ぞぶり。
何十人もの肉体を突き殺してきたことに使ったナイフで、また一つ殺した数が増えていく。
首に突き刺したナイフを抜けば、魂の通貨が惜しげもなく俺の腹を満たす。
だが今はどうでもいい。
次の標的が待っている。
恐怖に怯えながらも、必死に生き延びようとする戦士が。
俺達に死を与えてくれる存在かもしれない。
いつかそれが叶うとは知っている。
しかし、それが何時叶うかはわからない。
当然といえば当然。己の死が何時わかるかなど知りたくもないし、知る必要も無い。
もし知ることが出来れば、自分はそれまでにどのような事を成すべきかと考えるか。
またはそれまで快楽的な生き方をするかだろう。
そんなことを頭の隅で考えながらも、俺自身の本能は次の戦いを所望している。
右手のナイフを握りなおし、腰に付けているハンドガンのヘッケラー&コッホUSPがまるで俺の出番を寄越せと呟いているかのように感じる。
その声を聞いた気分のままに、俺は標的を再度ナイフで刺殺した。
ナイフと肉の間から、鮮やかな血が噴出す。
それを避けずに俺は全身に返り血を心地良く浴びながら舌なめずりする。
ああ、今日も俺たちは戦争を行ったのだと実感した瞬間だった。
「連戦連勝皆殺しにて骨も残さず、かくて我らは近隣諸国に更なる恐怖をお届けする。
祖は悪魔にして邪悪、己が本能のままに虐殺と暴虐の限りを尽くし、彼の者達が通った後は死体を啄む生物さえも現れず」
「何言ってんだ? 今更俺達がやってきた所業で広まった悪名なぞ死体の数でも足りねえだろ」
俺達がこの世界で数回の戦争を繰り返したときに、評された言葉を呟けば、同じ仲間が口に入れていた骨をバリバリと噛み砕きながら言い返す。
「何、この世界に俺達が落ちてから数十年経ったが、未だに誰も脱落してない。
ある意味作業のような戦争って思っちまってな」
「まあな、エルフ・ドワーフ・オーク・ホビット等等。
最初はまるで新しい玩具を与えられたような気分だったが、最近は偏食に飽きてきた。
ヴェアヴォルフ達なんか最近は戦場にさえ出てねえ。
まあ当然だがな、フルコースを望んでいる時に前菜だけで終了って言われてるようなもんだ」
むしろヴェアヴォルフにしてみれば前菜にもならないだろう。
ため息が出てくる、それもただのため息と一緒に漫然とした時間と生を貪る事を嫌う俺達の思いが。
そうしてどれほどの時間が過ぎたか、武器の手入れを行い、消耗した弾丸や補充しなければいけない物資を数値として提出するための作業を行う。
例え人間でなくなっても、例えその身一つで戦えるとしても、生きている以上何かを必要としなければならない。
食糧を、物資を、欲望を満たす何かを。
そして俺達が作業を終えかけた時に、久しく戦場に現れなかったヴェアヴォルフより一つの情報が流れてきた。
「自分の世話も出来ねえし、気付きもしない糞くだらねえ童貞どもが守るカルネアデス国境要塞が落ちたと?」
「そう、素晴らしき歴史と伝統で誇られてきたカルネアデス国境要塞が黒王軍の手に落ちたってさ」
楽しそうに、面白そうに、愉快そうに准尉が心底の笑顔を見せながら言った。
「可哀想に、要塞に住んでいた人達は恐怖して死を頂戴されました。
そして要塞を打ち破った黒王軍は更なる南下をご所望です。
その勢いを止める事は現在の世界陣営には不可能だろう。
更なる暴虐と虐殺を振りまく事でしょう。
一方的なワンサイドゲーム。
そんな戦争が楽しいのは一時だけで、すぐにつまらなくなる」
つまりは今の俺達の状況こそ黒王軍の未来の姿かもしれないが、破滅を望むのならばワンサイドゲームは望むところであろう。
だが准尉がこんな情報をもたらしたのは、これからの俺達の行動指針を告げるため。
俺はそう思いながら、准尉が次に言うべき言葉が自分の予想すべき事であろうと考える。
そして周囲の仲間を見てみると、犬歯をチラつかせながら笑っている奴がいる。
そう、新しい戦争が出来るのだと。
「それはまさしく今の僕達。
そんな僕達をもしかしたら満たしてくれるかもしれない。
世界陣営なんて知ったこっちゃ無いけど、僕達の飢えを僅かでも腹におさめれるかな?」
准尉が疑問系で言うならば、それは既に歯応えがあると言っているようなもの。
俺は自分の心が、肉体が久しく感じていなかった熱を感じる。
狂気こそ俺達の正常な状態で、その狂気が覇気となって力が湧き出て笑みを浮かべてしまう。
力を込めれば関節が歓喜を上げるかのように鳴り、コンディションが早急に上がっていく。
速く早く疾く瞬く戦わせろ。
全力を尽くし、心を躍動させ、眼前に凶器が迫る瞬間を感じさせろ。
久しく感じさせなかった戦場の匂いを嗅がせてくれ。
そんな空気が大隊に漂っていく。
だが、
「もうすぐ少佐も帰ってくる。
その時に詳細を告げるよ」
准尉がそう告げた瞬間に、俺は俺達は空気を無くす。
そのままに少佐を迎える準備を整えだして、尚且つ少佐が号令を即座に飛ばせるようにしておく。
俺達は化け物でありながら戦闘集団にして軍隊。
上官が来る時には完璧にしておくのは至極当然。
そして、
少佐は数十分後に姿を現し、俺達は出迎えをする。
「アハトウング、大隊指揮官殿に敬礼!」
少佐の行くべき先を花道のように開けて整列し、俺達は右手を肩より少し上に上げた。
「ご苦労」
少佐も出迎えをした俺達に右手を上げて応える。
応えながら少佐は花道をゆっくりと、軍靴の音を響かせて歩く。
「諸君」
たった一言、声色の変わった少佐の声。
既に、俺の立つ位置からは表情は窺えず、背中越しに少佐は言葉を紡いでいく。
「ぬるま湯に浸りきった蛙を冷めた心で嬲るのに飽いたかね?」
この場にいる誰よりも弱く、
「醜く飛び回ろうとする虫の羽を毟るのに飽いたかね?」
この場にいる誰よりも武の才も無く、
「鼻歌交じりに命を刈り取り、ルーチンワークとなってしまったワンサイドゲームを投げ捨てたくは無いかね?」
この場のいる誰よりも武器をろくに扱えない。
「敗北主義者たちが心底から吐き出す恐怖の慟哭さえも、耳障りと感じてきていないかね?」
だが、
「我らが求める戦争や戦場や闘争への琴線が掻き鳴らされているかね?」
この場にいる誰よりも戦争を知り、
「夕闇に地獄を幾度も作り続けた我らの揺り篭は戦場だ」
この場にいる誰よりも戦略を知っている。
「だが今の戦場では我らの揺り篭には物足りない」
この場にいる誰よりも戦術を知っている。
「狂気と狂喜と驚喜が一体化し、本能的動物と化してしまいそうになる戦場」
この場にいる誰よりも知識を蓄え、
「眼前に現れればアドレナリンとドーパミンが湯水のように溢れかえり、限界を超える力を出そうとも殺してくれる敵に飢えていよう」
この場にいる誰よりも知恵として使いこなす。
「なればこそ征こう、なればこそ突っ走ろう」
この場にいる誰よりも言葉に力を灯らせる。
「我らが求める戦争が戦場が、我らが求めてやまないモノがようやく手に入るのだ」
そして、この場にいる誰よりも狂っている。
「世界など知ったことか。世界など我らの為に存在していればいい」
だからこそ俺が俺達が崇めるたった一人の大体指揮官。
「諸君」
そして大隊指揮官は勢いよく振り返り、右手で空間を切り裂くように水平に動かす。
表情はまさしく不敵で素敵で喜びを隠し切れない俺達の感情を代弁している。
「我らを殺す可能性を持つ敵を我らは待ち望んでいる。
我らの何かを満たす何かを我らは待ち望んでいる。
諸君。
彼の軍勢は我らの世界の歴史に名を残した英雄達を、彼の軍勢は魔物を、彼の軍勢は邪龍を引き連れている。
三千世界の数多の人間達が何も残す事無く、泡沫の様に消えていく中で燦然と輝きを見せて、歴史に埋もれていった英雄と戦いたくは無いかね?
その身に悲劇を宿しながらも魅了してやまない魔物達を食す気は無いかね?
幻想でしかありえなかった憧憬を抱き続けた龍の血を浴びたくは無いかね?」
少佐が俺達に問いかけている。
ならば俺達は答えよう。
【戦争!! 戦争!! 戦争!!】
「よろしい、ならば諸君。
我らはこれよりカルネアデス国境要塞を打ち砕き、世界を滅亡しようとする黒王軍と戦争を開始する。
廃棄物など知ったことか、漂流者など知ったことか。
世界を滅亡へと導く軍と、世界中から恐れられる部隊が戦争をする。
世界から見ればお笑い種だろう、拍手を打ちながら喜ぶだろう。
しかし、そんなことなどどうでもいい。
存分に殺そう、存分に死力を尽くそう、存分に食らい尽くそう。
ただ我らの為に、我らのナニかを満たすために。
我らこそ最後の大隊LAZTE BATTALION。
その途は死などという逃亡など許さず、地獄の底の釜茹でさえも生温いと染みわたらせてやれ!」
【YHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】
狂気の咆哮がこの場を制圧する。
かくいう俺も吼えていた。
敵がいる。
それも極上の敵が。
それだけで俺達にとっては戦争をする理由になる。
ならば始めよう。ならば殺しあおう。
それこそ俺達の存在意義であり、だからこそ化け物に身を落としたのだから。