赤色ゲームズ。
ゲーム会社であり、『東京ブレイド
優秀なプログラマーや、業界に対しノウハウを持った社員が数多くおり、社員は800人だ。
東ブレによって爆発的な知名度を手に入れた会社ではあるが、当然、それに依存してはいない。
自社でも新規タイトルをいくつか発表しており、そのどれもがかなり売れている。
……まあ、ゲーム会社としては異常なほどの開発資金と、『このゲームは売れるから熱量を注いでくれ』という
「みんなお待たせ~!」
「「「「「白蘭キタアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」
赤色ゲームズ第一事業部。
主に東ブレ事業を手掛けている部署の、会議室の一つ。
別名、『
そんな場所に、舞台の白蘭の姿をした真刃がやってきていた。
ちなみに、真刃は白蘭の役に集中している。
当然だが、この真刃に対して、『白蘭』と呼ぼうが『月影さん』と呼ぼうが『会長』と呼ぼうが構わない。そんなめんどくさいことで真刃はブレたりしない。
「……水を差すようでアレだけどさ。会長って、今日はゲーム用のモーションキャプチャーに来たんだよな。なんで白蘭の格好?」
「それはね……みんなのモチベーションアップのためだよ!」
両手を腰に当てて『えっへん!』と胸を張る。
ちなみに、あまり会話になっていないし、言っていることはめちゃくちゃである。
そもそもモーションキャプチャーの為には、専用スーツを着て動きを計測する必要がある。
それを考えるなら、これからそのスーツに着替える必要があるのだ。
そうなった時、白蘭の衣装は関係ない。
「いや、最新式のキャプチャー技術で、あの衣装でも出来るようになったぞ」
「そんなのいつできたんです?」
「昨日」
「昨日!?」
「まあ、使ってるカメラやセンサーが色々『ヤバい代物』だから、使えるスタジオは一つだけだけど」
「なるほど……なるほど?」
とにかく、一度使うとなった場合、使う資金の量がえぐいことになるのが月影ホールディングスの子会社たちだ。
そのため、こういう『技術革新』みたいなものはそれ相応に多い。
ユーザーに届けるための販売部にいると、技術部が何を作っているのかよくわからないことも多々ある。
「あと、なんであの衣装を会長が?」
「他の役者の衣装は雷田さんのところが用意したけど、白蘭だけは急に決まったから、子会社のアパレルメーカーで作ったんだよ」
「なるほど……要するに、会長以外が着ることを想定してない物が出来上がったのか」
「そんな感じ」
ちなみにこの手の会話……というか現状は、月影HDの子会社だとよくある事である。
「というわけで、ぼくは今日はこの格好でこの会社を回ってるからね! みんな、お仕事頑張ってね~♪」
「「「「「ヒャッハアアアアアアアアアアッ!!」」」」」
地獄である。
★
「上の会議室で何が起こってんのかと思ったら、謎が解けたよ」
「あ、
本社の低い場所に降りてきたとき、自販機でカフェオレを買っている男を見かけて、真刃は声をかける。
男は端的に言えば、そう、高身長のイケメンだ。
茶髪を短く切りそろえており、顔だちは『悪ガキ』をそのまま成長させたような、やんちゃな雰囲気がある。
名前……いや、芸名は
事務所に所属していないフリーの俳優である。なお、姫川と同じで今年二十歳だ。
「真ちゃん、今日は白蘭か。かわいいな~」
「えへへ~♪」
真刃の頭を撫でる竜胆。
白蘭が『親しい人間に頭を撫でられると喜ぶキャラクター』なので、それをそのまま演じている様子。
「今日はどうしたの~?」
「特撮がオールアップで、次の仕事どうしよっかなって思ってたら、この会社から新作タイトルのCMの仕事が来たんだよ。説明とCM撮影を今日から三日くらいで仕上げようって話になったのさ。近くにホテルも予約してる」
「お~!」
「その『特に何も考えてないセリフ』……めちゃくちゃ便利だよなぁ」
付き合いの長い様子がうかがえる。
「まっ、真ちゃんが関わってる会社とは仲良くしておこうって思ってたし、この会社はアレだから……」
「おおっ! 白蘭じゃん!」
「ん?」
竜胆が大声に反応して横を向く。
真刃もそちらを向いた。
そこにいるのは、上下黒ジャージの女性。
水色の髪を長く伸ばしており、メガネをかけている。
外見はかなり若々しく美しい。三十代後半くらいのはずだが、一回り下に見える。
「真刃、来てたんだな。しかもそんな恰好で」
「
「しかも役にどっぷりか。かわええなぁ……」
「えへへ~♪」
ジャージの左胸には名札が付いており、『赤色ゲームズプログラム部
「丁度いい時間だし、飯にするぞ。勇牙も来い」
「え、俺も? ……まあいいか」
というわけで、近くの食堂に三人で向かった。
……で。
「ぼく、無言できつねうどんを渡されました」
「「でしょうね」」
テーブルに座る三人だが、真刃が持つトレイにはきつねうどんが乗っている。
「いただきます!」
ただ、白蘭はきつねうどんが大好きな設定だ。
真刃もそれに合わせて、笑顔でいただきます。
「しっかし、白蘭の時はマジで可愛いよなぁ。いいなぁ、アタシも昔は可愛いときがあったんだぞ~」
「絡み方がおっさんじゃん」
「うるせえやい」
きつねうどんを食べる真刃だが、可愛い。
そう、それこそ、その画像をアップするだけで、世の中の晩飯がきつねうどんになるほどに。
間近で見ればなおさらだろう。
「そう、アレだ。最近復活した『B小町』ってのがあるだろ? 今は新生だから、『旧B小町』ってことになるのか。そっちの初期メンバーだったのさ」
「へぇ……」
「アイっていう凄い奴がいて、最初は二大巨頭って言われてたよ」
「ほー……ん? 最初は?」
「あー、アタシが芸能界に飛び込んだのは、正直に言えば大金を手に入れたいって欲望だからさ。それも、芸能界っていうのはいろんな才能が集まるし、その才能を利用しようと、さらにいろんな才能が集まる。それをうまくひっかけようと、芸能界に飛び込んだのさ。顔は良かったからな!」
「自分で言うんかい……」
「でっ、まぁ……ある程度、株を見ながら活動しつつ、すげえ人にあったんだよ」
「すげぇ人?」
「そう、アタシと同じ特技、『金の匂いが分かる』って人だ。まあ、あの人は、アタシよりも断然凄い嗅覚を持ってたけどな」
「へぇ……」
弾むように話をしている竜胆と祈里。
そんな会話を、真刃は楽しそうな……そう、とても楽しそうな表情で聞きながら、うどんを食べている。
「この人についていけば、大金が手に入るって確信して、アタシはそこから、あえてパフォーマンスを落としていって、最後は飛び出すように抜けた。まっ、初期メンバーの中で、アタシはちょっと年齢が上だったからさ」
「それで、その人についていったのか」
「そうだ。いやー、凄かったぞ。とんでもない金の使い方と稼ぎ方で、とんでもない勢いで数字が動く場所だった。その人が苺プロにも金を出してる人で、壱護社長と話す時もあったな。途中からは私が金を渡しに行ってたけど!」
「凄い関係の変動だな……」
「で、その人の助手っぽいことを続けてて、良い匂いを嗅ぎ取って、思い切って退職金をその人からふんだくって、単身ベガスに行った」
「いきなりラスベガスに行くって……」
「で、最初はある程度勝ってたんだけど、途中からボロボロに負けまくってさ。デカい借金できたんだけど、その人が全額払ってくれた」
「す、すごい話だな……」
「いやー、マジで、人間がやっていい額じゃなかったからな」
「やったんだよな」
「やりました」
「おいおい……」
話を聞いている真刃だが、ちょっと笑いをこらえている。
「で、その人が、大金を得るために動いてたアタシがこれからどうしようって考えてた時に、プログラマーになって稼いでいる未来がありそうっていうからさ。取り組んでみたら、なんか上手くハマったんだよ」
「そうか……」
真刃はニコニコしている。
ただ……。
「それで俺を生むのは安心しすぎじゃね?」
「ブッフウウウッ!」
「うおおっ!」
竜胆の口から洩れた話が衝撃的だったのか、うどんの汁を思いっきり吹き出している。
……ただ、それでも、白蘭の衣装を汚さないのが真刃クオリティ。
タオルを取って、テーブルに散った汁を拭いている。
「……え、親子?」
「あれ、知らなかったっけ?」
「竜胆さんとも祈里さんともある程度付き合いがありますけど、それは知らんかった……」
衝撃的だったのか、白蘭が維持できない。
真刃が……いや、『もっと前』が顔を出している。
「あー、まあ、そんな感じだな。勇牙が生まれてからは楽しかったぞ。そこからは大学にも通って、雲行っていう酒飲み相手も出来たからな」
「そ、そうですか……」
「まあ、数年前に難病にかかった時は流石にヤバいかって思ったけど、なんだかんだでそれも完治したし。今はこうして、めっちゃ売れてるゲーム会社のプログラマーとして働いてる。息子も俳優として売れてるし、順風満帆さ」
「……そう、なんだ。良かったですねぇ……」
真刃としてはどう言えばいいのかわからない。
……が、まあ、その……いろいろ済んだ話だ。ここで引っ掻き回しても仕方がない。
「あ、すまねえ。アタシ、これから会議だわ。ちょっと失礼」
「おう……」
「頑張ってね~♪」
「やっと戻れたな」
「戻れました! というより、そろそろ東ブレ原作者のアビ子先生が来るはずなので、戻れないとヤバい!」
「確かにな」
フフッと微笑んで、祈里は食堂から出ていった。
廊下を歩く祈里。
その口から、言葉が漏れる。
「……まあ流石に、『あの人』に酒をたらふく飲ませて、アタシが無理やり作った子供が勇牙だなんて、あの場で話すことじゃねえよなぁ……」
そんな言葉が、漏れた。
何もなしにストーリーを勧めたら、マジで『映画編』で真刃が暇人になるけど、このあたりでこれだけ書いておけば大丈夫でしょ。多分。