「お久しぶりです。都さん、涼香さん」
「久しぶりー新菜君。今日はよろしくね」
「わあ、凄いわあ」
新菜の衣装を生で見てからというもの、都と涼香は五条人形店に興味が沸いていた。
そこで新菜と海夢にお願いして、今日五条人形店を訪ねてきた。
涼香も都も女性だからお雛様は見たことはあるが、専門店で見るのは初めての為珍しそうに見学する。
それに対して新菜は軽くひな人形の事を説明していく。
海夢とお付き合いをしだしてからも、新菜はいつも通り人形作りに邁進している。
それと海夢の好きなキャラの衣装づくりはしているのだが、最近は祖父も海夢を更に可愛がっていて写真を見たがったりしている。
将来は義理の孫娘にもなるだろうと思っているし、祖父からすれば感情を素直に表現していて可愛らしく元気いっぱいの年頃の女の子は微笑ましくてしょうがない。
海夢も祖父に対して凄く懐いているため、もう完全に身内扱いになってもいる。
そういった点で、新菜と海夢が連れてくる人には必ず挨拶をするのだ。
「新菜。
そちらの方々がお世話になってる人かい?」
「そうだよ爺ちゃん。
都さん、涼香さん。
俺の爺ちゃんです」
「本多都です」
「伊藤涼香です」
都と涼香はペコっと頭を下げて挨拶をする。
「これはご丁寧に。
新菜の祖父で五条薫と言います。
孫がいつも世話になってるようでありがとうございます」
「いえいえ、新菜君は凄くいい子ですし、私達もお世話になっております」
ここら辺では大人同士の社交辞令を交わしながら、世間話に移行していく。
「そういえば海夢ちゃんは?」
「先ほど最寄り駅に到着したって連絡がありましたよ。
最近は特に読者モデルとして人気が出てきてて、仕事の依頼が増えてきてるって言ってました」
新菜と正式に付き合いだした海夢は、両想いになったことで更に奇麗になってきている。
それが撮影にも表れていて、雑誌でも好評を博しているのだ。
「……旭ちゃんが海夢ちゃんが出てる雑誌を、毎回複数購入してアンケート出してるから」
「そういえばそうでしたね」
海夢が出ている雑誌を知った瞬間にまとめ買いした現場を見ていた新菜としては、有難い事ではあるが少し引いた瞬間ではあった。
「海夢ちゃんそんなに雑誌に出とるんか?」
「うん。ファッション雑誌で表紙飾るほどだから」
「そうかあ。だったら今度見せてもらうか。
今時の若い子らの流行りは分らんが、海夢ちゃんが出てるのは見たいしの」
そんな感じで雛人形を見学しながら話していると、
「五条君、お爺ちゃん、都さん、涼香さんお待たせー!」
話題の主役であった海夢が訪ねてきた。
「お仕事お疲れ様です。喜多川さん」
「海夢ちゃんお仕事お疲れさん」
「海夢ちゃんお久しぶりー」
いつもの元気いっぱいで開けっ広げな感情が表現されていながらも、それがそのまま魅力的な笑顔を向ける海夢。
そして、そのままの勢いを維持しながら新菜に近づいて、
「ごじょう~くん♪」
ベタベタとするのであった。
しかし、そこは新菜。
「み、みんなが見てますから止めてください!」
直ぐに海夢を引き離して、真っ赤になりながら注意する。
「む~」
海夢からすれば見せつけるという考えなどなく、単純に大好きな人に引っ付きたいというだけである。
「初々しいわあ」
「若い時はこんなもんだろ」
それを見ていた三人は微笑ましく感じるだけだし、何だかんだでそんな二人が好きなのだ。
そうして雛人形をある程度見学していくが、やはり都も涼香も精巧な雛人形を見ていくと見とれてしまう。
ジュジュも新菜に衣装依頼時に案内された雛人形を見た時に気に入るところがあったのだ。
そこから簡単に制作過程やどんなところに技術が含まれているのかを聞いたりする。
「そうだねえ。あくまでも人形の大きさだから、細かい作業が多くてね。
ミシンも使うけど、機械だけでは出来ない工程もやっぱりあるんだよ」
「自分の力加減で縫うことで、着心地が違ってきたり見栄えが違ってくるんです」
「道具もきちんと手入れしとかんと、鋏や筆はすぐにあかんようになるよ」
そんな職人の話を聞いて、都と涼香は素直に感心する。
「はー、私も写真撮影やコスする為の拘りはありますけど、基本見た目が大事なんで少々の着心地は気にしてない感じです」
都としては永遠の推しである司を表現出来るなら、少々の違和感など気にしていない。
「ははは、そりゃあしょうがないよ。
雛人形の基本は時期が来たら飾って鑑賞する。
ずっと飾っていたら結婚が遅くなるとかの風習もあった。
今はあんまり気にされてないけど、昔は結婚するのが当たり前だったしお見合いも普通に知り合いがお世話してくれてたしねえ。
奇麗だから飾るだけって訳じゃない。
結果的に職人からすれば長期保管される代物だから、やっぱり中途半端になるとすぐに駄目になってしまうんだよ」
「よくあるのは湿気ですね。
時々お客さんから相談されるんですが、飾ろうと箱から出したらカビだらけになってたりは定番です」
「保管方法も間違ったやり方というか、購入時に説明したり解説所を入れてても、理解してないお客さんもおるからなあ。
商売としては買いなおしてくれるのは有難いが、作ったものからしてみれば長年飾ってくれる方が嬉しいもんさ」
そんな風に話を聞いていくたびに、都は特に新菜の技術に敬意を抱く。
「いやあ、話を聞けば聞くほど海夢ちゃんが羨ましくなるわね。
同時に新菜君によくぞ衣装作り依頼してくれたって感謝もするわ」
「私も初めて海夢ちゃんが参加してくれた時に撮影できたことは、幸運だったわ」
「そう、それ!
涼香には写真で見させてもらったけど、あたしは生で雫たん見てないから見たいのよー。
せめて衣装だけでも見させてもらえないかなあ?」
「い、いえ。
そこまで熱望されるほどじゃ」
そんな二人の言葉に新菜は照れながらも、自分の作ったものに強い興味を抱いてくれることに喜んでしまう。
「そんなことあるよ!
私は絶対ダイエット成功させて、あの衣装をまた着るんだから。
雫たん衣装大好きだし」
しかし、そこは海夢がすぐに言葉をかぶせてくる。
「だってあの衣装に初めて袖を通した時、私がどれだけテンあげになったか。
嬉しさハンパ無いし、それが切っ掛けで翌日は涼香さんともジュジュ様とも知り合えるようになったんだもん。
だから五条君が作ってくれた衣装は全部一番だけど、雫たん衣装は最高の思い出の一つだよ」
新菜の謙遜に対して、海夢が即座に否定しながら熱弁する。
その本心からの言葉だからこそ、新菜は照れながらも表情は嬉しくてしょうがない感じになる。
「……ああああ。こういう王道から摂取できる栄養もあるわ~」
「極甘というより初々しいところから摂取できる栄養がー」
そしてそんな二人から謎の栄養を摂取する都と涼香であった。