タン! タタン!
細かなステップで体の軸をずらして的を絞らせず、尚且つ相手の間合いに入らないようにする。
同時に魔法を発動させるための時間を、魔力を練る時間をエールは作り上げていく。
しかし、相手もそれは理解している。
「おらああああああ!」
そんな時間も間合いも許さない。
間合いが空けばすぐに詰めていき、魔力を練ろうとするならその集中を削ぐ。
そして一撃でエールを戦闘不能に追い込むほどの威力が剣に込められているのだ。
しかしエールからすれば脅威は剣のみ。
剣と魔法で戦うエールならば、小威力の魔法でも行動を阻害出来れば問題ない。
「プチ火爆破!」
相手の攻撃に合わす形で魔法を発動。
「あめえ!」
だがその程度の行動も織り込み済みの一撃で、些細な攻撃など無視していく。
そんな行動もエールにとっては百も承知。
あくまでも魔法は自分の為の行動!
「ブレイク!」
発動した火爆破を自分の意志で爆破させる。
視界を防ぐ為に、至近距離で轟音と視界で行動を遮るための行動として使った。
「っち!」
無視される?
ならば理解されていたとしても、防げないような状況で発動すればいい。一瞬でも止まれば儲けもの。
そうすれば次の行動の主導権はこちらに傾く。
今度こそエールはAL大魔法を放つ準備をする。
さすがに全力で放つわけではないので、必然的に発動時間は短縮される。
しかし、相手を戦闘不能に追い込む程となれば、溜めは必要。
その時間こそがエールにとっては値千金となる。
だが、
「だっからあめえんだよ!」
視界も聴覚も一時的に遮られたというのに、相手の一撃はエールを的確に捉えてきたのであった。
結果、エールは必殺の一撃を放つことなく、敗北を喫することになってしまう。
「うーーーん、くやしー」
「がはははは、弟が俺様に勝とうなんざ1000年はええ」
エールは自分でヒーリングを掛けながら、負け犬の遠吠えとなる悔しさを出す。
目の前には上機嫌な顔で笑うザンスの声。
「つうか、俺様があの程度で隙を作るわけねーだろうが。こちとら乱戦や状況が見えない時の訓練なんぞ山ほど繰り返してんだ。
それに魔人に親父相手やクエルプランの時に、どんだけお前の必殺技を発動させる時間を作ってきたと思ってんだ。
感覚でどのタイミングで発動しようとするかわかるんだよ」
ザンスの言い分はかなり的を得ている。
あの冒険中、エールの必殺技は兄弟の中では一番の威力を誇り、尚且つ魔法であるため必中というでたらめ具合。
そしてザンスは兄弟の中で一番体格もよく、時にはガード役も務める盾でもあり矛でもあった。
常に敵とは一番近い距離で闘って敵の意識を削がせ、兄弟が安心して各々の役割を果たすための時間を作り上げていた。
初対面だと傲慢で配慮も分別も無い人間の様に見えるが、付き合ってみるとザンスはザンスなりに人を大事にしているのが見えてくる。
「む~。タイマンで戦う場合の必殺技の使い方についてはまだまだかあ」
「お前の場合は体捌きも全然なんだよ。他の有象無象ならいざ知らず俺・乱義・レリコフ・兄貴・親父相手じゃ粗だらけだ。
中途半端な技術で勝てると思ってんじゃねえよ」
暴力的なレベル差があるからこそ、技術的に負けていても勝てる。
しかし、そこで差が無くなればエールは前衛・後衛どちらも出来るから集団戦では強い。だが個人戦となれば専門職には負ける。
ある意味エールのようなタイプは求められる戦闘技術もそうだが、詰め将棋のような戦い方も求められてしまう。
ただエールの場合は、AL大魔法という必殺技がある。
決まれば大打撃を与えられるから、如何にその一撃を放つことを考えればよい。
無論今回の様に対策を考えられている状況で、どう活かすかであるが。
「父相手だと更に厳しい……か」
「……ぶっちゃけ魔王じゃなくなっても、あの親父無茶苦茶だ。我流剣技だから次の一撃が予想しにくいわ、実戦形式しか想定してねえから剣だけじゃねえしな。
魔王の力捨てたとはいえ、その名残で魔法まで使えるようになってるのも鬱陶しい。
エール、お前の上位互換が段階飛ばしで用意されてる形だ。違いはヒーリングがあるから長期戦可能ってとこだが、あの親父相手に長期戦出来ると思うか?」
「無理」
「そういうこった。タイマンでどうにかしようって考える事自体負けだ」
「でも父さんに納得してもらって祝福してもらいたい。その為にも真正面から戦うんだ」
「お前ある意味馬鹿正直だな」
「ザンス兄に言われたくない」
「どういう意味だこら」
ザンスにこめかみを拳でぐりぐりされる。
「痛い痛い、ザンス兄の力でやると洒落にならないー!」
「やかましい、兄の威厳ってもんをお前はもう少し敬いやがれ」
何だかんだで仲のいい兄弟として、エールとザンスはじゃれあっていた。
そしてそこに新たに入ってくるのは、
「ザンスにいさまー、エールにいさまー」
まだ幼いアーモンドであった。
チルディの娘で、現時点ではランス一家の末っ子。
ランス自身は王族に興味は無いので王族の意識は無いが、リーザス王家から見ればランスは女王の伴侶である。
その為アーモンドは準王族扱いであり、チルディも正式ではないが側室とも言える。
もしエールがリーザスに所属することになれば、末端だとしても王位継承権の話が入ってきても、実際に王位に就く事は有り得なくても継承権だけなら転がり込んで来てもおかしくはない。
とはいえ、エール自身も王族に興味は無いので、関係の無い話である。
エールにとっては兄弟の中に王族がいるというだけ。
そしてアーモンドもエールにとっては可愛い妹であり、今後も兄弟はどんどん増えるだろうなあという認識だったりする。
「アーちゃんおいで~」
エールは早速アーモンドを抱っこする為に、しゃがんでアーモンドが飛び込んでくるのを待つ。
「は~い」
満面の笑顔でアーモンドがエールに抱き着いてくれる。
そのままエールはアーモンドを抱えて立ち上がる。ザンスにとってはよく顔を合わせる妹であるがエールにとっては、リーザス城に来ないと会えないし面識も少ない。
だとしてもエールにとって兄弟とは、無条件で信頼できる大好きな家族の一員。
そんなエールはアーモンドに頬擦りして愛でていく。
「にいさま~♪」
アーモンドも愛でられているのが分かるので、エールに存分に甘えていく。
「……なんかむかつく」
ちょっと不機嫌になるザンス。
エールからすればザンスもアーモンドを可愛がってるだろうが、アーモンドにとって分かりやすい可愛がり方はしていないだろうと予想している。
なのでアーモンドもザンスに対して、どう甘えればいいかわからないのもあるかもしれない。
とはいえども、母親であるチルディもいるし女王のリアも可愛がっているとは聞いているので問題はなさそうである。
単純にザンスが素直に可愛がればいいだけの話であるし。
ただ今回エールがリーザスを訪れた理由はあくまでも強くなるための特訓である。
そこまで深く考える必要性も無いといえばないが……。
「ザンス兄はもうちょっと配慮とかできればいいと思う」
「あ? どういう意味だこら」
「僕ら兄弟はザンス兄のいい所は理解してるけど、付き合いが短い人はザンス兄誤解したままだよ」
「ふん。俺様が何で相手に合わせなきゃならねえんだよ。相手が俺様に合わせればいいんだよ」
これである。
エールは溜息をつくしかない。
これだからいつまで経っても、スシヌと兄弟のままで恋愛関係に進まない事を自覚できないのであろう。
ぶっちゃけ周囲から見れば、ザンスがスシヌにゾッコンなのは間違いない。
ザンスみたいなタイプがリアに決められたから婚約者の相手をすることはないであろう。大体ザンスがスシヌを構う時は、好きな女の子だからいじめてしまう男の子の行動である。
俺の女? 童貞が粋がっているだけで、いざそのチャンスに恵まれたらヘタレているだけ。
まあ、初体験しようとしたら母親が部屋の隅っこでカメラで撮影しようとしていたことに関しては、同情するしかない。
ちなみにエールはリセットと恋人になってからは何度もデートしているし、他のカラーの女の子と話す機会もあるので、女性とのコミュニケーションに関しての経験値はどんどん上がっている。
なので、直接的な言葉じゃないと分かってくれない女性もいるということを理解している。
だからこそ……スシヌはど真ん中剛速球のストレートで告白されないと、本当の意味でザンスを恋愛対象にしてくれないとエールは確信している。
小さい頃から姉弟として過ごしたのだから、家族として好きとしか見てないであろう。
実際エールもリセットに告白するときは、勘違いされるという要素が無いほどのド直球の告白で回避不可の状況に追い込んだからこそ、リセットにエールを男として意識させれたと思っている。
父親であるランスの場合、ある意味マインドコントロールしていると言っても過言でないぐらい狙った女性が根負けするしかないほどぶつかっていく。
『お前は俺様の事が好きだ。それを自覚してないだけ』
それを何度も繰り返し、否定されても絶対にあきらめる事が無い。
女性に関する執念で競争したら、ランスに勝てるやつは世界中探してもいないと断言できる。
「はあ、色々勿体無い」
ザンスも自分から本気で口説けば童貞なんてすぐにでも卒業できるし、スシヌも本当に恋愛対象としてみてくれる可能性もあるというのに。
実際エールの目から見れば、ザンスは男としてカッコいいし強いし頼りになる兄貴分。
尚且つぶっきらぼうだけど懐に入れた人間には優しいし、時々ツンデレになって、萌える要素もある。
そして次期リーザス国王様という、ある意味理想の王子様じゃね? と漫画みたいなキャラ。
乱義も別系統で恋愛物語のヒーローとしていける。
そう考えると、その内勝手にどこぞの誰かとは恋愛してそうだから放置しとくほうが面白いかもしれない。ナギやパセリなら楽しんでくれるだろう。
「エールにいさま?」
考えてたせいで、アーモンドへの構い方が少し雑になっていたせいか、アーモンドに声をかけられる。
改めてアーモンドを見れば、首を少し傾けて両手はエールに全力で抱き着く形である。
「何でもないよー。ザンス兄は当分恋愛できそうにないって結論が出ただけ」
「う?」
「……よし、泣かす。この俺様にそこまで言うんだから覚悟は出来てんだろうなあエール」
「戦略的撤退!」
「待てやこらー!」
「きゃー♪」
アーモンドも交えたじゃれ合いが始まる。
エールとザンス。何だかんだで仲のいい兄弟として接するのであった。