邪魔になっていない。

 

「……冷静ねぇ。ステージの上に立ってるのに、引きこもりでも見てるみたいだ」

 

 プロにもなれば、『緊張しないためのコツ』みたいなものは、いろいろあるし、体得するものだ。

 

 もちろん、『緊張感』というのは、『練習してきたことと同じことをする』場合において強烈な集中力を生み出すゆえに、必要だ。

 

 実際、冷静になっている有馬も、全く緊張がないわけではないはず。

 

 見られている。聞かれているという意識はある。

 でも、実際手を握ってみれば手汗がすごいこともある。

 

 本番が近づけば、どこか『表面』は冷静になっていることもある。

 

 有馬の顔から勢いがなくなっている。

 

 別に笑顔ではないというわけではない。

 

 アイドルにとって笑顔というのは、『プロ意識』として組み込むものであり、気分がどうとかそういうのを前提にするわけではない。

 

 だが、わかる。

 

 自信家気取りの臆病者。

 一歩引いて調整に回る役。

 

 その意識が顔を出している。

 自分が笑顔でいるのも、他の二人のため。

 

 振り付けの都合上、他の二人の体に隠れて、有馬が一瞬見えなくなるタイミングがちらほら出る。

 

 その『見えないタイミング』で、有馬がどこか安心しているようにも見える。

 

 それが自分の本来の役割であるかのように。

 他の二人が……いや、『この場にいる多くの客の需要』を考えるなら、MEMがセンターだった方が、『このステージのためになる』と言っているかのよう。

 

 十分に熱狂しているこのステージは、成功か失敗かで言えば、十分に『成功』だ。

 

 しかし、気に入らない。

 ので、ちょっとめちゃくちゃやって帰ります。

 

「前に出ていいって言っても出ていかないし、大丈夫だっていくら言っても届かない。じゃあさ」

 

 真刃は、白いサイリウムを取り出した。

 

「腕を引っ張りまわして、背中を蹴飛ばしてでも動かしてやろうか。これを使ってね」

「……俺は箱推しでいく。初ライブだからな」

「浮気者扱いされるんじゃない?」

「知らんな」

 

 そういって、少し、ほんの少し目立つ場所に移動するアクアに、真刃もついていく。

 

 ★

 

 片や、スました顔したイケメン。

 片や、『お前はそんな程度か?』とニヤついて煽る美少女(男)。

 

 そんな二人が、このご時世、秋葉原でも見かけなくなったヲタ芸を全力披露。

 

 当然浮いている。

 アイドルの邪魔にならないように、サイリウムを振る程度にしてじっとしておけ。という雰囲気や、そもそもキレキレのヲタ芸が技術的に無理という現実はある。

 

 実際、二人を見る他の客は、『何してんのこいつら』といった視線を隠しもしない。

 

 だが……そう。

 

 

『有馬かな』に、こうかはばつぐんだ!!

 

 

(バカみたい。スました顔して何してんのアイツ! てか、真刃も煽ってくんのウザッ!)

 

 普通、見えない。

 観客など見えない。

 知り合いがいても、『え、居たの? 全然気が付かなかった』という会話を後ですることがほとんど。

 

 だが、有馬は、二人がよく見えた。

 

(ご丁寧に三人のサイリウム振って、箱推し気取りか? この浮気者め。真刃もそう。白いサイリウム振ってるけど、私のファンじゃない。私を煽るためにそうしてる)

 

 わかる。

 

 有馬かなには、わかる。

 

(本当にムカつく男たち。目に物見せてやる)

 

 有馬かなはプロだ。

 哺乳瓶を握ってた時代から役者をしてきた。

 

 自信は十分。

 舐められたままでは、絶対に済まさない。

 

 

 

(決めたわ。私がアイドルやってる間に、必ずアンタのサイリウムを真っ白に染め上げてやる。心の底から、全力でサイリウムを振らせてやる)

 

 

(私の事、大好きにさせて見せる)

 

 

(アンタたちの推しの子になってやる!!!)

 

 

 

 

 

 

 

「煽った甲斐があったね」「……そうだな」

 

 

 ★

 

 有馬かながアクアに対して引っかかっている部分はある。

 とても単純な話だ。

 

 ただ、大人にはわかっている話でもある。

 ミヤコがちょっとした『振り』をいれるだけで話はトントンと進み、ホッとしている。

 

 まあ、それで困るのはMEMなのだが……こればかりは大人の余裕で頑張ってもらいたい。

 

 もっとも、MEMよりも年下の子が芸能界を辞めていくことも珍しくはないので、そういう話に巻き込まれるよりは軽いことだ。この程度は乗り越えてもらいたい。

 

 あかねと有馬。どちらを応援すべきなのかは……どちらなのか。

 

 ただ、現状の、表面的な部分を言えば。

 

 アクアは有馬に対して遠慮のない態度をとれる。

 しかし、あかねに対しては、本人の意識では『役に立つから』という理由で付き合っている。

 

 有馬もあかねも、アクアに好意を寄せている。

 

 さあ、どうする?

 

「結局レッスンの時、ぴえヨンの中身アンタだったんでしょ?」

 

 苺プロの事務所にて。

 パソコンであれこれやっているアクアに、有馬は話しかけていた。

 

「あれ、有馬先輩。気が付いてたの?」

 

 その辺のソファに寝転んでスマホを弄っている真刃が、有馬の方を振り向いた。

 

「……前日の夜に、マスクを取ってモンエナ飲んでるのを見かけたのよ。おかげで一睡もできなかったわ」

「あっはっはっはっは! 油断したねぇアクア君」

 

 大笑いしている真刃だが、これに関しては本当にアクアの油断である。

 

「まあそれはそれ。なんでそんな事してたわけ?」

「……」

 

 黙っているアクアだったが……。

 

「だって、お前、俺と話してくれなかったんじゃん」

「……? それだけ? それだけの理由なの?」

「……」

 

 聞いている有馬に対して、アクアは何も言わない。

 

 というわけで……ここからは有馬の独壇場だ!

 

「それだけであのクソ暑い被り物して走ったり踊ったりしてたわけ? 私も一度やったけどクソキツイでしょあれ。そんであのキショい声出して??」

「ブフフッ」

 

 盛大に煽り散らかしている有馬に笑い声をこらえる真刃。

 

「てか上手いねモノマネ! 意外な特技持ってるじゃんすごい!」

「だからな? 俺と話したくない有馬は俺の指導なんて受け付けないだろ」

 

 クスクス笑う有馬に対して、アクアも思春期らしい反応だ。

 

「あくまで妹の初ライブを成功させるために……」

「はいはい例のシスコンムーブてわけね? 便利な言い訳持ってるわねー? そういうことにしといてあげるわ!」

「なんだコイツ。帰る」

「お? 逃げんの? 逃げんの?」

「は? 意味わかんねぇ。何からも逃げてないだろ」

「私と話がしたくて変なことしちゃったのバレて恥ずかしくて逃げんの??」

 

 ピキッ、という音が聞こえた。

 

「分かった。変な誤解してるみたいだから徹底的に討論してやる。座れよ」

「望むところですけどー?」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! ぶふふふふっ!」

「お前は後で締め上げるから覚悟しておけよ」

「うおっと、ちょっと退散しまーす♪」

 

 というわけで、ルビーとMEMがいるところに逃げる真刃。

 

「あの二人仲直りしたみたいで良かったね」

「今まさに仲悪くなろうとしてる風にも見えるけど……」

「いいのいいの。お兄ちゃんはあんまり人と関わらないタイプだから、あれくらいカマしてくる人じゃないと関係続かないんだよ」

「めんどくせえ男だなぁ」

「真刃君もわかっていてそういう態度とってるんでしょ?」

「そりゃそうよ」

 

 真刃もアクアの過去は知らないし聞いていない。

 

 だが、それでも、アクアがめんどくさい性格をしていることは十分理解している。

 

「元々はああじゃなかったんだけどね」

「そうなんだ?」

「まあ色々あって人格ねじ曲がっちゃったんだよねー……」

「あら」

「いろいろあってああなるか。相当だね」

「まあね。でも、先輩と居る時は、ちょっと昔のお兄ちゃんみたい」

「ふーん……気を使わなくても話せる関係ってことなのかな?」

「そうだと思う」

 

 親しい仲であっても、どこか線引きするものだ。

 

 でも、踏み越えていいと。お前も踏み込んで来いと、何の契約書もなく言い合える存在。

 

 そういう関係性が強いといえるのか弱いといえるのかはともかく……いや、違う。

 

 それはきっと、『嘘』じゃない。

 

 嘘の反対が本物なのかはわからないけど、でも、嘘じゃない関係は壊れやすいから、全力で推す。

 

 それでいい。

 

「あかね……ちょっと頑張んないとだぞー……」

 

 MEMは、ポツリとつぶやいた。

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