嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第25話 舞台物販

 大きな拍手と共に終わった『東京ブレイド』の舞台。

 

 その控室にて。

 

「……真刃、なんでまだ白蘭なの?」

「物販コーナーに顔を出せって言われてね」

 

 メイクを落とし、衣装を脱いで普段着に着替えた面々。

 

 ただその中で、真刃はまだ『白蘭』である。

 

「白蘭の参加って本当に急に決まったから、ステッカーとかアクリルスタンドとか用意できてないからね。写真撮影とネットにアップロード有りで物販コーナーに行って欲しいって、メイクさんからちょっと手直しされつつ言われました」

「え、撮影とかアップロードとか、いいの?」

「皆の場合は事務所のアレコレとかあるけど、俺の場合は俺が会社のトップだからね。俺が良いって言えば別に構わないから」

「確かに」

「ちなみにメイクさんから手直しされる前に、きつねうどんのカップ麺食べてたら写真撮ってきました」

「でしょうね」

「雷田さんが」

「プロデューサーが!?」

 

 超人気キャラの白蘭だが、パンフレットの作成とか、それに関するデザインの決定やら企画書やら、本当に色々ある。

 

 とても半月では時間が足りない。

 

「あーでも、白蘭の『販促』もゼロじゃないし」

「え?」

「皆。カードゲーム用の写真撮ったでしょ?」

「撮ったわね」

 

 漫画、アニメ、映画、ゲーム、舞台。

 多くのメディアミックスがされた東京ブレイドだが、なんと『カードゲーム』にも手を出している。

 

 製造や販売に関しては、『イグスト』を販売している会社と同じところが事業を展開しており、カードゲームのノウハウを持った社員を何人も抱えている。

 

 まあ、その会社には真刃がかなり金を出しているので、人件費をかなり捻出できるため引き抜きしやすいというのも絡んではいるが、大人のお金の話は置いておこう。

 

 そして今回、『東京ブレイドカードゲーム・舞台開幕編』として、入場者だけが買える特別なパックがあり、物販コーナーに並べられている。

 

 1パック176円で、1BOXは15パック入りで2640円。

 

 上の方のレアリティだと、今回の役者が実際の舞台の衣装とメイクで撮影したものがイラスト部分に使われている。

 

「なんか、白蘭関係のテキストを練り上げてるスタッフがいるみたいでさ。決まったのが半月前なのに、その人が『出します!』って通したみたい」

「うわ……」

「カードの製造ラインをゲーム会社が抱えてるから。ねじ込もうと思えばねじ込めるってことで、圧倒的な熱意と圧力をもって決まりました」

「まあ、『実物』を見たら興奮するのはわかるわ」

「どういう意味なのか聞かないでおくよ。ただ、元のパックはカードリストが決まっててねじ込めないから、俺が映ったカードを三種類作って、それらが一枚ずつ入ったパックが1パックで200だね。パック名は『舞台白蘭編』らしいです」

「私達、5枚で176円なのに、白蘭は3枚で200って……」

「ちなみに、東ブレカードって1デッキに同じカードが4枚入るから、4パックと、3種類の内どれかの特別な加工をされた1枚を合わせた『舞台白蘭編セット』が1000円みたい」

「13枚で1000円かぁ」

「ちょっと攻めてる価格設定だから、販促として出てほしいってさ」

「売れるだろうなぁ……」

 

 写真撮影とアップロード有りなら、それだけで客の足を止めるのに十分だ。

 

 もちろん電車の関係ですぐに出なければならないとか、そう言った部分はあるかもしれないが、まあそこは血涙を流してくれ。真刃は知らん。

 

「というわけで、ちょっと行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 というわけで、真刃は物販コーナーに直行である。

 

 ★

 

「みんな~。お待たせ~!」

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 幼い笑顔を浮かべた白蘭が、物販コーナーに到着。

 ちなみにこの登場もサプライズである。

 殺陣用の刀は持ってきていないが、それを除けば、まんま白蘭だ。

 

「今日は舞台を見に来てくれてありがとう! 渋谷クラスタ所属の白蘭だよ!」

 

 両手を腰にあてて、『えっへん!』と胸を張る。

 

 まあ、中身が男子なので当然絶壁だが、『その道の人』にはたまらない。

 

「あっ、ぼくに関しては、写真撮影も、ネットにアップするのも全然大丈夫だからね! 十分明るいし、カメラのフラッシュだけは勘弁です! あれものすごく眩しいから!」

 

 両腕をクロスして『ダメ―!』と宣言。

 

 それに合わせて、『え、撮っていいの!?』『ラッキー』『白蘭たんはぁはぁ』と言った感じである。

 一部はすでに壊れているような気がしなくもないが、まあ手遅れなので問題はない。

 

「ぼくの参加って結構急に決まったからね。ステッカーとかアクリルスタンドとか用意できてないんだよ。その代わり、ぼくが映ったカードが出ました!」

 

 物販コーナーの方を指さす。

 

「ぼくが映った3種類が1枚ずつ入ってるよ! セットの方では、パックが4枚と、3種類の内いずれかの豪華版が一枚入ってます! 1パック200円。セットは1つで1000円! どうだ! 商売うまいでしょー!」

 

 とっても笑顔な白蘭。

 

 ……ただ、そこに真刃らしさはない。

 

 ありえないことはわかっているが、『本当に白蘭がこの商品を考えて、値段もつけたのではないか』と思わせるほど、ここに立っているのは、『白蘭』だ。

 

「というわけで、あんまり長くはいられないけど、楽しんでいってね~!」

「あ、あの、ツーショットとかは……」

 

 女子高生らしい……ていうか『MEMちょ』だ。

 

「バッチリOKだよ! ついでに、体にちょっと触れるくらいなら問題ないね!」

「おおっ」

「中身は男だからさ!」

 

 爆弾を投下した。

 

「「「「「!!!!!!!!?????????」」」」」

 

 信じられないものを見るような目つきになった観客たち。

 そう、MEMちょも。

 お前は知ってるだろ。と真刃は内心で思ったが、今の彼は白蘭だ。

 

「え、は、白蘭って男なの!?」

「うーん……ぼくもよくわかんない!」

 

 そうはならん。

 

 が、公式設定では『性別不明』であり、どっちなのかはアビ子から聞いていないし、なんならアビ子自身もどちらなのかわからない可能性が高い。

 

 とりあえず、白蘭は性別不明。真刃は男。

 

 事実はそれだけだ。

 

 ……真刃は女ではない。こう見えて。

 

「説明は終わり! みんな楽しんでいってね! ついでにいろいろ買ってもらえると、とてもうれしいです!」

 

 結局のところ、真刃は販促のためにここにきている。

 

 ちなみに、当然とばかりに『商品のアピールポイントや、インスタ映えする方法など』を全て頭に叩き込んでおり、それらすべてを『白蘭』という役に落とし込んで説明も可能。

 

 正直、『キャラクター販促』と言う点で言えば反則レベルだ。

 

 ただ、そんな白蘭でも、困ることは一つだけある。

 

「この『舞台開幕編』って、封入率どうなってんの?」

「それだけは無理いいいいっ!」

 

 聞いているし、まあ設定上の封入率はネットにも載っている。

 

 が、彼の口からは言えません!

 

 カードゲーム業界のトップシークレットなので!

 

 ★

 

「……すごいなぁ。真刃君」

「そうね。正直、ここまでとは思ってなかったわ」

 

 あかねと有馬が、商品を販促している真刃を遠くから見ている。

 

「私さ。あの最後の演技もそうだけど、アンタみたいなのは『天才』だと思ってる」

「私も、演技の世界で天才っていうのは、姫川さんとか、かなちゃんみたいな人だと思ってる」

「……でもさ。最近、真刃を見てると、思うところがあるのよね」

 

 あかねも有馬も、お互いのことを認めている。

 

 だからこそ、お互いに、絶対に勝つ。と言って舞台に上がれる。

 

 ただ……真刃は、やっぱり異常だ。

 

「子役時代から演技を磨いてきた私たちが、キャラもしっかり理解して、納得できる脚本で、それで舞台に上がって、あの演技になった。でも、真刃は半月よ」

「そうだね。そっか。真刃君は、半月かぁ」

「演技は初心者じゃないけど、でも、普段は稽古してるわけじゃない。この業界、毎日毎日、何年も何年も、血反吐を吐くような努力を積み上げて、やっと至れる場所っていうのがある。でも、そこに、あんな簡単に踏み込むなんてさ」

 

 黒川あかね。

 有馬かな。

 

 どちらも、『天才役者』といって過言ではない。いや、むしろ、それが過小評価とすら言えるかもしれない。

 

 お互いに、その魅力を全て言い表すのは非常に困難な、そんな役者だ。

 

 だが、真刃は、そこに『集中力』だけで、踏み込んでくる。

 

「凄い人っているんだって思う。この舞台、本当に、学べることは多かった」

「そうね」

 

 本当に全員が、自分が持つ魅力を引き出した。

 

 それが、この『東京ブレイド』の舞台だ。

 

 間違いない。

 

 そして、有馬はつるぎ役として、この舞台で『太陽の様な演技』ですべてを照らした。

 

 少なくとも、有馬とあかね。二人の勝負において、有馬は勝った。

 

 そう……。

 

 役をやって欲しいと本番の半月前に言われ、姫川、黒川、有馬の天才が揃った舞台で、その役をこなした真刃(ばけもの)が居なければ、それこそ、有馬は『私の勝ちだ!』と言えた。

 

「悔しい。でも、あの演技は、私とは違う」

「私とも違うね」

 

 有馬は適応型。

 あかねは没入型。

 だが、真刃は『上書型』だ。

 

 演技と言うものがどういうものなのか。

 全然違いすぎる。

 

 すべてを妖しく照らす月光の様な、静かな演技。

 

 激しい動きの中で一切の無駄を削ぎ落したような、『綺麗』な動き。

 

 自分の外見を、自分がどう見られているのかを完璧に理解した、『美しさ』のある演技。

 

「また一緒に()りたいわね。まあ、いろんな舞台に関わっていても、役者として出てくるかはわかんないけど」

「その時は……負けない。真刃君にも、かなちゃんにも」

「望むところよ。次も、絶対に負けないから」

 

 強い顔で、宣言する。

 

 

 

 ……そんな二人を、特に有馬を、少し離れたところから、ルビーは見ていた。

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