少佐らしく見えましたでしょうか?
此処は何処であろう?
私は死ぬ為に必要であった何かを手に入れて、そして殺された。
ならば私という存在は消えているはず。
なのに私は私として存在し、五体満足で両足で立っている。
未練があって現世を彷徨う? そんなことなど無い。
私は満足して、そして死んだのだ。
魂だけの存在としてなど私は認めない。
だが現実に私は生きているのだ、それだけは真実。
視線と首を動かして周囲を見渡せば、そこにはただ空間があるだけ。
闇でもなければ光でもない。
ただただどこまでも歩き続ける事が出来るような部屋とも大地ともいえる場所。
「珍妙な事だ。それともこれが俗に言う地獄というやつかね?」
ふむ、自分で呟いておきながら私は納得する。
慟哭も哀願も恐怖も狂喜も狂気も歓喜も悲哀も何も無い。
感情を動かす事も出来ずに、ただ存在していればいいだけ。
それは人間という存在にとって、まさしく人間が人間である所以を消しさることであろう。
「つまらぬな、これならば語られる地獄の方がよほど面白い。
もっとも戦争が出来るならば、私はどこでも構わんが」
「そう、ならば行きなさい。落ちてそこであなたのしたいようにしなさい」
二回目に呟いた言葉に返事が返ってきた。
其の瞬間、私の目の前の空間は弾けた。
そして次の瞬間、私の目の前には荒野が広がっていた。
「……この場合、摩訶不思議と言ったほうがいいのかな? お嬢さん」
私は軽く首を竦めて目を閉じる。
先程の私の言葉に返事を返し、そして私の好きにしろと言った声を思い出す。
女性特有の高い声であるはずなのに、意外なほどに低く感じさせる声。
そして一言一句に重圧と冷厳が込められていた。
私に声を掛けたはずなのに、本当は違う誰かに言ったのかもしれないようにも思えた。
呟く時に声色からお嬢さんと言ってしまったが、それとて相手にとってはペテンかもしれない。
「まあいい、ならば好きにさせてもらうと!?」
改めて目を開けたとき、私の目の前には何かがいた。
人間? 異形? 濃厚な存在を醸し出しながらも外套を被っているせいで表情も窺い知れない。
だが私と同様、そこには濃密な空気を纏わせている。
それは死。
全てに死を、全てに破壊を、全てに絶望を。
まるでゲームに出てくる魔王のように目の前に存在している。
「……新たに死を運ぶものが来たか」
其の声を聞いた瞬間、私は唇の端を吊り上げる。
声を存在を確認しただけで、私は一種のシンパシーを感じたのだ。
「貴殿が何者か聞きたいところではあるが、聞いても答えてくれぬであろう。
ならば別のことを聞こう、戦争ができるのかね?」
そう、これが私にとって肝心な事。
そして目の前の存在はそれを満たしてくれるであろうと、私は直感で感じたのだ。
「死を、破壊を私は望んでいる。
敵はこの世界、そしてお前と同様落ちてきた者達だ」
「ほう」
「お前はどうする?」
私に問いかける言葉。存在は自分に付いてくるのかという問いかけ。
そして私の言う言葉は決まっている。
私が私らしく、何を求めて何を探しているかを自らに問いかければいいだけの事。
「不死を相手に私は勝利した。
そして愛すべき大事な素敵な宿敵に敗れた。
なのに私は此処にいる、ならばやるべきことは一つ。
次なる劇場の幕紐を上げて、次なる愛すべき大事な素敵な宿敵を探す事としよう」
「であるならば私はお前を我が軍に迎え入れよう。国も種族も信仰も性別も知らぬ。
ただただ死と破壊を齎す事を掲げ、不倶戴天の決意を持ってして渇望する我が軍に」
「ならば私は貴殿の名を聞きたい。売女のように数千の闘争を重ねた貴殿の名を」
「……我は黒王」
そして私は外套で姿も分からぬ黒王と名乗った存在に付いていくこととなる。
「御親征!! 御親征!! 黒王陛下御親征!!
御親征!! 御親征!! 御親征の時来たれり!
耳あるものは聞け!
目のあるものは見よ!
口あるものは吼えよ!
全てを伝えよ!
御親征!! 御親征!! 御親征!!
世界廃滅の旅の始まりである。
参集せよ、参画せよ。
全ての権力を黒王へ!!
全ての権力を黒王へ!!」
鳥が戦場となる場所で響き渡る鳴き声で、波紋のように広げていく。
そして私の目の前には陳腐にも見える幻想が広がっている。
人間と豚を醜く掻き混ぜた結果のようなオーク。
欧州では悪者として扱われる事の多い竜に跨る者達。
全身を鎧で覆い、目だけは狂気を宿しながら今か今かと号令を待つ闘争者。
幻想の中世を彷彿とさせる風景に、私はただ口の端を吊り上げる。
「狂気と狂喜が私を覆い尽くす。この世界で始めて相対する敵は戦争処女にも満たない敵とはいえ再び戦争を味わえる。
なんと甘美で馬鹿げている蹂躙を行う事になるのやら。
シンプルな攻城戦とはいえ、中世の幻想的な戦争を味わえる事を喜ぼう。
この世界で無限に戦争を起こし、無間に戦場を渡り歩く。そして夢幻のような闘争を見続ける第一歩となるこの世界での処女戦争を」
「あんたは純粋だね、だけど面白いと言えば面白い」
私を純粋と称した者が笑いながら言った。
「そのような事は初めて言われたかな、だが君のような存在に言われた事に素直に喜ぼう」
「別に僕は僕が思う侭に生きてきた。だからここでもそうするだけさ」
この会話を終え、私はこの世界における処女戦争を始める。
そして戦争が終焉を迎えようとした時に、私はこの世界に落ちた事にもう何度目か分からないほどに歓喜した。
「は、ははははははははは!!
第343海軍航空隊の菅野直だと!? ハンニバル・バルカだと!? プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨル!? ワイルドパンチ強盗団のブッチ・キャシディにザ・サンダンス・キッド!?
そしてこちらには新撰組副長土方歳三。
オルレアンの聖女ジャンヌ・ダルク。
ロシア帝国ロマノフ朝皇族アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ。
祈祷師グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン
源平合戦の英雄源九郎義経。
そしてまだ見ぬ歴史に名を残した者達と遭遇し鉄火を交える。
素敵だ! 私は今ここに歓喜・狂喜を感じる。
古代も中世も近代も現代も関係無く、現実も幻想も妄想も交じり合う戦争!!
戦術も戦略も謀略も手段も思想も何もかもが私の思惑を超えるであろう!!
こんな無茶苦茶で非常識で誰もが夢見ながらも描ききれない戦争が始まる。
素敵だ! 私を養うどころか更に更に肥え太らせても足りぬかもしれない。
さあ、いつまでもいつまでもこの戦争を続けよう!!
こんな楽しい戦争を容易に終わらせてたまるか!!
終わりを告げる時が来ようとも、次の準備をそのまた次の準備をしよう。
全ての戦争がぶつかり合い、想像も付かないような進化していく戦争を目の当たりにしようじゃないか!」
私の言葉によって私のこの世界における処女戦争は終結した。
そして次の戦争が始まる。
「首置いてけ! なあ首置いてけ!! なあ!
大将首だ! 大将首だろう!? なあ大将首だろうお前」
私の眼前には日本の侍が血塗れになりながらも、ただただ食らい尽くす為に言葉を吐く。
其の横には神業の如く、数十ものオーク達や竜騎士達の眉間や首に鳩尾に心臓に寸分の狂いも無く射抜いた若者がいる。
その間にも侍と若者を殺そうとする私の兵隊が抹殺されていく。
それを見ながら私はようやく出会うことが出来た愛すべき大事な素敵な宿敵に、己の身震いを感じるままに言葉を紡ぐ。
「よろしい、ならばならばならばならばならば厳粛に静粛に壮言に重奏に狂騒に 協奏に始めようじゃないか!
英雄を狂人を異形を化け物を偉人を王を次元を相手取る!
心から祝福しよう、心から喝采しよう。
人間としての力を歴史という書物に書き連ねてきた者達が集うこの世界に!
さあ、この身に刃を魔を肉を器を叩きつけてくれ!
私を殺す可能性を持つ君たちを私は愛する! 君たちに出会えた時間に感謝する!
さあ、協奏曲を交響曲を幻想曲を行進曲を鎮魂歌を共に奏でようではないか!」
これこそ私が生きている間は呼吸をするのと同じ事なのだから。