短編・中編まとめ   作:ayasaki

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眠りより覚めて一夜の平定を 二話

Side:少佐

 

 それは降下した部隊の一つの凶報より訪れた。

「ツヴァイ小部隊強襲を受け交戦中」

それを聞いた私が思ったのは、アンデルセン含むイスカリオテが部隊に強襲を行ったのかと考えた。

だが数秒後にはヘルシング家当主、インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングを捕らえるべく、そこにイスカリオテが現れ戦闘中との報告が来た。

これにより、私は眉を顰め奇妙な感覚に陥ってしまう。

 吸血鬼戦闘集団を相手に交戦出来ることなど、イスカリオテとヘルシング以外の役者などありえない。

ただの軍隊など、只管に蹂躙され虐殺され我らの途を阻む事など出来るわけもない。

だからこそ私の気を惹く。

 ツヴァイ部隊の敵となった者に。

そして私は目撃する。

白銀と青で彩られた、美しく麗しくも異物でもある騎士の姿を。

青と白銀に包まれた鎧。

誰もが美しいと思わせ釘付けになってしまう顔に、吸い込まれそうなほど清澄な瞳。

髪の毛一本一本がまるで金色の宝石のように輝いている。

その全てが完璧で在れと最初から決められていたかのような肢体と姿態。

外見だけでも、それはまるで戦う女神と見紛う程、美しく麗しい。

だが私にとっては違う。

それは騎士の目が表情が語っている。

何者にも譲らない、立ち向かう、粉砕する、切り伏せる、邁進する。

其の道を塞ぐというのならば、鎧袖一触の名の下に斬り進む。

その意志が全身から溢れ出し、その意志こそが騎士の魅力。

ああ、それはまさしく純粋で無垢な想い。

我らのような戦争狂にとっては眩し過ぎる。

だがそれが想いだけならば、我らにとっては我らを満たすナニかにはならない。

純白に彩られたと表現していい騎士よ。

 ならば君はこの地で何を成すのかね?

大英帝国王立国教騎士団HELLSING。

ローマ・カトリックヴァチカン教皇庁・第九次空中機動十字軍。

ドイツ第三帝国NSDAP私兵集団武装親衛隊・吸血鬼化装甲擲弾兵戦闘団「最後の大隊」

舞台は大英帝国首都ロンドン。

霧の都・魔都とも呼ばれる大英帝国が誇る。

だが今は死の都という言い方こそが、狂都と言うほうが相応しい。

黒を更なる黒で塗りつぶし、そしてまた塗りつぶす。

化け物と死人が住人で、ロンドンは棺。

棺の中は蟲毒を作り上げるためのように、喰らい尽くして喰らいあう。

だが私にとってはこの掌で踊り続けている想定内の出来事でしかない。

なればこそ、私は勝利と敗北を同時に手に入れるだろうと思っていた。

だからこそ私は、黒以外の色で塗りつぶそうとする者は役者として認めない。

「騎士よ、君はただ場を自慰行為で乱す役者でしかない。

ぶちまけられた絵の具が乾かぬうちにまた塗り重ねて、油絵が立体絵と化すほどまでに重ねていく。

だが自己満足にしかならない絵で、観賞するものでなく、多くは吐き棄てるであろう。

多くは描き直しを望み、少数は更なる重ね絵を望む。

そして騎士よ。君は描き直しでもなく重ね絵でもない。

例えそれが観客が望もうとも、例えそれが高潔なる意志であろうとも、例えそれが君自身が望む事であろうとも。

君は部外者でしかないのだよ」

 

 

 

Side:マクスウェル

 

「死刑! 死刑! 異教徒である貴様らなど神は許されない。

そのような奴らに慈悲さえもおこがましい。

生きているのならば死人と共に、物言わぬ躯となるがいい!

死人であるならば、我らの脅威に腐臭を漂わせて聖痕として受けとれ。

それを受け取れる事が貴様らには写し世で在れたことを尊べ。

信仰にヴァチカンに、神の恩恵に咽び泣いて穢れた命を奉戴せよ。

熱狂的再征服に頭を垂れよ。

AMEN!!」

武装ヘリが中隊規模でミサイルを放つ。

前方にある全てを肉隗にする為に、鋼の物体をスクラップにする為に。

それでも残ったのならば、更なる神罰の地上代行が待っている。

クールランテ剣の友修道騎士会。

カラトラバ・ラ・ヌエバ騎士団。

聖ステパノ騎士団トスカナ軍団。

マルタ騎士団。

そしてイスカリオテ。

これらで編成された第九次十字軍が英国の宗教裁判を取り仕切る。

デブ! 貴様らの部隊など口実にして序だ。

異端も化け物も駆逐されて、焼け焦げた籾となって欧州の養分になるがいい。

「武装ヘリは機械仕掛けの神の化身となりて、鉛をぶちまけろ!

刃を持ちし者達はその身に大天使ミカエル様が降りてこよう。

重火器を持ちし者達はその身に大天使ウリエル様が降りてこよう。

言葉を放つものには大天使ガブリエル様が降りてこよう。

第九次十字軍には大天使ラファエル様が降りてこよう。

神が遣わされた大天使様に、祈りを捧げよ!」

今日という日に英国はヴァチカンのモノとなる。

それを成し遂げるのは大司教である自分。

優越感が俺の心が外ににじみ出ていくほど震えていく。それは快楽にも似た麻薬。

歴史に名誉という名の文字を刻み、後世にまで伝わり憧憬を抱かれること。

俺を馬鹿にしていた奴らには信じられずに、リピートを繰り返すテープのように否定の言葉を現実だと思い込む為に言い続けるのだろう。

だが、自己を慰める為の言葉も忘れさせてやろう。

俺こそが大司教だという事をムンクの叫びに様に思い知らせてやる。

「撃て! 放て! 砕け! 崩せ! 潰せ! 嬲れ! 弄べ!

我らの前方にいる敵を根切りにせよ!

あの敵を殺せ! この敵を犯せ! その敵を侵せ!

英国を浄化せよ! プロテスタントを浄化せよ! 化け物を浄化せよ!!」

そうして俺の舞台は更なる展開へと繋がっていく。

 

 

Side:インテグラ

 

弾幕が豪雨のように降り注ぐ。

そしてそれを命じるマクスウェルがいる場所を、私は睨みつける。

「これが貴様の答えか、マクスウェル」

英国の誇りが眼前で崩壊せしめていく光景を目の当たりにしながら、私は歯軋りをする。

「答え? プロテスタントとカトリックの行く末など当に決まっていた。

それが目の前で起こっている現実に過ぎん。

力は力でしかなく、言葉という力が通じぬという事であれば、所詮暴力という力で全ては決められる。

その使い方を決めるのは、その力を持ったものだ!」

私が紡ぐ言葉にアンデルセンが答える。

しかしその表情はマクスウェルの行動を賛同しているとは言えない。

むしろ、冒涜するかのように吐き棄てる声色。

「だが、これは神の御意志を表現しているのではない。

マクスウェル、お前は神の力に酔いしれ、神の力に憧れ、神の力に跪いている。

力を使える立場となった自分に、力を振るえる自分を手に入れたことで見失った」

「ならばそれに対し、貴様はどうする?

特務局第13課イスカリオテ機関「聖堂騎士」アレクサンド・アンデルセン」

「それを貴様が問うて何になる?」

私の問いをアンデルセンが答える前に、イスカリオテのメンバーの一人であるハインケルが間に入ってくる。

そして流れるように私に、銃口を突きつける。

「神父、最早彼女の送迎は終わりです。

マクスウェル大司教より彼女を拘束し、連行せよ! とのご命令です」

ハインケルが言い終わると同時に、その他のイスカリオテも私に鉄を向ける。

だが、

「気に入らねえ」

アンデルセンの声量は大きくない。

しかし、イスカリオテのメンバーにとってアンデルセンの言葉は重い。

最強の戦力であり、実行部隊統率者であり、何よりも積み重ねてきた重みが違う。

だからこそハインケルの表情が、迂闊に触れば神罰を受けるかのような声色と表情を見せているのだ。

「それでも、――――――これはご命令です。

アンデルセン!!」

自らを奮い立たせるためだろう、語気を強めてハインケルが言った。

「気に入らねえんだよ!」

「同感です。何より私自身も気に入らない」

 っ!!

「誰だ!?」

ここにいる全員の気持ちを代弁する言葉。

そして私は声の主を見た瞬間に衝動が体を襲った。

それはまるで英国人ならば跪いて、頭を垂れなければいけないという無意識の行動。

しかしこの身は英国貴族。

女王陛下にしか最大限の礼儀は存在しない。

なのに私は衝動的にその礼儀を払いそうになったのだ。

「私が何者かなどどうでもいいでしょう。

ただ私はこの国の危機を救いたい。

ただそれだけの為にここに来た。

そしてこの国を愛する人達の為に、この国の敵を倒すまで。

その道中でこの国の民を傷つけようとしたお前達がいる。

だから問おう。

お前達はこの国の敵となり、この国の民を害するのか?

お前達は我が敵となり、この国を救おうとする我が障害か?」

その言葉が言い終わり次第、騎士と表現するしかない彼女から、とてつもない威圧があふれ出す。

そう、彼女。

私よりも体格は貧相で、若く見え、武が感じられるような外見では決して無い。

なのに今の彼女を見れば、私は即座に否定する。

英国貴族として誇りある自分でさえ、彼女のたたずまいを見るだけで一歩引いてしまいそうなのだ。

「は、ははははは!

とてつもない化け物のような戦気を惜しげもなく晒しながら、何を今更な事を言っている?

我らは神の代理人。

神罰の地上代行者。

我らが使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅する事。

貴様らが異教徒である限り、それは未来永劫不変なり!」

アンデルセンが言い終わった瞬間に、彼女に向かって、いや騎士に向かって駆けていく。

私もイスカリオテのメンバーもそれを、まるで観客のように見つめる事しか出来ない。

「はあああああ!!」

自分が踏んでいた大地を踏み砕くような爆発的な衝撃が、騎士の後ろで舞い上がる。

そしてアンデルセンの銃剣と騎士の剣がぶつかった瞬間――――――銃剣が粉々に砕けた。

アンデルセン自身は傷ついておらず、ギリギリで回避していたのであろう。

「っな!!」

日本刀を持っていた黒髪の女が驚愕の声を上げる。

だが私とてそれは同じ。

あくまでも思考という言葉より速く紡げれる回路だからこそ、状況への反応に間に合っただけ。

「っしい!!」

アンデルセンが次の銃剣を懐から用意しようとするが、騎士がそれを許さない。

全ての攻撃が一撃必殺の斬激を繰り出し、アンデルセンを仕留めようとする。

最早私では目も追いつかず、呆然と見ることだけ。

しかし、

ガンガンガンガンガン!

その音が響く前に騎士がバックステップした。

「貴様の敵は神父だけか?」

ハインケルとイスカリオテで銃を携えた者が、一斉に銃口を騎士に突きつける。

それと代わって日本刀の女が私の前に立つ。

先ほど驚愕していたにも拘らず、神父への援護と私への拘束続行を続ける連携となった行動。

だが、

「この大地の敵は全て我が敵。

そしてその言葉はそっくりそのまま返そう。

お前達の敵は眼前にいる私だけにしか向いていないのか?」

そういうこと。

私は葉巻を咥えなおして、一瞬だけ瞬きをしてゆっくりと目を開く。

「少し遅れましたか? インテグラ様」

「問題無い」

我が下僕であるその従者がここに来た。

その成りは前と明らかに違う。

闇を携え、敵を躊躇無く潰す心。

そして形を変える左腕。

下僕は囮となった強襲狙撃兵とその砦を破壊し、英国を死都にする敵を侵食する為に戻ってくる。

従者は我が護衛をする為に、そして自分の主に従うべく。

だがそれは一つの理を示す。

「本部は壊滅か?」

「はい、敵はやっつけました。ですが本部は全滅です。

ベルナドットさんも……」

その言葉で私は理解する。そして無駄な確認を行う。

「セラス、お前はベルナドットの血を吸い、吸血鬼になったのだな」

「はい」

「……吸血鬼でありながら、貴方はこの国を守るものか?」

騎士がセラスを見据えながら言った。

「私はただ、あいつらをやっつけちまいにいきます」

それは誓い。

ベルナドットの血を吸い、そしてベルナドットと約束した事であろうか?

私から見れば、セラスの表情は清々しく、そして綺麗に見える。

今宵、まさしくセラスは変貌を遂げ、ドラキュリーナと化したのだ。

「であるならば、私の剣を向ける切っ先は貴方ではない。

道中で殲滅し続けてきた吸血鬼部隊達と、死人と化した我が民。

それを纏める統率者と狂信者はこの国の敵と認識している。

ではもう一体の吸血鬼は?

嘗て海を渡り、この国に猛威を振るおうとして敗れた彼を」

その言葉を騎士は告げる。

そして宵闇の海を見る。

同じように宵闇の海を見るアンデルセンが、生まれた時から待ち焦がれたと言っても過言ではないという思いを表現するかのような声で言う。

「闇が来る、黒渦が来る、混沌が来る、悪魔が来る、魔王が来る、化け物が来る、吸血鬼が来る。

大嫌いな水の上で猛威を振るった砦のように、その砦を仮宿にして馬車にして。

影がオールとなって波紋と共に慣性を生み、躯と化した鉄が浮力を与える。

十字架と化したマストが帆を張らして風を受け止めて、そして幽霊船の主を死都へと誘う。

最後の大隊が作った死都を台無しにする為に、熱狂的再征服を台無しにする為に。

夜を迎えて薄化粧を付けたロンドンに舞い戻る為に。

月が赤く見えてしまうほどに反射する大地を啜る為に。

食屍鬼となった英国人をぶち殺す為に。

一度潰しても、諦めの悪い奴らが執念深く狙う奴らをもう一度潰す為に。

異教徒の国を亡ぼさんとする我らを撃ち砕く為に。

己がマスターの命令に従う為にあいつが――――――来る!!」

 

セイバー視点

 

この戦場にいる誰も彼もが、ただ一点を見つめている。

歩くたびに命を食い荒らす存在に。

存在しているだけで敵を作り続ける彼に。

彼が言霊を発する度に震え続ける鉄の砲口に。

砲口を放つ白銀と黒鉄の矛を携えた化け物に!

『お、ぉ、お! お、お、おお!』

ここにいる誰も彼もが、ただ化け物を活目しながら、訳も分からぬままに発された言葉。

私とて初めて見た存在に打ち震え、エクスカリバーを持った手に力が入る。

我が敵ならば断ち切ろう。

だが今、彼の眼前に立つのは今は私ではない。

彼の者の前に立つは神父アンデルセン、そして戦争を仕掛けてきた軍団の兵士。

あの二人はある意味別格なのであろう。

そして私と同じく、彼の者と闘える者であろう。

彼の者は、この国の騎士団の長である彼女の下僕とマーリンより聞いている。

しかし、それはあくまでも今この時を生きる彼女がいるからでしかない。

だから彼の者という化け物は、その理を欲するのだ。

「我が主よ! 私に命を下せるただ一人の主よ!

 命令を、命令を寄越せ! マイマスターインテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング!!」

ならば彼女がいなくなれば、彼の者が持つ牙を剥き出しにする可能性はゼロではないのだから。

「我が下僕よ。鬱屈とした真紅を踏鞴して、有限の獣を闇に染める吸血鬼よ。

お前の主にして、王立国教騎士団の長である私は命ずる。

高潔なる大英帝国を根切りにせんとする。表を純白で彩りながら裏を腐黒に染まった異教徒を惨禍にして、その腐血を酸化させよ。

我が王立国教騎士団を、お前を打ち倒さんとする。お前に敗れた50年前の遺物を、塗り替えることも出来ない黒を融解して根絶せよ。

有象無象にして蔓延り、森羅万象にして彷徨う奴らを、迅速果断に撃滅せよ!

この地で己が怪力乱神を起こせ。

この地で酔生夢死で狂い続けようとする下種どもを活殺自在にするがいい。

この地で混沌と化して解放せよ!

私は命じたぞ、吸血鬼アーカード!!」

【了解 認識した 我が主】

なればこそ私は決断する。

第九次十字軍は敵ではあるが、その数の脅威はお前ほどではない。

最後の大隊も敵ではあるが、その脅威は私が取り除ける。

お前の前に立つ二人も我が敵。

しかし、その二人は私よりもお前を見ている。

お前こそがこの闘争の中心にして根源。

でなくば、私が目覚める機会はまた訪れよう。

吸血鬼よ、貴様は私の、そしてこの国の――――――敵だ。

 

 

Side:死神

 

 ずっとずっと待ち望んでいた時が、もう間も無く訪れようとしている。

 全てをオールインしてまで、私はもう一度全盛期ともいえるこの肉体をある意味取り戻したのかもしれない。

 老いさえも楽しむという、意地も張れぬ繁栄などお断りと言った私さえも捨てて。

 それでも私はあいつに勝ちたいのだ。

 あの50年前のあの時から、ずっと奥底で望んでいた。

 たとえ、それが一夜の夢であろうとも。

「アーカード、インテグラ、セラス。

 私は私の意志で。

 この糸は死神の鎌を模す。

 微塵の容赦も無く、一切合切の躊躇も無く、私はHELLSINGを、アーカードを倒す」

 

 

Side:アーカード

 

 喰らい続けてきた命がここにある。

 それは私の所有物にして、力となる全存在。

 城壁にして兵隊。

 盾であり矛でもある。

 しかし、いつか私から解放されねばならない命達。

 最後の大隊よ。

 イスカリオテよ。

 お前達はどこまで立ち向かう?

 いつか人間に倒されねばならない私を。

 人間でいることに耐えられなかった私を。

「光があれば闇がある。

 一方を手に入れたものは、もう一方も欲しくなる。

 手に入れられなかったからこそ、それは深い欲望となって離れられない糸となって縛っていく。

 その糸はお前を蝕もうとするが、それに抗うも身を任せるもお前次第。

 それでも糸を断ち切る努力を諦めない。

 それでも糸を制御する事を諦めない。

 それは酷く簡単で難関で、それこそが人間である事の分かれ目。

 その行為が現にしても幻にしても、いつか自分に返ってこよう。

 忘れるな。

 掴む事の出来ない陽炎を掴めてこそ、お前達は人間なのだ」

 さあ、それを魅せてくれ。

【拘束制御術式零号 開放】

 お前達が人間だと言うのならば。

 

Side:アンデルセン

 

 崩壊していく。

 あの化け物が放った命が戦列を蝕み、更なる命を取り込もうとする。

 体中から闇を垂れ流して侵食していく。

 騎兵隊が槍で串刺しにする。

 馬が体当たりで吹き飛ばす。

 鉄の咆哮が体に穴を開ける。

 無数の手が闇の中に引きずり込んで喰らい尽くす。

 その数は十字軍と最後の大隊を合わせたところで、物の数にもならない。

 全ての命を叩き込むからこそ、この闇は全てを侵食する。

 ならばそれを放った化け物は?

 アーカードという城から出撃させたのならば、城に残るものがいる。

 そしてこの出撃は全ての兵士を解き放つ、奴の切り札にして最大の弱点。

 だから城に残るは王ただ一人。

「……ああ、そういうことか」

 なるほど、俺は唐突に理解する。

 これこそがあの狂った少佐の狙い。

 吸血鬼アーカード。

 命を数え切れないほど内包していた奴は、群れで一つの塊。

 その時にいくら殺しまくろうとも、所詮は塊を削いでいく作業にしかならない。

 それは馬鹿でかい山脈から土を削り取り、山脈の地下にあるたった一つの根幹まで掘りつくせという途方も無い作業。

 その過程をブッ飛ばし、一気に根幹へと辿り着くためには、アーカードから出てこさせなければならない。

 だがその為に必要なのは、仕えるべき主の命令とその舞台となる大地。

 そして一で埋め尽くすには余りにも時を要する敵という名の海原。

 だからこそ、だからこそ城主は全てを吐き出す。

 全てが生贄であるからこそ、王はそれを飲み込む為に。

 

Side:少佐

 

「起においては順調に終わりを迎えた。

 承においては部外者が現れども、大筋は変わらなかった。

 転が幕を上げ、盛況はここから。

 50年前から決まっていたチェックメイトを間も無く手中にしよう。

 全部一緒くたに詰め込まれて、全部ぶちまけて。

 度し難い化け物を倒すために、悪魔の爆心地へと向かう彼を見送ろう。

 人は頂があればこそ、それを踏み砕きたいと思えばこそ、更なる昇華を果たそうとする。

 障害があればこそ、その心は燃え盛り、その過程を慈しみ、その歩みこそが更なる潤沢なエネルギーを生み出す。

 それについて来れない敗北主義者は、勝者に奪いつくされ、知らず知らずに這いずりまわる」

 ああ、喉が渇く。

 出し物の佳境を理解していても、最後まで見届けたいと思う出し物こそ一級品。

 用意させよう。

 この出し物を楽しむ為に。




この後がどうしても纏まらず。
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