「ほい、銀取り」
「む、そうきおったか」
駒を動かしての結果相手の駒を奪ったタカ。
それに対してワンがどう対応するかで、タカの次の一手が変わる。
「ではタカの牙城を崩す為に、揺さぶるとするか」
ワンはそう言いながら、先程タカから奪った桂馬を盤上に出した。
「っと、それ動かしますか」
桂馬は将棋において特異な動きが出来る駒。
飛車・角がよく攻撃で使われるが、タカは桂馬がある意味最も性質が悪いと思う。
ワンがどう攻撃してくるか予想しながらタカは最善の一手を考える。
それに対して、ワンがタカの一手を楽しんでいるのが表情からよくわかる。
「さて、タカどうするんじゃ?」
「ん~」
下手な一手を打てば、桂馬だけでなく他の駒がタカの牙城を崩しにかかる。
攻撃を優先するか、防備を整えるか、まずタカはその選択に悩んでいた。
「というよりタカも将棋が出来るんだな」
横合いの台詞に、少しカチンと来る言葉にタカは言い返す。
「それは心外や。ストーリンさん」
「すまんな。だが戦闘の時はそういう雰囲気に見えないのでな」
「確かに。それに関しては同感じゃな」
ワンまで同意するので、タカはそんなに自分は頭使わないと思われている。
この事に少し凹む。
「まあ将棋相手が増えたことに関しては、嬉しいことだから歓迎だ」
ストーリンがお茶を飲みながら、少し笑みを浮かべながら言った。
「そうじゃな、ナナスだとある意味相手にならんから、いつもストーリンと打ってるだけでマンネリじゃったからな」
「あ、やっぱナナス君強いんやな」
「うむ、さすがに数十手先から読まれると手が出せん」
「自分の世界やと確実に将棋で食っていけます。てわけで王手」
「ぐ、揺さぶりを無視しおったな」
ワンがタカの打った一手を睨みながら、思考に入った。
「でも、他の異世界勇者かて打てそうな人いません?」
「そうかもしれんが年が離れているからね。戦闘はともかく、それ以外では話題も無いので話しかけにくい」
「なるほど、やっぱ世代が違うとそこらへんは難しいですからね」
「そういうことじゃ。まあ話してみたいと思っても、どう話しかければいいかの切っ掛けもあるしの。という訳で一手」
「まあ自分も二人が将棋やってるのを見て、興味湧いて話しかけれましたしね」
タカはそう言いながら、ワンの打った一手を見つめる。
「自分もあんまり強ないですけど、それでいいなら偶に相手しますわ」
「それで十分だ。要は楽しめる将棋相手がいるだけで嬉しいからな」
「後は麻雀とかも点数計算は出来ませんけど、とりあえず出来ます」
「ふむ? となると後一人面子が欲しいな」
ストーリンがそちらの方で、少し考え込む。
「賭けるのは無しでお願いしますわ。というわけで金狙い」
「甘い。其の手は予想済み」
ワンがすぐに一手を動かす。そしてタカの駒を一つ奪っていく。
「げ」
其の一手にタカは声を上げる。しかしそれは声のみ。
「思い通りの展開が出来るのも一つの快感じゃ」
「ふ、そしてその快感を潰すのが面白かったりする」
タカは口の端を吊り上げて言いながら、持ち駒から空いた場所に先ほどの銀を置く。
「むむ、空いた場所を狙っておったか」
「やるなタカ。将棋の仕方を少しは知っているな」
「所詮は王を取れば勝ち。肉を切らせて骨を断つってのが将棋ですからね」
へぼ将棋王より飛車を可愛がるというのが将棋の格言にある。
タカも将棋を知ったばかりの頃は、飛車が便利だったので相手が飛車を取ろうとする。そしてそれを防ぐために無駄な一手を何回も行い、結果ボロ負けになったことがある。
「ふふ、ならワン殿との対戦が終わったら今度は私と対戦してもらえるかな?」
「ええですよ。でも其の前にそろそろ自分も出撃なると思いますわ」
ワンが盤上の駒を見ながら悩んでいるのをニヤニヤしながら答えるタカ。
しかし30分後、10分ほど考えた末に放たれたワンの絶妙な一手により戦況をひっくり返され、その後の5手は防戦一方となったタカ。
「むぐぐぐぐ」
「まだまだ若いものには負けんわい。どうじゃタカ投了かな?」
先程までタカがにやけていたのをやり返したかのようにワンが笑う。
「タカ、ワン殿の急所となる一手はあるぞ。頑張れ」
「あ、ストーリン。余計な事を言うでない」
ストーリンが穏やかな笑みを浮かべ、タカにささやかなヒントを教えてくれた。
其の言葉にタカはもう一度盤上を見ながら、先ほどワンが打った一手を睨みつける。
「あ、なるほど。ここか」
タカは答えを見つけたとばかりに一手を打ち込む。
その一手により、再びタカとワンの攻守と戦況が変わった。
「くう、せっかくひっくり返したというのに、ストーリン次は助言してはいかんぞ」
「承知、さすがに何度もすると面白くありませんからね」
「こういうふうに和気藹々と話しながら対局するのが、個人的には一番楽しいですけどね」
何だかんだ言いながら、結局皆で楽しんでいる雰囲気である。
それがタカとしても嬉しいから、自分でも顔がニコニコしているのがよくわかる。
「だがそろそろ時間だな。タカは準備をしたほうがいい」
ストーリンが時間を見ながら、タカに注意を促した。
「っと、そうですね。んじゃ出撃してきますわ」
「しょうがない。この勝負は一旦お預けじゃな」
ワンはそう言いながらも、盤上の駒をどう動かすべきか悩んでいるのがタカにはよくわかる。
「自分がここにいる間はまたやれますわ。んじゃ行ってきます」
タカは二人に笑顔のままに、手を振りながら出撃ルームへ向かう。
出撃ルームへ到着したタカ。
そこには自分と同様出撃時間となったアリエッタがいた。
「にょ? タカも出撃?」
「せやでアリエッタちゃん。がんばろな~」
「うん、そういえばさっき何やってた?」
「ああ、見てたんや。将棋っていう一種のゲームや」
「そうなにょ? 後で見せてもらっていい?」
首を少し傾げながら聞いてくるアリエッタ。
その仕草に脳内でタカは萌える。
性的には何も感じないが、物凄く可愛いので衝動的にハグしてそのまま頬擦りと頭撫で撫でを心行くまでしたくなる。
しかし、そこは大人としてグッとタカは抑える。
「ええよ。何やったらゲームの仕方も教えるで」
「ありがと、タカ」
満面の笑顔を向けながら微笑むアリエッタ。
その笑顔に更に衝動的に行動したくなるが、とりあえず頭撫で撫でだけで抑えておく。
「んじゃ、まずはノルマ分の敵ぶちのめしにいこか」
「おー」
可愛らしく、右手を突き上げるアリエッタ。
その後、手早くモンスター達をノルマ分片付けたタカとアリエッタ。
そして、ワンと続きをしようとさっきの場所に向かうと、何故かワンとストーリンが凹んでいた。
「ワンさん、ストーリンさん。どしたん?」
「ああタカか。いやちょっとな」
そう言いながら、タカは盤上の駒を見ると、
「……何これ?」
何故か見事に駒の悉くを奪われ、詰まれている状態であった。
「先程、私とワン殿で打っていたところに将軍が訪れてきたんだ」
「……なるほど。ここまで完璧にやられたわけか」
「さすがにここまで完璧にやられると、滅入ってもうてな」
「次から二枚落ちでやってもろては?」
飛車・角を抜きで勝負する一種のハンデである。
「いや、これは六枚落ちでやったんだ」
「飛車・角・香車・桂馬抜きでこれかい! どんだけナナス君無敵やねん!」
タカとしても一度ナナスと対戦だけしてみようかと思っていたが、止めることにした。
「それとタカ。今度将軍が勝負しようと言っていたぞ」
「絶対いや!」
その後、タカとワンとストーリンは興味を示したアリエッタに将棋を教える。
結果、ワンはアリエッタを初孫の様に可愛がり、ストーリンはさりげなく可愛がり、タカは自制心を鍛えるという、ある意味癒しと苦悩をするのであった。