「はにほー」
アリスソフト伝統の敵であるハニーが向かってくる。
タカはそれを迎え撃つ形でバット片手に突進する。
「ハニーフラッシュ!」
その言葉が紡がれると同時に、ハニーの口からワッカ状のビームが放たれる。
しかしタカはその攻撃を甘んじて受ける。
当たった瞬間にタカは痛みで顔をしかめるが、覚悟していた痛みなので思考が遮る事はなかった。
そして、
「砕け散れ、埴輪!」
ハニーフラッシュを放って硬直したハニーを破壊するのであった。
「ったく、覚悟してたとはいえきついな」
攻撃を受けた場所がズキズキ痛むが、撤退するほどの怪我ではない。
「無邪気すぎる埴輪見てると和むけど、戦闘時はさすがになあ」
ぼやきながらタカはすぐに近くにいる敵に狙いを付ける。
次の敵で体力的にもノルマも最後なので突撃していく。
そのまま突進の勢いも込めて、思いっきり振りかぶる。
「塵は塵へ、モンスターは壁のタペストリーとなって刺さっとけー!」
新たな台詞のレパートリーで、タカは敵を回廊の壁にブッ飛ばした。
そしてブッ飛ばされた敵は、タカの言葉通りに壁へとぶつかって沈黙した。
「うし、ノルマ完了♪」
そう言いながらタカはにっこりと笑った。
そしていつものようにバットを肩に担ごうとした時、
「あ、バット」
担いだ時に違和感を感じたので、見てみるとバットが曲がっていたのだ。
「あらら、遂に寿命来てもうたか」
毎日モンスターをぶったたき、何十回もホームランし、時には摸擬戦で十人十色の武器とぶつかり合っていたのだ。
元はただの金属製バットなので、これでもよくもったほうだとタカは思う。
「しゃーないか、とりあえず新しいバット作ってもらうしかないか」
手に馴染んでいた愛用のバットを残念に思いながら、タカは呟く。
そして撤退しようと思った矢先、
「タカさん危ない!」
背後から聞こえた自分への警告。
タカは即座に振り返る。
すると豚モンスターが自分に向かって得物を振りかざさんとしていた。
タカは瞬間的にバットを、豚の得物の斜線上に構えた。
そのまま振り下ろされた豚モンスターの得物とバットがぶつかり、火花が散る。
この防御が功を成し、タカはギリギリのところで豚モンスターの攻撃を防ぐことができた。
しかしタカのバットは更に曲がり、最早武器としても盾としても使うことが出来なくなってしまう。
このことにタカは舌打ちするが、身を軽くする為すぐにバットを手放す。
そのまま豚モンスターと間合いを離し、素手で戦う構えをする。
左半身を後ろに引き、右手を前に、少しだけ前傾姿勢になりながら豚モンスターを見据える。
後ろに振り向いて撤退しようとすれば、確実に後ろから凶刃を受ける事となる。
タカはそう思いながら、豚モンスターの一挙一動を見逃すまいと睨みつける。
しかし豚モンスターは武器の無くなったタカを軽く見たのか、ニヤリと顔を歪ませながら突っ込んできた。
この行動にタカは、かなりイラっときた。
まず一つがその醜悪な面を更に醜悪に見せた事。
二つが武器が無くなったからといって、自分を簡単に倒せると思ったこと。
そして無策に突っ込んできた事。
これが一瞬でタカの脳裏に浮かんだ結果、
「豚の分際で、人様舐めんなー!」
カウンターでおもいっきり豚モンスターの顔面を左ストレートで殴った。
豚モンスターは殴られた反動で、そのまま吹っ飛ぶ。
しかしこの程度ではタカの怒りは収まらない。
殴った勢いで、そのまま豚モンスターに接近し、今度は右足を豚モンスターの腹に振りぬく。
豚モンスターが腹を押さえて顔を下げた時、タカは今度は左足を腰まで上げると、
「ヤクザキック!」
豚モンスターの顔面に靴跡をつける位の威力で蹴る。
「ブキーー!」
そして豚モンスターが悲鳴を上げて、仰向けで倒れて動かなくなった。
それを見てタカは鼻息を少し荒げながら、
「今度は両生類からやり直して来い」
ある意味決め台詞みたいなことを言いながら、先程捨てたバットを拾って撤退した。
ちなみに警告してくれたメンバーにお礼は忘れてはいない。
そして撤退したタカはナナスに報告してから、マスカットの元へ向かう。
「おーい、マスカットちゃんいるかー?」
「はーい、いますよー」
緑色の髪に眼鏡をかけた女性が出てくる。
横には謎生物キョホウがいる。
「マスカットちゃんに改造してもろうたバットやねんけど」
「ええ、聞いてますよ。壊れたみたいですね」
「うん、遂にバットに白旗上げられた」
「あれだけ使えばしょうがないですよ、じゃあ折れたバットください」
タカはマスカットにバットを渡す。
「うわあ、折れたところ以外も傷だらけの上に、ヒビはいってるじゃないですか」
マスカットがバットをしげしげと見ながら言った。
「となると、これ以上に頑丈にするには密度をいじると重量がかなり加わりますね」
「う、それは勘弁して欲しいな。今の重さがちょうどええし、それ以上重なったら敏捷性落ちて戦闘に支障出る」
「ええ、それは重々承知です。ですが現状維持だとまたすぐに壊れるでしょうし、其の上敵の強さが増せば更に消耗頻度が増します」
「むう、すると重量そのままで物質だけが違う物用意する必要があるってことやな」
「無論硬度が優先ですけどね」
タカはマスカットの言葉に、きつい問題だなと思いながら腕を組む。
「どちらにしてもまずは武器が必要です。キョホウに新しいバットを作ってもらいますから、この問題は一旦先送りにしましょう」
「お願いするわ、武器なかったらさすがに戦えん」
「ふふ、先程の素手の戦闘だとパットンさんみたいにプロテクターだけあればいけるんじゃないですか?」
「勘弁してくれ、さすがに格闘戦をし続ける自信はない」
タカも体育会系なので素手の喧嘩はいくらでも経験あるが、さすがに命掛かってる状態での武器無しはお断りである。
「じゃあ、明日まで待っててください。現状維持になりますがそれで何とかします」
「ありがとう、よろしく」
「はい、ではでは」
マスカットがキョホウにバットを渡すのを見ながら、タカも部屋から出て行った。
そして食堂に移動するタカ。
「そっかー、タカさん遂に武器変えないといけないんだ」
「うん、まあ俺の世界でやと大量生産で作られる代物やからね」
タカの目の前で話すのは金色の髪の毛で元気な娘のラミカ。
「ふええ、大量生産な武器でこれまで戦ってたんだ」
「てかバットは本来武器じゃなくてスポーツ用やけどね」
「……何で武器で戦ってないの?」
「俺にとっては10数年使い続けてる品物や。あれが一番使いやすいんや」
子供の頃から野球していたタカにとって、バットは一番手に触れていた時間が長い。
ヘッドスイングをいかに速く、バットを狙い通りの場所に振る。
そしていかにして投手の投げた球を打ち返すかを考えてきた。
そんなタカにとってバットは大切な相棒である。
「うーん、よくわからないけど、とにかくタカさんにとってバットは必要なんだよね?」
「そゆこと、武器とか関係無しにあれが無いと落ち着かん」
タカはナイフで肉を切り分けながら言った。
「タカさんの戦い見てると、確かにバットじゃないと違和感感じる」
「まあバット以外で戦えいうんやったら、後はボール投げかな?」
「ボール投げ?」
「掌サイズのボールを敵に向かってぶつける」
つまりピッチャーの真似事。乱闘したいなら思いっきり顔目掛けてぶつける事お薦め。当たらなくても二回連続でやれば絶対怒るので喧嘩したいときはいいかもしれない。退場処分はデフォルト。
「それ、戦い?」
ラミカが眉を曲げながら、サラダを口の中に入れる。
「コントロール悪いから味方に当たるからやりたないけどね」
ちなみにタカはピッチャー出来るコントロールもキレも無いので、投手経験は試しぐらいである。
ついでにボールぶつけるにも近くじゃないと威力は無いので、近づいて投げる時間があれば、メリケンサックでも装着してぶん殴ったほうが効率的である。
「……バットの問題早く解決するといいね」
「そやね」
ぐだぐだな話をしながらラミカとタカは食事を終わらす。
その後のラミカは出撃の為、タカと別れる。
タカもバットの問題もあるが、もう一つは戦い方を考える事にする。
これまで通りバットで接近戦をしていくのは当然だが、遠距離攻撃できればいいなとは前から思っていた。
ピッチャーの真似事は既に却下だが、もう一つの方法としてボールをノック方式で打つという方法である。
これならタカとしても自信がある。試合で打球を狙った方向に打つのも野球においてはとても必要なことである。
ノック方式ならば大体狙った位置に打てると、タカは自信がある。
だが狙った位置であって、ピンポイントで出来るかと言われれば、タカはすぐにNOと答える。
さすがにそこまで完璧に出来ればタカはプロになっている。
「うーん、難しい問題や」
頭をガシガシ掻きながら、タカは渋い顔のまま呟いた。
「あ、待てよ。別に狙うって考える必要ないやん」
狙うのでなく当たればいいと考えると、タカは逆転の発想をする。
「よし、そうと決まればマスカットちゃんに頼むか」
タカは踵を返して、マスカットの部屋に向かう。
そして翌日の出撃にラミカと一緒に出ることになる。
そこにはバットと一緒にマスカットに頼んで用意してもらった品物。
「さてと今日は遠距離攻撃してみせよか♪」
「え? タカさん、もう思いついたの?」
「おう、今日はラミカちゃんより活躍してみせたるわ」
「あ、そんなこと言うんだ。私だってナナス君にいいとこ見せたいんだから負けないよ」
そう言いながらタカとラミカは出撃する。
ちなみにタカのバットは修復されたが、性能は現状維持でしかない。
五分後、
「タカさん、私は向こうの敵を相手するから、そっちはお願い」
「了解、早速新しい技やるチャンスや」
敵が両端から出撃し、二手に分かれるタカとラミカ。
ラミカはいつも通り弓を正射、そしてタカはマスカットに用意してもらった品物を空中に放り投げる。
その品物は空中でばらばらになり、それは小さなボールとなってタカの目の前に落ちてくる。
「ありがたく受け取らんかい、野球伝統千本ノック!」
そのボールをタカはお好み焼きのヘラ状態にしたバットで、ボールを何十個も同時に打った。
結果、ボールは凄い勢いで敵に向かって飛んでいく。
そして点ではなく面で攻撃された敵は、数十個のボールが体にめりこみ沈黙した。
「おし、遠距離攻撃成功」
ガッツポーズするタカ。
「……やっぱりタカさんは変」
一緒に出撃していたラミカに呆然とした状態で言われたタカ。
「それで、このボールどうするの?」
「……あ」
「後処理の事忘れるなー!」
「はっはっは、思いついたことで浮かれてたわ♪」
「普通に戦って!」
タカの遠距離攻撃問題も先延ばしすることになったのであった。