今日も今日とて研究と治療。
自由都市に帰ってからのミックスは、以前の生活通りに患者を治療し、新たな医療方法を模索しながら一日を過ごしている。
しかし、以前と違うのは各国にいる家族がミックスの正式な後ろ盾となっていることでもある。
それはこれまでに無かった事で、これまで以上に設備投資・医療体制・権威が備わったことで、ミックスの仕事が更に注目されることとなったのだ。
とはいえども、ミックスにとっては仕事がやりやすくなったというだけであって、そこに煩わしい気持ちは無いが偶にうっとうしく思う時もある。だがそれも込みで良き方向に進んでいるのだが、もう一つ生活の中で変化していることもあった。
「ん~また送ってきたのね」
それはミックス宛に届く家族からの手紙。
送り主はリセット。
冒険後から定期的にミックスの元へと届くのだ。勿論リセットは他の兄弟達にも送ってはいる。
ただザンスだと手紙書く事などしないし、乱義だと仕事が忙しすぎて筆不精になってしまうところもある。JAPAN国主としてならば仕事なので最優先処理されるだろうが。
そしてその他のメンバーは律儀に返答したり、気が向いた時に送っている。
その中でミックスは何だかんだで律儀に返信しており、時には医療関連の手紙で相談にも乗っている。
ただ、家族からの手紙ということで、その中身の中にミックスへの親愛がこれでもかというほど書かれていて、偶にミックスの口元は柔らかくなってしまう時もある。
またその家族からの手紙は全て保管していて、時折ミックスは読み返していたりする。
そして次の日の活力を取り戻すというサイクルになるのだが、
「……で、何でここに父さんがいるの?」
「いたらいかんのか」
ミックスの仕事部屋には、我が物顔で踏ん反りがえったランスがいるのである。
「ランス様、ミックスちゃん困ってますよー」
「ちゃん付けするな」
そしてランスがいる以上、シィルが一緒にいるのは当然でもあった。
「まったく何て湿っぽい場所だ。この俺様がいるというのに美女・美少女が一人も会いに来ないとは何事だ」
「ランス様、ミックスちゃんは美少女ですよ?」
「例え美少女でも娘相手に手を出せるかー!」
「ひんひん、ランス様痛いです」
いつもの通りランスがシィルの頭をポカポカする。
「いや、本当に何しに来たのよ。夫婦漫才したいだけなら他でやってよ」
「誰が夫婦だ、こいつは奴隷!」
「夫婦、えへへ」
あんな告白をしたというのに、いまだに素直にならないランスと喜ぶシィル。
「……はあ、んで本当に何しに来たのよ。別に父さんもシィルさんも病気になったわけじゃないでしょ?」
「当然だ、この俺様が病気になるわけがあるまい。ちょっとやってもらいたいことがあるから来てやったんだ。この俺様がわざわざ足を運んだんだから喜ばんか」
「……きゃー。父さん会いたかったー」
ミックス棒読み。
面倒くさくなってきて、とっとと追い出そうかなと考える。
「ぐぬぬ、何故だ。父親であり超絶美形の俺様に対して対応がおかしい。
昔のリセットみたいに甘えて来るべきなのに」
「そりゃ姉さんが本当に子供の頃でしょ。こっちは子供じゃないんだから普通よ普通」
「え? ミックスちゃんはまだ子供」
「だからちゃん付けするな!」
シィルに二回も注意する。
「何を言う。お前の見た目と年齢なら、ちゃん付けのほうがしっくりくるではないか。
それにお前も成長したらミラクルのように美人になる事間違いなしだからな。
……っく、そうしたら俺様が手出しできない可愛い子に有象無象が寄り付く。くそうリセットだけでも恐ろしいのに、これ以上の苦痛を俺様は味合わねばいかんだと。
ぐぬぬ、男は男で俺様の息子である以上、モテルこと間違いなし。
くそう、やっぱりガキなんぞ作るもんじゃないな」
「いや、だったら自分の行動顧みなさいよ」
「何で俺様が顧みないといかんのだ。俺様の行動に間違いはないのだから振り返る必要も無い」
「ランス様ー。ミックスちゃんの言ってることはそう言う事じゃないと思いますよー」
「やかましい、奴隷が主人に意見を言うでないわ」
娘の仕事場に突然来て、何だかんだでじゃれてる父とその父の最愛の人。
そんな光景を見てると、本当に何で自分が産まれたのかと思ってしまう。
「あ~もう、いい加減用事言ってよ。この後も仕事なんだから」
放っておくといつまで経っても、要件を言いそうに無さそうなのでミックスは少しいらいらしながら言う。
「むう、それもそうだな。
要件というのはだな。これ使って薬を作ってほしいのだ」
ランスが袋から取り出した草をミックスに見せながら言った。
「薬? ……精力剤?」
「何で俺様が精力剤なんぞに頼らねばならんのだ!」
「四六時中そういうことしてるんなら、必要なんじゃないの?」
「そんなもんなくても、俺様は一生現役だ!」
父と娘の会話だろうか。
しかしミックスにしてみれば、ランスが欲しくなる薬だとそういうのが真っ先に思いついてしまう。
「やめましょうよランス様。そんなの無くてもリセットちゃんはランス様大事に思ってくれてますよ」
「姉さんがらみ? んんん? ……父さん姉さんに何させようとしてんのよ」
何となくミックスは勘づいた。
というよりこういった時のランスの思考回路はわかりやすい。
「ふん、この俺様より弟を構うほうがおかしいのだ」
誤魔化そうとして誤魔化してないランス。
「なるほど、つまり姉さんの気を引くようなアイテム作成……ね」
「うむ。その為にペンシルカウにまで行って採取してきたんだからな」
「ペンシルカウって言えばカラーの故郷よね。なるほどそれなら姉さんが喜びそうなものもあるか」
「そうだぞ、ただこれちょっと危険だから、こういうの扱うのはお前の専門だろう?」
「まあ、毒も使い方次第で薬になるわ。ただこれで何作れっていうの?」
「頭を……すっきりさせるヤツ?」
何故そこで疑問形になるのだろうとミックスは思う。
同時にさっきシィルが止めたのを考えれば、碌な事じゃないなと気づいた。
「父さん、頭すっきりさせるだけなら他にもいい薬あるわよ。故郷にあるものなら患者の心理的な抵抗への負担は下がるけど、そこは医者である私が納得させることもできるわ。
……何考えてんの? 私が今まで見聞きしてきた事と今の父さんの様子見たら、どう見ても隠し事してるでしょ?」
「そうですよランス様。それにそんなことしたら絶対に皆から怒られます」
「ぐぐぐ」
この様子を見る限り、ランス自身も何が何でも使いたいと思ってないようだ。
そしてシィルが何度も止める以上、目的だけは聞いたとしても作る必要は無いなとミックスは判断した。
「あ~大体わかった。父さんの様子見てたら何が何でもという訳じゃ無いってことね」
「ぐ、この俺様が直々に採ってきたというのに」
「だからどういう意図を目的とした薬よ。言っとくけど悪影響を及ぼすようなのは作らないからね」
「数年分の記憶を忘れてしまう事が出来る薬です」
「こら! シィル言うなと言っただろうが!」
ようやく用途が聞けたことで、話が先に進むのだがミックスとしてはランスらしいと納得する。
「……なるほどね。エールと恋人になっちゃったから姉さんと喧嘩しちゃったもんねえ。
恋人になったのも1年にもなってないし、冒険前なら可愛い弟扱いだから自分に構ってもらえるはずと考えたわけね。
はあ、あほらし」
この短絡的思考回路・実行力・出たとこ勝負・後先考えず今が良ければそれでいい。
それがランスなのだが、それが結果的に最良の結果を叩き出すのだから質が悪い。ただ、本当に酷い案は周囲の人が却下するからこそでもある。
「やかましい。出来るのか出来ないのかどっちだ」
「すぐには無理ね。父さんの目的はともかく一考の余地はあるわ。
精神的に傷ついた人の中には忘れたい記憶っていうのは確実に存在する。それを自分で克服できる人もいるけど大概の人は折り合いつけて生きていくしかない。
だから本当の意味で忘れる事が出来るってのも悪い事ではない。
まあ倫理的観点から見れば、いろんな意見で右往左往することにはなるけど、患者の為を考えるなら必要になる時はある。
た・だ・し! どっちにしても目的通りの効果を発揮するなら治験以前に研究しないと無理よ」
「なんだすぐには出来んのか」
「当たり前でしょ。患者の命と健康が掛かってんのに適当に使えるわけ無いんだから」
「ぐ、ぐぬぬ。その間にエールがリセットに手を出すかもしれんだろうが」
エールはロリコンじゃないし、あくまでもランスに認めてもらうために必死だと言うのに、簡単に言うランス。
「あ? エールが姉さんを大事にしてるのはわかってんでしょ」
頭が痛い。ミックスとしてはミラクルがよくもまあこんな父と付き合えたなと思えども、考えたらあの母も母で常識というものは投げ捨てている。
そう考えると本当に自分は直接育てられなくてよかったと思う。
やり方はともかくミラクルが自分を大切に思ってくれているのはわかるが、毎日付き合うのはごめんである。
「あのなあ心の友。
何度も言うとるけどリセット嬢ちゃんの体格で、エールのアレ受け入れるのは無理だって言っとるじゃろ。
それにお前さんよりエールと接したからわかるけど、お前さんと違って貞操観念しっかりしとるから大丈夫だっての」
カオスまでランスに苦言するが、無自覚で親馬鹿なランスにとっては、
「やかましいバカ剣!
惚れた女に手を出さない男がどこにいる!」
自分基準の考え方ならば、惚れた女に手を出そうとしない男の方がおかしいのだ。
「まったく。
ほ~んとリセット嬢ちゃんの事となると、頭が更にアホな方向にひた走るのお」
「誰がアホだ! この駄剣!」
怒りながら床にカオスを叩き付けて足蹴にするランス。
「ひど! ワシの繊細でプリティーな顔に傷が~」
「……本当に何でこんなんが世界救ったの?」
「あ、あははは」
呆れて物も言えないミックス。
シィルがフォローしようにも目の前で繰り広げられるコント。
LA歴から続くある意味最高のコンビとも言えるし、魔王時代は何度も殺し合ったというのに、元の鞘に戻ればただのエロ馬鹿コンビであった。
その後、念の為ということでランス・シィルの身体検査を行う。
この時、ミックスはランスのレベル限界値測定不能現象・他者のレベル上昇の理由を調査するべく、細胞と精液提供を要請。
他にも緑病の治療できた原因は何だったのかを知る為にでもある。
こちらは、もしランスがいない時に再発した場合の対策もあるからだ。
そのような点でミックスとしては要請したのだが細胞はともかく、精液に関してはランスは拒否する。
たとえ娘で医者で医療目的とはいえ、娘に精液を採取されて研究されるなど冗談ではない。
結果、細胞だけは採取できたが精液に関しては次回となる。
その後、ランスは病院内の美女・美少女を探してちょっかい出そうとするのだが、さすがにミックスが怒って追い出すのであった。
ただその時のミックスは家族とも言う事もあり、いつもより感情的であったため、病院関係者から珍しがられる。
そんなランスとの出来事を、ミックスはリセットへの手紙に親馬鹿ならぬ馬鹿親と書きながらも、今迄無かった家族の時間を少しずつ積み重ねていく。
それはミックスにとって張り詰めた気持ちが安らぎ、どこかで年頃の少女らしく家族に甘えられる時間だった。
意地っ張りで天才でツンケンしているミックスだが、命を何よりも大事にしている少女。
家族だけでなく様々な人から愛されているが、ミックスはいつも通り医療の道を歩き続ける。
それは未来において、ミックスの歴史が医療の道を選ぶ人にとって指針になることを本人は自覚していない。