嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第20話 白の参戦

「知ってるぞ! お前が持ってるのは『盟刀』だな! この『白蘭(はくらん)』がお前を倒して、母上への土産にしてやる!」

 

 ゲームオリジナルキャラクター。白蘭の登場。

 

 それに、観客はどよめいた。

 

『え、白蘭?』

『嘘っ!』

『マジで? まったくそんな情報がなかったのに!』

『めっちゃかわいいし、きれい~』

 

 ビジュアル面で言えば最高レベルである真刃が演じる白蘭。

 

 きっちり『幼くて可愛らしい子供』として仕上げており、集中力と自己暗示によって、絶大な『白蘭らしさ』にあふれている。

 

 もともと、幻想的な絵画から飛び出したかのようなルックスの真刃。

 

 今は、『ゲーム画面から飛び出してきた』かのような雰囲気だ。

 

 キザミを演じるメルトも、大手事務所であるソニックステージに所属し、鏑木が目をつけるルックスの持ち主であり、なんなら中一の時点で先輩から食われるようなレベル。

 

 しかし、そんなメルトから見ても、今の、スポットライトを浴びる真刃は神秘的だ。

 

(特に、髪と肌だよなぁ。ライトが反射して輝いてるんじゃないかって思うほどだ。表情も崩れねえし、どうなってんだほんと)

 

 全ての観客の視線が、白蘭に向かう。

 

 メルトはそれに呑まれそうになったが……しっかり踏ん張った。

 

 ちなみに……

 

『あ、アビ子先生。あれってどういう……』

『サプライズです』

 

 白蘭のサプライズ出演を知らなかった吉祥寺が、アビ子に聞いていたが、クソウザいドヤ顔で返している。

 

「随分自信があるようだが、このキザミ様を前にして、ただで済むと思うなよ!」

 

 キザミも太刀を構える。

 

 ただ……流れは、白蘭だ。

 

「いくぞ!」

 

 舌足らずな声色で、二本の刀を手に、キザミに接近する。

 

 キザミは息を整えて、それに対抗する。

 

(まずは……ここっ!)

 

 白蘭の戦闘は、二刀流で、しっかり髪を揺らすため動きも大振りだ。

 

 だが、それを身体能力でブーストして速度をつけることで、大振りなのにクルクル回る。

 

 長い白髪が、衣装のヒラヒラが揺れて、立体的映像投影(プロジェクションマッピング)を用いたエフェクトを一切使っていないのに、スポットライトの反射だけで、『華やかさ』と『煌びやかさ』を演出する。

 

 ブレイド対つるぎや、ブレイド対キザミといった戦闘ともまた異なる演出。

 

 ゲームで誰もが見たそれを、白蘭はほぼ完ぺきに再現している。

 

(ほい、ほっ……)

 

 高速で剣を振る白蘭に対し、キザミは的確に受ける。

 

 いや……的確に、白蘭が当てているともいえる。

 

 フィギュアスケートのスピンだってそこまでやらない。と言えるほどの真刃の動きに、演技力でメルトは追いつけない。

 

 だからこそ、『しっかり構えてろ。そこに当てる』という動きで、白蘭は攻める。

 

 しかも、体の動きを調整して、メルトの構え方がゲネやリハとズレていたとしても、それに合わせて動いている。

 

(キザミVS白蘭なら、実際にゲームを買ってプレイした。俺はキザミを後ろから見てて、正面から白蘭が来るアングルだったけど……)

 

 演技力の差は一目瞭然。

 

(本当に、白蘭が目の前に居るみたいだ)

 

 白蘭も真刃も、神秘的で可憐という要素は似通っている。

 だが、当然だが顔だちまで同じではない。アビ子は真刃を知らなかったのだから。

 

 しかし、メルトには、本当に、ゲームでプレイした時に見た『白蘭』が、目の前に居るように見える。

 

(俺は、このマッチングでは勝つんだ。もっと強く、もっと強者じゃないと)

 

 渋谷抗争編の序盤。

 

 新宿クラスタVS渋谷クラスタの中で、初の対戦がキザミと白蘭だ。

 

 だが、新宿クラスタが主人公チームであり、白蘭は盟刀すら持っていない。

 

 さすがにキザミに負ける道理はなく、脚本でもキザミの勝利だ。

 

 当然、客も分かっている。

 

 

 だが、もしかしたら、白蘭がキザミに勝ってしまうのではないか。

 そう思ってしまうほど、真刃の動きは、鋭い。

 

「……なかなかやるな」

「母上のためだ。お前を、倒す!」

 

 二本の刀を上段に構える白蘭。

 

「隙あり!」

 

 無防備になった白蘭の腹に、キザミは柄頭を当てる。

 

(やべ、ビビった。少し手前になって――)

 

 メルトが思考を終えるよりも先に、白蘭が柄頭に自然に寄って、腹で受ける。

 

「がふっ!」

 

 そのまま、強靭な体のバネを使って、後ろに飛び、白蘭はゴロゴロ転がった。

 

 転がる時もしっかり髪や衣装が揺れて、綺麗。

 

「……う、うぐっ、くそぉ」

 

 舌足らずは崩さない。

 額に汗を浮かべ、左手で腹をおさえて、右手の刀を杖替わりにして体を起こしている。

 

 紛れもない。迫真の演技だ。

 

「まだやるか?」

「ま、まだやれる! けほっ、けほっ」

 

 宣言する白蘭。

 

 しかし、体が吹き飛ぶほどの勢いて柄頭が腹に入ったとなれば、今の彼のような反応になる。

 

「チッ、なら――」

「はぁ……」

 

 本当に、嫌そうな、震えたような声色。

 

 吹き飛んだ白蘭の後ろから、匁が乱入。

 

「なんだ。お前は」

「この子の教育係です。屋敷を抜け出したと聞いて、連れ戻しに来たんですよ」

 

 怯えたような表情と雰囲気で、匁は白蘭に近づく。

 

「つ、つれもどすって……ぼ、ぼくはまだやれる! けほっ」

「ダメです。速く帰りますよ」

 

 匁が白蘭の体を持ち上げようとして……。

 

「おい、このまま帰るつもりか! お前が持ってる剣はなんだ!」

 

 挑発するキザミ。

 

 それに対し……匁は、震えた手つきで、剣を構える。

 

「どうしても戦わなきゃだめなんですか? 親から無理矢理剣を与えられ、こんな戦いに巻き込まれて……」

 

 上手い。

 

「僕は、戦いたくない……」

 

 芝居が、上手い。

 

 

 

 この流れは、ゲームと同じ。

 白蘭がキザミに突っかかって、盟刀持ちの力によって敗北。

 

 立ち上がろうとする白蘭を、匁が連れ戻しに来て……キザミの挑発で戦闘になる。

 

 観客席に居る鏑木と雷田も、当然、ここまでの流れで思うところはある。

 

「鴨志田くんを紹介してくれたのは助かりました。あれは良い役者だ」

「気に入ってくれたなら良かった。ララライを起用するあたり……あまり2.5のルールに縛られない舞台にするつもりだと思ってたけど」

「もちろんそこも狙ってますよ」

 

 舞台と言っても、そこに備わるルールやノウハウは違ってくる。

 

「新規のお客さんには2.5のファンじゃなくて、演劇そのものファンになって欲しいんですよ。だからこう……既存のルールを守りつつ、程よく壊しつつの塩梅を狙えたら最高じゃないです?」

 

 雷田にも狙っていることはあるし、その流れで多くの副産物もある。

 

「だからこそララライの起用なんだけど、やっぱり流石と言う他ないね」

 

 雷田は『新しい脚本を見たときはどうなるかと思ったけど……』と呟きながらも続ける。

 

「彼の原作リスペクトは2.5界隈の中でも水準が高い。2次元のキャラを現実へ持ち上げるノウハウの塊だ。手本としてはこれ以上のものはない」

 

 2.5次元で重宝されまくっている鴨志田。

 その技量は確かな物。

 

「ララライの皆も彼から学べるものは多いと直ぐに気づいた。乾いたスポンジの様に2.5の作法を吸い取っていった」

「そりゃ良かった。仲介した甲斐があるよ」

「有馬くんもアクアくんもレベルが高いし、鏑木さんのキャスティングには信頼を置いてる。加えて、真刃くん、これ本当に、脚本見た時どうなるかとヒヤヒヤしたよ」

「仕事に誘ってもなかなか頷いてくれないんだよね。原作者が頼んだらすぐに頷いたと聞いてため息が漏れたよ」

「ハハハ……まあ僕も、ネットの反応からして、白蘭を入れたい気持ちはありましたよ? 漫画やアニメだけじゃなくて、ゲーマーの新規のお客が狙えそうだったからね」

「まあ、頼める相手だとは思わないよねぇ」

「アビ子先生が頼んで、頷いてくれた時は驚いた。たった半月であそこまで仕上げるんだ。あの外見であの演技力。世界を見てもなかなかいないよ」

 

 そこまでそろったがゆえに。

 

「ただ……彼だけは、ちょっとわからなかったな」

 

 雷田の視線は、匁と対峙しているキザミに向かう。

 

「そこまで知名度が有る訳でもなく、演技力はベテランと並べられるものじゃない。かろうじて及第点に指先が届くかどうか」

 

 成功に導くために、キャスティングは重要だ。

 その中で、雷田の中では……。

 

「『今日あま』の演技見て正直この子は無いなって思ってたんですが、彼は鏑木さんのゴリ押しで決まったところあるじゃないですか。どうしてなんです? 何か才能を感じてるとか?」

「いや別に。ただの私情」

「私情て……」

「世の中そんなもんでしょ? 空いてる席あったら気に入ってる子ねじ込むもんだ。顔も良いし声も良い。演技の方は時間をかけて上手くなればいい」

「人の舞台を稽古場に使わないでくださいよ……この展開、白蘭からは、『強者に立ち向かう姿』を見るっていうことで、ストーリーでも重要なんですから」

 

 キザミVS匁の戦いだが、匁は『強者』である。

 

 まあ、才能があるから親から無理矢理剣を与えられたわけで。

 

 そんな匁に、キザミは勝てない。

 匁は白蘭の教育係であり、そんな匁の実力を、白蘭はよく理解している。

 キザミとも一戦交えて……その上で、キザミの方が弱いことも理解している。

 

 だが、立ち上がる。

 

 立ち上がる姿を見て、心が動かされる。

 

 白蘭にとっては初登場、かつ重要なシーンだ。

 

 そこで、『立ち上がる』という演技が伴っていないと、白けてしまう。

 

「いや、君も気に入ると思って推したまでよ。だって君も好きでしょ」

「?」

「がむしゃらに努力する子」

 

 板の上では……。

 

「負けねえぞこらぁああぁ!!」

 

 キザミと匁が戦い始めてから、少し経過している。

 匁の方が強い。

 自分は強者を前にしていると、キザミも分かってきたころだ。

 

「ほら、『今日あま』の時の彼じゃあない。必死に演技と向き合ってる。こういう子がね、爪痕残すもんなんだよ」

 

 それに……。

 

「彼のキャスティングが失敗だったかどうかの判断は、きっと彼女が下してくれる」

 

 雷田は、吉祥寺の方を向く。

 

「世界一厳しい目で彼を見てる人がここに居るんだ」

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