「すすすすす」
深根は気配を隠し、世界最高峰のレベルを活かした身体能力で移動していく。
目指すは客室にいる甘えさせてくれる家族のもと。
JAPANに帰ってからは、少しの間はのんびりできた。
しかし母である千から淑女の教育の再開を開始すると言われ、面倒としか思えない深根としてみれば逃げたいところであった。
だが母親に勝てる訳もなく、日々厳しい教育を受けるしかない。
それでも教育が終わった後なら、千も甘えさせてくれるのだが深根としては、あの冒険の間は甘えさせれくれる兄弟がいっぱいだったので、物足りなくなっていたりする。
乱義も時々甘えさせてくれるが、真面目で責任感も人一倍な為、深根に厳しい面もある。
その為、深根の甘えっこ気質は満足できない。
そして、現在国主である乱義に会う為、JAPANに訪問してきた兄弟が用意された客室にいる。
本来であれば遠路はるばる来てくれた兄弟なのだから、訪問初日は温泉にでも入ってゆっくりしてもらい美味しいご飯を食べてもらい旅の疲れを癒してもらう。
そして改めて翌日に正式な挨拶であろう。
しかし、深根にとっては問題ない。
家族でもあるし、自分が可愛いという自覚もしているので、ちょっと甘えれば許してくれるという計算もきっちりしている深根。
ならば、接触してしまえばこっちのもの。
「待っててね、ダークランスお兄ちゃん」
そう、目指すは長兄であり兄弟に甘々なダークランスであった。
また恋人でもあるマリアも深根を相手にする時は、かなり甘やかせてくれるので大好きになっている深根。
志津香の場合は口だけはきつめな言い方だが、実際はとても優しい目で深根を見てくれる。
母の愛とは違うが、生まれた時からずっと可愛がってくれている志津香が一番深根は甘えやすくもあった。
だが、甘える相手は多い方がいい。
そしてダークランスは兄弟相手には本当にデレデレである。
だがダークランスの境遇を聞けば納得も出来る。
父親のランスはあれだし、母親のフェリスはダークランスを産んだ後は悪魔にも天使にも狙われていることで、ダークランスは幼少期を一人で生き抜いてきた。
つまり一番家族がいてほしい時期は甘えれる人も頼れる人も傍におらず、強くならねば何も手に入らないという状況。
それに偶然でもない限り、家族に会うことも出来ず、優しくしてくれることも滅多にない。
であれば、家族というものに憧れを抱く事だろう。
そして家族以外で優しくしてくれた年上の綺麗なお姉さんを好きになる。
そのお姉さんもいい人で、自分の家族を可愛がってくれる。ならばダークランスにとっては家族というものは無条件に信頼を置けて、自分も嬉しくなる存在になるのだろう。
但し父親以外。
ランスはランスなりに自分の息子だから、捻くれた愛情はあるのだが悲しいかなその愛情が的外れになってしまう。
結果として、ランスに対する理解と許容に関しては、一番的確に表現してくれる長兄でもあった。
『あの親父の行動にまともな考えは期待するな。
常に考えるのは斜め245度となるが、卑怯もくそも無く勝てる方法と美女の存在。
基本短気だから長期戦になるかは親父を抑えれる人間がいるか次第。
だけど何故か終わり良ければ総て良しとなるのが、あの親父だ。
そして制御できると考えるな。狙っている美女がいれば少しは大人しくもするが、その間はどんな手を使ってでも手籠めにすることを考えて、常識なんて大陸の底に投げ捨てる。
いいか、何度も言うが常識で考えるな。自分の弱点と問答無用で勝つ方法は何か考えろ。
真面目に考えれば馬鹿を見るのが、あの親父の相手をしてきたやつらだ』
大真面目に父の事を語る長兄であった。
実際、深根も自分の父だから、父の逸話くらいは母・香・3G・勝家辺りに聞いたりもした。
……結果、真面目な人・深く考える人・ずれた人だと、評価が見事にわかれるが、最終的には最高といってもいい結果をもたらすから何とも言えない様であった。
実際に父としてのランスは深根から見ると……癒し巫女としての自分は本当に必要無い人と理解できた。
寧ろ可愛ければ娘でも問題なしとか言いそうな人にしか思えなかったし。
どこぞの移動要塞のふとっちょ王みたいに。
「む、前方に気配」
少し思考に集中していたが、気配くらいは察知できる。
であれば、
「っは」
天井へ飛んで、梁を掴む。
そのまま天井裏へ流れるように移動し気配を消しながら通り過ぎるのを待つ。
忍者才能があるわけではないが、深根のレベルなら身体能力を活かして見様見真似で忍者の真似事はできるのである。
そこからは察知した気配が通り過ぎるのを確認すれば、顔だけを出して廊下を見渡す。
「……よし」
音もなく廊下に着地し、また客室を目指す深根。
客室はもうすぐ。
そうすれば至福の時間は朝まで続くこと間違いなし。
マリアに抱き着くもよし。ダークランスに膝枕をしてもらって、ごろごろと甘えるのもよし。
「ふふふふふ」
想像するだけでも幸せな気分になる。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「むう」
既に一線は退いているが鍛冶師として、JAPANではその人ありと言われる種子島重彦が客室前にいた。
深根もJAPANでランスが活躍した時は聞いているので、チューリップを開発したマリアを重彦が並々ならぬ敬い方をしているのは知っている。
また数少ない武器開発の話を出来る相手でもあるので、JAPANに訪れているチャンスを逃さなかったのだろう。
もしくはマリアが呼んだのかもしれない。
しかし、そうなれば深根の目論見は達成できそうにない。
いや、マリアがそちらに掛かりきりになればダークランスは手持ち無沙汰になるかもしれない。となると自分がダークランスの相手をすれば問題なし。
そう考えている間に重彦は客室へ入っていく。
「う~ん。ここまで来たからもう大丈夫かな」
ゴールはすぐそこ。道中ならば誰かに出会えば面倒になりそうだが、最早気にする必要も無かろう。
であれば、深根としては堂々と兄に会いにきたと言えばいいだけ。
「ダークランス兄様~」
意図的に猫撫で声を出して、中にいる兄を呼ぶのであった。
しかし、……最後に深根は墓穴を掘った。
「ふむ。予想通りであったか」
中から聞こえてきたのは母である千の声であった。
「ふえ?」
「ちょうどいい。深根入って来なさい」
母がいると分かった以上、甘えれそうに無いと理解する。
しかし、入室許可は出たので客室に入ってみると、千がお茶を入れている。
「深根~、久しぶりだな。兄ちゃん会いたかったぞー」
甘える本命の長兄、恋人のマリア、重彦がいた。
ダークランスは早速デレデレ顔で甘えさせてくれそうだ。
だが母の手前いつもの調子だと、後で怒られる。
「兄様、マリア様。お久しぶりです。深根も会えてとても嬉しく思います。
また重彦様もご健勝のようで」
「あら?」
妹の受け答えが別人過ぎて、ダークランスは当てが外れたような顔をする。
「深根様。このご老体ごときに丁重なご挨拶有難き幸せ。
本来であればご家族の団欒となるところを、お邪魔しており申し訳ございません」
「いえ、お気になさらないでください。
ですが、訪問されているとは思っておりませんでしたので、少々驚いてはおります」
「はっはっは、久方ぶりにマリア様がJAPANに訪れたと聞いては、年甲斐もなくお会いしたいという気持ちが抑えきれませんでしたわ」
「科学議論だとダークランスは門外漢だから、普段の相手と違う議論は楽しいのよね」
とりあえず問題は無さそうである。
「深根。ちょうどいい。兄君に茶をたてなさい。
久方ぶりであるし、冒険中に本格的な茶を振舞ったことも無いだろう?
今川焼ももう少しで出来上がるから、それに合うようにしなさい」
「はい」
内心面倒くさいと思えども、母の言う事には逆らえない。
それに深根がお茶を入れてくれることを嬉しそうにしているダークランスの顔。
深根としても長兄にお茶をたてることは悪い事ではない。
結果としてマリアと重彦以外は、一家団欒のような時間となる。
ダークランスも家族以外の人間がいる以上、深根がお姫様としての対応をしていると理解したようだ。
そこからダークランスがJAPANに訪ねてきた理由を聞いてみると、
「元就の呪い……ですか」
「ああ、いくら本人が問題ないとはいえ、弟が呪いを抱えたままってのがなあ」
「昔と比べれば偏見の目は大分収まりましたが、あくまでも呪いは被害者を苦しめるための方法ですからね」
「兄ちゃんとしては、出来るなら解呪したいとこだ。ネプラカスが死んでからの悪魔関連は俺も一先ずは落ち着いたし、呪いを聞いた時から気になってたしな」
それを聞いて、やはり長兄はとても優しくていい人だなあと再確認する。
甘えたい。
思いっきり抱き着いて、頭を撫でてもらって、添い寝もしてもらって、可愛がられたい。
男女としてはちょっとアウトだろう。
だがダークランスなら妹相手にそんな邪なことは一欠けらも考えそうにないし、寧ろ喜んでやってくれると予想している。
「実は呪いを解くこと自体はそんなに難しくないのです。先代元就の時は織田家の力を集結して妖怪を見つけて倒したそうです。
元就はJAPANでも重要人物ですから、本当は元就が望めばすぐにでも解決できるんです。
ただ、毛利家が非常にあれなので……」
「……あれだもんなあ」
闘い。
それこそ毛利。
理解できない一族ではあるが、毛利家にとっては闘いこそが愛情を与え与えられるという場所。
兄弟同士で真剣を使った闘いさえも、元就にとっては愛情表現みたいなものなのだ。
ならば、闘いで役に立つ呪いならば、それは元就にとっては必要であり邪魔なものではない。
その間に出来たお茶をダークランスの前に出す深根。
「どうぞ、作法はお気になさらず」
「お、ありがとよ」
どう飲んだらいいか考えてただろうから、先に深根が作法の事を言ったので、安心したのか普通に飲んでくれる。
「にが」
「本来は茶菓子と一緒にして味わうので、抹茶だけだと苦いだけですから。
味わい方が分かれば、兄様ならお気に召すかと」
「そんなもんか。初めて飲んだから今一わからねえや」
何となく照れているのか、頭をかくダークランス。
すると千が会話に入ってくる。
「ふふ。味わおうとしてくれるだけ、ランスよりはましだ。
あのものは、飲んだ後は茶菓子だけ食い尽くして去っていったからな。
行儀よく飲むお茶より、シィル殿が入れてくれるお茶が一番ということだ」
「その光景が容易に想像できます。あのクソ親父はどう考えてもガキとしか言いようが無いし」
「結果的に見れば、それが世界を救う行動となるのだから面白いとも言える」
そういう千の顔は、とても優しい表情を見せてくれる。
そんな表情を見て、ダークランスと深根はランスを愛してるんだなと実感する。
「はあ。何だかんだで千さんは親父を好きなんですね」
「でなければ子供を産んでいないさ。私に母としての幸せを与えてくれたことには感謝している。
それに子育ては楽しかったぞ。
乱義・ザンス・スシヌをランス城の一室で見ていた時は、城にいる皆のまさしくアイドルになっていて可愛がられていたからな。
特にリセットは一生懸命お姉ちゃんとして頑張っていたからな。
大変な時ではあったが、あれはとても良い時間を過ごせたと思っているよ」
「その節はうちの柚美がご迷惑をおかけしましたようで……」
可愛いものを見れば、理性が崩壊する柚美にとって、赤ちゃんの可愛さは天井知らずであろう。
「問題なかったよ。自分で暴走したら駄目とは理解していたから子供達にとっては優しいお姉ちゃんとしての印象しか残っていないよ」
魔人戦争では自分もダークランスもその時に立ち会ってないから、聞く事しかできない。
だが愛されているという事実は分かるのである。
「確かに皆可愛かったなあ。でも一番のアイドルはリセットちゃんだったね。
その可愛さを危惧して、ランスったら男の人は絶対に近寄らせなかったし」
「今でもエールや兄弟以外の男だったら、問答無用で斬り殺そうとするだろうな」
昔話に花が咲くが、結局最後にはランスの話になってしまう。
「さて、そろそろ私は退散することにしよう。
深根、兄上とマリア殿の相手任せるぞ」
そう言って、千は客室から退室する。
「では私も今日の所はこれで。
マリア様、よろしければ帰られる前に種子島家に訪問していただけると嬉しく思います」
重彦も空気を読んで、退室していく。
そんな姿を見ながら、マリアが呟く。
「やっぱり千さんは素敵だなー」
「だなあ。すっげえわ」
兄とその恋人に母を褒められたので、娘としては少し照れる。
しかし、母も重彦もいなくなったので、ここからはお姫様ではなく妹の顔になれる。
「……うい」
少し呆けているダークランスの胸に顔を押し付ける。
「お? お~いつもの深根だ~」
その行動にダークランスはあっさりとデレデレ顔になって、深根の頭を撫でてくれる。
「あははは。やっぱりこっちの深根ちゃんのほうがしっくりくるねえ。さっきの深根ちゃんだとまさしくお姫様って感じだったから別人に思えたよ」
「うにゅ~~」
お預け状態から解放されて、ようやく甘えれる幸せを深根は満喫する。
そうしてしばらく二人に甘えながら、色々な雑談をしていく。
マリアも当時を生き抜いた一人であるから、色々な思い出話も聞ける。
またマリアも子供たちを可愛がっていたので、その思い出を反芻するうちにマリアが爆弾発言する。
「は~。私も本格的に子供欲しいなあ」
「え!?」
「年齢考えたら遅いくらいだしね。よし、そうしよう」
ダークランス大慌て。
「え? え? え? 俺の子供?」
「そりゃそうでしょう。ダークランス以外誰がいるの?」
深根、巫女機関で名取から聞いたことを思い出す。
『いいですか、深根。男はいざとなったら尻込みします。その時は女がその背中を押してやることも女の役目であることを理解しておきなさい』
今の状況がまさしくその時かもしれない。ならば、
「ダークランス兄様」
「お? おう」
「ファイト」
「深根ーーーー!?」
巫女機関。
時に罪作りな機関で修行してきた教育の成果が、今の深根であった。
深根ちゃん可愛い。
しかし、この話は結構難産でした。
本編だとこの娘は出番が少ないから動かしにくかったのです。
性格考えても自分から動くタイプじゃないしね。