「はあ!」
「っふ!」
互いの剣がぶつかり合い、鋼の衝撃が両者に伝わっているであろう。
一瞬の間に間合いを詰め、次の瞬間には間合いが離れ、目まぐるしい展開を見せていく二人の女性。
それは戦神都市Ⅱのヒロイン葉月とⅢヒロインのレメディア。
タカは目の前で行われている二人の試合を呆然と見ている。
「さっすが闘神。どっちも桁外れや」
召喚されたばかりでどちらもLVが低いのに、剣技にそれが見えることは無い。
LVが上のタカでさえ、まともに勝負すれば勝てるとは思えなかった。
「ああ、俺から見てもゾクゾクするな」
タカの横で言ったのはリック。
「一撃の威力やったらリックやろうけど、そこらへんどうや?」
「力・速・技という点で見れば、LV関係無しで見ても互角に近いかな」
「とんでもないなあ」
「大将のイデヨンで召喚されるはずだな。勇者というだけはある」
「俺も一応勇者やけど?」
「知らん」
とりあえずリックを殴っておくタカ。
そして殴り返されるタカ。ここらへんは半分じゃれあいも込みである。
「後はレメディアさんの魔法の戦法次第かな」
「タイムラグ無しで発動出来るなら、相対した時は恐怖だな」
「注意する事が一個増えるだけで、危険確率跳ね上がるしね」
「俺だったら手数を多くして、防御以外手を回す余裕が無いようにする」
「んで、最終的には隙が出た瞬間に、切り伏せるってか?」
「そういうことだ」
タカとリックは二人が試合をしている間、自分ならどう戦うか話しながらも、視線は二人の闘神の戦いから外れることは無かった。
「たあ!」
レメディアの鳩尾に向かって、渾身の一撃で放たれる突き。
しかし、レメディアは神速の突きを左に逸らさせた。
そのままレメディアは葉月の喉元に剣を置く事となった。
これが刹那の瞬間で行われた出来事。
「……参りました」
葉月は突きを払われた体勢のままで、そう言い剣を下げた。
レメディアもゆっくりと葉月から剣を離し一礼をする。
「ありがとう」
剣を鞘へと戻し、葉月に向かって礼を告げた。
それを見届けてから、タカとリックは一緒に拍手した。
「お疲れ様二人とも。ほい飲み物とタオル」
二人に慰労の言葉を言ってから、タカは用意しておいたジュースとタオルを渡した。
「ありがとうタカさん」
葉月がタカに笑顔を向けながら、タオルで汗を拭ってジュースを勢いよく飲んでいく。
レメディアは対照的にゆったりとした動作で、ジュースを飲んでいった。
「……ありがとう」
少し照れくさそうにタカの方を直視しない形で、レメディアも礼を言う。
「こっちもええ試合見れて楽しかったわ。ありがとな」
「ああ、とてもいい勉強になった。よければ今度は俺と試合を頼む」
リックの顔を見ると、本当は今すぐにでも剣を合わせたいと思うのが窺い知れる。
「うん、今度お願いします。僕も色んな人と戦ってまだまだ強くなりたいしね」
葉月という名前通り、8月の太陽を思わせるほど眩い笑顔で葉月が言った。
「可愛いし、強いし、性格もええて、男から見てほんまに恋人にしたいわ」
「ははは、それは同感だな」
「駄目だよー。僕にはシードっていう将来を決めた人いるんだから」
「目の前におったら、とりあえず関節技かけたるわ」
冗談とも本気とも取れる言葉でタカは笑いながら言った。
「だったらお前も恋人探せよ」
「余計なお世話や。ママトトに来てから見る女性はLV最上級クラスばっかおんねんぞ。
これで現実帰ってみい。俺一生彼女出来る気せえへんわ」
「大丈夫、タカさんみたいに優しい人なら、いい人見つかるよ」
「……葉月ちゃん。そういうけど優しいだけの人なんて便利扱いされるだけやねん。後はキープ君とか言われるだけや」
葉月の肩に軽く手をポンと当ててから、タカは哀愁も込めて言う。
「そうかなあ? タカさんて気配りも出来るし話してても楽しいし、顔も悪くないからモテルと思うけど」
「俺の世界はついでに金持ちかも掛かってるわ」
「それって本人が頑張ればいいだけだと思うけどなあ」
「俺の世界のそこらへんにいる女性は、他力本願が多いんや」
「えーと、どうフォローしたらいいのかな?」
困った顔をしながら葉月が言葉を紡ぐ。
「結局自分次第だから、貴方が頑張ればいいと思う」
其の言葉を言ったのはジュースを飲み終えたレメディアだった。
「う、確かに其の通りやけど。それが一番難しいんやけど」
「大切なのは自分の意志だから、その意志を貫けばいい」
言葉少なに、だが真理を突く台詞。しかしレメディアの表情は少し暗い。
そんな態度にタカは怖がってるのかなと思う。
「ん、そやな。ありがとレメディアさん」
笑顔を作りながら、タカはレメディアを安心させる為にもお礼を言う。
「そうだね、だから僕が保障するよ。タカさんなら良い人見つかるよ」
「早く見つかるかはわからんがな」
「やかましわ、リック」
葉月は可愛い台詞を、リックはからかいを混ぜた台詞。
そんな会話が楽しい一時だった。
その後、レメディアとタカは出撃時間となり、リックと葉月と別れる。
先程話していた通り、本格的ではないが軽く剣を合わせたいと、リックが葉月に申し出たためである。
葉月も了承したため、休憩後に試合をするという流れになった。
タカはその試合も見たいと、後ろ髪を引かれる思いで、レメディアと一緒に出撃ルームに向かう。
「さてと今日もモンスターぶちのめすの頑張りますか」
愛用のバットを肩に担ぎながら、タカは気合を入れる為に言った。
それに自分は葉月やレメディアよりも先に召喚されたので、いわば先輩。
いくら葉月やレメディアが闘神であろうとも、男としてのプライドもあるので容易に負けるわけにはいかないのである。
「……あなたはどうして戦うの?」
「ん?」
唐突に質問されたタカはレメディアの顔を見る。
カラーという種族特有の額の宝石、女神のように整った顔立ち、だがいつもどこかに影を感じさせる表情。
闘神都市Ⅲで語られるレメディアの過去を知っているタカとしては、レメディアの想いを少々は理解している。
だからコミュニケーションが取りにくくても、話す事に苦は無い。
初対面でも気にせずに話しかけれたのは、これが原因だったりする。
そして同様に召喚された葉月や、同様に剣を扱うリックと引き合わせることによって、孤立させないようにしたりもした。
お節介かもしれないが、タカとしても好きなキャラクター達が寂しそうにしてるのは嫌だったためである。
実際、現実ではこんな実験を行ったことがある。
引きこもりで、自分の部屋に閉じこもり人と接触したくないと言い切った人間がいる。
その人に、本当に孤独になる場所を提供し、どれだけ耐えれるかという実験である。
だが実際に試したところ、その人は耐えることが出来なかった。
そして出てきた時の最初の一言が、
「人と話したい」
これだったのだ。
タカはこの話に凄く共感した。
だから今のレメディアの一言は、多分自分が不思議に見えたのかなと思った。
「俺が戦う理由ってこと?」
タカはそう問いかけると、レメディアは静かに頷く。
「んー、別に大した事ないで。ただ単にここにいる皆と一緒にいたいだけや」
レメディアの表情はあまり変わらない。
「俺らは大抵ナナス君の世界平和っていう目的の為に呼び出された。でも俺の場合は世界平和なんてどうでもええとこある」
少しレメディアの表情が変わる。
「ただ、ママトトにいる人らが好きやから、皆と楽しく過ごしたいから戦うだけや」
ゲームで楽しませてくれたキャラクター達。実際に会って、もっと好きになった人もいる。
タカにとって一緒にいると嬉しいから、ただそれだけが戦う理由だったりする。
「別に難しく考える必要なんて俺には無いから。今この時を楽しんでるだけ」
「……私は必要だったから」
「俺はレメディアさんの想いは完全に理解できるとは思わん。それを否定する事は絶対したくない。その人を傷つけるだけやしな。
だけど気にする事はないと考える。だって仲良くなるには喧嘩もするんが一つの手段や。
その人が何が大切か、何が好きか、何に対して怒るか。
時間かけて話してみないとわからんやろ?」
其の言葉にレメディアの表情がはっきりと変わる。
「……」
「何か説教みたいになってるけど、そんな偉そうな事言えるほど俺も経験積んでないけどな」
タカは恥ずかしい気持ちもあるので、頭を掻きながら言った。
「あなたはよくわからない」
「そうかな? 結構単純て言われるけど」
「でも嫌な気はしない」
「あ、それやったら嬉しいな。俺もレメディアさんのこと好きやし」
自然と笑顔になりながらタカはそう言い返す。
「少しナクトに似てる」
「んー、それは何とも言えんが、とりあえず褒め言葉として受け取っとくわ」
レメディアの言葉にタカは更に恥ずかしくなる。ついでに頭の中では無駄にハッピーな気持ちになる。
(俺、めっちゃ恥ずかしいこと言うたー!)
心の中で口説き文句とも、恥ずかしい台詞ともとれる言葉を言った先程の台詞。
これが頭の中で繰り返し流れ、一人であったなら確実にゴロゴロしながら顔を真っ赤にしてるであろう。言った事に後悔はしていないが、恥ずかしい過去にはなったと思う。
「んじゃ行こか。上からリックや葉月ちゃんも見てるやろうから、格好悪いとこみせられへんし」
照れくささと恥ずかしさでタカは無理矢理話を逸らして、タカはレメディアに言った。
「ん」
レメディアが少し笑顔になりながら頷く。
この後、タカとレメディアは出撃ルームに到着。
そしてタカは水で顔を洗って、自分でも分かるほど真っ赤になった顔を冷やそうとする。
だがそれでも表情が抑えきれないため、同様に部屋にいた他のメンバーに不思議そうにされた。
結果、モンスター相手にタカは浮かれながらブッ飛ばしをいつもより多く行う。
その後、タカとレメディアが出撃から帰って、先程試合を行った場所に戻る。
道行く間、少しだけレメディアが話しかけることをしてくれた。
このことにタカは嬉しさも感じることとなる。
そしてさっきの場所に到着すると、そこには葉月とリックがいつのまにやら本気でやりあっていた。
二人とも真剣な表情をしているので、どうやら試合が過熱した結果であろうとタカは判断する。
この後出撃が控えている事を忘れるほどやり合っていたため、結局タカとレメディアはフォローの為にもう一度出撃をすることとなった。
これにより葉月とリックはタカとレメディアに、其の日一日逆らえることはなかった。
これが今日のタカの一日である。