「シロウ、貴方を愛している」
たった二週間、彼に召喚されて戦い続けた聖杯戦争。
私は自らの存在を消し去ろうと、それが我が国を救う手段と信じ続けた。
だがそれをシロウは間違いだと私に言った。
私に救われた人達がいる。私に感謝した人達がいる。
だからアーサー王は今もイングランドで英雄と語り継がれていて、そして母国の危機があれば、眠りより覚めて立ち上がるのだと。
私の生涯は無駄ではなかったと、シロウは教えてくれた。
それが私の心を満たしてくれる、いつか私は再び立ち上がるときが来る。
だからそれまで私は眠りに付こう。
先程まで私の眼前で見送ってくれた愛しい人を脳裏に浮かべて。
そして見取ってくれたベディヴィエールに心底からの感謝をしながら。
「すまないな、ベディヴィエール今度の眠りは長く……」
眠ろう、この晴れやかな気持ちのままに。
それからどれほど眠り続けていただろう。
傷は当に癒えており、私の心もシロウにより晴れ渡っている。
逢いたいと思う時は来るのかもしれない。
ただそれはこの想いを叶えたいだけなのだろうか?
「アルトリアよ」
眠り続けていた私の耳に、聞きなれた懐かしい声がする。
「起きなさい、騎士王よ」
その声に郷愁を感じながらも、私は眠りを妨げられた感情を少し入れて、声を発する。
「マーリン、私はもう王ではない」
「いーや、お前は王だよ。例えお前が王として存在していた時代は過ぎていようとも、この国の人間はお前を誇り高き騎士王と言う。
そして国が危機に瀕すれば、騎士王は眠りより覚めるのだと」
「ならば私は眠り続けている方がいい、私が起きるという事は国が危機に瀕するという事。
英雄を欲する事は、本来ならば悲しい出来事が起こるという事なのだから」
シロウと出会って教えてもらわなければ、このような言葉は私からは出なかっただろう。
だが今の私は守護者でもある。
例え聖杯を手に入れていなくても、例えエクスカリバーをカリバーンをアヴァロンを持っていなくても、私は英雄なのだから。
「だからこそお前は起きなければならない、守護者としてでなく母国の英雄であり騎士王として、だ」
「つまり我が母国が危機に瀕していると?」
「そうだ、海を隔てて争った国が、一千の化け物を連れて戦争を仕掛けてきた。
それらに立ち向かうのは母国の騎士であり、同じ化け物でもある。
首都は阿鼻叫喚の地獄絵図、人は死人と化し、躯は燃え盛り、夕闇は赤に染まり続けている」
それはまさしく戦場。
それはまさしく危機。
ならばそこで泣いている人々は私を求めているのか?
アーサー王を、騎士王を。
「行きなさいアルトリア。
後悔も迷いも無くなったお前は、私が何よりも誇れる王だ。
さあ持っていきなさい、星振る聖剣を、鞘を、その気高き志を」
そうしてマーリンは私にアヴァロンの中に納まったエクスカリバーを手渡してくれる。
手渡されたエクスカリバーはアヴァロンの中に収められ、その重みが私に懐かしさを感じさせてくれる。
右手で緩やかな動作でエクスカリバーを引き抜けば、手に馴染んだ感触が私の意識を呼び起こしていく。
円卓の騎士達と共に戦い抜いた時代が掘り起こされていく。
そしてシロウと共に戦い抜いた聖杯戦争。
彼を愛したこの気持ちと、ただ只管に母国を救おうとしてきた時の思いが甦る。
もう迷う気持ちも無く、ただ一人の騎士として、ただ一人の女の子としての自分がある。
そして今求められているのは、騎士としての自分。
ならば行こう、皇国の英雄だからこそでなく、母国を守りたいという純粋な思いで向かう一人の若者のように。
そう決めた時には、私を守り続けた白銀の鎧が私の身を包む。
戦場へと向かう準備は整った。
意識は研ぎ澄まされ、全身からは溢れんばかりの魔力が私から飛び出そうとする。
「行ってくる」
マーリンに背中を向けて、私は妖精郷より出立する。
向かうはロンドン。
共に征くは我が剣と鞘と志。
「剣の騎士アルトリア=ペンドラゴン、これより夢幻から現になりて、一夜の平定を成さん」