「さてとナナス君に次のローテーション表貰いに行こう」
出撃が終わってから、タカは疲れた体を軽く伸ばしながら呟いた。
異世界勇者を少しずつ召喚しているママトト。
その人数が増えてきたこともあって、ナナスが複数組のPTを作って出撃時間をナナスはローテーション表として作成している。
これがあるからこそママトトは安定した前進と絶妙な殲滅が出来る。
そこから一定の人数が増えた時、また緊急出撃もあるので数日に一回ナナスが作り直している。
しかしこれはナナスだからこそ安定した作成が出来るが、PTバランスやメンバーの体調・LV上げの順番等を考慮すれば、一日中ローテーション表と睨めっこしても完成度を上げるのは難しいのである。
実際タカもナナスが作成している途中のローテーション表を見せてもらった。
だがナナスが10分で作成しているところも、タカだと一時間以上悩んでも答えが出せなかったりする。
結果、ナナスが倒れればママトトは両手両足を捥がれるも同然に近いと、タカは認識している。
「今回のローテは結構きつかったけど、次はどんな面子になるかな?」
アリスソフトの人気キャラ達と共演出来るのだから、タカは誰でも基本的に歓迎である。
しかしさすがにアリスソフトは古い作品もあるので、タカも記憶から抜け落ちてるキャラや趣味に合わなかったり古すぎて簡単な内容しか知らないゲームもあるので、そこから出ているキャラはよくわからない面子もいたりする。
「つーかカナンってどのゲームのキャラやったんやろう? 全然記憶あらへん」
金髪の男性だったのだが、召喚された以上アリスソフトの筈と思うタカだが、記憶から引っ張り出そうとしてもいなかったりする。
「まあ、別に被害は無かったからええか」
考えすぎてもしょうがないので、タカの場合ある程度の思考で止めている。
歩きながら考えていたため、そろそろナナスがいる部屋まで到着するタカ。
「みゅ」
「わーい」
「うわ」
中から聞こえてくる小さな声に、タカは誰かいるのかなと思いながら扉を開けた。
「おーい、ナナス君ローテーション表貰いに……」
そしてタカはナナスの状況を見て、扉を開けた状態のまま硬直した。
そこには全裸の女の子と、下着姿で頭に兎耳と手に人参を持つ女の子モンスターきゃんきゃんがナナスに同時に抱きついていたのだ。
「……」
さすがにタカは突込みを入れようにも入れれない状況。
「し、失礼しました」
そっと扉を閉めたタカ。
というより、これ以外にどうしたらいいかわからなかった。
そのまま徐に近くにある城内放送が出来るパイプを掴み、
「ナナス君がアブノーマルな性癖になったー!」
城内放送となるパイプに声高々にタカは叫んだ。
すぐさまナナスが部屋から飛び出してくる。体にはきっちりきゃんきゃんと全裸の女の子が張りついているのはデフォルト。
「タカさん誤解です!」
「何が誤解や! きゃんきゃんと全裸の女の子を侍らせておいて、誤解もクソもあるか」
ナナスが血相を変えて言うが、しかし状況が状況なのでタカはその弁解を斬りおとす。
「レオの場合は従魔というご主人様と僕って関係で女魔物使いという職業やから、何とかギリギリ悔し涙流してやけど納得できる。
せやけどナナス君は軍師や、女の子モンスター二人も侍らしてる時点でアブノーマル認定やろうが!」
「僕はノーマルです!」
「問答無用! 今すぐミュラさんとアーヴィちゃんとラミカちゃんを呼んで、ナナス君を真人間にしてもらう為に連れてくるから、全裸で正座して待機しとくんや」
「何故全裸で正座なんですか!? しかも何故その三人!?」
「あ、それともミリの方がよかったか?」
ミリはランスシリーズのキャラ。召喚された時に報酬はナナスの童貞を貰うと豪語する違う意味での猛者。
「もっと嫌です、だから僕に弁明する余裕を下さい」
ナナスが必死な形相でタカの服を掴む。
「大丈夫やナナス君。君やったら好意持ってくれる女性はいくらでもおるんやからアブノーマルな道に走る必要無い」
しかしタカも半分平静でないので、普段だと口走らない台詞まで出てきてしまう。
「タカ! あんたはナナスに何言ってるんだい!」
後方から大きな声がすると共に、タカは後頭部に衝撃が走り、そのまま壁に顔からぶつかった。
「へぶ!」
「ナナスがアブノーマルな訳ないでしょうが! アブノーマルだったらとっくにあたしがその性根叩きなおしてるよ」
「そうですよ、僕はいつも父上から畜生道に入るなと口酸っぱく言われてるんですから」
タカ、ミュラとナナスにダブル反撃食らう。
しかし、そこはタカ。ダメージ回復後の台詞は、
「だったら、何で今も女の子モンスター二人に抱き疲れてるんや?」
「そ、それは」
ナナスが少し詰まる。
そしてきゃんきゃんと全裸の女の子は状況を読まずに、ナナスに抱きついたまま。
「ナナス、理由あるだろ? 大丈夫、あたしはナナスの言う事信じてるから」
そうは言いながらもミュラもナナスの状況を見て半分冷静でなくなったのが、すぐにでも抜刀できるようにしている状態なのでわかりやすい。
「ミュラ、言うから剣から手を離して冷静になって!」
「あたしは冷静だよ、ナナスを子供の頃から見てきたあたしにとってナナスがアブノーマルなんかになったら、王様にもアーヴィにも顔向けできないんだから」
「だから僕はアブノーマルじゃないってば!」
本人達は大真面目なのに、まさしくコントになっている。
タカもミュラが代わりにナナスに突っ込んでくれているので少し冷静になる。
そして思い出す、全裸の女の子を見てゲームのことを。
(あ、キッズのみゅうの変異種か)
そう、ゲームで一定数のキッズのみゅうを作成すると、登場する魔法使い型のキッズ。
移動力が全キャラ№1だが攻撃力最低で、殆ど使い物にならずに、速攻で三軍に放り込まれるだろうキャラ。
心の準備も無いままにナナスに抱きついてるシーンを見たため、タカも思い出す事が出来なかったのだ。
しかもきゃんきゃんも一緒だったため、余計に混乱してしまった。
そうとわかれば、タカも自分が原因とは言えナナスの擁護に回るべきと判断する。
「周囲にこんなに女性がいるってのに、見向きもしなかったのは女の子モンスターしか興味湧かなかったからなんだね?」
「違うってば! だからこの子達は僕の部屋に突然現れて抱きついてきたんだってば!」
(……面白いからもうちょっと見てようかな)
必死なナナス、最早正常な判断の出来ないミュラ。
下手な芸人漫才より面白いので見ていたい気もするが、フォローすることにする。
「あーナナス君。とりあえず其の二人引き離そう。ミュラさんも落ち着こう。ついでにナナス君、白衣借りるで」
タカはそう言いながら、二人を引き剥がし、同時にナナスの上着である白衣を剥ぐ。
そのまま白衣をみゅうに着させて、とりあえず女の子の大事な場所等を見えないようにする。
厳密に言うなら、きゃんきゃんの方も白衣被せて下着姿をなんとかしたいところであったりする。
「ナナス君悪かったわ。いきなりあんな場面見たんで混乱してもうた」
ナナスに謝罪しながら、ミュラの右手を抑えて、抜刀させないようにする。
ちなみにミュラの右手が柔らかいなと思ったりする。
このタカの行動によりミュラが少し力を抜いたように構えを解く。
「じゃあ信じてくれるんですね? 僕はノーマルだと」
謝罪されたことにより余裕が出たであろう、ナナスがノーマルであることを強調する。
「うん、まあナナス君にそんな度胸ないやろうし」
「……それはそれで心外なんですけど」
「で、とりあえず聞くけどきゃんきゃんはともかく、そっちの子は心当たりは?」
タカはみゅうを指差しながら、ゲーム上で知ってる事ではあるが問う。
「えっと、多分みゅうの変異種です」
「キッズの変異種? そんな事あるのかいナナス」
ナナスの返答にミュラが更に問う。
「うん、出てきたばっかりだからこれ位しか言えないけど、キッズ作成は擬似生命を作り上げるシステムだから、何かの要因で出てきたんだと思う」
「つまりバグみたいなもん?」
「そうなりますね、ただ僕達に対する敵対心は無いだろうから問題は無いと思います」
「まあ、敵対心あったらナナス君に抱きつく訳無いか」
三人の話を理解していないであろう。みゅうはニコニコしながらナナスを見ている。
「んで、きゃんきゃんは?」
次の問題であるきゃんきゃんの事を問う。
「えっと、そっちは現れていきなり抱きつかれたとしか」
「……きゃんきゃんだしねえ」
ミュラがきゃんきゃんを見ながら疲れたように言った。
アリスソフトにおいてきゃんきゃんは最下級女の子モンスターだが、その無邪気な笑顔と心と懐きにより、凶暴な男の子モンスターでさえ攻撃しないと言われる。
また冒険者にとっても攻撃すると、人によっては罪悪感を感じる女の子モンスターでもある。
「とりあえずみゅうときゃんきゃんに服着せよう、いくらキッズや女の子モンスターでもママトト内でこれは問題ある」
「……同感だね、あたしとしても同性が城内で破廉恥な格好でうろつかれるのは気分悪い」
タカは自分の理性を保つために、ミュラは女性として言わねばならぬであろう言葉で言った。
「つうわけでミュラさん、この二人の着替えお願いしていい?」
「了解、んじゃ二人は連れて行くね。それとアーヴィとラミカに説明しておくよ」
「よろしくー、騒がしてごめんな。ミュラさん」
「あんたとナナスの漫才は面白いけど、今回みたいなのはもう勘弁してよ」
「僕は漫才したいわけじゃないんだけど」
ナナスの言い分をタカとミュラはスルー。
そしてきゃんきゃんは結局ニコニコしたままミュラに付いていき、みゅうはナナスの白衣に包まれたまま連れて行かれた。
この後、ナナスとタカは城内放送で新たにきゃんきゃんとキッズのみゅうが仲間に入ったことを告げる。
だが城内放送にて会話が筒抜けであった為、放送を聞いていたメンバーの殆どは理解していた。
これにより結果的に城内放送コントとなったのでリクエストまで出てしまうこととなり、ナナスは頭痛が起きてしまうのであった。
そして後日タカは出撃時間となり出撃部屋に向かう途中、
「わーい、遊んで遊んで」
きゃんきゃんがタカの眼前に現れ、構ってほしいというストレートな言葉を言った。
「って、俺はこれから出撃やねんけど?」
「じゃあ、わたしも一緒に行くー」
「……ほんまに無邪気やな、この子」
タカはきゃんきゃんの無邪気な笑顔と行動に、出撃前にも関わらず穏やかな気持ちになる。まるで小さな我が子のような目で見ながら微かに微笑むタカ。
今日も今日とて賑やかな騒ぎと戦闘が絶えないママトトであった。
カナンと黒崎社長が召喚された時、こいつ何のゲームキャラだっけと調べた後、即座に三軍に放り込んだのは私だけじゃないと信じたい。