「知ってるぞ! お前が持ってるのは『盟刀』だな! この『
ゲームオリジナルキャラクター。白蘭の登場。
それに、観客はどよめいた。
『え、白蘭?』
『嘘っ!』
『マジで? まったくそんな情報がなかったのに!』
『めっちゃかわいいし、きれい~』
ビジュアル面で言えば最高レベルである真刃が演じる白蘭。
きっちり『幼くて可愛らしい子供』として仕上げており、集中力と自己暗示によって、絶大な『白蘭らしさ』にあふれている。
もともと、幻想的な絵画から飛び出したかのようなルックスの真刃。
今は、『ゲーム画面から飛び出してきた』かのような雰囲気だ。
キザミを演じるメルトも、大手事務所であるソニックステージに所属し、鏑木が目をつけるルックスの持ち主であり、なんなら中一の時点で先輩から食われるようなレベル。
しかし、そんなメルトから見ても、今の、スポットライトを浴びる真刃は神秘的だ。
(特に、髪と肌だよなぁ。ライトが反射して輝いてるんじゃないかって思うほどだ。表情も崩れねえし、どうなってんだほんと)
全ての観客の視線が、白蘭に向かう。
メルトはそれに呑まれそうになったが……しっかり踏ん張った。
ちなみに……
『あ、アビ子先生。あれってどういう……』
『サプライズです』
白蘭のサプライズ出演を知らなかった吉祥寺が、アビ子に聞いていたが、クソウザいドヤ顔で返している。
「随分自信があるようだが、このキザミ様を前にして、ただで済むと思うなよ!」
キザミも太刀を構える。
ただ……流れは、白蘭だ。
「いくぞ!」
舌足らずな声色で、二本の刀を手に、キザミに接近する。
キザミは息を整えて、それに対抗する。
(まずは……ここっ!)
白蘭の戦闘は、二刀流で、しっかり髪を揺らすため動きも大振りだ。
だが、それを身体能力でブーストして速度をつけることで、大振りなのにクルクル回る。
長い白髪が、衣装のヒラヒラが揺れて、
ブレイド対つるぎや、ブレイド対キザミといった戦闘ともまた異なる演出。
ゲームで誰もが見たそれを、白蘭はほぼ完ぺきに再現している。
(ほい、ほっ……)
高速で剣を振る白蘭に対し、キザミは的確に受ける。
いや……的確に、白蘭が当てているともいえる。
フィギュアスケートのスピンだってそこまでやらない。と言えるほどの真刃の動きに、演技力でメルトは追いつけない。
だからこそ、『しっかり構えてろ。そこに当てる』という動きで、白蘭は攻める。
しかも、体の動きを調整して、メルトの構え方がゲネやリハとズレていたとしても、それに合わせて動いている。
(キザミVS白蘭なら、実際にゲームを買ってプレイした。俺はキザミを後ろから見てて、正面から白蘭が来るアングルだったけど……)
演技力の差は一目瞭然。
(本当に、白蘭が目の前に居るみたいだ)
白蘭も真刃も、神秘的で可憐という要素は似通っている。
だが、当然だが顔だちまで同じではない。アビ子は真刃を知らなかったのだから。
しかし、メルトには、本当に、ゲームでプレイした時に見た『白蘭』が、目の前に居るように見える。
(俺は、このマッチングでは勝つんだ。もっと強く、もっと強者じゃないと)
渋谷抗争編の序盤。
新宿クラスタVS渋谷クラスタの中で、初の対戦がキザミと白蘭だ。
だが、新宿クラスタが主人公チームであり、白蘭は盟刀すら持っていない。
さすがにキザミに負ける道理はなく、脚本でもキザミの勝利だ。
当然、客も分かっている。
だが、もしかしたら、白蘭がキザミに勝ってしまうのではないか。
そう思ってしまうほど、真刃の動きは、鋭い。
「……なかなかやるな」
「母上のためだ。お前を、倒す!」
二本の刀を上段に構える白蘭。
「隙あり!」
無防備になった白蘭の腹に、キザミは柄頭を当てる。
(やべ、ビビった。少し手前になって――)
メルトが思考を終えるよりも先に、白蘭が柄頭に自然に寄って、腹で受ける。
「がふっ!」
そのまま、強靭な体のバネを使って、後ろに飛び、白蘭はゴロゴロ転がった。
転がる時もしっかり髪や衣装が揺れて、綺麗。
「……う、うぐっ、くそぉ」
舌足らずは崩さない。
額に汗を浮かべ、左手で腹をおさえて、右手の刀を杖替わりにして体を起こしている。
紛れもない。迫真の演技だ。
「まだやるか?」
「ま、まだやれる! けほっ、けほっ」
宣言する白蘭。
しかし、体が吹き飛ぶほどの勢いて柄頭が腹に入ったとなれば、今の彼のような反応になる。
「チッ、なら――」
「はぁ……」
本当に、嫌そうな、震えたような声色。
吹き飛んだ白蘭の後ろから、匁が乱入。
「なんだ。お前は」
「この子の教育係です。屋敷を抜け出したと聞いて、連れ戻しに来たんですよ」
怯えたような表情と雰囲気で、匁は白蘭に近づく。
「つ、つれもどすって……ぼ、ぼくはまだやれる! けほっ」
「ダメです。速く帰りますよ」
匁が白蘭の体を持ち上げようとして……。
「おい、このまま帰るつもりか! お前が持ってる剣はなんだ!」
挑発するキザミ。
それに対し……匁は、震えた手つきで、剣を構える。
「どうしても戦わなきゃだめなんですか? 親から無理矢理剣を与えられ、こんな戦いに巻き込まれて……」
上手い。
「僕は、戦いたくない……」
芝居が、上手い。
この流れは、ゲームと同じ。
白蘭がキザミに突っかかって、盟刀持ちの力によって敗北。
立ち上がろうとする白蘭を、匁が連れ戻しに来て……キザミの挑発で戦闘になる。
観客席に居る鏑木と雷田も、当然、ここまでの流れで思うところはある。
「鴨志田くんを紹介してくれたのは助かりました。あれは良い役者だ」
「気に入ってくれたなら良かった。ララライを起用するあたり……あまり2.5のルールに縛られない舞台にするつもりだと思ってたけど」
「もちろんそこも狙ってますよ」
舞台と言っても、そこに備わるルールやノウハウは違ってくる。
「新規のお客さんには2.5のファンじゃなくて、演劇そのものファンになって欲しいんですよ。だからこう……既存のルールを守りつつ、程よく壊しつつの塩梅を狙えたら最高じゃないです?」
雷田にも狙っていることはあるし、その流れで多くの副産物もある。
「だからこそララライの起用なんだけど、やっぱり流石と言う他ないね」
雷田は『新しい脚本を見たときはどうなるかと思ったけど……』と呟きながらも続ける。
「彼の原作リスペクトは2.5界隈の中でも水準が高い。2次元のキャラを現実へ持ち上げるノウハウの塊だ。手本としてはこれ以上のものはない」
2.5次元で重宝されまくっている鴨志田。
その技量は確かな物。
「ララライの皆も彼から学べるものは多いと直ぐに気づいた。乾いたスポンジの様に2.5の作法を吸い取っていった」
「そりゃ良かった。仲介した甲斐があるよ」
「有馬くんもアクアくんもレベルが高いし、鏑木さんのキャスティングには信頼を置いてる。加えて、真刃くん、これ本当に、脚本見た時どうなるかとヒヤヒヤしたよ」
「仕事に誘ってもなかなか頷いてくれないんだよね。原作者が頼んだらすぐに頷いたと聞いてため息が漏れたよ」
「ハハハ……まあ僕も、ネットの反応からして、白蘭を入れたい気持ちはありましたよ? 漫画やアニメだけじゃなくて、ゲーマーの新規のお客が狙えそうだったからね」
「まあ、頼める相手だとは思わないよねぇ」
「アビ子先生が頼んで、頷いてくれた時は驚いた。たった半月であそこまで仕上げるんだ。あの外見であの演技力。世界を見てもなかなかいないよ」
そこまでそろったがゆえに。
「ただ……彼だけは、ちょっとわからなかったな」
雷田の視線は、匁と対峙しているキザミに向かう。
「そこまで知名度が有る訳でもなく、演技力はベテランと並べられるものじゃない。かろうじて及第点に指先が届くかどうか」
成功に導くために、キャスティングは重要だ。
その中で、雷田の中では……。
「『今日あま』の演技見て正直この子は無いなって思ってたんですが、彼は鏑木さんのゴリ押しで決まったところあるじゃないですか。どうしてなんです? 何か才能を感じてるとか?」
「いや別に。ただの私情」
「私情て……」
「世の中そんなもんでしょ? 空いてる席あったら気に入ってる子ねじ込むもんだ。顔も良いし声も良い。演技の方は時間をかけて上手くなればいい」
「人の舞台を稽古場に使わないでくださいよ……この展開、白蘭からは、『強者に立ち向かう姿』を見るっていうことで、ストーリーでも重要なんですから」
キザミVS匁の戦いだが、匁は『強者』である。
まあ、才能があるから親から無理矢理剣を与えられたわけで。
そんな匁に、キザミは勝てない。
匁は白蘭の教育係であり、そんな匁の実力を、白蘭はよく理解している。
キザミとも一戦交えて……その上で、キザミの方が弱いことも理解している。
だが、立ち上がる。
立ち上がる姿を見て、心が動かされる。
白蘭にとっては初登場、かつ重要なシーンだ。
そこで、『立ち上がる』という演技が伴っていないと、白けてしまう。
「いや、君も気に入ると思って推したまでよ。だって君も好きでしょ」
「?」
「がむしゃらに努力する子」
板の上では……。
「負けねえぞこらぁああぁ!!」
キザミと匁が戦い始めてから、少し経過している。
匁の方が強い。
自分は強者を前にしていると、キザミも分かってきたころだ。
「ほら、『今日あま』の時の彼じゃあない。必死に演技と向き合ってる。こういう子がね、爪痕残すもんなんだよ」
それに……。
「彼のキャスティングが失敗だったかどうかの判断は、きっと彼女が下してくれる」
雷田は、吉祥寺の方を向く。
「世界一厳しい目で彼を見てる人がここに居るんだ」