7回裏ツーアウト満塁サヨナラのチャンスに男の出番は回ってきた。
そして、その状況を作ってしまった投手は、肩を上下させながら必死に息を整えようとしていた。
「さーて、主役はやっぱ美味しい場面こそ似合うな」
顔をにやけさせながら、ネクストバッターサークルで男は軽く屈伸してから立ち上がる。
そのまま意気揚々とバッターボックスに向かう。
バッターボックスに到着すると、右手には慣れ親しんだ金属バットを一回転させて、マウンドに立つ投手に突きつける!
「松ーー! 今日こそ引導と共に月の彼方まで飛んでいけ」
「やかましいわ! タカ。ええ加減その口閉じんと、その面に全力全開ストレートぶちこんだろかい!」
松と呼ばれた投手は息を荒くしながらも、声を張り上げて言い返してきた。
「はっはっは、俺に打たれる前から負け犬の遠吠えをかますか。さすがや松」
「……もうええ、負け犬の遠吠えかどうか、この勝負できっちりケリつけたる」
マウンドに立つ松がタカを睨みつけながら、右手にボールを握り締めた。
それを見て、タカも金属バットを握り締め、迎え撃つ為に構える。
お遊びとはいえ、かつては高校・大学野球では、それなりに活躍した二人。
同時に、お互い普通に18禁ゲームの話で盛り上がれる普通の社会人といえば社会人。
たまの休日に草野球で楽しむ事も趣味であった。
「バッター勝負じゃー! 三振かホームランでケリつけろ~~~」
ランナー達はベースに張り付きながら、笑いながら野次を飛ばす。
「松~~、ランナー気にせずに、大きく振りかぶれ~~」
もとより、そのつもりだったのだろう。
松は両手を頭上に掲げ、右足を一歩前に出す。
そして大きく足を上げてから、全身全霊を込めるほどの形相をして、大きく踏み込む。
体全体の力を右手から放たれるボールに込められる。
そしてボールは放たれた。
しかし、そのボールのコースはやはり疲労があったせいか、乱れていた。
「……っふ」
タカは少し笑いながら、右足を踏み込む。
130キロ後半はありそうなストレート。しかしタカにとっては真ん中高めという絶好球。
全身をバネにした証となるバットが、弾丸であるボールを月の代わりの太陽に目掛けて飛ばすために、振りぬく。
そして、
「い・ん・だ・ら・ん・か」
後、0コンマ数秒でバットはボールを捉えようとした瞬間、
ボールが消えた。
「へ?」
次の瞬間、完全にホームランと思っていたタカは、思いっきり尻餅をついた。
「なんやそれーーーーー! 松、いつ消える魔球を覚えたーーー!」
マウンドに向かって、抗議と疑問をバットと一緒に投げようとしたタカは、其の瞬間思考が停止した。
「……あれ?」
自分は野球グラウンドにいたはずなのに、何故か室内にいた。
周囲はレンガで固められ、壁にはよくわからないタペストリー。
そして、極め付けに目の前には、白だか銀だかわかりにくい髪の毛をした男か女かわからん人物。
その奥には、かなり太ったおっさんがいた。
「……え~~と、俺はいつ狸か狐に化かされた?」
とりあえず、古今東西で昔の日本であったと思われるネタを呟いた。
「狸や狐は知りませんが、とりあえず化かされてませんよ?」
タカの呟きに目の前の人物が答えた。
「ここはママトトという移動要塞国家で、僕はナナスと言います」
「は? ママトト? 移動要塞国家? ナナス?」
「すいません、ここはあなたのいた世界でなく、僕が無理矢理呼び出しました」
「ちょい待て、今なんつった?」
「えっと、ここはあなたのいた世界ではありません」
「いや、其の前にあんたの名前と国名」
「僕はナナスで国家はママトト、それと国王のカカロと言います」
タカは脳味噌と体がフリーズした。そして一言
「……なんでアリスソフト?」
「アリスソフト?」
タカの一言に首を傾げながらナナスは律儀に反応してくれる。
「つーことはもしかして、俺勇者?」
「はい、そうです」
「……よし、まずはそこのおっさんぶちのめして、俺が王様なるわ」
「へ?」
ナナスの顔を見て、思考の死角を突いたことを確信したタカはとりあえずカカロに突進して一発殴った。
「ふぐあ!」
「ち、父上ー!」
「さあ、とっとと夢は覚めろ。俺はゲーム世界に転生や憑依や来訪なんぞしたいと思ったことなんぞあるかー!
ゲームはゲームやからおもしろいんじゃー!」
タカご乱心。
しばらく御待ち下さい
「ぜーぜーぜー。すまん迷惑かけた」
荒い息を吐きながら、ようやく冷静な思考が出来るようになったタカ。
そして、同様に呼吸を乱しながら、両手・両膝を地面につけるナナスがいた。
「こ、ここまで取り乱した勇者さんは初めてです」
「いや、普通いきなり見たことも無い場所に出てきて、知らん人物いたら、取り乱してもおかしないわい」
「そ、それもそうですね」
答えながら、立ち上がって額の汗を拭うナナス。
「では改めて、あなたを召喚したことを説明します」
「かくかくしかじかまるまるさんかく――――中略」
「世界の平和ねえ、つうか俺は普通の人間で特殊能力とか何もないで?」
「ですが、何かあるからこそイデヨンで呼び出せたんです」
「んー、でも俺に今出来る言うたら、敵を金属バットでどついて、ホームランするしかないで?」
「大丈夫です。EXP値自由分配装置といって、LV1の人でもEXPがあれば、成長できるようにしています」
「つか、俺のLVって1?」
「はい」
「一番LV高いのは誰?」
「リックといって、現在LV25です」
「おし、まずは俺のLV100にして無双するか」
「できません!」
こうしてタカのわいどにょ攻略日記は始まりを告げる。
「おーし、ココっち。如意棒でこっちに吹っ飛ばせー」
緑色の髪の女性に声をかけて、タカは思いっきり振りかぶる。
「はい、行きます!」
ココっちと呼ばれた女性が巨大化した如意棒で敵を吹き飛ばす。
そして、そこには待ち構えたタカ。
「お空の彼方まで星になり、隕石となってぶっ飛べ! 神様仏様俺様打法!」
敵をインパクトする瞬間に、改造したバットのスイッチを押す。
其の瞬間、
(ボン)
お好み焼きの巨大ヘラの形となったバットで吹き飛ばすタカ。(作 マスカット)
そして、そのままぶっ飛ばし。これがタカの普段の戦いかたであった。
またはママトト内での風景。
「ふんふんふんふーん♪」
串を操りながら、手早く綺麗にひっくり返す。
「おーし、出来たで。これこそ大阪名物たこ焼きや! ソースもマヨネーズも無しでまずは食べてみてくれ。豪さん」
「うむ、美味だな」
「むがーーー! 俺様が一番に食わせろーー!」
「はっはっは」