嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第15話 雨降って地固まる。そして……

 有馬とメルトをレストランの個室に連れ込んだ数日後。

 

「『SMASH HEAVEN』……いやぁ、舞台で卓球ってどうするだろうねぇ」

 

 真刃はウキウキしつつ、舞台の観客席に入っていく。

 

 時間ができたのか。GOAの脚本が気に入ったのか、楽しそうな表情だ。

 

 当然、真刃のような顔だちの人間が楽しそうにしているだけで、周囲の客にも影響を与えるが、それはそれ。

 

「……おや?」

 

 客席の中に、一人の女性を見つける。

 

(アビ子先生……だね。作品から漂ってくる匂いと一緒だ)

 

 世の中の検察官がブチ切れそうなことを思いつつ、真刃は席に座る。

 

(ただ、チケットからはアクア君の匂いもするねぇ。『そういうやり方』か。少し泣きはらした跡もある。今のこの人に、『そこまで踏み込める』のは吉祥寺先生だけだろうし……)

 

 フフッと微笑む。

 

(小突くとは思ってたけど、思ったより突き方がわかってるねぇ)

 

 攻撃とは、自分の硬い部分で相手の脆い部分を突くこと。

 

 時間に追われ視野狭窄に陥り、分かりあいたいという気持ちがありながらも融通が利かない。

 

 それを『仕方がない』と無理矢理納得させながらも、『師匠』にはすべてお見通し。

 

 ちょっと喧嘩になれば、煽って煽られてになるだろうし、そうなれば、繊細な人間はメソメソするもの。

 

(これだから、アクア君と付き合うのは辞められない)

 

 鼻で息を吸う。

 

 真刃の表情は、楽しそうな物に変わった。

 

 ★

 

 二時間後。

 

 公演が終わり、観客たちが席を立って帰っていく。

 

 当然、アビ子も、席を立って上がっていく。

 

 途中、上の席に座っていた真刃を見かけた。

 

「あっ……」

「ん?」

 

 完全に初対面である。

 ただ、そもそも真刃は『神秘的な美しさ』を感じさせる美少女の容姿であり、見かければ視線を向けられるもの。

 

 見られるのも慣れたもので、真刃は軽く礼をして立ち上がると、観客席から出ていった。

 

 呆然と立ち尽くしたアビ子先生だが……そんな彼女を、スタッフが発見。雷田に知らされることになる。

 

「さーてっと、どうするか……あっ」

 

 真刃は自分の鞄を見る。

 

「そういえば、雷田さんに渡す小道具関係の書類をもってきてたんだった。公演が楽しみで忘れてた」

 

 最悪だこの男。

 

「うーん……トイレを済ませてから行こうか。雷田さんは公演がある時は会場にいるし」

 

 というわけで、普通にトイレに向かって歩く。

 

 ……まあ、その、アレだ。

 

 生物学上は信じられないことに男だが、外見は完璧に美少女なので、男子トイレに入っていくとビビる人も多い。

 

 思いっきり男の格好をしているし、何か言われたら喉仏を見せて納得してもらうしかない。

 

 が、それ以前の問題として、『自分が男子トイレに行ったらちょっとした混乱が起こること』を、知っていながら配慮しないのだ。

 

 余計な混乱を避けるならばバリアフリートイレにでも入ったほうが良い。ということも分かっている。

 その上で男子トイレに入っていくのだ。

 

 最悪だこの男。

 

「さてと……」

 

 トイレを済ませると、廊下を歩いて、そのままスタッフルームに向かう。

 

 当然、待機しているスタッフに止められたが、東ブレの関係者である名札と、雷田宛てに書類を持ってきたことを知らせると、当然だが通してくれる。

 

 ただ……そう、『このスタッフ』には、アビ子が来ていることが、伝えられていなかった。

 

 真刃がドアを開けた先。

 

 そこには、雷田とアビ子が対面するように座っており……。

 

「ただし、一つ条け――っ!」

「ん?」

 

 言葉が詰まるアビ子。

 

 その視線は、部屋に入ってきた真刃に向けられている。

 そして、言葉に詰まるアビ子と……扉が開いた音に驚く雷田。

 

「あ、お話し中でしたか?」

「あ、え、はぁ。その……」

「『東京ブレイド』の小道具関係の書類です。公演がある時は雷田さんが会場にいると聞いたので、通してもらいました」

 

 封筒を見せる真刃。

 ただ、そんな彼に、アビ子が近づく。

 

「あ、あの貴方は……」

「え、ああ……俺は月影真刃と言います。『東京ブレイド』の舞台の関係者ですよ」

「や、役者さんですか?」

「演技経験はありますが役者ではな――」

 

 次の瞬間、アビ子が九十度、頭を下げた。

 

「月影さんお願いします! 『白蘭(はくらん)』役をやってくれませんか!?」

「……え?」

 

 目をパチパチさせる真刃。

 

 本当に、本当に珍しく。

 

 彼は、すっとぼけたような表情になった。

 

 ★

 

 週刊連載の少年マンガで、単行本は5000万部を突破。

 

 アニメも映画も大人気。

 

 そうした作品で起こりえる要素は、舞台化だけではない。

 

 クオリティが高いものを提供できれば、更なる集客を呼び込める要素。

 

 その名も『ゲーム化』だ。

 

 タイトルは『東京ブレイド The() Ignite(イグナイト) Storm(ストーム)

 

 アビ子が言った『白蘭(はくらん)』は、『イグスト』とも略されるこのゲームのオリジナルキャラクターである。

 

 原作ファンからも一定の支持があり、ゲームファンからは絶賛されるほど人気。

 

「本編開始よりも前にとあるクラスタの争いに巻き込まれ両親を失った戦災孤児で、今は『鞘姫』の養子。盟刀は持っていないが、両親が遺した二刀流で戦う天才剣士。

 

 可憐で神秘的な容姿で、長く白い髪を持ち、人里離れた場所で育ったため一般的な服装に馴染めず、動きやすく少し露出のある格好をしている。

 

 年齢不相応に精神が未熟で、舌足らずで声が可愛らしく、表情も幼い。

 

 健気な性格で、鞘姫を慕っており、拾ってくれた鞘姫に恩を返すため、渋谷クラスタ以外が持っている盟刀を手に入れて、鞘姫にプレゼントするために戦っている。

 

 ただし、その辺の相手にはまず負けない実力があるものの、盟刀持ちの異能には敵わず、もどかしい日々を送っている。

 

 性別が公開されておらず、ネットでは今もどちらなのかで議論が白熱している。

 

 ネットで白蘭と検索すると、サジェストに『原作者の性癖詰込みセット』と出てくる。実際、五徹明けに酒を飲みながら考えられたキャラクターと原作者本人が表明している」

 

 場所は東京ブレイドの稽古場。

 

 テーブルに並べられた資料を手に、なるほど。と頷いた。

 

「俺、私生活で、クラスメイトが養母の許嫁になるのか。どう思うアクア君」

「俺に振るな」

「芸能科がある学校だもん。そういうのも珍しくないわよ」

 

 真刃が『白蘭』役を務めることになった。

 

 その話が今回のチームに広がると、なんと全員が集まってきた。

 

「はぁ……ただ、脚本がまだ決まったわけじゃないからね。白蘭は天才剣士。俺の殺陣(たて)によってかなり変わってくると……」

「……」

「で、白蘭とブレイドの戦闘シーンが、イグストにあるから、これの再現度合いで決めるってわけだ」

「……」

「姫川さん。()る気っていうか()る気満々だなぁ」

「月影の身体能力は高いからな。それに、最近は体力もつけてるみたいだし」

「あー、ちょっと諸事情でね。こういったタイミングで役に立つとは思ってなかったよ」

 

 新しく、殺陣用の刀が二本用意された。

 

 二刀流ではあるが、他メンバーが使うものよりは短め。

 

「撮影ねぇ。カメラマンなんて今から呼べないし、アクア君でいいかな。カメラマンとしての経験はともかく、映像の人だし、それっぽいものはイメージできるでしょ」

「……わかった」

「さてと、あんまり時間もないし……」

「通しで二回練習。一回ごとに俺と鴨志田とおっさんが口を出す」

「え、俺も?」

「鴨志田も、ゲーム映像は見てただろ?」

「よく見てるねぇ」

「星野は二回の間にイメージを作っておけ」

「わかった」

 

 というわけで、姫川は太刀を一本。真刃は刀を二本持って、稽古場に立つ。

 

 真刃は目を閉じて深呼吸。

 

 そして、目を開く。

 

 

 そこにいるのは、幼い顔立ちで、可憐な瞳の、一人の子供だ。

 

「行くよ。ブレイド」

「……」

 

 ブレイドは何も言わず、左手でクイクイ、と招く。

 

 少しだけ眉をひそめて、白蘭は飛び出した。

 

 

 

 ……端的に言うならば、まるで芸術だ。

 

 そもそも盟刀を持たない白蘭は、言い換えれば、設定上『派手なエフェクト』が付けにくいキャラクターでもある。

 

 だが、ゲームで描かれる白蘭の戦闘アニメーションは、いずれも評価が高い。

 

「くっ、くそぉ! 全然、当たらない」

「なんだ、その程度か?」

 

 『盟刀・風丸』を振るうブレイドに対し、盟刀をもたない白蘭では、そもそも戦闘の格が違う。

 

 だが、そんな中でも、その戦闘はキレイだ。

 

 真刃の長く白い髪。

 とても艶があり、光沢を放つそれが、踊るように回り、剣を振るうのに合わせて揺れる。なびく。

 

 この『揺れる白の長髪』が持つ魅力を最大限引き出したのが、『白蘭』の戦闘の華やかさの根源であり、『異能バトルの派手なエフェクト』の戦闘シーンに一石を投じたアニメーションだ。

 

 二人は刀を振るう。

 

 姫川も楽しいのか、ゲーム映像の『ブレイド』をほぼ完璧に再現し、『健気な剣士をあしらう演技』に全振りだ。

 

 しかも……お互いに、『ゲームよりもセリフを少なくするアドリブ付き』であり、細かいセリフはあるが、そこでしっかり仕草で心情を表現している。

 

 動き一つ一つが情報量の塊である姫川に対し、真刃も食らいついている。

 

「す、すごい……」

 

 メルトは半ば呆然としている。

 

「確かに凄い……けどね」

「言えることはたくさんあるよ」

「そうね。でも、とりあえず殺陣を見せて参考にしてもらう分には、三人が指摘すれば十分ってところかしら」

 

 鴨志田、あかね、有馬が評価する。

 

 初見にしては、かなり高い完成度だ。

 それは間違いない。

 

 動きや表情の作り方、そして舌足らずがその中でも崩れない。

 

 しかし、高い集中力と自己暗示で無理矢理仕上げたものであり、粗は探せばいくらでもある。

 

(ただ……何か違和感がある。なんだろ。これ……)

 

 そんな中で、あかねは、モヤモヤしていた。

 

 

 

 結果を言えば。

 演技のレベルが高いという軸で、『白蘭』を入れることになった。

 

 すでにスタッフの情報を公開しているので追加はできない。

 

 そのため、『サプライズ』ということで白蘭を出すことになった。

 

「……鬼も蛇も出ちゃった。あー、そもそも、白蘭が持つ剣って、名前は『蛇鬼無双(じゃきむそう)』だったな、両方出てくるの、ある意味当然だよねぇ……」

 

 完成した脚本を見て、雷田は魂の底から溜息をついた。

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