「星野
「隣の男子の話題性が凄すぎるね。
陽東高校の一般科。
偏差値40の中高一貫であり、芸能科がある学校で、そちらに入る場合は芸能事務所の所属証明書が必要となる。
このご時世、顔が良けりゃ芸能界に放り込む親が後を絶たないもので、芸能科は煌びやかだが『一般科』はそれ相応と言える。
ただ、いろいろな事情の結果、一般科に来るというケースもなくはない。
そのなくはない。の内、二つの例が、星野アクアと月影真刃である。
片方は高い身長の凄いイケメン。
もう片方は、美少女にしか見えない小柄な男子。
どういう遺伝子をしていたらそう言うことになるのかよくわからん男子二名が、一般科に、しかも同じクラスになった。
(いやー。作為を感じるね)
内心で笑っている真刃だが、男子生徒の制服を着ていながら、紛れもなく美少女だ。
中性的、ですらない。れっきとした美少女。である。
こいつの父親はたぶん遺伝子が強くないだろう。
★
「隣の席だね。月影真刃だよ。よろしく!」
「……星野アクアだ。よろしく」
「アクア君。すっごいイケメンだけど、どうして一般科に入ったの?」
「妹が芸能科に入ったから、心配だからここを受けたんだよ」
「し……シスコンだなぁ」
簡単な自己紹介さえ終われば、あとは適当に喋る。
グイグイ行くタイプの真刃は、そのまま話しかける。
とはいえ……星野アクアほどのイケメンが一般科に来ていたら、最初の質問もしやすいものだ。
そして、それはアクアも同じである。
「月影君は――」
「呼び捨てでいいぜ」
可愛い顔でニコニコしている真刃。
「……真刃は、なんで一般科に?」
「まあ、芸能事務所に入ってないし、そもそも俺は投資家なのさ」
「その外見で一人称が『俺』か」
「男子だからな!」
「で、投資家って?」
「まあ要するに……大金をぶん回してるのさ」
「例えば?」
「この前も『今日あま』ってドラマのスポンサーをやったけど、いやー、あのPのやり口はしってたけどキャスティングがえげつなかったからな。最終話。良い感じにアドリブぶっこんでくれて助かったよ」
「……見たのか」
「すでに小さい界隈で有名……っていうかスポンサーだからそりゃ見るわ」
「確かに」
アクアはいろいろ思い出して……現場に行く前は、鏑木の名前と、裏方が優秀であるということは認識していたが、それよりも裏にいる人のことまでは見ていなかった。
当然だがスポンサーが金を出してくれなければドラマというのはなかなか作れないもので……。
「企画書の段階でオーケー出せるか? アレ」
なんてことはどうでもいいほど、キャスティングのヤバさを思い出した。
ほとんどの奴らがセリフをただ口にしているだけの大根役者ばっかりだったのだ。企画書もそれを感じさせるものだったはず。
「金の匂いがしたからさ。まあ、それでアクア君が来たんだし、結果オーライだよ」
「……」
アクアからすれば、真刃は、自分を使って良い感じに金を回収しようと考えているように見える。
「で、なんで芸能科に来たかって話だけど、端的に言えば、金の匂いがするからさ」
「……それ、俺は何て言えばいいんだ?」
「ああ、『今』じゃなくて、『未来』の話。端に言えば『芸能関係で良い投資先があるかも』って思って、ここに来ただけ」
真刃はアクアを右手の人差し指で指さす。
「君も、良い匂いがする投資対象だぜ。アクア君」
「俺もか」
ニコッと微笑む真刃。
「ただなんというか、ちょっと君は他の人と違うね」
「それはどういう……」
「なんか、『潜り込むために来た奴』の匂いがするんだよね。誰か探してるの?」
アクアの表情が、少し険しいものになる。
「顔がそうだって言ってるぜ。アクア君」
「……」
少し考えている様子のアクア。
今、彼の頭の中では、多くの選択肢があり、それに応じた計算をしていることだろう。
ここで真刃に付き合うかどうか。
リスクもリターンも明確にありそうな『厄介な男』と感じるこの美少女にしか見えない少年と、付き合おうと思えるかどうか。
「……はぁ、付き合っておいた方がいいか」
「打算の匂い。嫌いじゃないね」
「ただ……」
「妹には汚いことは秘密。でしょ? わかってるって」
「……」
「俺は金の匂いを辿って生きている。それは行動であり選択だ。君の妹には話さないという選択をすべきと、俺は嗅ぎ取った。それだけさ」
「……そうか」
ため息を押し殺しているアクア。
なんとなく、真刃という男がわかってきている気はするが、それと同時に、『もうすでにちょっと疲れた』ようだ。
とはいえ、世界広しと言えど、真刃と同じような人間はそういない。
今は、アクアの目的が果たされるかどうか。
そしてそれが、ルビーに漏れず達成できるかどうか。
明確に『投資家』を名乗る以上、何か、頼りにできる場面はあるはず。
「まっ、挨拶くらいはしておこうか。良い匂いがする子だといいねぇ」
★
……で。
「おいいいいいいアクア君。妹さんの可能性やばそうでっせ! 遺伝子どうなってんだよ!」
「一々騒がしいなお前」
星野ルビーと寿みなみ。
方やアクアの妹。方やグラドルという組み合わせと遭遇したわけだ。
その二人を……特にルビーを見た瞬間、真刃はとても騒がしくなった。
「お、お兄ちゃん。まさか……」
「ん? ああ、コイツは……」
「友達ができたの!?」
「出来ないと思ってたのかよ」
「しかもこんな美少女!」
「男子です!」
「えっ……」
「男装じゃないよ! 制服の通り男子です!」
「うっそおおおおっ!」
ルビーは絶叫した。
そう……何度も言うが、真刃の外見は、紛れもなく美少女である。
艶のある長い白髪は背中が隠れるほど伸びており、身長は低く、小柄で細い体つき。
そしてその顔面は、ロリ。圧倒的ロリの美少女。
付け加えるならルビーよりも体重が軽そうである。
真刃の身長は155センチで、ルビーの身長は158センチ。真刃はルビーよりも身長が低い。そして、明らかに体つきが細い。
……男子には見えない!
「ほらっ! 喉仏がちゃんと見えるでしょ!」
上を向いて首を見せる真刃。
……なお、喉仏の大きさは個人差があるもの。
真刃は小さめだ。
「その大きさだと、ハイネック着たら女子ね」
「やかましいわ!」
心臓に毛が生えているレベルで図太いルビーと、かなり元気な真刃の組み合わせだと、こんな感じでかなり盛り上がる。
「……賑やかだな」
「緊張がほぐれるし良いと思うけん。あ、うちは寿みなみいいます。よろしゅー」
「……星野アクア。よろしく」
元気なやり取りをしているその横で、アクアとみなみは静かなものだ。
クールキャラとおっとり系なのだからそりゃそうだが。
「まあとにかく、お兄ちゃんに友達が出来てよかった」
「……はぁ、俺の心配は良いから自分の心配をしろ。特殊な環境だし勝手も違うだろ」
「そうなんですよねぇ。周りもプロだと思うと……結構緊張しちゃうっていうか」
「緊張する必要なんかないわよ。ここは養成所でも撮影所でもなくて普通の学校なんだから。普通にしてればいいのよ」
「ルビーちゃん」
「どっかでまんま聞いた台詞なんだが」
真刃は口にはしなかったが、『なんならフォローの仕方が有馬臭いね』と思っていた。
「まぁ入学式見た感じ容姿の整ってるやつは多いけど、見たことある人は殆どいなかった。そんなに緊張する必要……」
「んーん、居たの、凄い人」
「ふーむ……んっ? ああ、もしかして不知火フリル?」
「なんでわかったの!?」
「勘!」
「おっそろしいわ! てかそれ女子の言い分でしょ!」
普段から『金の匂い』だと何だの言っているが、何処からどう解釈しても比喩表現でしかない。
そして一人の芸能人のスケジュールなど頭に入れるわけがないのだから、ロジックもクソもない。
直感というのは間違っていないが、間違っていないからこそ『意味不明』である。
「不知火フリルか……」
呟くアクアだが、あまり興味はない様子。
「あれ、あんまりアクア君は興味ない感じ?」
「ああ、俺の最推しは今も昔も変わらないし」
「あっそう……」
「それはそれ、これはこれよ! あの不知火フリルがクラスメイトなのよ。そりゃ興奮するって!」
「と、妹さんは言ってますけど……ていうか、あそこに実物が」
「「えっ」」
ルビーとみなみが、真刃が指さした方向を見る。
そこには長い黒髪のクールでミステリアスな美少女、不知火フリルが。
「はぁ……遠目でもかわい~~」
「まじでただのファンじゃん。クラスメイトだろ?」
「だってぇ……」
モジモジし始めたルビーを尻目に、アクアはスッと動く。
「こんにちは不知火さん」
「!」
アクアがフリルに話しかける。
フリルの方はアクアの方を見て……。
「俺の妹がアンタと同じクラスなんだ。仲良くしてやってくれ」
「ちょっ!」
あまりにもストレートな話の運び方である。
ただ……フリルの方は、ルビーの方を見ずに、アクアを見て……。
「貴方知ってる。「今日あま」出てた人?」
「……良く知ってるな。そんな話題にもならなかったのに……」
「ちょっと界隈で話に上ってて、観た。よかった」
「……ありがとう」
ミステリアスというか、フリルはあまり着飾った感じはしない。どちらかというとストレート。
「あっ……そちらの方はミドジャンの表紙で見たことあります。みなみさんでしたっけ」
「はい!」
世間的には美少女の代表格と言っていい不知火フリルに覚えられているというのは名誉なもので、みなみは少し緊張した様子で頷いた。
「それから……あなたは確か、いろんなスポンサーをやってる真刃さん?」
「ありっ? 僕の写真って出回ってたっけ?」
「そこそこ前に、姫さんと一緒に」
「ああ、なるほどぉ。アレか。よく覚えてるね」
「当然」
フリルは頷いた。
スポンサーとしてあちこちに金をばらまいている真刃のことを、知る人は知っている。
金の話なので、事務所の中でも交渉担当の大人が知っている場合がほとんどだろう。
フリルのように役者側で認識しているパターンは多くない。
そして彼女の視線は、ルビーの方へ。
「貴女は……」
「……えと……」
「ごめんなさい。何をしてる方ですか?」
「私は……その……今のところ特に……」
「そう、えと……頑張って?」
応援というにしては若干疑問形が混ざったような、なんだか絶妙な反応になったフリル。
そこからちょっと話して、フリルが離れていった。
で、彼女からも聞こえない位置になると……
「どんまい」
「ぐぎぎ……」
「煽るな煽るな」
どこに出してもムカつくドヤ顔で煽る真刃と、歯を食いしばるルビーと、ため息を押し殺しつつ止めるアクア。
みなみは、ついていけてなかった。