嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第23話 風刃白刃

 場面は、新宿クラスタと渋谷クラスタの合戦に移る。

 

 気絶して参戦していない白蘭を除き、一見、『全員に平等な展開』と言える。

 

 ただ……その中でも突出している存在がいる。

 

 黒川あかねが演じる、『鞘姫』だ。

 

 そこには、有馬かなに勝つために、『役者』として、『黒川あかね』として、積み上げたものや、学んだことが詰め込まれている。

 

 彼女が最も変わるきっかけとなったのは、『今ガチ』だ。

 

 あの恋愛リアリティショーで、多くのことを学んだ。

 

 特に、鷲見ゆきの『自分が目立つように動く』というゲームメイク技術。

 

 全てを騙し、(アイ)で虜にする一等星という器。

 

 あの番組の時は、黒川あかねは『アイ』を演じていたが、雰囲気や行動を再現しつつ、少しゲームメイク技術を取り入れただけで、『戦術』と呼べはするが『戦略』というには及ばない。、

 それでよかった。

 あの場にいた高校生達よりも、アイを演じているだけのあかねが、圧倒的に魅力的だったから。

 

 しかし、今は違う。

 

 『鞘姫』という役を理解し、演じると同時に、有馬への対抗心を増幅……いや、『誇張』を加える。

 

 引き付ける。ではない。

 

 周りを食べてしまうような、主役すら食べるような。

 

 そんな演技だ。

 

 

 ……それこそ。

 そう、それこそ、白蘭がいないことも拍車をかけている。

 

 幼さと可憐さがありながらも神秘的。

 

 背徳感を追求したかのような、危険な匂いがするような。

 鏡に映った美しい花のような、水に映った美しい月のような。

 

 そんな妖しく、幻想的な存在が居ないからこそ。

 今、舞台にある魅力は、全て実態があるからこそ。

 

 周りを食べてしまうような演技は、映える。全てを魅了する。

 

(ゲームだと、白蘭は合戦に最初から参加していた。ただ……ここで参加しないことによる『バランス』は、凄く良いね)

 

 裏から舞台を見ながら、真刃は内心で呟く。

 直前で行われた白蘭VS匁は、ゲームでは存在しない。

 いや、仮にあったとしても、気絶するなどという展開にはならず、合戦に最初から出ていただろう。

 

 そもそも白蘭はイグストのオリジナルキャラクターにして、渋谷抗争編のPVを出しただけで超絶人気となったのだ。増やせそうな、割り込めそうな部分には積極的に突っ込んでいる。

 

 だが、舞台は舞台。ゲームはゲーム。

 

 この舞台はゲームをある程度軸とするが、白蘭に忖度するというワケではない。

 

 アビ子もGOAも、全てのキャラクターが大切なのだから。

 

「……さて、そろそろか」

 

 つるぎが、『受け』に回った。

 

 一瞬、何か奮い立つような『匂い』を真刃は感じたが、自我を捨てたかのように、引いた。

 

「……はぁ、なんていうか、『つるぎ』のファンには申し訳ないね」

 

 鞘姫、刀鬼、つるぎが舞台裏に引っ込む。

 

 主要キャラではないが、それでもまだ、戦っている人はいる。

 

 そして……主役が、ブレイドが、残っている。

 

「……やろうか。姫川さん」

 

 二刀を握って、真刃は……白蘭は出る。

 

 ★

 

「はぁ、はぁ、やっと、やっと追いついた」

「……」

 

 舞台に上がる白蘭。

 

 息を切らし、肩を揺らし、二刀をしっかり握って、ブレイドの前に立つ。

 

「……そうか、キザミが言ってたのはお前か」

「ぼくも、お前を知ってるぞ! 新宿クラスタのリーダー。ブレイドだな!」

 

 切っ先を向けて、ブレイドの名を叫ぶ白蘭。

 

 その眼に宿るのは、置いて行かれたことに対する『焦り』だろうか。

 

 強ければ、戦場に立てる。

 

 戦場に立つことができれば、盟刀を奪うことができる。

 

 そうすれば、鞘姫への恩返しができる。

 

 ……白蘭が戦う目的は、いつもそれだけ。

 

 戦災孤児となった自分を拾ってくれた鞘姫に恩を返すために、渋谷以外から名刀を奪う。

 

 ただ、それだけ。

 

「お前を倒して、盟刀を貰う!」

「……そういえば、森に置いてきたってアイツらが言ってたが、どうしてここに?」

「起きた!」

「……そうかよ」

 

 呆れるブレイドを前に二刀を構える白蘭。

 

 それに対しブレイドは……盟刀を構えているが、あまり本腰な印象はない。

 

「行くよ。ブレイド」

 

 ブレイドは何も言わず、左手でクイクイと招く。

 

 次の瞬間、白蘭は突撃。

 

 そのまま、二本の刀で攻めていく。

 

 白蘭を演じる真刃の方が、演技の中で白蘭を演じるという事に対して理解が追い付いており、その殺陣も精錬されている。

 

 長い白髪と、衣装を揺らして、スポットライトと合わせて華やかさを演出する。

 

 揺らすために、動きは大振りだ。

 

 しかし、自分を大きく魅せるためのものではない。

 

 大きい動きだが、無駄な動きが一切ない。

 

 空気を押しのけながら動くのではなく、スー……っと流れるような演技。

 

 恐ろしいほど綺麗で美しい。

 

 ブレイドはそんな白蘭を、あしらうような剣技で翻弄し、一度もその身に受けることはない。

 

 ……ただ、この場面において、そもそも白蘭がブレイドをどうにかすることなど、出来はしない。

 

 仲間を集め、そして合戦の地だ。

 

 主人公であり、とてつもなく脂の乗った時期であり、それを、盟刀すら持たない子供がどうにかできるものではない。

 

「くっそぉ。全然、当たらない」

「どうした。その程度か?」

 

 煽るブレイド。

 

 そこに熱意はない。

 

 ……この時点で、ブレイドは、白蘭を戦士として見ていない。

 天才『剣士』ではある。剣を振るう者として、確かな実力がある。

 しかし、『戦士』ではない。

 

 剣は、焦燥ではなく、殺意を持って振るう物。

 

 盟刀の争奪戦の中で、決闘で相手を殺すこともある。

 

 そんな時代に、『焦燥』で剣を振るうなど、戦士ではない。

 

 加えて。

 

 ここまでの流れで、渋谷クラスタという組織が、どれほど白蘭に愛情を注いでいるかが分かるからだ。

 

「母上のために、お前に勝つんだ!」

「……鞘姫のため。か」

「そうだ! クラスタの争いで両親を失ったぼくを、母上は拾ってくれた。その恩に報いるために、盟刀を手に――」

「違うと思うぜ」

「えっ……」

 

 本当に驚いたような顔をする白蘭。

 

 そう……これは『アドリブ』だ。

 

 脚本では、『盟刀を手に入れる!』と言い切って、それでブレイドに突撃するが、敵わず負ける。

 

 立てはするが、全力は出し切れない。この舞台だと脇役となるキャラクターで十分抑え込める戦闘力まで落として、『刀鬼VSブレイド』につながる。

 

「ただ、なんとなく生きてるだけで、人を幸せにしてることだってある。確かにお前の剣の腕はすげえけど、剣を握ってる時と握ってない時、どっちの方が、周りが笑顔なんだ?」

「そ、それは……」

 

 真刃はそこまでゲーム映像を見てないので内心では『知らんわ!』と絶叫中である。

 第一、ゲームはシナリオなんてただの立ち絵なのだ。周囲の人間の表情なんぞ分かるか! というのが本音だろう。

 

「俺はこの國を盗る。その野望のために戦う。誰かのためじゃねえ。自分のために剣を振れよ」

「ぐっ……」

「お前は……なんだ?」

 

 ニヤッと笑いながら煽るブレイド。

 

「ぼ、ぼくは……」

 

 白蘭は、覚悟を決めた顔つきで、二刀を構える。

 

「ぼくは白蘭! 渋谷クラスタ所属の。戦士だ!」

「いいねぇ。良い面構えだ。なら、ちょっと本気で相手してやるよ!」

 

 ブレイドは良い笑みを浮かべて、盟刀・風丸を構えた。

 

 

 

 

 ……舞台の面々は思った。

 

((((コイツ、真刃とガチでやりたいからって、煽り(アドリブ)入れやがった!))))

 

 間違いない。

 

 そもそもこの白蘭VSブレイドというマッチングだが、ブレイドは彼をあしらう剣術で戦っている。

 

 ただ、それだと姫川が面白くない。

 

 完全に私情。

 

 真刃とガチでやりたいという、ただそれだけのために。

 

 姫川は引っ掻き回した。

 

「うおおおおおっ!」

「うあああああっ!」

 

 吠えながら接近する二人。

 

 ……別に、本気になったからと言って、演技のスタイルが変わるわけではない。

 

 ブレイドは熱く燃えるような演技。

 白蘭は怪しい月光のような演技。

 

 ここまでキャラを理解し、掘り下げ、体に叩き込んできたそれが変わることはない。

 

 ただ、『お互いに前のめりになる』というだけ。

 

 しかし。

 

 そう、しかしだ。

 

 そもそもこの場面は『熱い衝突』ではない。

 

 なんと、動きは完全アドリブ。

 

 スポットライトを当てる照明担当に真正面から喧嘩を売るような、そんな激しく、妖しい、そんな動きだ。

 

 というより、真刃はある程度、『盟刀を手に入れる』と言い切ったあとの展開や動きに持っていこうとするが、姫川の方がそれをあらかじめ防いで、『苛烈』な方に持っていく。

 

 真刃も一端の役者であり、その『意図』は理解できる。

 

(マジで知らんからな!)

(後で俺と一緒に頭下げてくれ)

(なんで俺もなんだよ! 一人で下げに行けや!)

(お前も楽しそうだろうが。お互い様だろ)

(はっはー! 言うようになったな演技ができるだけのポンコツめぇ!)

 

 まあ、内心で大笑いしている辺り、同類も同類。

 

 そう、要するに。

 

『危険なものを曝け出すような芝居は、楽しい』

 

 少なくとも、姫川と真刃にとって、芝居とは、そういうものだ。

 

 

 

 

 展開に茶々を入れたとしても、『その後』に変化はない。

 

「十分楽しめたが……そろそろ仕舞いだ」

「えっ」

「ふっ!」

「おぐっ!」

 

 足を振り上げるブレイド。

 

 それは、白蘭を正面からとらえて、彼を蹴り飛ばした。

 

 ゴロゴロと転がって、白蘭は地面に倒れる。

 

「ぐっ、くそぉ……」

 

 そのまま立ち上がろうとするが、かなりフラフラだ。

 

「これくらいで勘弁してやるよ」

 

 ブレイドはそう言って、舞台裏に引っ込んでいった。

 

「ま、待てっ、うわっ!」

 

 この舞台だと脇役。

 そういうキャラが割り込んできて、白蘭を抑え込む。

 

 白蘭は盟刀持ちにこそ後れを取るが、それ以外のメンツなら余裕で勝てるほどの実力者だ。

 

 しかし、万全ではない状態で戦えるような、そこまでの経験はない。

 

 『精彩を欠いた動き』の演技に移行し、白蘭もまた、剣を振った。

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