嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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今回の話の都合上、『他原作要素有り』のタグをつけました。


第29話 アビ子とお偉いさんがやってきた。そして……

「はぁ♡ はぁ♡ はぁ♡ はぁ♡」

「アビ子先生……ハグハグしても大丈夫だよ!」

「白蘭大好きいいいいいいっ!」

 

 赤色ゲームズにやってきたアビ子。

 

 彼女がここにやってきた理由は、ゲームのモーションキャプチャーのために真刃が赤色ゲームズ本社に、『白蘭の格好で来る』という情報を聞きつけて、『私も見ます!』ということでスケジュールを弄ったからだ。

 

 そのため、アビ子は帰った後で地獄の様なスケジュールが確定しているが、そんなことはお構いなしである。

 

「アビ子先生。彼も仕事でここにきているのですから、あまりくっつくのは……」

 

 そういってアビ子の奇行を止めようとしているのは、かなり太った男性だ。

 

「何を言うんですか蘇我(そが)さん! 白蘭に会えるんですよ!」

 

 太った男の名は蘇我(そが)武春(たけはる)

 大手出版社の中で『メディア事業本部役員』であり、数多くの作品に関する事業をまとめる部署だ。

 

 ちなみに、アビ子に対しては『本当ならもう連れて帰りたい』といった様子で、白蘭に対しては『恨みの籠った目線』を向けている。

 

 そう、この男こそ、東ブレがゲーム化すると決まった際に『大喧嘩』した男であり、すんごい紆余曲折の末に、『最初に莫大なライセンス料を払え。それができたら、それ以降はそっちにとっていい契約にしてやるよ(笑)』といった『着地点』になった。

 その結果、赤色ゲームズが払ってしまったので、『違約金』で搾り上げようと思っていた蘇我の目論見は大外れ。

 

 それ以降も赤色ゲームズは東ブレ事業で大儲けして、そこに出版社が関われない契約になったため、本社では肩身の狭い思いをしている。

 

 まあ、それでも『メディア事業本部役員』なのだから、それ相応の『裏』があるのだろう。

 

 ただ、そんな彼も、アビ子に対しては何も言えない。

 

 漫画、アニメ、映画、舞台、携帯ゲームにカードゲーム。

 

 一つのタイトルでここまでノリに乗っている漫画家というのは、日本でも極めて異例。

 

 日本の漫画の歴史において、彼女の様な『とびぬけた才覚』は時折顔を出すが、『今』……そう、『今もっとも、漫画家として勢いがある』と言えるのが、アビ子だ。

 

 どんな裏があろうが、出版社であれば、アビ子には何も言えない。

 

「しかし……」

「しかしも何もありません! あ~可愛い~」

「えへへ~♪」

 

 ギュッと抱き着いてほっぺをすりすり。

 

 ……22歳成人女性と16歳高校生男子。と言われるとなかなか字面がエグイが、これが現実である。

 

 ちなみに、蘇我にとって、『白蘭』という存在は、アビ子がそのビジュアルを仕上げた存在ではあるが、恨み辛みという言葉では表せないほどのキャラクターだ。

 

 正直、コイツさえいなければ……という思いはあるだろう。

 中身を仕上げた雲行も憎き相手だが、いくら大手出版社の重役と言えど、国税庁すら真正面から手出しできない真刃の未成年後見人であり、通せる無理はない。

 

 白蘭を演じる真刃に関しても同様。

 というか手を出そうとすると、国税庁が監査をチラつかせてくるレベルだ。

 

「……チッ」

 

 大手出版社の重役でありながら、強く手を出せない。

 

 屈辱だ。とっても屈辱だ。

 

「あ、そういえば、ちょっと見せたいものがあって」

「見せたいもの~?」

「そう、これ!」

 

 アビ子が鞄から出したのは、一つの企画書だ。

 

「これ読んで!」

「あ、アビ子先生、いくら彼が白蘭役とはいえ、一応は部外者で――」

「どうせ頼むんです! いつでも同じです!」

「……」

 

 白蘭に関することになると暴走する。

 

 ただ、当たり前と言えば当たり前だ。

 

 白蘭は『原作者の性癖詰込みセット』なのだから。

 

「えーと……次の大型アップデートの企画書?」

「そう。そうなんだけど、そのPVで、白蘭とカガリが重要になるの」

「ほうほう……ん? 白蘭は、カガリの隠し子? これって既出だったっけ?」

 

 カガリが父親で、白蘭がその子供。

 この情報は真刃の記憶にはない。

 

「……ごめん。オフレコで」

「わかった!」

「あ……アビ子先生……」

 

 ここまで暴走されると立つ瀬がない。

 

「まあそれはそれとして」

 

 それで片付けたらダメだと思う。

 

「カガリ役。誰が良い人がいないかなって、探してるの」

「あー、なるほどぉ……」

「候補はいるの。最近だと、『仮面ライダーガイド』の本編ラスボス、『仮面ライダータナトス』を演じてた――」

 

 その時……。

 

「失礼しま……あれ、真ちゃんと……アビ子先生?」

「あ、竜胆さん。ちょっと今、この応接室使ってて……」

「アビ子先生が使うって予約してるの、隣の部屋のはずだけど」

「あれ!? そうだったっけ!?」

「ここ第二応接室だぞ」

「え、第三じゃないの!?」

「違うぞ」

 

 あまりやらないミスが発覚。

 

 ただ、アビ子の視線は、竜胆に向けられている。

 

 そして……。

 

「あ、あの!」

「えっ?」

「『仮面ライダータナトス』役の、竜胆勇牙さんですか!?」

「あ、知ってくれてたんですね。嬉しいです」

 

 次の瞬間、アビ子は九十度頭を下げた。

 

「お願いです! カガリ役をやってくれませんか!?」

「……え?」

 

 目をパチパチさせる竜胆。

 

 本当に、本当に珍しく。

 

 彼は、すっとぼけたような表情になった。

 

 

 ★

 

「ぶふっ! ……業の深い親子だよ。本当に」

 

 カラスを連れた少女が、面白そうに微笑んだ。

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