アメリカ、フロリダ州エバーグレーズ国立公園
コングはココに移送された。
300mある巨人は亜熱帯の環境になじんだらしく、沼地でゆったりとしながら落ち着いた様子にいた。
突如ここで建設された軍事基地・科学基地はあくまで臨時というものであった。
だが、恐らくこの様子であればアメリカ政府は妥協するだろうというのが軍部の考えだった。
ジェームズはふと、基地の休憩所から彼を見ていた。
「・・・・・・・・・・。」
黒い毛でおおわれた巨大な猿人は満足した様子だった。
彼はクラウディア博士が残したレポートを先ほどまで読んでいた。
コングは1977年までに南米大陸とアフリカ大陸の中間に位置していた特殊な海域の真ん中にあった島通称『髑髏島』でみつかったといわれている。
この髑髏島の周囲の海域は常にあれており、嵐や高波が頻発して起きており普通の船舶では立ち入りが不可能とされていた。
また、マリファナに近い幻覚効果のある植物が多くこれが発生し侵入者から島を保護していたといわれている。
当時、カール・デナムとアン・ダロウとジャック・ドリスコルという3人のアメリカ人の若者が伝説の巨人についての映像ドキュメンタリーを制作していたが、彼らは地元住民に対して盗みや恫喝を行うなどのトラブルを行いこれを嫌悪した島の州民は彼らの内ドリスコルを殺害、アンを誘拐しその島の王への生贄にささげられた。
この王というのがコングであったそうだ。
現在もこのアンという女性の消息はわからないままになっている。
若者グループの数少ない生き残りであったデナムは、運悪く当時のソビエト軍に捕まり、軍が彼のフィルムを押収し、デナムはそのままアメリカ帰国後精神病院に送られ現在は行方不明となっているといわれている。
ソビエト軍はデナムからの情報を収集したのちに、髑髏島に押し掛けると、そこで現地人を少数を残し虐殺。
その後島の奥地に行くと100mほどのゴリラによく似た巨大生物がいた。
それがコングであった。
「…コングか。」
ジェームズは小さく言った。
「よおジェームズ!」
「ジャクソン!」
ジェームズは話しかけてきた友人と握手をした。
「よお、科学者の先生がお前を呼んでたぜ。」
「…ああ、そうか例の『彼女』のことか。」
「ああ、そうだ。俺はしばらくあのゴリラ君のことをみているよ。」
「助かる!」
ジェームズは礼を言った。
すると、ジャクソンは話を始めた。
「なあ、ジェームズ。」
「何だ‥?」
「あのコングってのは、あの娘の言うことは聞くんだろ。」
「ああ、そうだ」
「…じゃあ、トモダチってことでいいのかな。」
「それはまだわからない、じゃあいくよ。」
ジャクソンに背を向けジェームズは立ち去った。
そして、彼は地下のカウンセリングルームへと向かった。
クラウディア博士はアナを託すと言われた。
だが、ジェームズはわからない。
子供ができたこともないし、妹や弟がいたこともない。
彼はカウンセリングルームの前にたつと窓から様子をみた。
アルビノの少女。
恐らくは、コングとともに育った少女のアナは落ち着いた様子だった。
彼は窓をコンコンと鳴らした。
気が付いたカウンセラーの韓国系アメリカ人であるメアリー・パク博士はドアを開けた。
「ジェームズ・コナー中尉です。彼女の保護者を担当しております。」
「ああ、話はうかがっていますわどうぞ」
パク博士はドアを開けた。
すると、アナはジェームズをみつめていた。
彼はアナに作り笑顔を向け挨拶すると、背を向けた。
「彼女の様子はどうでしょうか」
「…とても落ち着いております。ただ…」
「ただ?」
パク博士は申し訳なさそうな顔をして言った。
「むしろ落ち着き過ぎているようにみえます。もっと困惑してもいいはずなのに…。それにどこから来たのかは教えてくれないようで…。」
ジェームズはふとアナをみつめた。
彼女は黙って座っている。
数日前まで手錠をされていた少女。
それが落ち着いている。
「…私が彼女と話をします。席を外していただけませんでしょうか博士。」
「ええ、どうぞ」
パク博士は外に出た。
ジェームズとアナは二人だけになった。
「アナ、話があるんだ。」
「…ねえ」
アナが口を開いた。
無口な彼女が珍しい。
「私、いつまでここにいなきゃいけないの。」
ジェームズは驚いた。
「…え?」
「私、クラウディアから今後はあなたを頼れと言われたのよ。でもここにきてあなたと会うのはほとんどなくて、ずーっとここにいてばかり。」
アナは少しけだるそうに言っていた。
「退屈なのか?」
「…ええ」
ジェームズは苦笑いをした。
まだ年若い娘なんだな。
「ねえ、ジェームズ。」
「あ、そうかキミは僕の名前を知っていたんだね。」
「ええ、ジェームズ。」
アナは青年の目を見つめ言った。
「私、あなたと暮らしたい。」
「…え?」
「私、あなたの暮らして外の世界をもっと知りたいの。」
ジェームズは少し困惑した。
それは無理な提案だな。
こういった無理な提案を出してくるということは甘えているのだろう。
「そうだな、僕の一存じゃ・・」
そんな時だった。
ドアが開いた。
そこには大柄な白人の中年男性がいた。
ジェームズは彼を知っていた。
「マクドウェル上級大将!?」
「うむ、若者よ。乱入して申し訳ない。」
マクドウェルはアナに目を向けた。
「やあ、お嬢さん。私はマクドウェル。この基地の責任者だ。」
「…どうも」
アナは無愛想に挨拶をした。
「君がジェームズと暮らしたいと言っていたそうだな。許可をしよう。この基地の近くにあるホテルで彼は生活している。そこがこの基地の職員の宿舎でもあるからな。ということは君も立派なこの基地の職員ということになるな。今後とも仲良くしようじゃないか。」
アナは少しマクドウェルをみつめた。
そして笑顔を浮かべた。
「ですが、サー。」
マクドウェルはジェームズの肩をつかんだ。
「君はあの娘の身辺を保護しろ。」
「え…?」
「ロシア軍がまだ目をつけているかもしれん。それにだ…。」
マクドウェルは禁煙用のガムを噛みながら言った。
「コングは我が国の怪獣対策の最大の武器となる。今後は…。」
ジェームズは驚いた。
「なんですって!?」
「君はあの博士のレポートを最後まで読んでいないようだな。」
マクドウェルは呆れた顔をした。
「怪獣とは何か、わかるか?」
「怪獣とは…人類の敵です。」
「そうではない。」
マクドウェルはためいきをついた。
この若者は何も知らない。
「怪獣とは、元々別次元の地球にいた生命体だ。我々の地球と彼らの住む地球はそれぞれ別の時間軸に存在していた。古代文明はその時間軸を行き来しながら、繁栄をしていた。やがて彼らはある怪獣の種族を人類の守護者であり王として招いた。それがコングだ。」
ジェームズは驚いた。
「え…!!!」
青年の驚愕を無視したマクドウェルは話をつづけた。
「しかし、古代文明は何らかの影響で滅んだ。その末裔とコングたちがいきついたのが髑髏島だ。そして、あの少女アナは古代文明が生んだコングと人類の架け橋となる『巫女』の生き残り。ソビエト軍は巫女の一族のみを残し、他は皆殺しにしたのだ。そして、我々はコングと彼女を確保した。世界を守るのはロシアや中国ではなく、アメリカであるべきなのだ。わかるかね、若者。」
ジェームズは圧倒された。
「だから、クラウディア博士は君にアナを託した。それだけなんだよ。」
「…」
「若者よ、キミに任務を与える。しかるべき時、コングは怪獣と戦う。その時アメリカに有利なように働くように彼女に働きかけろ。」
ジェームズは物を考えるように顎に手を当てた。
その時だった。
ゴオオオオオオオオン!!!!!
地鳴りが響いた。
「クソ…まずいな。」
マクドウェルは舌打ちをした。
「どうしたんですか。」
「わからん、コングか。」
二人が話し込んでいると横からアナがやってきた。
「いいえ、コングではないわ…彼が危ない!!」
アナは焦っていた。
彼女は駆けだした。
それをジェームズが追いかけた。
「おい、どこに行くんだよ!!!」
地鳴りがする。
兵士たちが誘導する中科学者たちが避難先のシェルターに向かっていく。
そんな中アナだけは逆走するように、外へ向かっていった。
ジェームズはそれを追いかけていた。
追う追われる二人は次第にバルコニーに出ていた。
先ほどまで穏やかだった湿地帯は炎が立ち上がっていた。
コングがやったわけじゃない。
ジェームズにはわかった。
彼は目で追いかけた、そこには巨大なヘビがいた。
「…あ!!!!」
巨大なヘビは全長900m以上あった。
頭の周囲にはエリマキトカゲのような襟巻があった。
「…あれは、インドで前に出たヤツだキングナーガ!!!」
ジェームズは叫んだ。
大蛇の怪獣キングナーガは口から火炎を吹き出した。
その火炎は瞬く間に広がっていった。
炎の中をまるでナーガの王は文字通り龍のようにとぐろを巻いていた。
「あそこにはまだ逃げ遅れた職員がいるのに…。」
ジェームズは呟いた。
彼は歴戦の兵士だった。
人間相手にはなんとかできるだろう。
だが、怪獣の前では何もできない。
「‥‥なんてことを…。」
その時だった。
アナは両手をあわせ何かを祈るようにしゃべった。
未知の言語だ。
「どうしたアナ…。」
アナは無視をした。
その時だった。
森の中から大きな影が浮かび上がった。
それは守護者だった。
巨大な類人猿の守護者は森の中に浮かび上がった。
「まさか、コング…!?」
火炎を吐く凶悪なヘビ怪獣の前にコングは立ちはだかった。
森の怒りを体現するようにコングは立ち上がった。
湿地帯を進みながらコングはキングナーガの前に立ちはだかった。
フシュルルルル‥‥。
怒れるヘビの王キングナーガは口から火炎を吐いた。
攻撃をわかっていたようにコングは大きく息を吸うとぷふう~と吐きかけた。
旋風が響いた。
思わず、アナとジェームズは転がりそうになった。
「なんだ!!!あれは…!!!」
吐いたはずの火炎は逆流し、キングナーガの体にかかっていった。
ギシャアああああああああッ!!!!
キングナーガは自身が吐いた炎の暑さの余りもだえると、湿地帯の水辺と逃げ込んだ。
どうやら火を吐くことはできても外皮には熱に対する耐性はないようだ。
ジェームズはその時キングナーガの弱点がわかった。
彼は周囲で、職員の避難誘導をしていた兵士を呼び出した。
「おい!ナパームを使おう!そうすれば…!」
アナは言った。
「いいえ、その必要はないわ。そうすれば余計に火災がひどくなるわ。アナたちにできることは避難誘導。それだけよ。それに…」
「それに‥?」
アナは微笑んだ。
「コングは絶対に、負けない。」
アナは念じた。
コングはそれに反応した。
巨大な猿人の王コングは、キングナーガの体をつかんだ。
そして、怪力とともにねじ伏せようとした。
しかし、それは罠だった。
ギシャアああああああああッ!!!!!
雄たけびをあげると蛇の王キングナーガはコングにその体をからみつけさせた。
900m以上ある大蛇はコングの胴と首と腕にその体を巻き付けた。
コングはもだえ苦しみ、地面に倒れた。
「あぐッ…!!!」
アナはその時悲鳴を上げ地面に倒れた。
「…!?どうした」
キングナーガは邪悪な微笑みを浮かべた。
殺戮を愛する大蛇の王はコングを締め上げていた。
コングの骨が軋み肉が裂けていく、呼吸ができなくなっていく。
おまけに湿地ゆえの泥がコングの足を滑らせた。
地面に倒れた猿人の王の苦痛はキングナーガに勝利を確信させた。
「しっかりしろ!!大丈夫か!!!」
アナの赤い目は白くなっていた。
白目を剥いてる…。
だが、その時だった。
アナは起き上がった。
そして、目を赤く光らせ叫んだ。
「コング、もういい!!!!やっちゃって!!!!」
それと同時にコングの目は赤く光った。
するとコングの全身の筋肉が膨れ上がった。
そして、全身から電撃を放った。
グギャあああああああああッ!!!!!!!!!
キングナーガ、蛇の王は全身を高圧電流でむしばまれると一瞬でコングから離れた。
痙攣し、痺れている蛇の王をコングは怪力とともに抑えつけた。
やがて、天空高く持ち上げるとキングナーガのアゴに両手をかけた。
グおおおおおおおおおおおお!!!!!!
獅子のような咆哮をあげコングは荒々しい怪力で蛇の王の顎をつかんだ。
そして、その時はきた。
バリバリバりィ・・・・・・・!!!
生々しい音がした。
ジェームズはおもわず目を背け、耳をふさいだ。
あまりにも不愉快な音だった。
やがて、雨のように赤い血が吹き荒れた。
それはジェームズたちがいるバルコニーにも降り注いだ。
「うわアッ‥‥!!!」
ジェームズは吐きそうになった。
戦場にいてもこんなアホほどの血はかかったことがない。
彼はなんとか目の前にある光景を見つめなおした。
キングナーガの上顎と下顎は引き千切られていた。
哀れな蛇の王はコングの手でその最期を迎えたようだ。
バラバラになった上顎はちぎられ、下顎と先ほどまでコングを締め上げていた胴体のみがたれさがっていた。
グガあああああああああッ!!!
コングは胸を叩きドラミングした。
まるで本当の地上の王は俺と言わんばかりにほえていた。
「はあ…スゴイヤツだよアレは…。」
ジェームズが感動していると、コングはキングナーガの遺体をつかむと美味しそうに四本の犬歯の生えた口の中に迎えていった。
コングはそのまま蛇の王の胴を食いちぎり、ほうばった。
「あいつは肉食なのか…」
ジェームズはあまりにグロテスクな光景に目を背けた。
するとアナが微笑んでいた。
「言ったでしょ、負けないって。」
ジェームズは呆然としていた。
「ああ…とんでもない事になっちゃったな。」
「どうしたの?」
「いやなんでもないよ。」
アナは言った。
「コングと私を使って、怪獣からこの国を守りたいんでしょ。」
先ほどの上司とジェームズの会話は彼女につつぬけだった。
ジェームズはあっけにとられて呟いた。
「…全部聞いていたのか。参ったなこりゃ。」
「最初から最後まで聞こえていたわ。いいわよ、ここでは前の連中より優しい扱いしか受けていないし恩がある。やらせてもらえるかしら…。」
ジェームズは驚いた。
ここまでしゃべれる娘だったのか。
「でも、条件があるの。」
「なんだ?」
アナは近づいた。
「さっきも言ったでしょ。あなたと暮らしたい。外の世界をもっと知りたい。ダメ?」
ジェームズはびっくりした。
ここまで要求する娘だったとは。
「仕方がないね。いいさ。お安い御用だ」
ジェームズはアナの手を取った。
「でも、あのコングってやつにも何か手当をやらないとな…。」
「問題ないわ。コングには大きな心臓がある。そこから供給される電力があれば、ケガは治癒するの。」
「はあ、たまげたな…。」
ジェームズはコングをみた。
満足そうに寝そべっている。
腹も満たせて満足なのだろう。
アナが言った。
「彼はココが気に入ってるみたい。」
「だといいな。」
「で、あいつは何を食うんだ肉?バナナ?」
「なんでも」
「なんでも!?」
「電気も食べるわよ」
「…電気代がかさむな。」
ジェームズはアナの肩を優しくたたき冗談を言った。
二人と一頭の怪獣の不思議な家族の関係が始まろうとしていた。
それが悲しい運命の歯車が嚙み合ってしまったことに彼らは気が付かなかった。
本作のコングは東宝版のように体内に電気を溜め込み、それを放電するのが奥の手となっています。