嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第18話 役者が、というより鏑木の性格が悪い。

 今回の東ブレだが、白蘭を演じる真刃としては、『対立構造として良く出来ている』と思う。

 

 主人公であるブレイドが所属する新宿クラスタ。

 鞘姫をトップとする渋谷クラスタ。

 

 その構造だ。

 

 まず新宿クラスタだが、

 ブレイドは『熱血系主人公』

 つるぎ は『感情豊かな戦闘狂』

 キザミ は『強者を相手にしても根性で立ち上がれる男』

 

 と言った構成であり、かなり前向きな性格として描かれている。

 『熱血』と『ジャンキー』と『根性』、と言い換えるとなお分かりやすい。これぞ王道マンガの主人公チームだ。

 

 それに対する渋谷クラスタだが、

 鞘姫は『葛藤を抱えた優しい女性』

 刀鬼は『感情の乏しい懐刀』

 匁 は『戦うのが嫌』

 

 という、どこか後ろ向きな性格として描かれている。

 

 『優しい』と『仏頂面』と『卑屈』と言い換えると分かりやすく、誰も彼もが『自分の腹の底』を晒すタイプではない。

 

 そして、ゲームの開発ディレクターが『刀×鞘』推しで、健気な幼い白蘭が設定された結果、キャラが掘り下げられた。

 

 白蘭は鞘姫のことが大好きで、渋谷クラスタの面々からも可愛がられている。

 基本的に『前のめり』として描かれない渋谷クラスタに『白蘭』がいることで、渋谷クラスタ内でバランスが取れている。

 

 そして……そのバランスは、役者の中でも発生している。

 

 姫川と有馬の主役コンビは、その演技力も相まってすさまじい勢いだ。

 それに対するアクアとあかねも、主役コンビに勝つために練り上げている。

 

 残るメルトと鴨志田だが、鴨志田はプロとしてメルトが嫌いであり、散々煽っている。

 ただ、真刃が原作漫画を読む限り、キザミを演じるためには、『悔しい』という感情を理解し、深ぼっていく必要がある。

 

 鴨志田は図らずとも、メルトの感情を育てるのに貢献している。

 

 結論を言えば……。

 

(鏑木さん。性格が悪いなぁ)

 

 と言ったものだ。

 鏑木が聞けば『人聞きが悪いなぁ』と笑いながら言うだろうが、まあそれはともかく。

 

「……」

「何睨んでるのよ」

 

 荷物を置いている部屋で、面々が集まっている。

 そんな中、あかねが少し、物々しい雰囲気で有馬を見ている。

 

 本番が近くなるにつれて、『対立軸』に触れる役者たちが、ピリピリする部分はあるが……。

 

「睨んでないですケド」

「ウソつきなさい。いつもの眠そうな目が私の時だけ異様にキッとしてるでしょ」

「誰に対してもこうなんですケド。かなちゃんが自分のこと特別な存在だとか思い上がってるからそう感じるだけじゃない? 私を誰だと思ってるの天才子役よーって」

 

 有馬に図星を突かれたからか、プイッと不機嫌になっているあかね。

 

「過去の栄光にみっともなくしがみついて……今の自分を磨く努力はしてるの?」

「おやおやまぁまぁ。随分と口が悪くいらっしゃってまぁ……」

 

 ゴソゴソと鞄を漁り……。

 

「さぞかし私のことが嫌いなんでしょうねえー。大嫌いで大嫌いでしょうがないからそういう事言う……」

 

 一冊の本を取り出す。

 

「そうなのよね? 黒川あかねちゃん?」

 

 タイトルは『演劇の時代 児童劇団の世界特集』だ。

 

「!」

 

 あかねの顔に汗が浮かび、ちょっと顔が、そう、『形相』に近くなる。

 

「それっ……!」

「何その本」

「ちょっとねぇー小耳に挟んじゃったのねー。かの天才役者と名高い黒川あかねが、演劇を始めるきっかけになった役者が居るって」

「やめて!! なんでそんなの持ってるの!?」

 

 奪い取ろうとしたあかねだが、そんなことをしてくるのは百も承知の有馬は、サッと避けてぺらぺらとめくる。

 

 有馬視点で流れが綺麗なので、しっかりイメージしているらしい。言い換えると性格が悪い。

 

「まーあんなに凄い役者さんの憧れの人ってどんな人かと気になって……黒川さんが子役の時初めて演った舞台のインタビューがあるって聞いて、当時のバックナンバー通販でとりあえず買ってみたらね、そしたら……」

 

 よくもまぁそんな長文をスラスラと……。

 

「あれっ!? あれー!?」

 

 本のページを見せる!

 

「憧れの人って私!? あかねちゃん私に憧れて演劇始めたの!?」

 

 絶好調の有馬と、顔が赤くなっていくあかね。

 

「やだもーっ! 私が大好きならそう言ってくれたら良いのにーっ。ごめんね!? 私は貴女のこと全然好きじゃなくて! 一方通行の想いでごめんねー!?」

「容赦ねえなお前」

 

 アクア、ツッコミ遠い。

 

「誰!! 誰が教えたの!? ララライの誰かでしょ!」

 

 凄い形相で叫び散らすあかね。

 だが……。

 

「すまん」

「姫川さん……」

「いつもやけに突っかかって、ライバル意識してるのは知ってたけど結構複雑な感情だったんだな」

「全然そんなんじゃないよ!」

 

 完全否定!

 

「確かに昔はそうだった。同い年なのにテレビに出て大人気のかなちゃんを見て……憧れの気持ちをもって児童劇団に入った……でも実物見たらこうじゃない! 態度が大きくて失礼で! 人の事こんな風に馬鹿にして!」

 

 まあ、あー、うん。

 

「マルチタレント気取りでアイドルとかやって……ユーチューブで人気者気取りでお金稼いで……」

「ちょっとスタッフさん~。稽古場にファンが紛れ込んでて怖いんですけど~っ」

 

 棒読みで『たすけて~』と言っている辺り、完全におちょくっている。

 

「ファン!? 私は演者なんだけど!」

「無理して張りあおうとするなあかね。根が真面目なお前じゃ煽り合いで有馬に勝てない」

 

 一応、彼氏としてあかねをフォローするアクアだが……。

 

「『ピーマン体操』が代表作のくせに!」

 

 ゴフッ……

 

「あっ意外とダメージ入ったな」

「ちょっと調子乗ったな」

 

 ただ、有馬にそういうことを言うと……。

 

「そっちだって代表作は恋愛リアリティショーでしょうが! マルチタレントはどっちよ!」

 

 グフッ……

 

「これはキツいカウンター」

「やっぱ有馬レスバ強いな」

 

 そしてここで……。

 

「でも有馬先輩。アイドルとして最初に伸びた動画って『ぴえヨンブートダンス』だよね」

 

 ゴハアアッ!

 

「なんかヤバいところ入ったな」

「ああ、確かに」

 

 外野の男子は気楽なものだ。

 

「アンタだって最近、白いミニスカワンピ着てCM出てたじゃない!」

「で?」

「効かない!?」

 

 何故だ! と言いたそうな様子の有馬だが、まあ、その手の話題では揺るがない。

 

 真刃としては必要だからやっているだけなので。

 

「へぇ、かなちゃん。ぴえヨンブートダンスなんて踊ってたんだ~」

「ぐっ、くうう……真刃! この女の弱点つけるもの出しなさい!」

「そんなものありません~♪」

「ツイッターでトング二本持ってる画像が載ってて『焼き肉奉行』って書かれてたね」

 

 ぐほああっ!

 

「真刃も容赦ないな」

「外野寄りだからな」

 

 というわけで……。

 

「すみませんこれはこっちで引き取るので」

「おう。これはこっちで抑えておく」

 

 有馬をメルトが、あかねをアクアが回収して、別々のところに連れて行った。

 

「……真刃って、あんまり容赦ないんだな」

「結構中立に居るからね。勢力としては渋谷クラスタだけど、別に白蘭って、新宿クラスタの人たちが嫌いってわけじゃないし」

「まあそれはそうか」

「白蘭は健気だからあんまりそういうことしないのは事実だけど、それは渋谷抗争編だけ。それが終わったら掘り下げが始まって、純粋な目で急所を貫くことも多々あるから」

「そういやそんな内容だったなぁ」

 

 アビ子の性癖詰込みセットである白蘭だが、漫画本編で書かないからとまあ結構好き勝手だ。

 

 それを踏まえつつ、しっかり活躍させるシーンに仕上げる人間もいる。

 

 渋谷抗争編の次、ゲーオリ展開の『百鬼夜行編』を仕上げたのは、真刃の未成年後見人である雲行だ。

 

 作家には癖があるもので、長い事接していると分かる部分はある。

 

 真刃はその部分を読み取っているともいえるが……。

 

(まあ……納得できない部分もちょくちょくあって、抑え込むのが面倒っていうのは、あるんだけどねぇ)

 

 白蘭は健気だ。

 

 ただそれと同時に、戦いで両親を失った戦災孤児でもある。

 

 ……両親を失いながらも、健気な性格に育つことができる。

 

 それは……。

 

「なんていうか……強いよね。白蘭って」

「え、ああ、まあ、盟刀がなくてもかなり戦える天才剣士だからなぁ」

「……」

 

 真刃は真刃。白蘭は白蘭だ。

 

 私情を持ち込むつもりはない。

 

 ただ……。両親の形見である刀を引き継げた白蘭が、羨ましくてたまらない。

 

 いや、それ以上は良い。真刃個人の問題だ。

 

「アクア君には頑張ってもらわないとね。最後の最後。俺、我慢できないかもしれないし」

「まあ、刀鬼の感情が薄かったら、白蘭が浮くからな」

 

 懸念事項はある。

 だが、役者だ。アクアも、真刃も。

 

 ならば、あとは、演じて語るしかない。

 

 ★

 

 そうして日々は流れ。

 

 舞台『東京ブレイド』公演初日の日はやってくる。

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