嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第16話 オーバーキラーパス脚本

「全く……とんでもない脚本が上がってきたわね。説明台詞がゴリゴリ削られて……やたら『動き』だけでどうにかしなきゃいけないシーンが多い……」

 

 要するに!

 

役者の演技に全投げ(・・・・・・・・・)の、とんでもないキラーパス脚本じゃない。失敗したら責任は全部こっちのせいってワケね。大分無茶振りが過ぎるんじゃないかしら」

「なるほど、要するに、雷田さんと編集部の人は何のブレーキにもならなかったわけだ。残り半月で突っ込まれた身にもなってくれよほんと……」

「アンタは集中力が凄いし大丈夫でしょ」

「……まあ、仕上げるしかないよねぇ」

 

 真刃が『白蘭』役で参加することが決まり、それに応じた脚本が来た。

 

 なお、アビ子もGOAも、ゲームは結構やりこんでいたようで、元あった脚本に白蘭に関する展開を入れる際も、かなりスムーズに入ったそうだ。

 

 ネットを見れば、白蘭の人気はよくわかるので、『もし入れられたら』という妄想はあったらしい。

 

 しかし、アビ子は真刃の存在を知らず、GOAは真刃との付き合い方がまだわかっていないので、『白蘭』役をお願いします! とストレートに言えない。

 

 そもそも、白蘭に関係なく、『そもそも2時間に仕上げるのキッツいわ!』となっていたので、白蘭を入れたらそこに尺を取る必要があり、『まあ無理やろこれ……』となっていた。

 

 で……全員が時間不足で思考力がヤバいことになっているときに、クリエイターが一対一(サシ)で、しかも白蘭という燃料もぶち込んだ結果、『ヤバいのができた』というわけである。

 

 良い悪いではない。

 難易度は高いが、仕上げればかなり凄いものになる。

 もっと言えば、『ララライと、鏑木が突っ込んだキャスティングにふさわしいレベル』になっている。

 

 ただ時間が足りないのだ。

 

 ちなみに、今回の脚本になったことで、『物凄くうれしい』と感じている人は多い。

 

「うんうん。これなら『鞘姫』の解釈は私と合ってる。考察の種もすごく多くなってて、私としては大満足」

「演技全振りの脚本……これ()るの難しいわよぉ」

「俺は問題ない。もともと物足りないと思っていた位だからな」

「私はこっちの方が得意!」

「やっぱり演技は身体を使ってナンボでしょ!」

「GOAさんの脚本のクセ出てるなぁ」

「まぁ俺等はあの人のホンの舞台何度か出てて勘所はわかるし問題ないけど」

「『劇団ララライ』の真のトップが誰か証明するチャンス来たな」

「ゲーム内容だと、()白蘭(真刃)が戦うシーンはないけど、脚本の都合で殺陣のシーンが追加されてる。いいねぇこういうの」

 

 ララライの面々はかなり高評価。

 鏑木組も、内心では燃えている人が多い様子。

 

「『白蘭』入りの渋谷抗争編……か」

 

 真刃はため息交じりにつぶやく。

 

 イグストは、今回の舞台となる『渋谷抗争編』と、ゲーオリ展開である『百鬼夜行編』を、原作キャラを操作して遊ぶ内容となっている。

 その後、有料無料問わず、大型アップデートが何度か行われているが、初期はその二つのストーリーで構成されている。

 対応機種は携帯ゲーム機の最新ハードであり、『そういう売り方』が可能。

 

 渋谷抗争編は、新宿クラスタと渋谷クラスタの抗争と、同盟のお話。

 

 そして『百鬼夜行編』だが、ゲーオリ盟刀である『盟刀・夜宴(ようたげ)』を手にした男が、妖怪を大量に叩き起こして、同盟を結んだ渋谷クラスタと新宿クラスタの盟刀を奪いに来るのを撃退するストーリー。

 

 ……なのだが、こうなったのには理由がある。

 

「ゲームの開発ディレクターが『刀×鞘』カップリング推しで、原作で出番の少ない鞘姫を掘り下げるために、養子の白蘭ができた。で、渋谷抗争編のPVをYoutubeで出したら、白蘭が凄く人気になった」

「ただ、渋谷抗争編だと、盟刀持ちを相手にすることが多くて苦戦続きだから、そこまで強くはなく大量に湧き出る『妖怪たち』相手に無双する展開を用意したみたいだね」

 

 ぶっちゃければ『戦○無双』であり、白蘭のレベルを上げることで最も爽快感のあるプレイが可能になっている。

 

「白蘭の戦闘スタイルは、長い白髪を揺らしながらの二刀流。月明かりを浴びて神秘さを増した状態で無双する展開にすることで、魅力を最大限に……うーん。なるほど」

 

 要するに!!

 

「これってさ。『百鬼夜行編』をやらず、苦戦続きの展開なのに、白蘭ファンを満足させる必要があるってことだよなぁ。いや、脚本ではそれができてるけど、俺の演技に全投げって……マジで言ってんの?」

 

 ゲーオリのキャラクターである白蘭は、当然、ゲーオリ展開である『百鬼夜行編』でその活躍が本格的に描かれている。

 原作キャラは原作で活躍するのだから、ゲームの方は白蘭を軸に! という思いもあっただろう。

 

 妖怪たちを相手に二刀流で無双する白蘭の魅力を存分に引き出すアニメーションがいくつもあり、結果的に白蘭は超人気キャラになった。

 

「グラフィック凄いし、それも人気に拍車をかけてるでしょうね」

「はぁ……」

「ていうか、今確認したら、ゲームの開発にはアンタも関わってるじゃない」

「お金を出しただけで内容には一切触れてません。なんならお金だけ出して忘れてました」

「金銭感覚どうなって……なんか前にもこの流れあったわね。で、いくら突っこんだの?」

「7……いや止めておこう」

 

 口を閉じる真刃。

 

(……流石に、70億。とは言わない。何ならそれすらも『初期費用』で、実際はもっと多いんだよねぇ)

 

 内心でとんでもないことを呟きつつ、真刃は脚本を読み込んでいる。

 

 動きに重きを置いた脚本ということは、その場面ごとのキャラの心情を理解しなければ、演技に反映されない。

 

 そしてそれに困っているのは、真刃だけではない。

 

「……はぁ、マジかぁ。こんなん出来る気しねぇ……本番まであと半月……間に合う気がしねえよ……」

 

 メルトはまだ、キザミというキャラクターを完全につかんだわけではない。

 その上で、『しっかりと感情の乗った演技』を仕上げなければならない。

 正直に言って難易度は爆上がりだ。

 

「アクアにとっちゃこんなの朝飯前なんだろうけど」

「いや……どうだろうな」

 

 今回の脚本は、感情の動きが必要になる。

 

 そもそもGOAは、『遠くにいるお客から役者の細かい動きは見えない』として、溢れる情緒を『セリフ』で表現する方針を取っていた。

 

 そのレベルならば、アクアもアレコレ頭の中で繋げて形に出来る。

 

 しかし……。

 

 ★

 

 始まった稽古。

 

 長いセリフを、動きで表現するのは大変だが、そもそも実力派が揃っている。

 

 だが、それを苦手とする人もいる。

 

「ストップ。『刀鬼』。ここはお前の一番の見せ場だ。もっと本気で」

「すみません」

「物語のクライマックス。戦闘の最中重傷を負い倒れた『鞘姫』。絶望する『刀鬼』。だが奇跡的に目覚めた『鞘姫』を目にして、『刀鬼』はどういう感情を抱く?」

「不安からの解放……強い喜びと希望……でしょうね」

「そうだ。お前は確かに原作通りの演技をしている……が、舞台はもっと強く感情を出さなければ客席に届かない」

 

 遠いところに感情が届きにくいからこそ、元の脚本はセリフが長かった。

 

 だが、全体として『動き』が重要視されれば、事情も変わる。

 

「もっと感情を引き出せ。ここは感情演技のシーンだ」

「……」

「……あと、目覚めた鞘姫に感情を高ぶらせるのは『白蘭』もだ。一回、本気でやってみろ」

「本気でって、『本番レベルで』ってことですか?」

「そうだ」

「そうですか……それなら……」

 

 真刃は目を閉じて……開く。

 

「う、うう、あぁ……」

 

 その次の瞬間には、涙がボロボロと流れている。

 

「「!」」

 

 その涙に、アクアは、あかねは、何故か、『演技』を越えた何かを感じた。

 

「うあああああああああっ! 母上えええええええええええっ!!!」

 

 目覚めた鞘姫に寄りかかり、泣きじゃくる白蘭。

 

 よかった。生きてた。嬉しい。

 

 心の底からの安堵。

 

 大好きな存在が目覚め、息をしている。

 

 それを見た幼い子供の、心の底からの叫び。

 

 それは、部屋にいた全員を、自分に引きずり込むほどの引力を放つ。

 

「はぁ、はぁ……ええと、こんな感じですか?」

「ほぼ初見でそれなら十分だ」

 

 聞いている真刃と、頷く金田一。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 真刃だが、かなり疲れたのか、肩で息をしている。

 涙もまだ完全には止まっておらず、汗は流れ、体も少し震えているようだ。

 

「大丈夫か?」

「え、ああ……いでっ!」

 

 視界の端で姫川がペットボトルを持っていて、振り向いたら投げてきた。

 

 だが、うまくつかめず、額に直撃。

 

「あ、すまん。ただ……相当だな」

「ええ、まあ」

「黒川の『没入』とも違う。集中力と自己暗示で無理矢理……そう、『上書き』だな。ここまで高度なものは初めて見る。強いエネルギーを発揮できるが、その反面、コントロールが難しいか」

 

 金田一の分析だが、かなり的を射ている。

 そもそも真刃は、金の匂いを辿るということに対し、自分の本能に絶対のルールを敷いている。

 

 幼少期から、『理性を貫通する自己暗示』を行うために、とにかく集中力を高めた。

 

 集中力と自己暗示は、上手く使えば演技において強いエネルギーを発揮する。

 

 それで『日常』……そう、『舌足らずな子供』を演じるならばまだいいが、『激情』となると、制御が難しい。

 

 憑依型でも没入型でもなく、上書き。

 

 自分の中に落とし込むのではなく、全く別の存在になるかのような手段。

 

「まあ、初見で本番レベルを要求するおっさんもおっさんだけど、本番は俺のセリフで締めだ。遠慮すんなよ」

「胸を借りますよ。ふぅ……」

 

 ペットボトルの水を飲む真刃。

 それだけでオーラを感じさせるが、やはり疲れている。

 

「……星野、本番は横でこの演技だ。二人揃って感情を出せば客にも強く訴える事ができるが、今のままだと浮くぞ。考えておけ」

「はい」

 

 正直に言えば、『今のアクア』にとって無茶振りもいいところ。

 

 しかし……ピッタリな演技のためには感情演技が必要であり、それ以上に、真刃の声色。

 

 真刃は白蘭を演じる時、『舌足らず』を絶対に崩さない。

 

 だが、先ほどの泣き声は……『真刃』が、かなり入っていた。

 

 それが、アクアには、気になって仕方がない。

 

 当然、あかねも、先ほどの演技は気になる。

 

 真刃はあかねを……鞘姫を見ているようで、別の誰かを見ているような、そんな気がする。

 

(一体、誰を見ている?)

 

 強烈な違和感を残しつつ……今日の稽古は終わった。

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