追放姫君転生忍者爆殺錬金術師TS魔族群像劇ファンタジー    作:お賃賃金・沈々残業

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異世界の忍びと追放姫君

 太平の世の訪れと共に。忍びはその役割を終えた。

 

 天下平定の世の訪れと共に、――彼等の多くは内府の手により粛清の憂き目にあった。

 多くの汚れ仕事を請け負い、多くの秘術に通じていた忍びは。戦の終焉と共に、疎ましがられた。

 

 多くの粛清を味わわされた彼等は、仕えていた主の下を離れた。

 忍びを捨て市井へ帰る者もいた。南蛮へ旅立ち新たなる主を探しにいく者もいた。山奥に引っ込み、ひたすらに修行を重ねる者もいた。忍びは、太平の世において疎むべき存在でしかなかった。

 

 彼等は理解してしまったのだ。

 己は――戦がなければ、生きてゆけぬのだと。

 

 ならばどうする?

 簡単な事だ。

 

 ――戦が終わってしまったのならば、新たなる乱世をもたらせばよい。

 その意思が形となって現れたのであろうか。

 日ノ本、その皇帝の膝元。花の都が、桜よりも鮮烈な紅に吞まれている。

 

「――随分と愉快な事をしてくれたなァ影結」

 

 都を一望せし、天守閣。その眼下には――燃え盛る炎が城下を満たし、民草の末魔の声が聞こえ来る。

 地獄が降り落ちてきた都の城にて、二人の忍びが存在していた。

 

「ふん。白々しい。貴様も描いた絵図であろうが、白烏」

「うむ。それは否定すまい。だが――こうして炎に沈む都は、俺が描きし図面には存在していなかったがな」

 

 一人は、白の僧服を着込んだ白髪の男であった。天守の屋根瓦にて寝転がり頬杖をつき、呑気極まる風情で燃え盛る都を見据え、物珍しそうな視線をただ向けている。

 歳は、三十に差し掛かる程度であろうか。眼下に広がる地獄の様相を、ただ眺めていた。

 

 もう一人は、大柄な老年の忍びであった。高位の武家が着込む陣羽織を纏い、居丈高な雰囲気を隠す事無く振り撒いている。

 老年の忍びは――その右手に、生首を握り込んでいる。

 

「影結。うぬが帝の暗殺を計画している事は知っていた。だが――その計画の中に、南蛮の者が含まれている事までは知らなんだ」

 

 

 都に、爆撃の音が鳴る。

 

 東の海より来訪せし南蛮の軍勢。戦艦にて港を制圧した後、最新の火器を用いて各所へ侵攻を開始。ものの一月で――都まで軍を進めていた。

 その手引きを行いしは、――高位武士に成り代わり、帝を暗殺せし、影結という名の忍びであった。

 

「貴様の魂胆は知っておるぞ白烏。儂に帝を暗殺させ、そして貴様が儂を殺す。そうして――今貴様が隠している帝の隠し子を擁立し、権力の座に着こうとしていたのだろう」

「.....」

「だが。もう日ノ本そのものがこうして燃やされてしまうとなれば――もう貴様が腰かける座そのものが存在せぬであろう。そうであろう、白烏?」

 

 大柄な老忍びは、打ち棄てるかの如く右手の生首を放り投げると――その腰先より打刀を引き抜く。

 その瞬間。老忍びが纏っていた居丈高な雰囲気は一気に死に絶え、本来の姿へ回帰する。

 殺意の一欠片も漏らさず、無心のまま殺す。忍びの究極が、そこにはあった。

 

「白烏。――帝の隠し子の居所を吐け。さすれば命ばかりは奪わぬ」

「ふふん」

 

 老忍びの声は、実に機械的だ。

 この問いかけに――眼前の男が応えぬ事は、とうに理解しているのだろう。この問いかけは、ただの手続きのようなもの。

 

 天守の屋根瓦に寝そべっていた白髪の忍びは身を起こし――老忍びと対峙する。

 

「そんな勿体ない。――ようやく、互いに全力を振るえる時が来たのだ。ずっと。ずぅーっと、望んでいた事であろう」

 

 白髪頭の忍びもまた。腰先に佩いた小太刀を引き抜く。

 

「ここまで来たなら――野暮なことは言わず、ただ己が全てをぶつけようじゃあないか。互いに、この時を待っていたのだからな」

 

 

 ――己が命を賭け、会得した代物。

 研いだ牙を。原石を磨き上げ玉とした技術を。魔なる深淵と向き合い続け術を。

 

 ただ、存分に振るいたかった。振るえる場所が欲しかった。

 それだけだ。ただそれだけの為に、舞台を作り上げた。

 

 燃える花の都。その天守の上。

 二人の忍びが視線を交わし合い――その口元が笑みの形を象ると共に、互いの刃を走らせていた。

 

 

 

 

 

 ――所詮は、ただの人形か。

 

 大陸西方に、ヴァンゼリア皇国あり。

 かつて、皇国は皇家のものであった。

 山岳の狭間にひっそりと存在していた小国だったヴァンゼリアが、夥しい程の国々を攻め滅ぼし、呑み込み、大国と成ったのは――今なお神と崇め奉られし、初代皇帝の偉業であった。

 

 その威光をもって皇家として存続してきた一族は、――次第に、勃興した貴族共と、後年にその勢力を飛躍的に伸ばした企業にその権勢を剥ぎ取られていった。

 

 その果てに、己はいる。

 

 最早、皇家などただの国体の象徴以上の価値など存在しない。ただ――貴族と企業にとって都合がいい故に生かされているだけの存在。

 そう。

 ただ生かされている。

 

 生きていれば利用価値があるから、生かされている。

 

 ならば――別の利用価値が生まれたのならば。別の生き方を強いられる事も、あろう。

 

 

 ――ヴァンゼリア第二皇女、クラミス。

 彼女は、ここ数代途絶えていた――皇家のみに宿すとされる魔力元素を持っている事が判明した。

 卓越した召喚魔法の才を持っていたが故に、企業に暴かれた形だ。

 

 初代皇帝、アルテミスはこの元素を用いて異界の女神を呼び起こし、一代にして大国を築いたのだという。

 皇帝継承権も持たぬ女の身。こんなものが無ければただ飼い殺されるだけの人生が待っていたのだろう。だが持っていたが故に、見事飼われ方が実験動物のそれとなったのだ。

 あと数ヶ月もすれば。企業と結びついたどこぞの貴族と縁談が組まれ王城より追放される。その後、この肉体に内在するそれがどのように使われるのか――それは解らない。

 だが想像くらいはできる。

 どうせろくでもない道しか残っていない。

 

 所詮己は人形だ。

 出来の悪い人形としての末路を回避した代わり。多少なりとも出来が良かったが故に何処ぞに売り飛ばされるそれだ。

 

 

 所詮は人形。

 心内にそう呟くと共に――目元が滲んでいく。

 

 ――所詮は人形。そう呟く因果は、諦念を得たいがため。

 どうせ己は人ではない。人でないのだから、人のような心を持つな。そう、己を納得させたいのだ。

 

 でも。

 納得できない。

 人形であれ、と心が呟こうとも。それが現実だと、受け入れろと、そうどれだけ言い聞かせようとも。

 

 流れ出る涙が、それを押し留める。

 そんなものは嫌だ。己は人形などではない。

 納得できない、という事実があって。だから、納得させたいという諦念を、呼び起こそうとしている訳で。

 

 

「.....」

 

 

 今、クラミスは王城の一角の豪奢な部屋にいる。

 外には警備の兵が二人。精強な騎士だ。

 彼等の目的は、クラミスの護衛ではない。

 管理だ。

 

 企業に出荷する高級品を、傷一つない最高の状態に保つために彼等はいる。

 

 何か一つも間違いが起きぬよう。監視し、管理する。ただそれだけの為にいる。

 

 

 

 だが、と思う。

 それでも、己は魔法使いだ。

 

 例えば――魔力遮断と、遮音の結界を二重に仕掛ければ。彼等の目を少しの間欺く事くらいはできるかもしれない。

 仮に。これから召喚の術式陣を直接床面に書けば魔力の節約も出来る。召喚の儀の際に漏れ出る魔力や音も遮断できるかもしれない。

 

 

 かつて。遠い祖先である初代皇帝は、己が有り余る野心を満たす為に、異界の女神を呼び起こした。

 異なる世界より召喚を行う。何が呼ばれるかは解らない。術式も不安定で、主従の関係を結ぶ事も出来ない。アルテミスは、己が魅力のみで女神を従えていた。

 何もかも賭けだ。この状況を打破できるだけの何かを呼び起こせるのか。それを呼び起こせたところで、己に従ってくれるのか。

 だが。

 今ここで、賭けに出なかったら。

 もう。己の道は、ただ一つしか残らない。

 

 今、ここで選べなければこの先で選べるわけがない。今から目を背け不確かな明日に夢見るような、そんな心で――何かを選べる訳がないのだ。

 

 

 今己にあるのはなんだ?

 

 ――ただ。人形でありたくないという、そんなちっぽけな願いだけが存在している。

 身に余るほどの野心も、夢も、そんなものはない。

 権力を貴族と企業に剥ぎ取られ、虚しくその血筋だけが残された。

 

 何もない。

 

 ならば。

 

 

 

 ――クラミスは涙を拭い取り。己が指先に八重歯を突き立て血を滴らせる。

 

 魔力なしで術式を構築するには、己が血を用いるほかない。血が滴る指先から術式を作り出し、魔力遮断及び遮音の結界を室内に巡らせる。

 結界の持続時間は三十分程度だろう。それまでに召喚の儀を行わなければ、魔力が間違いなく足りなくなる

 

 ただ己が記憶にある、術式を空間に刻み込む。

 思い出せ。思い出せ。己が遠い祖先が作り上げた術式を。イメージしろ。召喚の儀が正しく成功する様を。

 

 ここで失敗すれば、もう己の人生は終わり。人ではなく、人形として死へ生きるだけの道を歩くほかなくなる。

 

 

 ――例え死んだって。納得が欲しい。

 ――納得できない事を、納得できないまま甘受して生きるなら。それはもう死だ。

 ――死ぬなら。納得して死ね。

 

 

 

 術式が光る。

 召喚の儀そのものは、成功したようだ。

 

 

 後は――出てくる者が何であるか、だ。

 

 

 

 

「――くかか。何だ何だ、ここが地獄か。そしてうぬが閻魔か。金色の髪に、海色の眼。しかし閻魔が女子とは初耳だ」

 

 

 

 眼前には、人がいた。

 知らぬ服装。聞きなれぬ言葉遣い。見慣れぬ形の剣。老人のような、艶の無い白髪頭。

 

 

 

 そして。

 

 ――感じた事のない、雰囲気。

 

 

「しかし。地獄の奉行にしては....随分と、生者の眼をしているじゃあないか。死の淵より、蜘蛛の糸を握り込んででも生の世へ還らんとする意思がうぬにはある。ここは死者の国じゃあないようだの」

 

 

 くく、と。――召喚された何者かは、クラミスの眼を見ていた。

 男の瞳は、黒い。

 白色の眼の中心。淀みのように濁った黒色がある。

 

 

「俺は白烏。忍びだ。――生者ならば、名を教えるがよい」

「....クラミスよ」

「ふうむ。馴染みのない響きだのぅ。状況はまるで解らぬが、どうやら俺はうぬに呼び出されたようじゃの。ならば――うぬの望みを教えるがよい」

 

 濁った眼は、きっと己よりも遥かに多くのものを見てきたが故なのだろう。

 混沌を宿している。

 生も死も。清も濁も。あらゆる全てを混ぜ合わせた、濁った黒。

 

 濁り混じり。それでも尚――その身に溢れる野心と共に、生への渇望を抑えられぬ。

 忍び、なる言葉は解らないが。恐らくは闇の世界に生きてきた者なのだろう。

 

 これまで皇女として、様々な戦士を見てきた。卓越した武力を誇る者達の雰囲気も知っている。だが――それとはまるで異なる在り方をしていた。

 威を放つ、ではなく。威を、押し込んでいる。

 武人や軍人ではない。彼はきっと、暗殺者の系譜の力を持っている。

 

 この先。彼の気分の物差しの方角次第で、己は殺されるかもしれない。

 望みを答えよ。その問いかけは――紛う事なき天秤だ。彼の興味の分胴が逆側に傾けば、己は紙屑の如く掃いて捨てられる運命。

 

 だが。

 それでいい。

 己の納得の為に突き進んだ先の運命に見放された結果での死ならば、いい。

 

 だから。

 嘘偽りを吐く事だけは、しない。

 

「――私は、人として生きたい」

「ほう。今、うぬは人ではないのか」

「人形です。己の意思を持つ事すらままならない、他人の都合でどうとでもなる存在。――そんな惨めな状況から脱却したい。それが、私の望みです」

「その望みの為に、――他者の望みすら踏み躙る覚悟はあるかの?」

 

 その問いかけを投げる男の眼には、嗜虐の色がある。

 彼に望みを叶えさせようとする事。それは――彼が積み上げた力を振るうよう要請する事と同義。

 その意味を、付きまとう責任を。――男はわざわざ、問いかけていた。

 

 お前のその望みを――他の何者よりも優先する覚悟があるのか。

 

「――はい。この先何が起ころうとも。たとえ世界に憎悪を向けられようと。私は、私の納得を全てにおいて優先します」

 だから。

「私の為に――その力をお貸しください。シロガラス」

「良い意気じゃ、クラミスとやら」

 

 ならば、と。――忍びは、一歩を踏み込む。

 瞬間。クラミスの魔力は限界を迎え、術式は消え去る。

 

「貴様、なにも――!」

 

 結界が解除され、召喚の儀に使用した魔力が漏れ出た瞬間――警備の兵が二人、ドアをぶち抜き入っていく。

 臨戦態勢の精鋭二人。彼等には、油断の一つも無かった。

 されど。臨戦態勢の精鋭ですらも反応できぬ程の速さと、手際をもって、忍びは手裏剣を双方の頭蓋に叩き込んでいた。

 

 

「さて。善は急げという。――とっととこの場より逃げるかの」

 

 投擲した手裏剣を回収し、死体を部屋の奥に押し込め。白烏はクラミスの部屋に火を放つ。

 

「――さてさて。こちらの世は、俺を喜ばせてくれるかの」

 

 

 ヴァンゼリア第二皇女、クラミス。並びにクラミスに召喚されし異世界の忍び、白烏。

 城に火を放ち、その死を偽装し――逃亡を開始。

 

 

 

 

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