嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第27話 出版社のお偉いさんとゲーム会社、仲悪すぎな件

「……出版社とかアニメの製作委員会が企画してる『白蘭』関連の仕事、多すぎじゃね?」

 

 基本的に、真刃のスケジュールは空いている。

 というより、メールの返信や少数の書類整理が真刃の仕事だ。

 

 少し前に『月影ホールディングス』という会社を設立し、他の株式会社の株を五割以上買い取って、それによって口を出す権利を得て、配当金や経営指導料が真刃の持株会社の収益となる。

 

 そういう構造であり、基本的に子会社から

『ちょっと行き詰まったんですけど、とりあえず現状こんな感じです! どれに向かって進めばいいですか!?』

 みたいなメールが来るような構造にしているので、報告書に書かれた文字列から『良い匂い』を嗅ぎ取って印をつけて、『こっちに進め!』と返信。

 

 これが真刃の仕事なので、基本的にスケジュールは空いている。

 

 ……まあ、たまに『ゴルフを用意してます!』とか『旅館とかどうですか!』とか『部下の結婚式に出てやってください!』みたいなメールが来ることもあるので、良い匂いがすれば参加する。と言った程度だ。

 

 そう、本当に『空いている』のである。

 普段は!

 

「……そういえば、イグストとか東ブレカードをやってる会社……確か『赤色ゲームズ』だったっけ。そこは子会社だったよな。でも、東ブレの出版社やアニメの製作委員会と月影HDは関係が薄いんだろ?」

「まあ、ほぼないねぇ」

 

 二人が今居るのは、苺プロの事務所の一室だ。

 

 一応、月影ホールディングスは苺プロダクションにそれ相応の金を出しているので、入っても問題はないが、それを踏まえても『勝手知ったる』といった様子でソファで横になってスマホを見ている。

 

 そんな真刃とアクアが話していた。

 

 ちなみに、『月影ホールディングス』の公式ホームページを見ると、子会社の一覧が掲載されている。

 そこにある『赤色ゲームズ』の文字を見て、アクアは『ちょっと前はなかったような……』と思いつつも、今は子会社なのでとやかく言わないことにした。

 

「まあでも、『白蘭』役を直ぐに引き受けたから、他の仕事もやってくれるって思ってんじゃない?」

「子会社の方ならともかく、原作とかアニメは白蘭関係ないよな」

「あー、それがね……ゲームから原作に『逆輸入』されるかもって話が出ていて、まあ、大手出版社だし、版権は向こうが持ってるからね。結構強気に交渉してくるみたい。イグストも東ブレカードも、出版社がアレコレ言ったらもう出せなくなっちゃうし」

「……」

「でも、『赤色ゲームズ』の親会社のトップが俺で、そこのつながりが切れちゃうと、俺が白蘭をやる理由もなくなっちゃうんだよなぁ。喧嘩して俺が白蘭をやるのポシャったら、アビ子先生が出版社にキレる可能性があるという……」

「それ、『時限爆弾』って言わないか?」

「言いますねぇ」

「はぁ……」

 

 憑き物が取れた。といった様子のアクアだが、友人が厄介な話の種を抱えていてため息が漏れた。

 

「で、真刃としてはどうなんだ?」

「今のところ、仕事に関しては『良い匂い』がするから受けるのはいいんだけどね」

「そうか……」

「ただ、雲行さんが悲鳴を上げてたよ」

「えっ?」

 

 雲行怪(くもゆきあやし)

 作家であり、真刃の未成年後見人であり、イグストの『百鬼夜行編』のシナリオを仕上げた男だ。

 

「あー、原作がね。今やってるストーリーが終わったら、白蘭と『カガリ』を入れた、『妖港混濁編(ようこうこんだくへん)』っていうストーリーになるみたい」

「カガリ……『夜宴(ようたげ)』の所持者か」

「そう、で、雲行さんが、白蘭とカガリを軸にゲーオリ展開を組んでて、まあ、他の仕事もあって忙しいっちゃ忙しいんだけど、そこに『妖港混濁編』に必要な設定書まで頼まれて『嘘だろ』って言ってた」

「そ、そうか……」

「ぶっちゃけ、白蘭とカガリに関しては、深いところまでやるとなると雲行さんしかわかってない設定もあるみたいだから、まあ、そんな感じらしいです」

 

 白蘭が人気キャラなのでアクアも調べてみたが、どうやら、白蘭に関しては、『アビ子がきちんと作ったのは外見だけで、中身やストーリーに関しては雲行が仕上げた』という形になっているらしい。

 

 とはいえ、アビ子だって忙しいのだ。原作とゲームのストーリーを同時に考えるなど無理な話である。

 

「……ゲームやったけど、え、今から逆輸入なのか?」

「まあ、白蘭を描くことそのものはアビ子先生の方が乗り気だからね。あの手この手でやるんじゃないかな」

 

 そもそも、白蘭は『原作者の性癖詰込みセット』である。

 そりゃアビ子も描きたい欲求はあるはずだ。

 原作最新話付近は鞘姫が薄くなっているので、そこをうまい具合に濃くすることもできる。

 

 ゲームの方は渋谷抗争編の前に白蘭が渋谷にいて、原作の方では『刀×つる』カップリングが人気なうえで白蘭を投入と言う、なんだかズレが生じる気はするが。

 

 ……付け加えれば、原作勢は『刀×つる』でゲーム勢は『刀×鞘』という溝がさらに深まりそうでかなりアレだが。

 

 まあ、そこは上手くやるのだろう。

 

「……むしろ、なんで今まで逆輸入の話がなかったんだ?」

「雲行さんから聞いた話だと、まあ編集部側が意地を張ってたというか……」

「意地?」

「ゲーム化の話が出たときの赤色ゲームズって、まあ小さい会社でね。ゲーム化するって話が出たときに、なんか『喧嘩』があったみたい。ただ、そこに俺が金を突っ込んで、白蘭の中身やストーリーを雲行さんが仕上げた結果、まあ『こうなった』わけで……」

「要するに、白蘭やカガリは『自分たちが舐め腐ってたやつが仕上げたものだから、原作に入れるな!』って言い張ってたのか」

「そんな感じみたい」

「なんていうか……メディアミックスで繋がってるわりに、仲が悪いな」

 

 キャラクターの外見と言うのは、確かに大きな要素だ。

 ラノベだって、『絵師ガチャ』だとか『イラストが命』とか言われることも多々あるほどで、外見は重要である。

 

 しかし、外側だけを取り繕って適当に売ったり世に出した場合、初動はあっても長くは続かない。

 

 良い外見は、手に取る理由にはなるが、だからと言って『継続』にはつながらないものだ。

 

 出版社だって、そういう経験はいくつもしているはず。

 

 確かにアビ子が作った白蘭のビジュアルは素晴らしい。

 だが、限界を超えた状態のアビ子が作った反動で、『原作キャラたちと雰囲気が違うもの』に仕上がっている上に、原作で手一杯になるアビ子がゲームまで仕上げるのは不可能。

 

 というわけで、出版社の方は、『白蘭やカガリを軸にゲームを作っても、まあそこまで売れないだろうな。会社も小さいし』と高を括っていた。

 

 ちなみに、大手のゲーム会社に声をかけなかった理由は、単に、漫画作品のゲーム化がブームになっているときに乗り遅れて、大手から枠を取れなかったというだけである。

 

 原作の売り上げは5000万部。

 確かに素晴らしいが、ゲームが発売されてからのブーストの影響もかなり大きい。

 

 ネットの意見を見れば、『今の東ブレの躍進は、赤ゲーと組んだから』と言う意見もかなり多い。

 

 出版社側としては『こうなる予定じゃなかった』と言ったところ。

 ゲームを作るとなった時に、赤色ゲームズに威圧的に接した結果『喧嘩』になったので、今さら歩み寄るのもアレだ。

 

「オマケに、漫画とアニメDVDと関連グッズ、全部合わせても、赤色ゲームズが出してる東ブレアイテムの売り上げにかなわないという状態に……」

「なんでそうなったんだ?」

「まあ、結局は楽しく魂を込められるかって話でしょ。アビ子先生はかなり繊細な人だし、『刀×つる』が読者人気だからって編集部に言われて突っ込んだ結果、ネットの一部では『半端な漫画になった』って言われてる」

「分かる人にはわかるってレベルだけどな」

「ただ……赤色ゲームズの連中って、マジで『郷に入っては欲に従え』と言わんばかりに突っ走るからね……ゲームを遊んでる人も、白蘭やカガリを使うのは楽しいってなるのさ」

 

 魂は込めている。

 命を削って書いている。

 

 しかし……『作るの楽しいですか?』という話題になった時に、週刊連載でボロボロになっているのがアビ子で、真刃から見ても『自重しろやお前ら』と言いたくなるような状態になっているのが赤色ゲームズだ。

 

 というか……。

 

「俺、事務所に行ったときにさ、マジで酒を飲みながらカードのテキストを考えてる人がいて、実際にテキストみたらゲームが終わるレベルのヤバい奴だったけどね」

「突っ走りすぎだな。楽しそうだけど」

「そういうこと」

 

 真刃は溜息をついて、スマホをテーブルに置いた。

 

「で、そんな具合に、出版社と赤色ゲームズですごく溝が深いんだよ」

「みたいだな。話を聞いてる限り、関係を築けてるのが奇跡だ」

「まあ、赤色ゲームズは、出版社は嫌いでも東ブレが好きな人ばかりだからね。だから今もゲームを作っているわけで、出版社からのアレコレも我慢してるわけさ」

「……ちなみに、その仲が悪い理由の根本って、大抵は一人の人間だったりすることもあるけど……」

「そのパターンさ。出版社の中でもかなりのお偉いさんの一人が関わってます」

「……良くある話か」

「良くある話ですね。で……原作者であるアビ子先生が『原作で白蘭を絶対に出します』って言い張ったら、どうしようもないわけさ。今までは白蘭を入れる余裕がなかったけど、多分今回の件でアシスタントを雇うことも考えるだろうから時間ができると思うし」

「……まあでも、よくよく考えると、白蘭をあそこまで良いキャラクターに仕上げた会社なんだから、アビ子先生は赤色ゲームズのことが好きだよな」

「実際何度か、事務所の方にお邪魔してるみたいだし、アビ子先生は漫画のことになると饒舌な人だからね。そこに、白蘭が大好きな社員がくっつけば、そりゃ関係だって良好さ」

 

 アクアは脳裏に『センメルヴェイス反射』と言う言葉が思い浮かんだ。

 

 まあ端的に言えば、心理的な慣性の話であり、『今までの考えに固執し、それに反する新しい考えを反射的に拒絶する行動傾向』のこと。

 

 大手出版社のお偉いさんであり、我を通せる立場だ。

 

 そりゃ、好き勝手することも出来ていただろう。

 

 赤色ゲームズが出した作品がここまで売れるとは思っておらず、最初に威圧的に接した結果、謝罪することも出来ない。

 

 要するに、『売り上げを伸ばせるもんならやって見ろ!』と、『妙な契約』を結んでいるのだ。

 端的に言えば、『最初にかなり莫大な金額を出版社に出せば、それ以降の売り上げはかなりの部分が赤色ゲームズに入る』みたいなやつ。

 

 で、めちゃくちゃ売り上げてその金額を耳揃えて出してしまったものだから、『契約書の都合』で、出版社側がゲーム会社にアレコレ言えない。

 

 そのお偉いさんにとっては肩身の狭くなる状態だが、ここで謝ることも出来ない。

 そこで、アビ子には『原作に白蘭とカガリはなしで』という方針にさせてしまった。

 原作の方でも、アビ子にはこの二人を入れる余裕はないので、それはそれで通っていたが、赤色ゲームズの方が、マジで売れ過ぎた。

 

「……なるほど、で、今回、舞台でアビ子先生に火がついて、白蘭を出したいってなったと」

「赤色ゲームズの人が『アイツらの手首どうなってんだ?』って口に出す勢いでいろいろ決まってるね。で、俺が舞台の白蘭を引き受けちゃったから、他の仕事も行けるだろうって、いろいろねじ込まれたみたいです」

 

 ただ、間違えてはいけない視点がある。

 

「ただ、赤色ゲームズも、嫌いなのはそのお偉いさんだけだからね。ぶっちゃけ、『舞台は原作準拠でやる』って話になってて、『この舞台が成功すれば原作とアニメの方が売れる』って思ってたら、サプライズで俺が出ちゃったし、それで白蘭の人気がすごいことになったし、今までは黙ってたアビ子先生が白蘭を描きたいって言い出すしで……」

「肩身の狭さが尋常じゃないな」

「そんな『一悶着』があったと、そういうわけだね。ま、この仕事自体は良い匂いがするから、舞台が終わった後も、ちょっと白蘭の仕事が入る感じだよ」

「まあ、頑張れ」

「頑張ります」

 

 お偉いさんの我儘で、いろんな人間が振り回される。

 

 よくある話だ。

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