「はぁ♡ はぁ♡ はぁ♡ はぁ♡」
「アビ子先生……ハグハグしても大丈夫だよ!」
「白蘭大好きいいいいいいっ!」
赤色ゲームズにやってきたアビ子。
彼女がここにやってきた理由は、ゲームのモーションキャプチャーのために真刃が赤色ゲームズ本社に、『白蘭の格好で来る』という情報を聞きつけて、『私も見ます!』ということでスケジュールを弄ったからだ。
そのため、アビ子は帰った後で地獄の様なスケジュールが確定しているが、そんなことはお構いなしである。
「アビ子先生。彼も仕事でここにきているのですから、あまりくっつくのは……」
そういってアビ子の奇行を止めようとしているのは、かなり太った男性だ。
「何を言うんですか
太った男の名は
大手出版社の中で『メディア事業本部役員』であり、数多くの作品に関する事業をまとめる部署だ。
ちなみに、アビ子に対しては『本当ならもう連れて帰りたい』といった様子で、白蘭に対しては『恨みの籠った目線』を向けている。
そう、この男こそ、東ブレがゲーム化すると決まった際に『大喧嘩』した男であり、すんごい紆余曲折の末に、『最初に莫大なライセンス料を払え。それができたら、それ以降はそっちにとっていい契約にしてやるよ(笑)』といった『着地点』になった。
その結果、赤色ゲームズが払ってしまったので、『違約金』で搾り上げようと思っていた蘇我の目論見は大外れ。
それ以降も赤色ゲームズは東ブレ事業で大儲けして、そこに出版社が関われない契約になったため、本社では肩身の狭い思いをしている。
まあ、それでも『メディア事業本部役員』なのだから、それ相応の『裏』があるのだろう。
ただ、そんな彼も、アビ子に対しては何も言えない。
漫画、アニメ、映画、舞台、携帯ゲームにカードゲーム。
一つのタイトルでここまでノリに乗っている漫画家というのは、日本でも極めて異例。
日本の漫画の歴史において、彼女の様な『とびぬけた才覚』は時折顔を出すが、『今』……そう、『今もっとも、漫画家として勢いがある』と言えるのが、アビ子だ。
どんな裏があろうが、出版社であれば、アビ子には何も言えない。
「しかし……」
「しかしも何もありません! あ~可愛い~」
「えへへ~♪」
ギュッと抱き着いてほっぺをすりすり。
……22歳成人女性と16歳高校生男子。と言われるとなかなか字面がエグイが、これが現実である。
ちなみに、蘇我にとって、『白蘭』という存在は、アビ子がそのビジュアルを仕上げた存在ではあるが、恨み辛みという言葉では表せないほどのキャラクターだ。
正直、コイツさえいなければ……という思いはあるだろう。
中身を仕上げた雲行も憎き相手だが、いくら大手出版社の重役と言えど、国税庁すら真正面から手出しできない真刃の未成年後見人であり、通せる無理はない。
白蘭を演じる真刃に関しても同様。
というか手を出そうとすると、国税庁が監査をチラつかせてくるレベルだ。
「……チッ」
大手出版社の重役でありながら、強く手を出せない。
屈辱だ。とっても屈辱だ。
「あ、そういえば、ちょっと見せたいものがあって」
「見せたいもの~?」
「そう、これ!」
アビ子が鞄から出したのは、一つの企画書だ。
「これ読んで!」
「あ、アビ子先生、いくら彼が白蘭役とはいえ、一応は部外者で――」
「どうせ頼むんです! いつでも同じです!」
「……」
白蘭に関することになると暴走する。
ただ、当たり前と言えば当たり前だ。
白蘭は『原作者の性癖詰込みセット』なのだから。
「えーと……次の大型アップデートの企画書?」
「そう。そうなんだけど、そのPVで、白蘭とカガリが重要になるの」
「ほうほう……ん? 白蘭は、カガリの隠し子? これって既出だったっけ?」
カガリが父親で、白蘭がその子供。
この情報は真刃の記憶にはない。
「……ごめん。オフレコで」
「わかった!」
「あ……アビ子先生……」
ここまで暴走されると立つ瀬がない。
「まあそれはそれとして」
それで片付けたらダメだと思う。
「カガリ役。誰が良い人がいないかなって、探してるの」
「あー、なるほどぉ……」
「候補はいるの。最近だと、『仮面ライダーガイド』の本編ラスボス、『仮面ライダータナトス』を演じてた――」
その時……。
「失礼しま……あれ、真ちゃんと……アビ子先生?」
「あ、竜胆さん。ちょっと今、この応接室使ってて……」
「アビ子先生が使うって予約してるの、隣の部屋のはずだけど」
「あれ!? そうだったっけ!?」
「ここ第二応接室だぞ」
「え、第三じゃないの!?」
「違うぞ」
あまりやらないミスが発覚。
ただ、アビ子の視線は、竜胆に向けられている。
そして……。
「あ、あの!」
「えっ?」
「『仮面ライダータナトス』役の、竜胆勇牙さんですか!?」
「あ、知ってくれてたんですね。嬉しいです」
次の瞬間、アビ子は九十度頭を下げた。
「お願いです! カガリ役をやってくれませんか!?」
「……え?」
目をパチパチさせる竜胆。
本当に、本当に珍しく。
彼は、すっとぼけたような表情になった。
★
「ぶふっ! ……業の深い親子だよ。本当に」
カラスを連れた少女が、面白そうに微笑んだ。