横須賀大本営上層会議。
そう聞けば誰もが大事に構えるであろう。
深海棲艦の出現により、島国である日本は常に脅威に曝されながらも戦っている。
であるからこそ、海軍首脳部の責任は重く、内容次第では日本が深海棲艦に制圧されるという悪夢を孕んでしまう。
現場で指揮をする提督と、実際に兵士として戦う艦娘にとってみても、大本営の通達は自分達の命が掛かっている内容なのだ。
「それでは、これより会議を執り行う」
居並ぶ歴戦の将校達。彼らの殆どは叩き上げで将校になった者たちだ。
提督は艦娘達を実際に指揮し、艦娘達から自分達の命を預けるにふさわしいと思えるほどの人物でなければならない。
功績をあげることだけを考えて、艦娘を使い潰す。
自らの欲望を満たすために艦娘を手籠めにしようと考える提督などがここにいるわけもない。
そのような提督は、海軍自体が任命できるわけもないのだ。
それが世間に漏れ出てしまえば、海軍の評価が下がり、引いては日本の危機となるのだから。
「まずは8月に発生した大戦略に置いては、大多数の提督達が攻略することが出来ました。
しかし、一部鎮守府は練度・資材不足により撤退を余儀なくされました。
ですが、予め攻略不可能と報告していた鎮守府。
援軍を早めに申し出た鎮守府には、近隣の纏め役であり高練度の艦娘が揃う鎮守府の助力により鎮圧されました」
なればこそ、現状を把握して正確な報告を迅速に行った鎮守府提督は評価される。
「また、積極的に正確な情報を大本営に伝達し、他鎮守府の制圧に役立たせた提督達のリストを此処に提出します。
彼らの尽力があるからこそ、制圧可能・時間的猶予・資材減少などのメリットは計り知れません
そして毎回大戦略に置いては手探りとなる中、自らが先陣に立って情報共有を行うことは特に大本営は有難く思う。
中には不確定な情報を流す提督もいるが、そのような提督は即座にブラックリスト登録されて、昇進することは無い。
「ご苦労、ではそのリストを元に彼らに対して褒章を授与するように」
そう告げたのは、海軍総司令。
今ほど深海棲艦と戦う戦力も技術も無い中で、艦娘達と共に戦い抜き戦果を挙げてきた誰もが認める海軍総司令。
「では、次の課題となりますが……各鎮守府の資源を補充するために、諸外国から輸入した資源の支出金額です。
状況としては納得できるのですが、財務省の官僚が泣きついてきてます。
国債を発行し、国連から資金提供。
資金の流れを包み隠さず公表して後ろ暗いことがないとはいえ、どうにかならんのか!? と……」
進行役である将校が言いづらそうに告げるが、参列している将校達が目を逸らす。
現場の提督達にとっては、国を引いては世界を守るために命を懸けて戦っているのだ。
目の前の脅威を退けるのに、現場にとってはお金など気にしている余裕などない。
しかし、いくら脅威を退けても支出があまりにも多ければ、補充するにも時間は当然必要とする。
勿論、輸入に関しては深海棲艦の関連である以上、不当な値上げなどは出来ないため、国際規定に定められた金額で購入はしている。
だが、莫大な資源を購入するので、金額が膨れ上がるのはどうしようもないことだった。
結果として、国家予算の軍事費は毎年借金まみれとなり、関連部署は胃薬と頭痛薬を経費として認められているほどである。
「金食い虫である自覚はあるが、こればかりは……なあ?」
「そりゃあ、手段を選ばなければ艦娘達をプロバカンダに使ったり、独占契約みたいにして戦闘動画を流しての集金方法とかはあるがなあ?」
「ある程度は誤魔化せますけど、深海棲艦だって馬鹿じゃありません。こちらの海軍力が上がっているのと同様、毎回何かしらの脅威が出て支出は増えてます。
いくらか収入が増えても焼け石に水じゃありませんか?」
何人かの将校が反応するが、軍人である彼らからすればビジネスにもなることなど門外漢でしかない。
とりあえずお金に関する事は次回の会議でと、横に置いておくこととなる。
そして最後の課題であり、海軍の専らの頭痛の種が浴びせられる。
「最後の議題です。今大戦略にて各鎮守府より多数のケッコンカッコカリ申請が届いております」
そうこれこそ現海軍上層部の最大の問題である。
「……重婚の割合は?」
「8割以上ですね。中には全艦娘とケッコンカッコカリ目標の提督もいますからねー。艦娘達も行かず後家になりたくないですから必死ですよー。あははははは……はあ」
「制度が作られるときに自分がここにいたら、全力で止めていたよ……」
「ああ、これでまた将来の独身貴族が増えてしまう。現場の提督の気持ちはよくわかるんだが、普通の人間の嫁さんを捕まえてほしい
「普段から多種多様の魅力を持った美少女や美女が自分に好意的に付き従ってくれるんです。そりゃあ恋心も芽生えますよ。
ついでに更なる戦力強化・資材減少等々。メリットのほうが圧倒的です。
以前人間相手の婚活を推奨しても殆ど効果無かったんですよ? 推奨時期は反対に申請が増加傾向のため推奨を取りやめたんです」
「しかも命の危機を感じ取った人間は、本能的に種の本能が出てきて子孫を残そうとするというのは生物学的根拠ですし、私達も体験してきましたから説得するのは難しい」
ここまで聞くと上層部にとってはケッコンカッコカリが増えるのは望ましくないというのがよくわかる。
何故かというと、
「海軍提督になったら、独身確定・特殊性癖持ち・早期殉職・浮気を常に気にしなくてはならない1位の職業・女性認識は艦娘のみというレッテルが、世間にまた広がるのか……」
という上記理由である。
実際世間では、提督という職業自体は国の誇りという評価もされている。
しかし、それ以上に提督業は過酷・ハーレム・男の夢という浪漫のほうが話題になってしまう。下世話なほうが目を引くというのはどんな時代でも変わらないという典型である。
「せめて艦娘達の寿命がもう20年長ければなあ」
そう、生まれてきた艦娘達は深海棲艦と常に戦い続けるため、その損耗はあまりにも激しい。
大破して入渠することで回復させる。つまりは新陳代謝を強制的に早めて健常な状態に戻すこと。また戦争をするということは精神も肉体も痛めつけられる。
結果として、艦娘達は寿命を削って戦うということを受け入れるしかない。
かといって寿命を削らないように戦いを避けるなど、艦娘達にとっては己の生涯を捨てるに等しい選択である。
そして艦娘とケッコンカッコカリとはいえ、そこから本気の結婚までした提督にしてみれば愛する嫁が先に亡くなる未来は確実だった。
だがそれでも提督達にとっては、大概が美しい思い出となり、再婚する気持ちはあまり芽生えない。
しかも人間の女性だと、どうしても嫁艦娘と比べてしまうため、見劣りするパターンが圧倒的になってしまうのであった。
「見た目は人間と一緒でも、子供が出来ないのも厳しいです。せめて艦娘達との間に子供が生まれてくるのなら、人口増加にも繋がるんですがね」
「若い時は性欲のほうが強い……好みど真ん中の艦娘に愛を囁かれて落ちない男のほうが珍しいのだよ」
「うう、我が嫁金剛・榛名・霧島・比叡~~」
「大和~。天城~。五十鈴~。あの胸にもう一度埋もれたい
「響~、曙~」
「大淀、明石、間宮。うう、もう一度抱きしめたい」
そこかしこから、亡くなった嫁艦娘の名前を言いながら、テーブルに突っ伏しそうにしている将校達。
鎮守府に行けば、外見は同じ艦娘がいても、同じ時間を過ごしてきた艦娘ではない。
だからこそ余計に思い出が煌びやかに美しくなっている将校達。
「……いっその事、結婚してからじゃないと提督になれない規則でも作りますか?」
「やめろ、離婚調停のために何度も鎮守府から、家庭裁判所行く提督出す気か貴様
「女性提督でも、一部艦娘達は押してくるから。いつの間にか同性愛者になってた女性提督もいたしなあ」
「ついでに鎮守府だと衣住食全部面倒見てもらえる状況ですから、家事能力0になりますからなあ。……年取ってから家事するのはきつい」
「仕事と両立するのは、本当に大変という言葉を、提督辞めてからようやく実感しましたよ」
「現代の海軍は対外的に見れば華々しいはずなのに、どうしてこうなった」
「……深海棲艦との戦争が終結したら、艦娘達の扱いどうしましょうか?」
だんだん不毛な状況になっていく上層会議。
そして、
「金剛が一番可愛いんだよ! 天真爛漫な笑顔と提督を愛する心。その良さを何故わからん!」
「何を言う。大和のあの愛らしくも普段は一歩後ろを歩くような健気な佇まいこそが至高であろうが! そしていざとなれば先頭に立つ凛とした姿こそ美しい
「違う、違うぞ! おかえりなさいと家で美味しいごはんを作って待ってくれている間宮さんや鳳翔さんの正妻ぶりこそ、男の理想。つまりは割烹着を見事に着こなす女性こそが最高だ」
「第六艦隊の純真無垢でありながら、一生懸命にする姿こそ年の離れた妹として相応しいのだ!」
「酒飲みにとっては、一緒に飲んでくれる嫁さんが最高です」
いつの間にやら自分の嫁艦だった娘の魅力を言い合う場となっていた。
そしてこの論争に決着が着くことはない。
戦争、いつの時代もどんな大義があろうとも不毛なものであった。