嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

22 / 30
第22話 月下白匁

「新宿クラスタ。厄介な奴等みたいだな」

 

 ある意味、『大揉めの諸悪の根源』と呼べるシーンが始まる。

 

「何も考えてない馬鹿の集まりですよ。全員倒せばそれで良いと思ってる」

 

 東京ブレイドのストーリーは、21本の刀を奪い合う争奪戦。

 

 しかもただ奪うのではなく、刀から『強者と認められること』が必要だ。

 

 姑息な手段を使えば盟刀を手に入れることはできるし、多少の力を手に入れることは可能。

 

 しかし、それでは盟刀から『強者』とは認められない。

 

 よって、力と力のぶつかり合い、言い換えれば『殲滅戦』が最も『証明』になる。

 

「どうします? あいつ等攻めて来ますよ」

「俺は姫の懐刀だ。持ち主の指示に従うだけ」

「君に意見を求めたのが間違いでしたね。少しは人間味と言うものを持ったらどうですか……」

 

 感情の起伏が乏しい鉄仮面に意見を求めても、帰ってくる答えなど決まっている。

 

 匁の言い分も慣れた様子があり、『こういった会話はよくあること』なのだろう。

 

 ただ……。

 

 強大な組織が、自分たちに向かって攻めてくる。

 

 そんなとき、何かを決めるべき人間は決まっている。

 

 開いた幕。

 

 そこでは、鞘姫が座り、静かに目を閉じている。

 

 客側から見てその右隣りには、『ちょこん……』という擬音が聞こえそうな様子で、白蘭が正座している。

 

 白蘭はトップである鞘姫の『養子』であり、こういう場では、鞘姫の隣に座ることになる。

 

「『鞘姫』……決断を」

 

 原作なら、大ゴマ一つ。

 最初の脚本では、『皆殺しにしてやりなさい!』だ。

 脚本リテイクの間で、『長いセリフ』で葛藤を表現する案も出たが、結局、セリフは大幅カット。

 

 黒川あかね。

 十七年しか生きていない少女に対して、『大きな武闘派組織のトップ』としての威厳を求める。

 

「刀を抜けば……血が流れる」

 

 普通なら、厚みが足りない。器が狭い。覚悟が伝わらない。

 

 だが、それは平凡な役者の話。

 

 伝わってくる。

 

 一つ一つの動き。いや、動いていなくても。

 

 喋っていても、無言でも。

 

 

どうすればいい?

 

 その思いが、葛藤が。

 

 客席に届く勢いで。

 

 そんな鞘姫の葛藤は、横にいる白蘭に届く。

 

 彼はパチパチと瞬きをして、横に座る鞘姫の方を向く。

 彼は小さな右手で、鞘姫の袖をつかんだ。

 

「……母上?」

 

 首をかしげて、鞘姫を見上げて、白蘭は訴える。

 

 鞘姫はそれを見て、一度、目を閉じた。

 

 

 鞘姫の手が、ゆっくりと、刀に触れる。

 

 重厚な、厚みのある、深みのある。

 

 言葉にしようとすればいくらでも並べられる。

 

 どうも言語化できない、無理矢理言えば、そう、『ボス』という『迫力』だ。

 

 覚悟を決めた。

 なんて陳腐な表現だろうか。

 

 しかし、この鞘姫を表現するうえで、それ以上は必要ない。

 

 圧倒的な迫力が、圧力を伴い、強烈な説得力を発揮する。

 

「ですが、戦わなければ守れないものもあるのでしょう」

 

 刀を握る。

 

 なんと、強い演技か。

 

「ならば刀を抜きましょう。合戦です」

 

 湧き上がる渋谷クラスタ。

 刀を手に、攻め込んでくる新宿クラスタを迎え撃つために。

 

「よーし! ぼくも頑張るぞ! 新宿から、盟刀を手に入れてやる!」

 

 白蘭も元気そうだ。

 

 鞘姫はそれをチラッと見て……その後、匁を見る。

 

 匁は、ため息を押し殺したように、フード越しに頭をガリガリとかいて……。

 

「白蘭。腹が減っては戦はできませんよ。『いなり寿司』と『きつねうどん』ならたくさん作ってますから、まずは腹ごしらえです」

「おおおおっ!」

 

 感動している様子の白蘭と、そんな彼を連れて移動する匁。

 

 この劇中で既出設定の『匁は白蘭の教育係』という要素が、二人の距離の近さと、親密さをブーストし、良い雰囲気を出している。

 

 ……当然、このシーンの前に、新宿クラスタの方でも、ブレイド、つるぎ、キザミの三人による決意を固めるシーンはしっかり描かれている。

 

 主人公側である新宿クラスタ。

 敵側である渋谷クラスタ。

 

 誰一人として、悪い奴などいない。

 

 争いに導かれる運命のような、どこか息苦しくも、熱い何かを、客席に訴えかける。

 

 ★

 

 暗転。

 

 舞台の上が暗くなり、湧き上がっていたステージを冷ますように、静寂が訪れる。

 

 ……これには、イグストをプレイしている者も驚く。

 こんなシーンは、原作にもアニメにも、ゲームにもない。

 

 そんな中、白蘭の舌足らずな声が聞こえた。

 

「むにゃぁ……んっ、んん……あれ、寝すぎちゃった? ……え、ええっ! ここどこ!?」

 

 ステージが照らされる。

 

 そこに映るのは、真夜中の森だ。

 

 白蘭は起き上がり……傍に置いてあった自身の刀を拾うと、辺りを見渡す。

 

「こ、ここって……屋敷近くの森? でも、どうして……」

 

 キョロキョロと、意味が分からないと言った様子で辺りを見渡す白蘭。

 

 そんな彼のもとに……。

 

「妙な予感がして来てみたら……やっぱり君は、普通とは違いますね」

「え、も、(もんめ)?」

 

 フードを被り、どこかおどおどした様子の剣主、匁が現れる。

 

「も、匁。一体どういう事? どうしてぼく、こんなところで……」

「君が食べたものに睡眠薬を入れました。そして眠った君を、ここに運んでもらったんです」

「そ、そんな……どうして!」

 

 戦いの場に向かう前に、睡眠薬を入れる。

 

 意味が分からない。

 

 白蘭には、わからない。

 

「鞘姫は、覚悟を決めました。新宿クラスタと戦うことを。ただ、君が行くことを良しとしなかった」

「どうして! ぼくも剣士だ! 拾ってくれた母上に恩を返すために、盟刀を手に入れてやるんだ!」

「君が、大切な子だからですよ」

「は、母上は――」

「鞘姫だけではなく、僕等全員の意思。君以外の全員が、睡眠薬の保管場所を知っているし、僕が睡眠薬を取り出すところを何人も見ていましたが、誰も止めなかった」

「み、みんなが……」

 

 体が震える白蘭。

 

「君が渋谷に来てから、いいことばかりだ。皆、表情が明るくなったし……そういえば、食べるのに困ることもなくなった。そして、君は強い。本当なら、鞘姫はボスとして、君を戦場に立たせるのは正しいでしょう」

「それなら……」

「ただ、連れていけない。だからここで、朝まで眠ってもらうことにした。もしも僕等が負けたら屋敷を包囲される。戻る必要がないように、刀も一緒にね」

「ぼ、ぼくは……」

「ただ、相当入れたはずなんですが、まさか起きるとは……確認に来てよかった」

 

 匁は、盟刀を抜いた。

 

「!」

「朝まで眠ってもらいますよ。そのために、僕はここに来た」

 

 刀を構える匁に対して、白蘭も二刀を構える。

 

「君がどうしても戦いの場に行きたいなら、僕を倒すことだ」

「なら……勝ってやる!」

 

 白蘭は、すぐさま突撃。

 

 そのまま、盟刀を構える匁に、連撃を仕掛ける。

 

 しかし、匁は、二刀流で攻める白蘭の攻撃を、易々と受け止める。

 

 

 ……そもそもの、力の差を考えれば。

 

 白蘭よりもキザミの方が強く、そしてキザミよりも匁の方が強い。

 

 単純な比較をするならば、白蘭が匁に勝てる道理はない。

 

「うおおおおっ!」

「ふぅ、いつもより激しい」

 

 真夜中。

 

 月が綺麗な夜に、白蘭は映える。

 

 白く長い髪が、白い肌が、光を反射してキラキラと輝く。

 

 髪と衣装が揺れて、とても幻想的だ。

 

 幼くも、真剣な顔で、舞うように回り、剣を振る。

 

「ぐっ、くそっ!」

「君に剣を叩き込んだのは僕ですよ。それじゃあ、僕には勝てない」

 

 キザミ戦では、匁は強者でありながら、キザミの見せ場なので少し『下げて』いた。

 

 だが、目の前にいるのは、真刃が演じる白蘭。

 

 遠慮する必要はない。

 

 匁を演じる鴨志田も、この追加された殺陣のシーンを楽しみにしつつ、『戦場に出るため全力で戦う白蘭』を相手にするため、稽古には本腰を入れた。

 

 ゴリッゴリの和風ファンタジーを現実に描く2.5の舞台。

 

 小さいながらも驚異的な身体能力を持つ真刃の相手は、楽しい。

 

 真刃は白蘭と言う役に超集中状態。

 鴨志田も、匁と言う役にどっぷり入り込んでいる。

 

 そんな二人が、月下で繰り広げる戦いは、とても、綺麗だ。

 

「無駄ですよ。盟刀を持たない君では」

「ぼくの刀は、お父さんとお母さんが遺してくれた形見だ!」

「だからと言って――」

「馬鹿にするな! 匁のことは尊敬してる。鍛えてくれたことは感謝してる。でも……親から剣を貰って、それで戦いたくないなんて……」

 

 大切な師だ。だがしかし……

 

 

「そこだけは、大っ嫌いだ!!!」

 

 

 その宣告に、匁は顔をしかめる。

 

「ッ! ……言うようになりましたね」

 

 匁は強者ではあるが、それと同時に、親から剣を無理矢理与えられ、戦わなければならなくなった『時代の被害者』だ。

 

 白蘭は両親がクラスタの抗争で亡くなった戦災孤児であり、両親が遺した形見である二本の刀で戦っている。

 

 刀を手にした事情も心情も違う。

 

 だが、親から与えられたという点では同じ。

 

 白蘭は渋谷クラスタが大好きで、匁のことも尊敬しているし感謝している。

 

 しかし、そこだけは。

 

 戦いたくないというその言葉だけは。

 

 白蘭にも認められない。

 

「うおおおおおあああああああっ!」

「……」

 

 吠える白蘭。

 それに対して、冷静な匁。

 

 連撃の一瞬の隙をついて、白蘭の背後に回り……

 

「シッ」

「あがっ……」

 

 首筋に加減した峰打ちを叩き込む。

 

 数々の連撃を繰り出した白蘭に対し、匁は一撃。

 

 それで、決着はついた。

 

 白蘭は地面に倒れ、刀は手から離れ……気絶している。

 

「ふぅ……防御力という課題は相変わらずだ」

 

 刀を納める匁。

 

「戦いの後で僕が生きていたら、守る剣術を仕込んであげますよ」

 

 匁は刀を拾って白蘭の傍に置くと、その場から去っていった。

 

 

 

 

 ★

 

鴨「あの、姫川さん? なんでそんなウズウズしてんの?」

姫「いやぁ……俺も欲しかったなって、板の上に俺と真刃しかいない状態でガチバトル」

鴨「『つるぎ』よりも戦闘狂(ジャンキー)じゃん。滲み出てるって」

真「滲み出てない鴨志田さんの峰打ち、めっちゃ痛かったんだけど。寸止めって言ってたじゃん」

鴨「あー、そこはごめんって」

真「まあそこはいいけど、滲み出てる姫川さんだと、俺、首の骨、折られかねないんだけど」

姫「大丈夫だ。加減する」

真「当てるって言ってるのと同じだからね?」

 

 舞台裏で、そんな会話があったそうな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。