新菜と海夢のてぇてぇを鑑賞して満足した都と涼香。
その後もコスイベ後のアフターのように語り合っているのだが、もう一つの目的を思い出して早速二人に話す。
「そうそう。
それと出来れば二人にお勧めしたい少女漫画があってね、良かったら読んでほしいなあって思って持ってきたのがあるの」
そこから涼香は自分のカバンに入れていた単行本を取り出そうとする。
「え!? 涼香さんのお勧め!?
それめっちゃテンションあがるやつ!」
「俺もですか?」
そんな二人の反応を見ながら、涼香が炬燵の上に合計11冊の少女漫画を置く。
「わ!? 着物姿の女の子可愛い」
「貴族階級の女性のお話ですか?」
海夢は単純にイラストで気に入るが、新菜は服装から時代背景とか思い浮かべていく。
「そうそう。平安時代の貴族階級のお姫様が主人公のお話なのよ。
私も産まれる前の少女漫画なんだけど、男性陣が凄くカッコいいのよー」
涼香としてはエッチな感じもしているのだが。
しかし、そこで漫画を見た薫が口をはさむ。
「こらまた懐かしいやつを出してきたねえ。
当時はドラマにもなっとったし、店でも話題になった漫画じゃないか」
「お爺ちゃん知ってるの?」
海夢が薫の反応に対して驚いた表情になる。
「ああ。そういう時代背景の物語はやっぱり珍しいからね。
最近のドラマでは紫式部や源平合戦とかになるやろうが、小説・漫画原作からってのは中々無い。
確か40年くらい前の作品やったかな」
「よっ!? よんじゅ!?」
産まれてきた年数の倍以上の年月の差に海夢は更に驚いてしまう。
「ああ、なるほど。だから結構な焼け跡があるんですか」
「それでも、まだ保存状態はいいほうよ。
電子書籍でも販売はされてるけど、やっぱり紙で読みたい時もあるのよ」
その間に新菜は本の状態に対する違和感と涼香が話していく。
しかし、そんな昔の漫画はさすがに読んだことが無い海夢としては興味が沸いたようで、
「あの涼香さん。読んでもいいですか?」
「どうぞどうぞ。その為に持ってきたんだから。
新菜君にも是非読んでほしいし、また『感想』教えてくれると嬉しいわ」
「あ、はい。分かりました」
海夢が早速本を手に取る。
しかし自分の目の前にはおかず、新菜にも見えやすいような位置に移動させて、二人で一緒に読めるようにしていく。
「俺は後でもいいですから、喜多川さんが先に読んでください」
「え? 一緒に読もうよ」
そこで新菜らしく一番を譲ろうとするが、海夢は一緒に読もうと誘う。
「ですが読みにくいかと」
「大丈夫。あたし気に入ったら何度でも読み返すから」
そんな二人の姿に薫は本当に微笑ましそうに見る。
ただ、時間を見るとそろそろ夕食の準備をしないといけない時間帯になっていた。
「っと、もうこんな時間か。
お二人も一緒に食べていかないかい?」
二人の仲睦まじい様子を穏やかな表情で見ていた薫だが、そんな二人の様子を作ってくれた二人にも感謝して食事に誘う。
「え? ですがご迷惑では」
「ええよええよ。
それに新菜がどんな風に楽しんでたかとかも教えてほしいしな」
薫としてもイベントで新菜や海夢がどんな風に楽しんでいるのか知りたいので、都と涼香からの話も聞きたいからだ。
そんな薫の想いは表情にも出ていて、そんな優しい雰囲気は遠慮しそうになる二人としては。
「では、ご相伴に預からせていただきます」
そう返すのであった。
その後、夕食を五人で食べるのだが都と涼香はここでも驚きを隠せない。
「お・い・し・い!
新菜君、衣装もそうだけどお料理も完璧!
この煮物の蓮根が特に歯ごたえが絶妙だし、薄めの味付けのお陰で凄く食べやすいわ」
「でしょでしょ都さん。
もうこのしみこんだ出汁の味が神ってて、無限に食べれます!」
「この人参もほんのり甘いのがいいわね。
他にも糸蒟蒻がしっかりしてるから、御飯がどんどん口に入っちゃう」
都・海夢・涼香は箸が止まらない。しかし会話も途切れることもなく料理を絶賛していく。
新菜としても作った料理を美味しく食べてくれることに嬉しさを感じながら、先ほどまで読んでいた漫画を思い出す。
「そういえば涼香さん。
あの漫画で気に入ったのって、やっぱり幼馴染の男性ですか?
それとも東宮ですか?」
途中まで海夢と一緒に読んでいた新菜としては、確かに登場する男性人物は涼香が気に入りそうな人物であったので聞いてみる。
「勿論二人は大好きだけど、まだ読み進めてない巻から登場する男性もいいのよー。
ちょっとした禁忌に触れるような感じがまた良くてね」
しかし都・涼香としては新菜にコスプレしてほしいという淡い期待もあるので、ちょっとそこを掘り下げてみる。
「でも、実際のところ女性の十二単には憧れるけど、男性の着物姿もときめくの。
京都の観光名所ではレンタル出来たりするけど、やっぱり観光で着てるだけって感じだから着こなしてるっていう感じに見えるのは現実で見たことがないわ」
ドラマなら見栄え良く着こなしてはいるだろうが、所詮は映像越しである。
「確かにそうですね。
年配の女性の方でしたら着物姿を街中でも時折見ることがありますが、男性だと祭りで浴衣を着るくらいですし」
「時代劇も江戸時代中心だし、やっぱり生で一度は見てみたいわねー」
という感じに自然に願望を入れてみる都。
「あるよ?
家には置いてないけど工房で保管しとるし」
「あるんですか!?」
「そりゃあね。人形に着せる為の素材でもあるし、どんな柄にするか考えたりするから人間サイズでも想定してみたりする。
まあ発注する時はあくまでも人形用だから、海夢ちゃんのコスプレ衣装で使える素材ではなかったよ」
「うん。それに喜多川さんがなりたいキャラの衣装には合わなかった。
ハニエルではあのアンティーク着物だからこそ完成できたんだ」
「私もまた着たいっちゃ着たいけど、もうイベントでは着れないかなあ。
私はハニエル様が好きだから、五条君が作ってくれた衣装だからこそだから、騒がれるためじゃないし」
会話が次々と紡がれていく食事時間。
そんな感じでちょっと騒がしい感じになりながらも、楽しく美味しく夕ご飯を終わらせる五人。
しかし、そこで男性用の着物があることを知った海夢が無邪気に願望を告げてしまう。
「ねね、お爺ちゃん。
その着物って着ることが出来たりしないの?
出来れば……見てみたいし」
明らかに新菜の方を意識しながら、可愛らしいお願いをする。
薫はその分かりやすくも可愛らしい願望に頷きそうになる。
同時にそこで思いついたのは海夢にも着てもらおうという事。
「なら海夢ちゃんも着てみるかい?
お雛様衣装もあるから、新菜と一緒に着てみればいい」
「じ、爺ちゃん。
俺なんかじゃ見劣りしちゃうよ。
それにお殿様なんて、俺の柄じゃないし」
薫からすれば孫はそういうだろうと想定していたし、職人としての気持ちも分かる。
だけど、一度は体験させてみるには押しが足りなくないが、ここには海夢がいる。
「五条君のお殿様!?
絶対見たい!! それにおソロでコス出来るならしたい!
そ、それにちょっとした予行演習になるし……」
新菜が着てくれそうなことに大喜びしながらも、最後の一言は聞き取れないほどの声量になって、とても恥ずかしそうに両手の人差し指をこすり合わせる海夢。
海夢としては新菜のことだから、白無垢で結婚式をする方を選択するだろう。
勿論自分がウエディングドレスを着てタキシードを着用した新菜も見たいという気持ちもあるが。
「私も新菜君なら似合うと思うな。
普段から作務衣や甚平を着こなしてるし、着物の良さも良く分かってる新菜君なら仕事できる俳優さんより似合うと思うわ」
都も願望込みだが掩護射撃をする。
ワンちゃん程度に考えていたことが思った以上に行けそうと判断したし、これなら無理強いにはなっていないはずだ。
「うんうん。五条君なら絶対似合うよ」
そんな風に信頼している人達からの勧めに、新菜は少し嬉しくなる。
またゲームや漫画のキャラというより、自分が大事にしている雛人形に関する衣装に袖を通すという事と考えれば抵抗感は少なくなる。
それに新菜自身、愛する女性となった海夢のお姫様姿は見たくてたまらない。
新菜だって年頃の男子高校生である以上、必死に自制はしているが海夢の浴衣姿の時は凄く興奮もしていた。
普段の海夢の姿でも鼓動が収まらない時もあるが、やっぱり新菜は黒髪の和服姿が一番性癖に突き刺さるであろう。
「それにね。新菜君。
そこまで似合うとか似合わないとか考えなくてもいいのよ?
自分が着てみたいって思ったことは無い?」
「それは……あります。
雛人形だからお姫様が注目されるのは分かりますが、お殿様・三人官女・右大臣・左大臣・五人囃子・仕丁・随身も好きです。
でも、俺はまだまだ未熟だから」
真面目過ぎる新菜だからこそ、考えすぎたり相応しくないとか思ってしまう新菜。
「大丈夫だよ」
だからこそ、そんな新菜を前に進ませてくれた海夢がいる。
「雛人形をそれだけ大事にしてる五条君だから、絶対にいけるよ」
最初は海夢の勢いだけでコスプレ衣装制作になった新菜。
引っ込み思案で自信も無く、周囲の人達とは違う価値観と古い伝統文化に惹かれる自分。
そんな普通とは違う自分だったのに、海夢が自分の良さを見つけてくれて褒めてくれて背中を押し続けてくれる。
そこからは色々な人達と出会い、学校でも馴染めるようになり、そして恋人になってくれた海夢。
祖父の薫とも従妹の美織では動かない気持ちは海夢だからこそ引き出せるのだ。
「そう……でしょうか?」
「モチ! まあ一番は私が五条君のコスが見たいってのもあるんだけどね」
そして、自分の気持ちを正直にぶつけてくれる海夢からのお願いから、新菜も前向きになる。
「分かりました。俺も着てみます」
その言葉に、都と涼香は心の中でガッツポーズ。
既に写真撮影にふさわしいスタジオを脳内で検索しだし、旭にも後で連絡して小物づくりとかも依頼すべきか計画をしていく。
ちなみに海夢も嬉しいのだが、大好きな人と合わせが出来るという事だけで顔が真っ赤になっていく。
「ふむ。なら準備するかな。
さすがに明日からは仕事だから直ぐには用意できんし、本格的に着用しようとすると大変だからね」
「うわーーー! もう今から楽しみすぎてテンション上がりまくり!
お爺ちゃん。私なんでも手伝うから幾らでも言ってね」
「ははは、あいよ。
まあ、まずは衣装を出して埃をはらう事からかな。
ちゃんと保管はしとるけど、折りたたんだ時の皺伸ばしも必要だしの」
こうして、新菜と海夢が一緒に初めてのコスをする計画は始まるのであった。
実際の人形店で人間サイズの着物おいてるかは知らないので、そこはご都合主義で通させてください。