追放姫君転生忍者爆殺錬金術師TS魔族群像劇ファンタジー    作:お賃賃金・沈々残業

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(学院と軍事企業のお偉方を)ヤっちゃった

 夜に、爆撃音が聞こえてきた。

 火が吹き荒れる轟音と共に、けたたましく鳴り響くガラス片が地面に叩きつけられる音。

 その諸々の音に掻き消された、――何者かの劈く悲鳴もまた、そこには確かにあった。

 

 大陸西部に位置する大国、ヴァンゼリア皇国。

 その首都の中心地に、魔法学院あり。

 数多くの院生と、学院関係者と、協賛企業の支社が集まる学院の敷地内。

 錬金術を専門に研究を行う学院の教授が多く集まる、灰の塔。その上階部にて――爆発が巻き起こった。

 

「お~」

 

 爆撃により怒号が巻き起こる様――塔から非難する者達や、逆に爆発の様を見物せんと集まる野次馬共から放たれる怒号やら悲鳴やらを、そよ風を浴びる風情で見守る白衣の女がいた。

 女はチェーン付きの眼鏡の位置を整えると、ジッと――爆発跡を見守っていた。

 

「爆撃の起動タイミングに関しては完璧だったが、威力の方はもう少し改善の余地あり。次回までの課題だね。――課題というのは素晴らしい。人生の素晴らしき彩りだ」

 

 長い銀髪をたなびかせ、細められた翡翠の目とちっちゃな口元を細め。女はすぅ、と息を吸い込んだ。

 女は暫しその様をジッと見つめ、うんうんと頷くと――満足気な笑みを浮かべた。

 目的を果たし、次の課題も見つかった。女にとってこの結末は、完璧であった。

 女の名は、グリューエン。学院の院生であり、そして、錬金術師であった。

 

「――おい。待て待て。何をしてくれたんだ、おいグリューエン」

 

 その背後に、紺色スーツ姿の男が一人。

 恐ろしく悪くなった顔色の上に、驚愕に目を見開いている。

 大柄な中年男性であった。苦労性が垣間見える皺の寄った目尻の下に隈を作り。その口元はひくついた笑みを刻み込んでいる。眼前の光景が現実である事を信じられぬ、また信じたくもない――そんな風情。

 今まさに命を吹き飛ばした下手人たる女よりも、当事者意識に満ち満ちた様相。谷底を繋ぐ一本の命綱を辿るかのように、恐怖を噛み締めている表情であった。

 

「うん?――ああゼルベックか。何をそんなに焦っているんだい?」

「学院の教授室を爆破して人殺しておいて毛ほども焦ってねぇテメェが一体何なんだよ.....!」

「何を言う。私は殺してなどいないさ。ただ愚か者が勝手に死んでいっただけだよ。君はネズミ捕りに引っ掛かって死んでいった命も殺しにカウントする程に殊勝な倫理観を持ち合わせているのかい?」

 

 晴れやかな笑みと共に、そんな言葉を女は言った。

 女の言葉には、恐怖の一芥すらも存在しない。事の重大さなど、何一つも感じていないご様子。

 

「常に君も言っていたではないか。研究資料は盗難の恐れがあるからちゃんと管理しろってね」

「ああそうだな。口酸っぱく言ってきたな。管理のかの字も知らねぇテメェの為になァ!」

「そう!管理なんて出来ないししたくもない私が編み出した管理の方法だ。――研究資料を盗み出そうとした不届き物がいた場合、一定時間の後に資料ごと爆発する術式を資料に付与していたという訳だ」

「.....」

「盗み出そうとした不届き者ごと資料はこの世から消え。研究内容は全部私の頭の中。一石二鳥とはこのまさにこの事。研究は守られ邪魔者は死ぬ。研究内容の流出を抑えるには最も効果的な方法だ。そうだろう?」

「.....」

「どうやら爆発場所を鑑みるに、盗人は錬金術の教授みたいだね。いやはや丁度いいではないか。学院側としても院生の研究を教授が盗んだなんて情けない事実、絶対に認めたくないだろう。きっと全力でもみ消してくれるはずだ」

「そうだなぁ...。もしも哀れおっ死んだクソ馬鹿がしょっぱい錬金術の教授だけだったらそうかもなぁ。全力で学院側も隠蔽してくれたろうなぁ.....!」

「.....?」

 

 女の言葉に、男は――こめかみを抑えながら、女に告げる。

 彼女の言葉は、彼女が作り上げた理屈に基づき放たれている。

 きっと、彼女の言うとおりになるのだろう。――彼女の頭の中にある前提が全て正しかったのならば。その穴の開いた避妊具よりも頼りないぺらっぺらの理屈が奇跡的にも噛み合ってくれたのならば。彼女の望み通りの未来がきっと待ち受けていたのだろう。きっと、きっと――。

 

 されど、未来とは――曖昧で、不確定で、泣きたくなるほどの理不尽で溢れているという事実を。この女はすぐ忘れてしまう。

 突き付けてやらねばならない。

 現実を。眼前にある真実を。決して目を逸らす事の出来ぬ、悲しき今の世界を。お前のカスみたいな理屈は、もうとっくのとうに虚構へと消え去ってしまったという事を――。

 

「教えてやるぜこのクソバカチン。お前のせいで命がお空に吹き飛んだファック野郎の中には、学院理事と、学院スポンサーの軍事企業のお偉方数名が含まれているってなァ~!」

「へ?」

「お前の研究を盗み出したのはしょっぱい教授のしょっぱい私腹を肥やす為なんぞの為じゃねぇ、学院全体の計画だったんだよ。その目的は学院に金を流してくださるありがた~い企業様にテメェの研究を売るためだったって訳だ。で、あの爆撃はそんな天上人のハイグレードお命をものの見事に吹っ飛ばしたってワケ。そういう訳で今日からテメェの貧相なケツは学院からも企業からも狙われる羽目になるってこった。良かったなァ~。どうだテメェの思い付きで破滅への崖先に転げ落ちた気分はよぉ~」

「.....」

 

 女は、暫し固まっていた。

 硬直した思考に油を差し、何とか少しばかり回し、朦朧とした現実を何とか直視し――それを受け入れた瞬間。軋んだ歯車がギ、ギ、ギと回るような動作で、男の方を見ていた。

 その表情には――先程の様な余裕の一切が消失していた。

 

「はあああぁぁぁぁぁ!?聞いていないんですけどぉおおおおお!」

 一転。女は驚愕と困惑と、突如舞い降りた理不尽への憤怒をブレンドした究極の表情を刻み込み、絶叫を上げていた。

 想定外。あまりにも想定外。彼女の頭の中でカウントしていた死した命が、想定よりも遥かに多くの数を刻み付けていた。

 そしてその命のグレードも想定の遥か彼方へぶっ飛んでいった。悲しいかな、命にはグレードがある。そこらのアリンコを棒で突いて死なせる事と人一人の命を殺める事はイコールで結ばれない。――死んでもどうせ調査などされないだろうと高を括りほくそ笑んでいたというのに。もう決して無視が出来ぬ程のグレードの命がお空へ消えていったのだ。

 最早黒い運命に愛されているのだろうか。女は想定外により形成された事実から成される現実という名の破城槌でぶん殴られた脳味噌から、瓦礫代わりの醜い感情を噴出させていた――。

 

「嘘だ!嘘だと言ってよゼルベックぅ!」

「俺だってこんな現実受け入れたくなかったわこの馬鹿が!これから俺はテメェ諸共お尋ね者じゃクソが!」

「そ、そんな!これから私はどうすればいいんだ!」

「取り敢えずさっさと国外に出るぞバカチン!逃げるんだよ!サッサと荷物纏めて変装して魔力の痕跡も消して駅に向かうぞ!」

「クソ....!最悪だ.....!死ぬなら勝手に一人で死ねよ!人の研究を盗んだ挙句関係ない他人を巻き込むなんて――最低じゃないか!地獄に堕ちろ下種が!」

「死人共は全部綺麗に関係しているし殺したのはテメェだよクソ馬鹿!戯言言ってんじゃねぇ!」

 

 グリューエンは、突如叩きつけられた現実に脳を砕かれ。戯言を撒き散らしながら地団太を踏みつけていた。

 こんな理不尽をどうして己が受けなければならないのか――。己がしでかした全てを意識の向こう側へ棚上げし、向かい来る不都合へ怒りをぶちまけていた――。

 

「ボケっとしているんじゃねぇ!夜明けには企業の追手がすぐにでもやってくるぞ!いいから逃げんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

 グリューエン・アズアは、天才錬金術師である。

 そして、天才であると共に馬鹿である。天才で馬鹿。この二つは悲しいかな、矛盾することなく両立する。人間とはかくも多面的だ。

 紙面の資料にあの規模の爆撃を引き起こす術式を付与する魔法の技術も、そもそも学院側が全力を挙げて企業に売り渡さんとする程の研究を行えるのも。間違いなくグリューエンの天性の才覚故である。

 しかし。――そもそも何かを盗まれないようにするならば、まともな判断力がある者であらばまずは隠すだろう。至極当たり前の話だ。盗まれたくなければまずは盗人に見つからないようにするというのが人としての道理だろう。何故真っ先に盗人を殺す方に思考を回すのか。答えを示すならばこの女があまりにも馬鹿だからだ。最悪を想定する想像力も、人として生来備わっているはずの倫理感すらも、この女はそこらの路傍の石くれとして蹴っ飛ばしやがったらしい。

 

 天才と馬鹿の両輪により現在破滅の谷底への下り坂を全速力で踏破せんとしているこのクソ馬鹿女。このまま崖先から地獄の滝底へ勝手に落ちていけと思わなくもない。

 ただ、そうは出来ぬ事情が――彼女の後見人であるゼルベック・ゴブサックには存在していた。

 

「――来やがった!」

 

 学院を離れ、深夜のヴァンゼリア首都の街路を、グリューエンとゼルベックは走る。

 己が下宿先から貴重品を持ち出し、それ以外は部屋ごと燃やし魔力の痕跡すらも残さず消し。深夜の静寂の中、ただひたすらに走り続ける。

 

 両者が展開していた魔力探知の反応を観測した瞬間――物影より銃声が響き渡る。

 弾丸の軌道上。反射的にゼルベックが己が術式を展開すると、空間を横断する銀色の鎖が現れ、銃弾を絡め取っていた。

 

「――随分と手が早いじゃないか。地獄へ堕ちろ追手め!」

 

 グリューエンは己が周囲に四つの術式を展開すると共に。各々の術式より一つ、球状の金属球が生み出される。

 金属球は空中に浮遊すると共に、その表面に刻み込まれた術式が光芒を帯びる。

 

「ぎゃァ!」

 

 浮遊した金属球はそのまま弾丸の軌道を沿うように移動し。銃を構える黒服の追手を取り囲むと共に――刻み込まれた術式から、魔法が行使される。

 一体が雷撃。一体が火炎。一体が石礫。一体が風刃。それぞれの金属球から放たれる魔法は、追手へと叩きつける。

 追手は己が周囲に風魔法を応用した防御術式を展開し身を護らんとするが。初級魔法とはいえ四つの魔法を間断なく浴びせられ、捌き切れず――そのまま魔法の雨に打たれ、絶命した。

 

 早い。あまりにも早い。既に状況を把握した企業の追手共がこちらを確保しにやって来ている。

 馬鹿の頭の中から研究内容を引き摺り出す為に是が非でもグリューエンは生かして捕らえるだろうが。ことゼルベックに関してはただの邪魔者故に是が非でも殺しにかかるだろう。――畜生。俺ばかりが貧乏くじ引かされてばかりだ。何だこの人生は。ゼルベックは、幸運とは程遠い運命に取り憑かれた己が人生を一瞬想いを馳せ、心の中で泣いていた。

 

「――悠長に逃げている余裕はねぇな!もう追手が来てやがる!」

 とはいえ。今は生きるか死ぬかの瀬戸際。後からこのクソ馬鹿には耳から脳味噌が溶ける程にギッタギタに説教をかましてやると決意しながらも――何より、命を拾わねばならない。未来への悲観に、意識を割いている時間などないのだーー!

 

「どうするんだい!?」

「汽車で逃げるしかねぇ!」

「血迷ったか!こんな時間から動いている汽車なんてないに決まっているだろう!」

「この時間からしか動いてねェ汽車もあるんだよ!」

 

 真夜中の街路から路地を抜け、西側へと全速力で走っていく。

 もうおちおち駅から夜明けの始発に乗って逃亡するなんざ望むべくもない。今この時間も、刻一刻と企業の刺客共が迫り来ている。

 首都を囲む城壁に沿うように作られた線路。そこから――確かな、駆動音が聞こえてくる。

 

 それは一般の路線を使う事無く、通過し城壁の外へ向かう――貨物列車であった。

 

 

「この時間は物資輸送の為の貨物車が動いている!――このまま飛び乗るぞ!」

 

 ゼルベックはグリューエンの裏首を掴むと同時、術式を展開し――己が背中に白い翼を生やした。

 翼をはためかせ、真夜中の空を飛び上がった。

 

「待って待って!何で首を掴んでいるんだい!」

「うるせ~!この翼、魔力で形成しているんだよ!全身ズタズタになりながらでも背負われたいなら好きにしやがれ!」

「抱っこすればいいじゃないか!それ位の甲斐性を見せろよ!立派な成人男性で私の保護者だろう!?」

「んな余裕ねぇんだよテメェのせいでなァ!いいから黙ってろこのクソッタレが!」

 

 空に木霊する女の悲鳴が空に響き渡ると共に。その声は、汽車の音に消えていく。

 

 ――グリューエン・アズア及びゼルベック・ゴブサック。

 魔法学院及び企業の要人を図らずも殺害し、密航し逃亡。

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