嘘の匂い。金の匂い。   作:レルクス

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第30話 竜胆勇牙という役者

 竜胆勇牙。

 

 年齢は今年で二十歳であり、姫川と同い年。

 

 茶色の短髪が特徴の高身長イケメンであり、マネージャーはいるがフリーの役者で活動している。

 

 悪ガキをそのまま成長させたような顔立ちで、とある役を演じたことで、界隈で話題をかっさらった。

 

 それはニチアサの特撮番組、『仮面ライダーガイド』にて、本編のラスボス、『鍵篠(かぎしの)神威(かむい)/仮面ライダータナトス』を演じたことだ。

 

 ★

 

「あー、あークソっ、その姿、なるほど、俺の野望を打ち砕けると、勘違いしてるってわけだ」

 

 鍵篠神威の最も象徴的なエピソードは、仮面ライダーガイド第41話『絶対なるプレゼン』にて。

 

「神威、お前の野望は、俺が砕いた! さあ、タナトスゲームの終了を宣言しろ!」

 

 街中で神威と対峙するのは、全体的に銀色に染まった、全身に赤いVの紋章や装飾が付いた主人公、『仮面ライダーガイド・ヴィクトリーフォーム』だ。

 

 ガイドが使うライダーの『最強形態』である。

 

 その性能は仮面ライダーの歴史の中でも異次元であり、例えば、このフォームのパンチ力は本来55トンだが、『90トンで殴ったら相手に勝てる!』と『確信』した状態でぶん殴れば、本当に90トンになる。

 

 そう、『勝利の確信』をそのまま現実に変換するという、あまりにも意味不明。

 

 逆に言えば確信できなければ強い力を発揮できない。通常はキック力も55トンで、番組の最終盤面では到底かなわない。

 

 しかし、確信さえできれば、最も強い。

 まさに主人公だ。

 

「タナトスゲーム……フフッ、終わりだと? まだ始まってすらいない」

「なんだと!?」

「そうだ! まだ始まってすらいない、まだ開いていない。アハハハハハッ!」

 

 狂ったように笑う神威。

 そんな彼を演じているのは、当然、竜胆勇牙なわけだ。

 

 普段の彼は悪ガキといった様子だが、画面に映る彼の表情は、何処からどう見てもサイコパス。

 

「さて、長い前座に付き合わせたことを、まずは謝罪しよう」

 

 そういって、神威は一つのドライバーを取り出すと、装着した。

 ベルトが自動的に出現して、彼の腰に巻き付く。

 

『Review Driver』

 

 音声が鳴った。

 

 この番組で使われるドライバーは、一種類。

 それがこのドライバーだ。

 

 モチーフは『立体見取図』であり、四つのスロットに、広さ一枠の『ブース』や、広さ二枠の『ルーム』……そして四枠の『パーク』をはめ込んで起動し、仮面ライダーになる。

 

「さあ、始まる。善も悪もない。上も下もない。絶対的な死が訪れるゲームが!」

 

 神威は、四枠を使う大型のガジェットを取り出すと、ドライバーにはめ込む。

 

『PARK!』

 

 次に、はめ込んだガジェットのスイッチを押す。

 

『OPEN!』

 

 ガジェットが展開して、『T』のようなマップに変形する。

 

 それと同時に、神威の頭上に、断頭台に固定された、ドクロ顔の死神が出現する。

 

「変身!」

 

 ドライバー側の、『上矢印』のスイッチを押す。

 

『強制アップロード!』

 

 それと同時に、ギロチンの刃が降りてきて、死神を処刑。

 黒い霧が発生し、神威を包み込む。

 

『Absolute Presentation』

 

 霧が晴れると、そこに居たのは、黒い鎧に、金色の装飾品をいくつもつけた、マントを翻す神。

 

『仮面ライダー タナトス!』

 

 手には純銀の鎌を握り、挑戦者を見据えた。

 

「さあ、ここからだ。このタナトスの誕生が、本当の始まりだ。あははははは! アハハハハハハハハッ!」

 

 マスク越しでもその嘲笑が伝わる勢いで、死の神が、歓喜に震えている。

 

 ★

 

「……ねえ、竜胆さん」

「どうした?」

「クスリ()めてから撮影に行ったの~?」

「んなわけあるか! ていうか白蘭ってそんな感じ!?」

 

 大きめのタブレットで『仮面ライダーガイド』の41話を見ていた真刃と竜胆とアビ子。

 ……ちなみに、蘇我さんは邪魔なので廊下に放り出されました。

 

 なお、真刃はもちろん白蘭の格好だが、その口調はかなり真刃が混じっている。

 

「真刃さんはやっぱり、白蘭の演技が上手いですね!」

「原作者お墨付きかよ! え、これで!?」

 

 とはいえ、アビ子がそれで頷いてしまえば、竜胆としてはどうしようもない。

 

「そしてわかったでしょう。カガリ役は、竜胆さんにしか務まらないと!」

「いやぁ……企画書読む限り、内側にいろんな葛藤を抱えてそうですけど……」

「でも普段は脳みそがバグりまくって戻ってこれなくなったような感じなんですよ! まさにタナトスです!」

「神威って視聴者からそんなふうに思われてんのかよ……」

「検索するときのサジェスト凄かったもんね~」

 

 ちょっと並べてみただけで『頭のネジ全取れ』『サイコパス』『キモい』『世界一ウザイ笑顔』などなど……もう酷いのなんのって。

 

 ちなみにカガリの方は、検索すると『頭のネジが取れてる』『性格ヤバい』『気色悪い』『めっちゃウザイ笑顔』となっている。

 

 うーん……これは適任だ。間違いない。

 

「それに!」

「それに?」

「脚本家さんに聞いてみたんですよ! そうしたら、鍵篠神威はカガリを参考に作ったって言ってました!」

「俺は誰を恨めばいいんだろうな」

「さあ~? ただ、カガリを仕上げたのは雲行さんだよね~」

 

 真刃の言うとおりだ。

 

 そもそもゲーム化において、アビ子が仕上げたのは『白蘭の外見だけ』だ。

 白蘭の中身と物語に関しては雲行が仕上げており……実はイラストも描けるので、カガリを仕上げたのは紛れもなく雲行である。

 

「それに、最近の特撮は月影さんから莫大な援助を受けてますし、その未成年後見人である雲行さんともつながりやすいですからね。取材もたくさんして仕上げたみたいです」

「なるほど、俺は雲ちゃんを恨めばいいんだな。はっきりした」

 

 二十歳である竜胆が四十代である雲行を『雲ちゃん』呼びするのは少々違和感があるが、まあ呼び方は人それぞれである。

 

「……はぁ」

「もうこうなってくると、雲行さん。竜胆さんを参考にカガリを作ったまであり得るね~」

「その可能性もありますね!」

「世間は俺を一体何だと思ってんだまったく……」

 

 大きくため息をつく竜胆。

 

「……はぁ、まあいいや、とりあえずカガリ役をするのは良いとして……一番設定で驚いたのは、やっぱ、カガリが白蘭の実の父親ってところだよなぁ。なんせ、白蘭は亡くなった両親が遺した刀で戦う天才剣士だし」

「設定だと~、白蘭が見たのは母親の亡骸と~、父親の腕だけみたいだね~」

「で、カガリは妖怪のエネルギーを使ってニョキっと生やしたと。バケモンかコイツ……」

「ついでに、本来ならそれ相応に年を重ねてますが、妖怪エネルギーで若返っていて、イメチェンしまくってるので、実の息子の白蘭も気が付いていないという設定です」

「俺は二十歳だし、流石に十代半ばの息子がいる外見設定は、そのままだと無理あるわな……」

 

 だんだん明かされていく設定。

 

 だんだん見えてくる現状。

 

 だんだん増えていく竜胆の溜息。

 

(……なんかすごく疲れるな。何故だろう)

 

 竜胆は、内心でそんなことを考えた。

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